セバル   作:レストB

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第1部 2章 第18話「これがバルの日常」(2章最終話)

 メリスの元に急いで向かったジルフとラークスたちは、手分けして運べるだけの食料を運んだ。ゆうやにとっては、目の前で、山ほどのものを気を使って軽々と浮かべてしまうのだから驚きだった。配給の際、ジルフが作っておいた優先表が役に立った。この優先順に迅速に運び、なんとか夜までには全ての支部と本部で配給が再開されるに至った。

 

 今後は、本部の職員たちが物資の受け取りにあたることになり、これでこの地方の問題は解決しそうである。

 

 しかし、反応は様々であった。食料が無事に手に入ったことを喜ぶ者は多かったが、そればかりではない。ジルフとラークスの強制封鎖という強引な手段にかかり、食料を得られずに死んでしまった者たちがいる。残された人々は、奪ってまで食料や金品を手に入れるのが正しくないと分かっていながらも、その機会を完全に奪ってしまった2人に対し、やり場のない怒りをぶつけていた。この人殺し! 何度この言葉が聞こえてきたことか。2人はこの言葉を黙って受けながら、ただ黙々と作業をこなしていた。ときにつかみかかられても、殴られても、何も返さずにただ作業を続けていた。

 

 ゆうやは、それを見て何か重いものがのしかかってくるような気がしていた。バルの仕事って、こんなこともいっぱいあるんだろうか。敵をやっつけるだけじゃないんだ。人々の気持ちが痛かった。何より、どうあっても人を救いたいという気持ちが、身にしみた。あの人たちはきっと本気だ。それを、無理にでも抑え込んだのは、他でもないジルフさんたちだった。

 

 でも、ジルフさんたちのやっていることは間違ってない、と思う。けど、だったら、どうして黙っているんだろう? なんで何も言い返さないんだろう? なんで、歯を食いしばっているんだろう? 

 

 罵倒されるジルフたちを見ていることが、ゆうやには耐えがたかった。

 

 翌日。役目を果たしたジルフたちはこのカナック地方を去ることになった。ザンギロは最後にお礼を言ってきた。

 

「この度は、色々と手を尽くしてくださってありがとうございました! 今回の措置を恨みに思う人はいるでしょう。それでも、感謝している者は多い。暴動が起きずに済んだのは幸いでした。私は、あなたたちのことは忘れません」

 

 ザンギロと別れ、ジルフたちは政府のところへ飛んでいく。役人に事の顛末を説明すると、報酬の手配は喜んですると約束してくれた。どうやら、大暴動に発展しなかったことで、政府側にも相当な安堵があるらしい。

 

 全ての後処理が終わり、外へ出たジルフたち。ジルフが伸びをしながら言った。

 

「さあてと、今回の仕事も無事に終わったことだし、ちょっと休んでまた次の仕事へいくとするか」

 

 ゆうやは、昨日の気持ちをジルフとラークスにぶつけてみた。

 

「あ、あの。どうして、ジルフさんもラークスさんも黙って罵りとかに耐えながら仕事をやってたんですか? 向こうの人たちの気持ちもわかるけど、ジルフさんもラークスさんもやってることは間違ってないのはわかるけど! でも、でも、みんななんとかできなかったんですか?」

 

 ジルフは少し驚いてラークスと顔を見合わせると、言葉を選びながら慎重に話し始めた。

 

「俺たちも、いつも全てが丸く収まればいいと思ってるさ。でも、現実は甘くなくてな。そんなきれいごとばっかりで済むわけじゃないんだ。自分たちが正義だと思ってやったことが、相手にとってもそうだとは限らないんだよ。今回は、被害者にとっては残酷なことをしてしまったんだ。全ての人を助けられなかった。罰は受けて当然だよ」

 

「で、でも――」

 

「お前にも、いつかきっとわかるときがくるさ」

 

 ジルフはそれだけ言って、ラークスの方を向いてしまった。ゆうやはもうそれ以上何も言えなかった。レンクスが、暗い顔をしているゆうやをこづいて言った。

 

「なあ、元気出せよ! 今みんなを助けられないなら、助けられるだけ強くなったらいいじゃんか。頑張ろうぜ!」

 

「――うん、そうだね。俺は、絶対にどんなときもみんなを助けられるようになりたい」

 

「ゆうやの気持ちよくわかるよ。苦しむ人たちを見捨てないで助けられるようになりたいよね」

 

 ゆかりはそう言ったが、自分と同じく少し思いつめていたようだった。昨日の様子を見て、ゆかりにも何か感じるところがあったのだろうとゆうやは思った。

 

 少しだけ休んで話した後、いよいよ別れの時がやってきた。ジルフとメリスがラークスに別れを告げる。

 

「じゃあな。次はいつ会えるかわからんが、元気でな」

 

「次会う前に死んでた、なんてことがないようにね。久々に会えて楽しかったわ」

 

「はは。メリス、それはお互い様だぞ。ジルフ、今回はできなかったが、今度また会ったときはたまに試合でもしよう。いつだかの決着がまだついてないしな」

 

「ああ、そうだな。じゃあ、その日のために仕事しながら鍛えておくとするかな。おっと、弟子の修行も忘れるな。今度はゆうやをお前のレンクスより強くしてやるからな。覚悟しとけ」

 

「おう、望むところだ。楽しくなってきたな」

 

 ゆうやとゆかりもレンクスに別れを告げていた。

 

「じゃあね。レンクスはその高飛車な性格、ちょっと直しておくといいかもね」

 

 ゆかりがそう言うと、レンクスは少しばつが悪そうな顔をして言った。

 

「わかったよ」

 

 ゆうやが意気込みながらレンクスに宣言した。

 

「次はもっともっと強くなって、きっと負けないからな!」

 

「だったら、俺はそれを上回るだけ強くなってやるだけさ。また一緒に戦おうな!」

 

「うん!」

 

 ゆうやとレンクスはがっちりと握手した。強く硬く結ばれたその手は、後の強い絆を予感させるものであった。続いて、ゆかりとレンクスもしっかりと握手した。

 

 挨拶が済むと、ラークスはレンクスを乗せて飛んで行った。少しすると、あっという間に見えなくなってしまった。

 

「さて、俺たちも帰るとしよう」

 

 ジルフにゆうや、メリスにゆかりが、いつものようにつかまって飛んでいく。

 

「よーし! なんかやる気出てきた! レンクスに負けないように頑張るぞー!」

 

 ゆうやがいつになく張りきっていた。ゆかりはその様子を見てつぶやいた。

 

「なんか負けてられないなあ。あ、メリス先生、わたしね、ジルフさんから色々聞いたんだけど、剣には必殺技があるんですよね? わたしにもそういうのちゃんと色々教えてください」

 

「ふふ。心配しなくても全部教えてあげるわよ。ただ、技のほとんどが黄気にならないと使えないからね。今は焦らず修行に励むことよ」

 

「はい! それで、セイントブラスターって聞いたんですけど、どんな技ですか?」

 

「ああ、それねー。気功波の中でも基本的な技で、両手を前に構えて一気に気を放出する技よ。基本的だけど、鍛えれば強いから私もたまに使うわ。たしか、セイントブラスターって名前自体は地球のどこかの言語(※1)からきているらしいけど、詳しくはよくわからないわね」

 

「わたし、日本語以外はよく分からないからなあ。どういう意味でしょうね」

 

「さあね。まあ、この技は便利だから応用されて色んなバルに使われてるわよ。武器使いも気功波を使うことがあるし。ジルフもその気になったら使えるからね」

 

 ゆうやが思い出したように言った。

 

「そういえば、地球にいたときそんな技見たことあるよ! 要は悟空のかめはめ波みたいなもんでしょ?」

 

「ごくう? かめはめは?」

 

 ジルフが首をかしげた。

 

「あ、でもアニメの話だったね」

 

「アニメ? 分かんない事だらけだな」

 

「気にしなくていいよ。こっちのはなし~!」

 

 ゆうやは笑いながらあえて教えないではぐらかした。

 

「そういえば、ジルフさん、いっつも敵と戦うとき剣をまっすぐ突きだす構えをとってたけど、あれは何ですか?」

 

 ジルフは、頭をかきながら恥ずかしそうに言った。

 

「ああ、あれか。あれはな、俺が敵と戦うときの宣戦布告の構えだ。ある戦士がやってたのが印象に残ったからマネていたら、つい板についてしまったみたいだな」

 

「なんか俺も印象に残っちゃって。かっこいいよね!」

 

「構えを取ることで相手を威圧できるし、集中力も高まるけど、ちょっとかっこつけすぎかもな」

 

「ところで、ある戦士って?」

 

「うん? ああ、話すと少し長くなるけど、いいか?」

 

「いいよ!」

 

「レイバス戦争には五英雄と呼ばれる人たちがいるな。エスケール、グレイバルド、間隙の戦士、あとは一応俺とラークスってことになってる。中でもエスケールとグレイバルドは当時から最強のバルとの呼び名が高かった。20年前に姿をくらましてから、今は2人とも行方不明だけどな。それで、その中の間隙の戦士と呼ばれる人がこの構えをやっていたんだ。間隙の戦士ってのは、誰もこの人の名前を知らないからこの通称が付いているんだ。

その人は、まだ俺が戦士として駆け出しだったころの戦争の序盤に、どこからともなく現れて、たった1人で一気に劣勢だった戦況を立て直してしまったんだ。俺の命の恩人でもあるよ。でも、戦争が中盤に差し掛かるころにはいなくなってしまったから、今はどこにいるか分からないけどな」

 

「その人、ホントにすごいですね!」

 

「そういや、間隙の戦士と話をしたことがあったけど、なんか妙に俺とメリスに馴れ馴れしかったんだよな。そういえば、ゆうや、どことなくお前はあの人に雰囲気が似ているかもな。あの人も確か左利きだったし」

 

「へえ! だったら、俺も頑張ったらその人みたいになれるのかな?」

 

「ま、今後の努力次第だろうな。間隙の戦士は今の俺よりだいぶ強い気がするからなあ。あの人みたいになりたかったら、ゆうやはいつか俺を超えないといけないぞ」

 

「ええー!? ジルフさんより強いなんて無理だよー」

 

「ははは。まあ頑張れよ。期待してるぞ」

 

「う、うん。がんばりまーす」

 

 こんな他愛のない話をしつつ、ジルフたちは家に帰った。少し休憩を取った後、ジルフは端末をチェックした。すると、早速次の仕事依頼が。

 

「お、また仕事か。次は軍の反乱小隊の鎮圧か。よし、ぐずぐずしてないでさっさと行くぞ!」

 

「ええ!?」「もう次の仕事なの?」

 

 ゆうやとゆかりが同時に声を上げて目を合わせる。

 

「ほら。さっさと支度する!」

 

 メリスがきつい声で言った。

 

 支度をして、休むヒマもなくすぐに出発。4人は、上空へと消えて言った。

 

 

 

 これがバルの日常。これがバルの基本的な生活である。依頼はひっきりなしにやってきた。ゆうやとゆかりは、ジルフとメリスの仕事についていっては修行と戦いの生活。その中で、ゆうやとゆかりは世界に争いがあふれる現状と、バルという仕事の厳しさを知っていった。しかし、仕事の日々はまた充実した日々でもあった。

 

 そして、幼年だったゆうやたちは、いつしか少年少女へと成長を遂げる。この間色々なことがあったが、それはまた後の機会に語るとしよう。

 

 3年が経過。オルキア歴9985年。ここから日常は突如音を立てて崩れ始める。その前兆となる事件が起ころうとしていた。

 

 

(※1 セイントブラスター = saint bluster 言語は英語であり、意味は「聖なる猛風」

セントバレナでは英語に関する知識は乏しいため、名前の意味はよく分かっておらず、謎とされる。ゆうやもゆかりも、4歳当時に英語の知識はないため、その意味は分からない)

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