一斉に仕掛けてきた5人の赤気使いに対し、ラークスは余裕の応戦を見せた。背中の大剣を軽々とかかげると、襲いかかってきた5人のうち3人のパンチとキックが、肩と顔目掛けてきたがすれすれでかわし、1人の飛び膝蹴りを左手でいなしながら、最後に攻撃してきた1人に対し剣の軽い一振りで応じた。
剣をもろに食らった人は少し血をまき散らしながらふっとび、どうやら命に別条はないようだが、そのまま起き上がることはなかった。
ラークスは剣を素早く引くと、飛び膝蹴りの終わりでまだ空中で体勢が戻っていない男の、そのガラ空きの背中に対して、またたく間に蹴りを浴びせた。男は地面を跳ね打ちまわってしまった。
残り3人は体勢を立て直すと、矢の雨のような突きやパンチをラークス目掛けて出し始めた。ラークスは、それをかすらせもしないで、必要最小限の動きだけでかわし続ける。3人の腕が同時に伸びきったタイミングは図り、バックステップで少し距離を取った後、剣をシャッっと大きく横に一振りすると、かまいたちのようなものが発生し、3人はそろって巻き込まれた。3人の悲鳴とともに、ラークスは剣を構えなおした。
あまりに一瞬の出来事に、一般人は目を見張ってしまった。その動きに目がついていけない。気がつくと、ものの10数秒ほどで5人がたった1人にやられていたのだった。ラークスは剣を構えたまま赤気使いが飛び込んできた方向へ大声を上げた。
「おい、こんな雑魚よこしてないでとっとと出てきたらどうだ? いるのは分かっているぞ」
すると、2人の男たちが民衆の中から割って出てきた。1人はカギ爪を手につけ、もう1人は槍を手に持っていた。カギ爪の方が口を開いた。
「さすがはバルといったところか。あの程度の輩では失礼だったと言えよう。私はキンダスターという」
槍を手にした方は不気味な笑みを浮かべながら話し始めた。
「我の名はコボルザーク。我らは立ち上がらねばならないのだよ。きみに邪魔はさせない。死んでもらうよ。ククク」
キンダスターはカギ爪を構えると、気を送り始めた。カギ爪を黄色のオーラが覆う。
「いかにバルといえど、一流の黄気使い2人がかりでは敵うまい。この俺の爪とザークの槍にかかって死ぬがいい!」
大地を蹴る音とともに、まずキンダスターが猛スピードで飛び込んできた。先の赤気使いの比ではない。爪を大きく振りかぶってラークスの胴体を狙う。ラークスはすれすれで回避しようとしたが、爪から急に長い気の刃が飛び出してきた。彼は瞬時の判断で一気に下がったが、服が裂けてしまった。キンダスターは舌打ちをしながら言った。
「へっ。よく今の攻撃が見切れたな。だが、今度は服じゃなくて命をもらいに行くぜ! へい、ザーク!」
コボルザークは気づけば後ろに回り込み、ラークスの足を狙い薙ぎ払ってきた。ラークスは横方へ跳躍すると槍は空を切ったが、跳んだ先にはキンダスターがすでに待ち受けていた。ラークスはひねりを効かせながら胸元目掛けて剣撃を放ったが、それは爪とぶつかって相殺された。ラークスは少し感心して言った。
「なかなかやるじゃないか。並みのヤツなら今の一撃で落ちているんだが」
「減らず口を叩くのもそこまでだ!」
キンダスターは気を集中させると、爪の刃が気で一気に伸びた。剣のリーチの半分程はあるだろう。
「はあっ!」
キンダスターが両手の爪を交差させるように振ると、強烈な気流が巻き起こり、風の刃を化してラークスに迫った。同時に、コボルザークが飛び上がり、上空から槍を連続で突いてラークスに迫ってきた。
ラークスは風の刃に対し、瞬時に気を溜めた剣の一振りで打ち消そうとしたが、コボルザークの槍の攻撃のおかげで振りきれず、完全には打ち消せなかった。風の刃に切り刻まれながら、なんとか急所は外す。槍の攻撃を剣で打ち流そうとするが、風の刃と突きの嵐を同時にさばききることはできなかった。
かわしきれねえな。槍の一撃が脇腹をえぐった。血がどくどく流れる。と同時に飛び上がってコボルザークの懐にうまく入り、突きを入れようとした。しかし、コボルザークは間合いから離れてしまった。ラークスが攻撃したスキを狙い、キンダスターのカギ爪が横からラークスの首を狙う。ラークスは剣を引きもどしながら体勢を戻し、首を動かして攻撃をはずしたが、顔面をかするように切り裂いた。
ラークスは地面に降り立ち、キンダスターとコボルザークも彼を挟むような形で降りてきた。
「ふん。ここまでよく耐えているよ。しかし、この我の槍のリーチとキンダスターの爪の速度の前には、やや形勢が悪いようだな」
しかし、ラークスは脇腹を押えながらも、その表情は若干笑っていた。キンダスターはその様子に違和感を覚える。
「何がおかしい!?」
ラークスは一つ溜息をつくと、表情を引き締めて言った。
「いや、今まで様子を見ていたものでな。俺は本気でやると加減が効かない。並みのやつでは死んでしまうからな。だが、予想以上にやるものだから、少し本気を出そうと思ったのさ」
2人はラークスに対して怒りとあきれを見せた。キンダスターが言った。
「なんだと? では今まで本気じゃなかったというのか。はったりもいいところだ」
しかし、直後のラークスの行動で2人の表情は一変する。ラークスは剣に気を込め始めた。高まる波動とそれに比例するように黄色く光輝く刀身に、2人は何かぞっとするものを感じた。気づけば、ラークス自身の気が自分たちよりも圧倒的に充実していることに驚かされる。これが同じ黄気使いだと言うのか――
「ではいくぞ! まあ死なぬように祈っていることだ」
ドン! と地面を蹴る音が大きく鳴り響くとともに、一瞬でキンダスターの前に詰め寄るラークス。キンダスターは爪で防御の構えを取った。しかし、ラークスはそんなものお構いなしに大剣を振り切った。直後、爪とぶつかったラークスの剣は、爪をいとも簡単に粉々に破壊した。
何だと!? 驚く暇もなくその一撃はキンダスターの胴を捉え、直後、おびただしい量の血を噴き出しながら彼はその場に倒れこんだ。
「あと1人。さあ、どうする? 降参するか、それともこいつのようになるか」
コボルザークは驚愕し、内心恐れを含みながらも言った。
「槍に対し剣は不利。まだまだやれるわ! このリーチをどう詰める?」
コボルザークは槍に気を込め、ラークスに捨て身で向かっていった。ラークスはここで一息つくと、さらに刀身に気を込め始めた。刀身を気が厚く包みこんでいる。
「武器のリーチなどさほど気にはならない。なぜなら、気の力で風の刃などではない、強力な飛び技を繰り出せるからだ。お前はその存在を知らぬようだな。死の淵で目に焼き付けておけ」
「キルフライン!(疾風の刃突!)」
剣から放たれた黄色いオーラの刃が、空気を切り裂き、貫くようにまっすぐと突きぬける。その速度は、コボルザークが回避できるようなものではなかった。
「う、うわあああああ!」
衝撃とともにその刃は、コボルザークの全身を打ちぬいた。コボルザークは気の結界も突き破ってはるか彼方へ吹っ飛んでいった。
「さて、これで邪魔者はいなくなった。まだ俺にたてつこうと言うやつはいるか?」
民衆はこの男の凄まじいほどの強さに完全に固まりついてしまった。もはや暴動を起こそうという意志は消え去っていた。ラークスは、みんなが静まり返ったところで宣言した。
「あと4日だ。あと4日で俺の友人が食料を持って帰ってきます。それまで待ってください」
「お、俺たちは信じていいのか? その言葉を――」
1人の男が尋ねた。ラークスは首を縦に振ってうなずく。
「バルは仕事を果たしてこそのバルです」
この言葉に、安堵を見せた者は多かった。人々はすごすごと武器を置き、自らの場所へ戻って行った。ふう、どうやらうまくいったようだな。
そうだ! ザンギロさん!
ラークスは急いでザンギロの元へと向かった。
「ザンギロさんは!?」
職員の1人が暗い顔をしながら言った。
「弾は取り出しましたが、意識がはっきりしません。このままではもう……」
「どいてください!」
ラークスはザンギロの腹に手をあて、気を送り始めた。メリスほど得意ではないが、これでどうにかなるはずだ。間にあってくれ!
すると、ザンギロの顔に少しずつではあるが生気が戻り始めた。10分後、ようやく傷はふさがった。
これで一安心だ。あと4日。頼む。メリス、早く戻ってきてくれ。
コボルザークの無事を確認した後、ラークスは疲れから眠りに落ちた。