手合わせの翌日、ゆうやは朝に目が覚めた。服は着替えさせられていて、メリスの回復術で傷はふさがっていた。彼は、昨日の戦いについて考えを巡らせていた。
結局最後はどうなったんだろう。全然覚えてないけど、とにかく、負けちゃったみたい。ちょっと悔しいけど、そっちが正しかったってちゃんと謝って、今度は少しでも仲良くしたいな。ジルフさんやメリス先生にももっと色々教えてもらわないと。次はもっとましな試合をしたい。
大人たちは、気がついたゆうやに一言声をかけると、早速朝の支度をしていた。ゆかりは、考えごとをしながらぼーっとしているゆうやにこう言った。
「ほら。意地を張ると、ろくなことがないでしょ」
ゆうやは少し溜息をついて、反省した面持ちだった。
「そうだね。ちょっと無理しすぎたかも。もう少し早く降参したらよかったかな?」
すっかり良くなった彼をじっと見つめて、ゆかりはすこしほっとしたようだった。
「でも、よかった。少しだけ心配だったの。メリス先生のおかげでけがもないみたいだね」
「心配ありがと。あとで先生にお礼言っとかないと」
そこにレンクスがやってきた。ゆうやは、レンクスに気がつくと、少し顔が引き締まったが、しかし、すぐに緊張を解いて、謝り始めた。
「昨日はごめん! レンクスの方が正しかったよ。俺はまだまだだし、やっぱりレン――」
話している途中だったが、レンクスが口を開いた。
「いや、悪かったのはこっちの方だ。ゆうやだって、ゆかりだって、バルとして一人前になろうっていう同志だもんな。それに、おまえの一撃で少し目が覚めたんだ。格下なんて言って悪かった! これからは、一緒に頑張る友達になりたい」
ゆうやも、ゆかりも、その言葉に大きく喜んだ。
「うん! こっちもそう言おうと思ってたんだ。今度はちゃんと仲良くしよう!」
「やっと仲直りか。あらためてよろしくね!」
3人はこの一件ですっかり仲良くなったようだ。
ゆうやは、さっきのレンクスの言葉で府に落ちないことがあったようだった。
「ところで、一撃ってなんのこと?」
「は? おまえ、覚えてないのか? あれだよ、あれ。最後の最後にとっておいたやつ。気を圧縮した一撃。結構効いたぞ」
ゆうやはひどく驚いて言った。
「え!? 俺、気の圧縮なんて使えないよ。それ、ホントなの?」
レンクスは、さらに驚愕した様子でゆうやを見つめた。
「なに!? じゃあ、あれはまぐれなのか。なんだよ、普段からできるわけじゃないのかよ」
やっぱりゆうやはまだまだだったのか、と思い直しながらも、土壇場でさらなる力を発揮した彼への驚きが、レンクスの心の中には浮かんでいた。
「わたし、ゆうやがいきなりあんなことやっちゃうから、びっくりしたよ。普段はわたしより気の扱いが下手なのにね」
「こっちこそびっくりした。レンクスにアッパーされたあとの記憶がなくて、そこで終わりかと思ってたんだ」
ゆうやは、まぐれであっても自分にも気の圧縮ができたことを、少しうれしく思った。
「俺だって、あそこで終わりだと思ってたさ。でも、そこからすごい形相で襲いかかってきたんだ。ちょっとびびったよ」
そこのところで、もうホテルを出るということを大人たちに言われた。3人は話をやめて通りへと出た。あの手合わせの後、メリスが修復した通りは、元通りとはいかなかったが崩れが目立たない程度にはなっていた。レンクスはそれに気がついた。
「あれ? 直ってる」
「私が崩れたアスファルトの破片とかをくっつけて、なんとか目立たなくはしたけど、2人とも大暴れだったね」
レンクスは、そのメリスの言葉を聞いて、昨日の、ゆうやを地面に叩きつけようとした攻撃を真っ先に思い出した。色々やったからなあ。
「それはどうも。ちょっとやりすぎちゃったかな。大変だった?」
「大変といえば大変だったけど、気にしなくていいよ。こういうのは慣れっこだから。ジルフとラークスが一戦試合をやるときは、街中じゃ絶対できないくらいだからね」
街中じゃできない、か。どんな戦いになるんだろう? ジルフって人もラークスさんと同じくらい強いっていうし、1回見てみたいな。
町の外れの人通りのないところへ移動し、みんなが揃って落ち着いたところで、ジルフが今後の行動について話し始めた。
「今回の問題をうまく収めるカギは、食料の流通ルートの確保と、それまでに暴動が起きないように抑えること、今のところこの2つだ。仕事を分担しようと思うが、メリス、ラークス、それで大丈夫か?」
「ああ、それで問題ない」
ラークスが了解した。メリスも首を縦に振った。
「じゃあ、決まりだ。食料の方は、メリス、おまえがやるんだったよな?」
「大丈夫! 任せといて」
「あてはあるのか?」
ラークスがメリスに尋ねた。
「グランゼスタに行って全面的な援助を受けてくる」
「ああ、あそこならたしかになんとかしてくれるだろう。レイバス戦争のこともあるし、俺たちの頼みなら聞いてくれそうだ。しかし……」
「そうね。ここからグランゼスタがあるアッセリア大陸の南まで目いっぱい飛んで2日半くらいかかる。帰りは船だし、話をつけて最初の食料と一緒に帰ってくるまでに12、3日はかかるかもしれない。あの集会の代表はあと6日くらいしか保証できないと言っていた。たぶん、そこで食料が尽きるということよ。その後、1週間くらいになるけど、2人とも、ここの住民たちを抑えられる?」
ジルフが言った。
「大変だろうが、なんとか説得したり、ときには少々荒っぽいやり方を使ってもどうにかするしかないだろうな。とにかく全面的な暴動は避けないと」
ラークスもジルフの言葉にうなずく。
「そうだな。それに、これがうまくいけば、当面の問題は解決できるだろうからな」
「メリスはとにかくグランゼスタの方に集中してくれ。こっちはこっちでなんとかする」
「わかった、ジルフ。もう行くよ」
「ああ、なるべく急いでな」
「帰ってきて大変なことになってたら承知しないからね」
その話を聞いていたゆうやがメリスに聞いた。
「先生、もう行っちゃうんですか?」
「そうね。2週間近く帰ってこないけど、ちゃんといい子にしてなさいよ」
「はい。メリス先生、頑張ってね!」
「メリス先生、なるべく早く帰ってきてね」
と、ゆかりが少しだけ心細そうに言った。メリスは2人の言葉を聞いてから、みんなに、またね、と一言だけ言って、空へと消えていった。
その姿が見えなくなるまで手を振り続けるゆうやとゆかり。それを見て、少しくすぐったい気分になり、顔をそむけるレンクス。そして、そんな子供たちの様子を微笑ましく眺めるジルフとラークス。
メリスが完全に見えなくなった後、ジルフとラークスはここでの行動について話し合った。
「では、私が集会の本部にいて、暴動を起こさないように監視役を務めよう。ジルフ、お前は各地の集会を回って現状の把握をしてくれ」
「ああ。ところで」
ジルフはレンクスの方をちらりと見た。
「あのガキなんだが、この仕事の間だけ借りていってもいいか? 3人とも、交渉の場にいるよりは経験が積めていいだろう」
「そうだな。ここで退屈しているよりはレンクスも喜ぶだろう」
ジルフは、子供たち3人に呼びかけた。
「これから、お前たちは俺についてきてもらう。レンクス、今回はラークスじゃなくて俺と一緒に動くことになるけど、いいか?」
「ラークスさんはどうするんだ?」
「ラークスは集会本部に残って暴動が起きないよう監視役をする。俺たちの役目は、各地の現状把握だ」
「わかった。ついてくよ」
「これでしばらく一緒だね!」
とゆうやが言った。
「ああ、そうだな!」
ジルフたちはラークスに別れを告げた。
「さて、これからこの地方の各地を回っていこうと思うんだが、お前ら、空が飛べないんだよなあ。俺が全員を飛ばしてもいいが、この際、足腰を鍛えるという意味でも、走っていくことにしよう。あまりたらたらするわけにもいかないし、少しだけとばすからしっかりついてこいよ」
ジルフは3人の子供たちにそう言うと、いきなりものすごい速さで走り始めた。もう走ってるというよりは大地を蹴って地面すれすれを跳びながら移動しているような感じだ。急なことに少し茫然としていたゆうやとゆかりに、レンクスが声をかけた。
「おい、ぼーっとしてるとおいてかれるぞ。急げ」
気づくと、ジルフはもう結構遠くに行っていた。3人は、慌てて全速力で彼を追いかけた。