セバル   作:レストB

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第1部 2章 第17話「必殺の一撃 ジルフのセンクレイズ」

 一方、ジルフたちは、支部のうち最後に回った一つに残っていた。ラークスから暴動は一旦収まったとの連絡を受け、ジルフは少しほっとするが、ちょっとだけ油断ならぬ状況であった。他の49支部にはバリアを破るほどのやつはいないが、黄気使いであれば、メリスのものほど強固ではないジルフのバリアはいずれ破ってしまうだろう。

 

 その黄気使いがこちらにやってきた。ジルフはゆうやたち3人に言った。

 

「ちょっと下がって見ていろ。すぐに終わる」

 

 ゆうやはゆかりとレンクスと一緒に後ろに下がり、前の黄気使いをじっと見た。ひげを生やし、剣を背負ったそのたくましい肉体から、恐ろしいまでの気が発せられている。あのときのディーンという人よりは相当強いに違いない。しかし、ゆうやにはジルフの背中の方がもっと頼もしく見えた。

 

 黄気使いが剣を抜き出し、右手で構えながらジルフに言った。

 

「あのバリアは貴様のものだな。他に気の使い手はいるまい。この混乱を利用しようと思っていたが、邪魔だ。貴様には消えてもらおう!」

 

「お前こそ邪魔だ。どうやら見たところなかなかやるようだな。少しは本気が出せそうだ」

 

 ジルフはゆうやたちに背中を向けたまま言った。

 

「いいか! ゆうや、よく見ておけ! 気功剣術には基本的だが重要な飛び技が存在する。今からそれをやるから、しっかり目に焼き付けておくんだ」

 

「はい!」

 

 ゆうやは、ジルフをじっと見た。ジルフが気を集中させると、ジルフの持つ大剣の刀身が光り輝き始めた。凄まじいほどまでに刀身に気が集中し、気が高まっている。

 

 敵の黄気使いはその自分を圧倒するほどの気の高まりに、先ほどの威勢はどうしたことやら、固まりついてしまっていた。

 

 ジルフは剣を右手に構え、まっすぐ敵に向かって突きつけた。ゆうやは、この前もジルフが同じ構えを取っていたことを思い出した。

 

 それからジルフは剣を上段に構え直し、一気に振りおろした!

 

「センクレイズ!(瞬光の一閃!)」

 

 その声とともに特大の黄色い刃が、地をなぞるように宙を飛び、敵に向かって突き抜けた。黄気使いは避けることができず、剣を構えて防ごうとしたが無駄だった。ジルフの一撃は剣を弾き飛ばし、敵にクリーンヒット。敵は叫び声とともに斬撃に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられてそのままくたばってしまった。まさに瞬殺である。

 

「す、すげー!」

 

 ゆうやは思わず大声で言ってしまった。今までアニメでしか見たことないような飛ぶ斬撃をこの目でしかと焼き付けた。その威力、その速度はまさに衝撃的だった。自分もいつかこんなの出せるようになるんだろうか。かっこいいな!

 

 レンクスも目をキラキラさせて見ていた。どうやらここらへんはあまり普通の男の子と変わらないらしい。

 

「ゆうや、あれはセンクレイズって言って、ラークスさんが使うキルフラインとあわせて二大剣撃と言われるんだ。でも、この目では初めてみたよ!」

 

「なんかすごいね。一瞬でやっつけちゃった」

 

 ゆかりは、改めてジルフの強さに感心しながらそう言った。ジルフは黄気使いの命に別条がないことを確認すると、戻ってきてゆうやに説明した。

 

「かつて、勇者オルキアがその聖剣で放ったと言われる一撃がセンクレイズだ。その後、一時的に失われたこの技はバルによって復活し、同時期に編み出されたキルフラインとともにバルの間で継承されていた。気を使った剣撃の中では最も基本的な類の技であったからか、今では継承もそんなにされずあまり使う者もいない。だが、この技の重要性は一流のバルならよく知っている。使い手の気力に比例して威力が上がり、シンプルだがそれゆえに非常に強力な技なんだ。磨けば実戦では必殺技と化す。俺が最も頼る技の一つだ」

 

「へえー! ジルフさんはどっちも使えるんですか?」

 

 ゆうやは興味津々になって尋ねた。ジルフは剣をしまいながら答えた。

 

「センクレイズとキルフラインを習得する場合は、どちらか1つに絞って極めることが多い。この2つは技の性質は似ていて、違いといえば、センクレイズに比べて、キルフラインは多少貫通に優れるが、そのぶん軌道変化がしにくいことくらいだ。その気になればどちらも放つことはできるが、2つを中途半端にするよりは1つの完成度を高めた方がいいからな。俺はセンクレイズ、ラークスはキルフラインの使い手だ」

 

 レンクスは、この話題に関しては食い付きがよく、まだ目を輝かせながらジルフに聞いた。

 

「たしかさ、飛び技って言ってたけど、近くで放つこともできるんだよね?」

 

「そうだな。飛び技の一種ではあるが、飛ばさずに剣にまとわせたまま直接ぶつけた方が威力は高い。状況によって使い分けが必要だな。どっちにしろ、黄気にならない限りは使えない技だ。今のうちはその存在を知っておけばいいだろう」

 

 ゆうやがいてもたってもいられなくなって頼んだ。

 

「俺、頑張って早く黄気使いになるからさ、そしたらちゃんと教えてください!」

 

 ジルフはゆうやの頭をぽんぽんとなでながら言った。

 

「今はじっくりと基礎訓練を積むんだ。慌てなくたって、いつかみっちり叩きこんでやるさ」

 

「ほんと!? 約束だよ!」

 

「ああ、わかったよ」

 

 レンクスは約束を取り付けたゆうやに対してちょっとうらやましいような表情をしたが、すぐに気を取り直して、

 

「よっしゃ! そしたら、俺はいつかラークスさんにキルフラインを教えてもらうぞ!」

 

 ゆかりは1人取り残されてちょっとぼやいた。

 

「わたしが使えるような技ってないの?」

 

 ジルフはゆかりに向かって優しく笑いながら言った。

 

「心配しなくても、ありすぎてやばいぞ。メリスの技の数は相当だからな。気功波の代表技、セイントブラスターからありとあらゆる応用まで教えてもらえるさ」

 

「セイントブラスター?」

 

 ゆかりは首をかしげた。

 

「あとはメリスによーく教えてもらうんだな。俺もできない気の使い方をよく知ってるからな、あいつは」

 

「はーい。じゃ、わたしもメリス先生に色々教えてもらうように約束しよっと」

 

 技の話題で少し盛り上がったジルフたちだが、対照的に支部は陰鬱だった。バリアのおかげで暴動は起こせない状態となったとはいえ、いつ内部で暴れる人が出てきてもおかしくはない。

 

 ジルフは、いつでも動き出せるような体勢で4日間をひたすら待ち続けた。本部にいたラークスも同様だった。

 

 1日が過ぎ、ある支部で暴れだす者がいたのでジルフが抑えに行くと、時すでに遅く数十人が死んでいた。原因は他人の持つ食料を強引に奪おうとしたことにある。そうだ。外部と断ち切ったからといって内部での争いで人が死ぬこともある。人は、追い詰められると何をするか分からない。根本的な解決は、やはり物資の到着を待たねばならない。

 

 2日が過ぎ、ラークスの元に赤ちゃんを抱えた女性が現れる。2日前にミルクやら食べ物を求めてきた女性だ。女性は涙を流しながらラークスにつかみかかった。

 

「わたしの赤ちゃんを殺したのはあなたよ! あなたが、あなたがここを開けないから! 許さない! 絶対に許さない!」

 

 ラークスは無言でこの女性の責め句を受け続けた。最善の選択をしたところで何かは切り捨てなければならないときがある。それは分かっているのだ。この赤ちゃんの命を切り捨てたのは、自分に他ならない。分かっていてやったことだ。それは正義だが、残酷な選択だった。そして、赤ちゃんの命を守りたかった一心で暴動を望むのも、またある意味では正義だった。ラークスは、その正義を否定することはできなかった。自分の望む正義を、力で通したにすぎない。

 

 3日が過ぎ、人々は疲れ果てていた。元々ぎりぎりで生活していた者たちが、次々と死んでいった。満腹で健康的な状態からなら4日は耐えられるが、痩せこけていたり、病弱だった者たちにとって、4日の絶食は無理な話だったのだ。この日までに、1000人以上の人たちが亡くなることになる。

 

 ゆうやたちがいた支部でも、20人以上が亡くなった。遺族の人々がジルフに恨みを向ける様は、ゆうやにとっては、見ていて怖いものであり、しかし、ひどく同情できるものだった。

 

 そして4日が過ぎた。その日の朝、一本の電話が。メリスからだった。それによると、ついにヘレスチナ共和国の港に戻ってきたとのことだった。もちろん第1弾の食料も積んである。

 

 ジルフはラークスに電話を入れた。ラークスは取り急ぎ、意識を取り戻して少しは元気になったザンギロにその旨を伝えた。ザンギロはベッドから飛び起きた。

 

「こうしちゃいられない! みなさんに連絡しなければ!」

 

 ザンギロは本部の立ち台に向かうと、全ての支部へも声が聞こえるように機器の電源を入れて、話し始めた。

 

「みなさん! 我々の忍耐はひとまず終わりました。我々は武力に訴えることなく、耐えきったのです! 今後は、グランゼスタから直接支給が得られます。今日中にも最初の食料が行き渡るでしょう。そして、亡くなった方たちに、お悔やみとお詫びを申し上げます。我々は、やむを得なかったとはいえ、食料の配給ができない状態でした。しかし、もうそのようなことはないはずです。安心してください!」

 

 本部と、支部から安堵の声が出た。ようやく終わったのだ。この飢餓地獄は。大きな犠牲とともに。

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