セバル   作:レストB

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第1部 2章 第15話「暴徒と化す民衆たち!強制封鎖決断」

貧困対策集会本部。ラークスは、ジルフたちと別れてから1週間、ここの様子をじっと見守ってきた。

 

 ときに力仕事の手伝いや配給の手伝いに自ら参加し、ときに何かもめごとが起きれば仲裁に入った。今のところ目立った事件はなかったが、死者が毎日2,3人ずつは出てしまっていることに少し心が痛む。

 

 ザンギロとはよく話をした。最初はなかなか信用を得られなかったが、仕事をよく手伝うようになると少しは打ち解けてくれた。しかし、食料がなくなり、ザンギロがついに必死の形相で迫ってきた。

 

「食料や物資はまだなのですか? このままでは人々は飢え死にしてしまう!」

 

 ラークスがきっぱりと答えた。

 

「1人がグランゼスタへ向かっています。あと1週間以内には戻ってくるはずです」

 

「明日には配給の停止を宣言するしかありません。あなたたちの頑張りは信じたいですがが、もう限界なのです……」

 

 ザンギロは肩を落とし、迫りくるであろう狂気の沙汰にぞっとしていた。

 

「私にはもうどうしようもありません。死を前にしてここの皆さんがどうなるか。きっと私が言っただけでは止まらない」

 

「やはり食料が尽きてしまったのか。しかし、部外者の私が言うよりも、あなたが説得した方がまだよいでしょう」

 

「そうですね。できる限り努力はしてみます。血など見たくはない」

 

 話を終えたラークスは、本部の一角にじっと構えながら、食料で刺激しないよう人々からは離れて持っていた携帯食料を少しだけ摂った。いよいよ明日からか――

 

 翌日、ザンギロはついに食料配給の全面停止を宣言した。

 

「今回、一旦配給の停止をすることになりました。しかし、あと少しすればまた再開する予定です。皆さん、それまでの間辛いでしょうが辛抱を――」

 

 すると、どこかから男の怒号が飛んだ。

 

「ふざけるな! 俺たちに備えがないくらい知っているだろ? 死ねとでもいうのか?」

 

 そうだ、そうだ、という野次が飛び交う。ザンギロに対し、冷たい視線が浴びせられる。ザンギロはそれでもひるまずに言った。

 

「今は耐えましょう。ここまでやってきたではありませんか。それに、私たちはちゃんと次の食料の手配はしてあります。一時的には止まりますが、きっとすぐに再開しますから」

 

「そんな保証はない!」

 

 またもどこかから野次が飛んできた。

 

「お願いします! 辛いのはわかっているんです。ですが、こんなときだからこそ支え合わなければならない! どうか落ち着いてください。お願いします!」

 

 ザンギロは深々と頭を下げた。その姿勢に、民衆はしぶしぶ収まった。しばらくして、ラークスはザンギロに話しかけた。

 

「ありがとうございます。ひとまずの衝突は回避できたようだ。しかし、この様子ではいつ何が起こるか分からない。気をつけていかねばなりません」

 

「そうですね。どうやら支部でもなんとか説得できたようです」

 

 ザンギロは一息つくと、かなり疲れているように見えた。

 

 この後、食べる物のない中、人々が空腹に耐えながら暗い顔をしているのがはっきりわかった。時々怒りの声や赤ちゃんの大きな泣き声が聞こえる。

 

 時刻は夜。ラークスは、その様子を眺めながら、ジルフに電話で連絡を入れた。

 

「もしもし。ラークスだ。今は何をしている?」

 

 ジルフの声が電話から聞こえてきた。

 

「おう、ラークス。今ちょうど全ての支部を回ってきたところだ。どうやら食料が切れたらしいな」

 

「そうだ。こっちはザンギロが説得に一苦労さ。本部には武力派もいるからな。いつ動き出すかわかったもんじゃない。ところで、メリスから何か連絡はあったか?」

 

「ああ。あと4日で戻ってこられるらしい。グランゼスタ王との交渉はうまくいったそうだ。物資は迅速に手配してくれた。しかし、高速船で急いでもこのくらいはかかってしまうらしい。ここからが正念場だな」

 

「そうだな。例の仕掛けはしておいたか?」

 

「もちろんだ。いざとなったら発動するようにしてある。結構気力を使っちまったがな」

 

「こっちも準備は万端だ。あとは一般人の中に紛れている武力派の手練れに注意しないとな」

 

「支部を確認したが、最後のところに1人だけ強力な黄気使いが混じっていた。こいつは注意しとかなきゃいけないからここに留まろうと思う。そっちは?」

 

「本部というだけあって、赤気が5人、黄気が2人だ」

 

「ラークス、お前だったら心配はないだろうが」

 

「どうやら格下のようだし、いざというときしっかりやれば問題はないだろう。では、また何かあれば」

 

「じゃあな」

 

 ラークスは電話を切った。ひとまず今日のところは何も起きなかったようだ。

 

 しかし翌日、ついに怒り狂い始めるものが現れた。

 

「僕はもう我慢できないぞ! このまま飢え死ぬくらいなら、やってやる!」

 

 武器を手に1人の男が外へ出て暴れだそうとした。ラークスは慌ててこの男を引きとめる。

 

「は、はなせ! この野郎!」

 

 ラークスは武器を取り上げ、男を別の場所へ連れていった。それを見ていた民衆がざわざわとしている。

 

 夕方になると、ある女性がザンギロに嘆願してきた。

 

「お願いです。食べ物がないせいでお乳が出ないんです。このままではこの子が死んでしまう! どうかミルクか食べ物を!」

 

 これを見たある男がザンギロに食ってかかった。

 

「女子供や弱っている人たちだけにでも配給は復活できないのか? まさか食料が尽きたのか? 答えてください!」

 

 これに呼応するかのように人々が圧力をかけ始める。ザンギロはなんとか口から言葉を絞り出した。

 

「もう少しで配給は再開しますから、待ってください。あと4日もすれば届くはず」

 

 言ってしまったあとで、ザンギロはしまった、と思った。あるところで男が声高に叫んだ。

 

「届くだあ? 4日もすれば? じゃあ俺たちは4日もの間物食わずに暮らしていろっていうのか!?」

 

 別の場所から声が上がる。

 

「やっぱり食料が尽きてたのか。おかしいと思ったぜ!」

 

「死んでしまうわ」

 

 徐々に周囲に険しいムードが立ち込め始めた。

 

「その届くってのは一体どこからなんだよ!」

 

 激しい野次が飛ぶ中、ザンギロにはもう隠し事のしようがなかった。

 

「グランゼスタです。あそこからみなさんへの物資援助があるんです」

 

 そこに、さらにまた色々なところから声がとんだ。

 

「信用できねえな! それも嘘なんじゃないのか!」

 

「グランゼスタが、どうして今頃になって私たちを助けるというんだ!」

 

「そんなうまい話があるか!」

 

「そうだよ。俺たちはこのまま何も食えずに死んでしまうんだ!」

 

 徐々に収まらない様相を見せた人々に、武力派が決定的な言葉を言った。

 

「このまま死ぬくらいなら、戦うんだ! 俺たちの手で食料をつかみ取ってやれ!」

 

「みんな武器を手に取れ! 威張り腐って何もしない金持ちや役所なんて叩き潰せ!」

 

 うおおお! 歓声とともに一部の人々が武器を手に取り始めた。ザンギロは必死に止めようとした。

 

「みなさん、待ってください! 血を流しても物事は解決しません。もっとひどくなるだけです。どうか――」

 

「うるせえ!」

 

 どこかから銃声が響いた。民衆のどこかから、特定はできなかった。ラークスには止めようがなく、ザンギロの腹は赤く染まり、崩れ落ちた。

 

「ザンギロ!」

 

ラークスは叫んだ。介抱され、真っ青になって死にかけているザンギロに、今すぐにでも治療に行きたかったが、それどころではなかった。今は目の前のことに集中しなければならない。

 

 彼は、出口からなだれ出ようとしている人々に先んじて出た。そして、この本部の建物全体を強力な気のバリアで覆った。

 

「お、おい。出られねえぞ! 何しやがった!」

 

 そんな声が飛んできた。ラークスは大きく息を吸い込むと、みんなに聞こえるように叫んだ。

 

「聞け! 今からしばらくの間、ここは封鎖する! あなたたちの気持ちは分かるが、暴動が起こればもっと多くの死者が出るのが分からないのか!」

 

 民衆は唸っていた。立ちはだかるラークスに、またもやどこかから銃弾が放たれる。しかし、ラークスはそんなものではびくともしなかった。

 

「あなたたちは、ここから一歩たりとも出さん!」

 

 ラークスはジルフにコールをかけてすぐに切った。それが緊急時の合図だった。ジルフは、その場で強く念じると、仕掛けてあった気のバリアが発動し、全ての支部は封鎖された。

 

 やむを得ない形とはいえ、ジルフとラークスの暴動封鎖が始まってしまった。怒りの収まらぬ本部の人々はラークスと向かい合ったまま硬直状態である。

 

 そこに、武力派の5人の赤気使いが飛び出し、一斉にラークスに攻撃をしかけてきた!

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