セバル   作:レストB

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第1部 2章 第14話「燃え盛る通りの初戦闘」

 彼らが走り始めて30分が経ったころ、小さな町に差し掛かった。ジルフは足を止め、3人を待った。まもなく、レンクスが息を切らしながら到着し、少し遅れてゆうやとゆかりも追いついた。2人は今にも死にそうな顔をしていた。

 

 ハァッ……ハァ、ハァッ……

 

 ゆうやは、激しく呼吸しながらへたりおちた。30分間、短距離を走るような全速力で走り続けた後の体は悲鳴を上げていた。体中が熱く、脚はパンパンに張り、全身から力が抜け落ちるようだった。

 

 ゆうやがゆかりの方を見ると、ゆかりも同じように苦しそうにへたりこんでいた。

 

「こんなんでへばってるようじゃ、まだまだだよ」

 

 レンクスは息を切らしながらも、ゆうやに言った。

 

「な、なあに、こ、これくらい!」

 

 ゆうやは脱力しきった体を気力で持ち上げ、ふらふらになりながらもようやく立った。それからゆかりのところに向かい、

 

「ゆかり、立てる? 手を貸すよ」

 

「う、うん。ありがと」

 

 彼はゆかりの手を引き、なんとか2人揃って立つことができた。

 

「これからこの町の様子を見にいく。あまり離れないようにして、おとなしくついてこい」

 

 ジルフが涼しげな顔でそう言った。ゆうやがゆかりを支えながら文句を言った。

 

「ジルフさん、速すぎるよ! もうちょっとこっちのこと考えてくれても」

 

「これくらいしないと足腰を鍛えられないだろう? これも修行のうちだ。さ、行くぞ」

 

 軽く流されたゆうやは、渋々納得しておとなしくジルフについていくことにした。

 ジルフたちは、とりあえず町を大まかに見回ることにした。町がどんな状況になっているかを見ることで、物資供給の優先順位を判断できると考えての行動だった。

 

 どうやらこの町はあまりひどい状態ではないようで、少なくともこの間の村のように死体が転がっていたりはしなかった。しかし、住民に話を聞くと、やはり生活はいっぱいいっぱいであるようだ。支部の様子も見に行ったが、本部同様、避難所のような状態であった。

 

 ジルフは少し立ち止まって、メモ帳を取りだし何かを書き始めた。3人は黙ってその様子を眺めている。メモを書き終えると、ジルフは3人に呼びかけた。

 

「よし、次の場所行くぞ」

 

「え、もう行くんですか?」

 

 ゆうやはメリスにこの前買ってもらった腕時計を見ながら言った。この町に来てからまだ1時間も経っていない。

 

「この地方には50の支部と、それと同じだけの町村がある。ここだけに長居しても仕方がない」

 

「で、でも、さっきとても困っている人がいましたよ。助けてあげたって」

 

 ジルフはゆうやの意見に同情しながらも、諭すように言った。

 

「こういう状況では、重大な事態でない限り個人より全体を優先するもんだ。ゆうや、お前の気持ちは分かるが、困っている人を片っ端から助けていては時間がいくらあっても足りない。俺たちは一度になんでもできるわけじゃない。分かるな?」

 

 ゆうやは少ししょんぼりしてしまったが、言われてみると当然のことだった。それでも何か素直には飲み込めないところがあったが、何も言わずに押し込めた。

 

 ジルフたちはこのまま町を出るつもりだった。ところが、何やら急に人々が慌ただしく動き始めた。何かから逃げているようだ。

 

 ジルフは上空へ飛び上がって町全体の様子を眺めた。すると、なんと町の通り一帯が燃えているではないか。すぐさま地上に降りると、3人に言った。

 

「どうやら、重大な事態になっちまったらしい。こっちだ。ついてこい!」

 

 燃え盛る通りにつくと、そこには何人も倒れていた。そして、火炎ビンや銃を持った男たちが、次々と家に押し入っては火をつけているのだった。

 

 通りにたたずむ男の1人がしゃべった。

 

「こう治安が悪いと仕事がしやすいな! 金目の物は手に入ったのか?」

 

「今のところ当たりが2軒、はずれが3軒てとこか」

 

 別の男が首を回しながらそう答えた。さっきの男が言った。

 

「さっきわめいてたガキがいたからつい殺っちまった。どーせ全部燃やすってのにな」

 

「まあいいんじゃないか。いくら殺したってここには動く者もないんだからさ」

 

「ちげえねえや!」

 

 そのとき燃え盛る家の前で1人の女性が泣き崩れながら叫んでいた。

 

「だれかー! アノム、うちのアノムをたすけて!」

 

「ああ? さっきからうるせえ女だな」

 

 さっき子供を殺したと言っていた男が銃口に手をかけた。女性は夢中でそれに気づくそぶりもなかった。引き金が引かれる。銃弾が女性に向かって飛び出した。

 

 そのとき、さっと飛び出す男の姿が。ジルフだ。ジルフは女性をかかえ、銃弾をかわして横へ跳んだ。

 

「ふう。あぶなかったな。狙われてたぞ。けがはないか?」

 

 しかし、助けてもらったことに感謝を見せる余裕もなく、女性はただ訴えた。

 

「アノムが、アノムがまだ家の中にいるんです!」

 

「アノムだな。わかった。助けてやるから狙われないようにじっとしてて」

 

 女性はどうにか了解してくれた。ジルフは少し後ろで待つゆうやたちのところへ行った。

 

 銃弾を撃った男がジルフを指して言った。

 

「おい。お前誰だ? 変な真似しやがって。死にてえのか?」

 

 その言葉を無視してジルフは3人にこう指示した。

 

「これから人たちを助けてくる。何軒もあるから時間がかかるだろう。いいか、今のお前たちならできるはずだ。あいつらを全てやっつけてこい。銃に気をつけてな」

 

 ジルフはそれだけ言うと炎に包まれた家へと果敢に入って行った。

 

 ゆうや、ゆかり、レンクスの3人はまず正面の2人と向き合った。銃弾を撃った男が言った。

 

「なんだ、あいつは。こんなガキ残してどうしようというんだ」

 

 もう1人の男が笑いながら言った。

 

「よくわからんが、倒せとか言ってたような気がするぞ。まさか俺たちをこいつらにどうにかさせようというんじゃないだろうな」

 

 ゆうやが怒り心頭に言った。

 

「お前ら、なんでこんなにひどいことができるんだ!」

 

「バルとして、あなたたちを許さない!」

 

 ゆかりがそう宣言すると、銃弾を撃った男は大笑いし始めた。

 

「ハハハハハ! そうか、バルか。かわいいバルもいたもんだ。そんなやつにはおしおきしてやらんとな。集まれ。面白いぞ」

 

 すると、男たちがざっと10人、少し離れて3人を取り囲んだ。壁のように立ちはだかる男たち。しかしレンクスは冷静だった。

 

「なめたマネしてのこのこ出てきたのが命取りさ。隠れてればよかったものを。いくぞ、ゆうや、ゆかり!」

 

 レンクスが気の圧縮を使って先陣を切った。油断していたところへの不意打ちとなり、蹴り上げが1人の顎を正確にとらえ、宙へと舞った。倒れこんだ男は完全に動かなくなった。

 

 子供に似合わぬ攻撃力に驚いた残りの9人は、銃を持ち出して狙いを定めた。

 

 ゆうやは、さきほど銃弾を撃った男に向かっていった。男が銃の引き金を引く。ゆうやは、この前の剣での修行、そしてレンクスとの試合を思い出していた。こういうときこそ攻撃をよく見て集中するんだ。すると、放たれた銃弾が、こちらに向かって飛んでいるのが見えた。

 

 気を足に集中し、高速のステップで銃弾をかわすと、腹に向かって渾身のパンチを叩きつけた。体がくの字に歪み、男は悶絶して気を失った。

 

 レンクスには3人から一斉に銃弾が浴びせられたが、全く動じていなかった。

 

「なんだ? どうなっているんだ?」

 

 男のうちの1人がその疑問を口にすると、レンクスは答えた。

 

「圧縮した気にただの銃なんて効かないんだよ!」

 

 男たちが認識できぬ速さでレンクスは1人、また1人と一撃で仕留めていく。普段実戦慣れしているレンクスにとって、このくらいは朝飯前だった。

 

 気の圧縮が使えず、銃弾はかわすしかないゆうやとゆかりは、緊張を強いられしながらもうまく避けながら攻撃している。

 

 ゆかりは、目に少し気を集中することで動体視力を高めていた。視力や聴力を上げるのは、ゆうやにはまだできない工夫だった。そうして銃弾を的確にかわし、1人を足払いでバランスをくずしてから蹴り倒した。

 

 ゆうやは、1人の手を取り投げの体勢へ。他の1人のところへぶん投げて2人同時に気絶させた。 

 

 しかし、投げで体勢をくずしたところへ銃弾が迫っていた。レンクスはそれを見てゆうやを軽く蹴り飛ばして助けた。

 

「ぼさっとしてるなよ」

 

「あぶなかった。たすかったよ」

 

 ゆかりのビンタが最後の1人にきれいに決まり、10人は仲良く気絶した。3人の子供に負けてしまったのである。

 

 これがゆうやとゆかりにとっては実戦では初戦闘であった。緊張から解放され、少し一息ついた3人。

 

「意外といけるもんなんだね。相手は大人だったけど」

 

 ゆうやがそういうと、レンクスは当然そうに言った。

 

「子供っていっても一流のバルに鍛えられてるんだぞ。そこらへんのやつには負けないさ」

 

「うん。なんだか自分がいつの間にか持ってた力の大きさがわかったような気がする。使い方、間違えないようにしないと」

 

 ゆかりがうつむきながら言った。そして、ゆうやは興奮がさめると、少し悲しくなってきてしまった。

 

「どうして、こんなこと平気でできるんだろう」

 

「ひどいよね、お金のために何人も殺すなんて」

 

 ゆかりも同調して、少しうつむいている。そこに、ジルフが帰ってきた。衣服は焼け焦げていたが、やけどもなく元気だった。

 

「そっちはなんとか全員やっつけたみたいだな。成長するためには、実戦経験をどうしても積んでいかなくちゃならないからな。これからも相手として適当なやつがいれば戦わせるぞ。こいつらは縛っておいて引き渡そう」

 

 ゆうやが聞いた。

 

「全員助けられたんですか?」

 

 ジルフは首を縦に振った。

 

「ああ、1人危ないのがいたけどな」

 

 女性がジルフたちのところにやってきて言った。

 

「あの、アノムを助けてくれて、本当にありがとうございました!」

 

「気にしないでいいよ。それが仕事ですから」

 

 ジルフはそう言うと、3人に向き直った。

 

「ちょっと予定は狂っちまったが、今度こそ行くぞ。この調子で全部の町村を調べないといけないんだからな」

 

 ジルフたちは、このあと6日かけて50の町村を調べ、物資搬入優先リストを作成した。一方、そのころ本部にとどまったラークスはというと……

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