ジルフとメリスは、思わぬ人との再会に、揃って声を上げてしまった。ラークスと2人に呼ばれた男も、どうやら再会を喜んでいる様子。ラークスが言った。
「ジルフに、メリスじゃないか。久しぶりだな。こうして会うのは……10年ぶりか」
するとジルフたちを出迎えた少年が言った。
「じゃあ、この人たちがラークスさんの言っていた……」
「ああ、そうだ。同じSSランクのバル、レイバス戦争以来の付き合いだったな。ジルフとメリスだ」
「よろしく」
少年は軽く頭を下げた。あまり感じのいい口調ではない。
「こいつは、レンクスという。俺の弟子だ。ところで、そこの2人の子供はなんだ」
ジルフが言った。
「ああ、こいつらね。俺たちも弟子をとっているんだよ。ゆうやとゆかりという名前だ。名前じゃどっちか分からないだろうから言っとくと、こっちのガキがゆうや、こっちがゆかりだ」
ゆうやとゆかりを指さしながらジルフが言った。この世界では日本名は珍しく、名前だけでは性別の区別がつかないらしい。
「この2人は、地球人なんだ。それで、保護の意味合いもあったんだが、こいつらがどうしてもバルになりたいと言うもんだから、しぶしぶ修行をつけてやってるのさ」
「そうか、地球人か。よくここまで鍛えられたものだな。普通ならすぐに死んでしまうところを」
メリスが少しだけ自慢げに答えた。
「私の苦労があってこそね。本当に苦労したわよ、特にゆうやは。最初なんてちょっと加減を間違えたら死ぬような状態だったからね。彼の頑張りもあってなんとかなったからよかったけど」
「実は最近まで、俺は、ガキの世話はメリスに任せて仕事につきっきりだったんだよ。本当に迷惑かけちまってな」
ラークスは笑った。
「はは。少しは奥さんに気を使ってやれよ」
「いや、そういう関係じゃないって! 相棒だよ、相棒。前から何度も言ってるじゃねえか」
ジルフは頭をかきながら言った。
「似たようなものだろう。メリスはどうなんだ」
メリスはちょっと返答に困った
「い、いや、私もやっぱり相棒かな。こんなやつ夫にしたらいくら身があってももたないし」
「おい、それはどういう意味だよ」
ジルフが突っかかった。
「あんたみたいなろくでなしとは仕事上の付き合いで十分だって言ってんのよ」
「ろくでなしはないだろ。いつだってしっかりしてるじゃないか」
「へえ、そういうんだ。こないだのアレとかコレとかラークスに全部話してもいいのよ?」
メリスは顔に若干不敵な笑みを浮かべている。ジルフは弱いところをつかれたのか、気まずい表情をしている。
「い、いや、それだけは勘弁してくれ! 分かった、ろくでなしでいいよ」
ラークスは2人のやりとりを面白そうに眺めていた。
「相変わらず仲が良いな。30年も独り身の俺からしたら、うらやましい限りだ」
ジルフは急に思い出したように言った。
「あいつは気の毒だったな。エレシア、あいつが死んでから、もう30年になるんだな……」
「あれは残念だったが、仕方がなかったよ。今はもう心の整理はついているさ。ただ、俺はあいつ以外を奥さんにはするつもりはないけどな」
「でも、弟子はとったみたいだな。レンクスってのは……」
ラークスは静かにうなずいた。
「ああ、そうだ。もしいつか息子が生まれたら、そんな名前にしようと決めていたと、前に言ったことがあったな。結局、体の弱かったエレシアは、子を宿す前に病気で亡くなってしまったけどな」
ラークスは一瞬遠くを思うような様子を見せた。
「このレンクスは、その大変な境遇から、自分の名前も知らないような孤児だった。地球人らしいそこの2人とは違って、正真正銘のセントバレナ人だ。
俺は、4年ちょっと前、ある仕事でこいつに出会った。戦いで炎に包まれる町で、たった1人で、生きようともがいているところを見つけた。
話を聞いてみた。そしたら、4歳とは思えないほどのしっかりした口調で話し始めたのだ。うまく話をとってやれば、親は、物心つく前に亡くなってしまったこと。それからは、まるで奴隷のような暮らしをしていたこと。そして、戦乱の混乱に乗じて逃げ出したということらしかった。
いつもなら保護してどこかの施設に預けるだけのところだったのだが、こいつとはなぜか通じるものがあった。良く分からないが、他人のような気がしなかった。どうしても放っておけなかったのさ。レンクスの方もどこか俺に親近感を感じていたようだ。
ひとまず引き取って、レンクスと名付けた。一緒に暮らすうちに、不思議なことに本当の息子のような気がしてきてな。本人も一人でバルをやれるくらい強くなりたいと望んでいたことだし、弟子として本格的に修行をつけてやって、今に至るわけだ」
「そうか。大変だったな。実は俺もなんだ。不思議なことに、この2人が自分の子供のように思えてきてな。本当に不思議なことってあるもんだ。同じ時期に、俺とメリス、ヘイロン、そしておまえがそれぞれ子供たちと出会うなんてな」
「ああ。これも何かの縁なのかもしれないな。とにかく、久々にあえてうれしいよ」
ラークスは手を差し出した。ジルフが握手する。続いて、メリスも握手した。
しばらく大人たちが思い出話にふける一方で、子供たちは、子供たちの会話を始めていた。
「はじめまして。俺、ゆうやっていうんだ。よろしく」
「わたしはゆかり。よろしくね」
「俺はレンクスだ。よろしく」
彼はずいぶんそっけなく返事した。
「年はいくつ? 俺たち、どっちも8歳なんだ」
ゆうやがそうやって聞くと、レンクスは面倒くさそうに言った。
「俺も8歳だよ」
「じゃあ、おんなじ歳だ。仲良くなれそうだね」
ゆうやが手を差し出した。しかし、その手ははじかれた。
「一緒にされたら困る。俺とおまえたちじゃレベルが違うからね。仲良くしてあげてもいいけど、そこのところは覚えといて」
その言い方にゆうやは少しムッときてしまった。
「レベルが違うってどういうことだよ。そ、そんなの、やってみなくちゃわからないだろ!」
レンクスは余裕たっぷりに言った。
「いや、やる前からすでに分かってることだ。まず、気の強さが違う。これは探ればすぐに分かる。そして、たぶんそのにぶい様子だと、おまえ、実戦経験もそんなにないんだろう。俺はラークスさんについていってすでにいくつも場数を踏んでいる。要は、おまえたちとは格が違うってこと」
言われてみると当たっていた。確かに、実戦経験はないけど。あいつの方が強そうだけど、格が違うと言われて黙っていられるほどおとなしくはない。
「いや、それでもやってみるまで分からないよ。あんまり人のことなめるなよな」
そう言ってゆうやは食ってかかった。
「分からないやつだね。一度手合わせしたら自分がいかに弱いかはっきりするんじゃない? なんなら、後でやってあげようか。それとも、ただのいくじなしか」
その言葉にゆうやは少し怖気づいたが、後には引けなかった。
「わ、わかった。やってやる! 負けないからな!」
「そうか。後悔しても知らないぞ」
レンクスは軽い笑みを浮かべた。
その会話を黙って聞いていたゆかりがゆうやに言った。
「もうちょっと大人になりなさいよ。あんな安い挑発に乗ってどうするの?」
「お、俺だって引けなかったんだよ。あそこまでバカにされたら」
「軽く流せばよかったでしょ。実際、あっちのほうが上みたいだから、そう思わせとけばよかったのよ」
「いーや、あそこまで言われたらプライドがすたる。これは男と男の勝負だ!」
「ばっかみたい。そんなこという前に、まずは泣き虫直してからにしたら?」
「う、うるさいな! それは関係ないだろ!」
聞きなれない言葉に、レンクスが首をかしげて言った。
「おい、おまえたち、さっきから何話してるんだ?」
ゆかりが言った。
「ああ、これはにほ……んぐっ」
ゆうやがゆかりの口を押さえて言った。
「おまえには分かんなくていいよ」
「そうか。じゃあいいよ」
レンクスは少しだけさみしそうな顔をした。
「俺、ちょっとトイレにいってくるから、ゆかりは変なこと話さないでよ!」
そういってゆうやはトイレに向かった。
ゆかりは、ゆうやがいなくなったあと、レンクスに話しかけた。
「ごめん。ゆうやは、ああいうやつだから。代わりに謝っとくね。でも、あなたももう少し言い方なんとかならなかったの?」
「いや、実際下だってことは変わらない。おまえだってそうさ」
ただ、ああやっていきなり馴れ馴れしくされたから、ちょっととまどって言い過ぎたのもあるかもしれないけどな、とレンクスは考えていた。
言葉とは裏腹に少し思い悩む様子のレンクスを見て、やっぱり、とゆかりは思った。レンクスは、ただ正直じゃないところがあるだけみたい。
「手合わせなんだけど、やめられないの?」
「一度言いだした勝負を意味もなく投げたら、男として失格だ。ここは引けないね」
またか。これだから男の子は困る。
「だったら、ゆうやをあまり痛めつけないであげて。手加減してやってよ」
「そんなにあいつが心配か? 分かったよ。勝負がついたらやめてやるさ」
それを聞いてゆかりはほっとした。ほっとしたのが、レンクスにも明らかに分かった。もしかしてこの人にとってゆうやというやつは大事な人なのだろうか、と思った。
ゆうやが部屋に戻ってきた。何か余計なこと話してないよね、と言ったが、ゆかりは何にも、と答えた。
レンクスは、ラークスに修行の一環としてゆうやとの手合わせを申し出た。面白そうだからということで、みんなからは許可が出た。ただし、素手でやること。これが条件だった。
ラークスが言った。
「やるなら今日のうちだぞ。明日からは本格的に仕事に入るからな」
もうすでに夜の8時を回っていた。レンクスとゆうやは外に向かう。他の4人も連れだって外へ出た。そして2人は対峙する。子供同士の誇りをかけた戦いが、幕を開けようとしていた。