ジュラミスクは、特定のアジトは持たず、リーダーの集合の合図で集まる少数精鋭の部隊らしかった。そのため、彼らが活動するときを待つしか叩くチャンスはなかった。疑問なのは、その数わずか300弱にしてどうして1万の兵を余裕で相手できたのか、ということだった。
ジルフはそれを考え続けていた。もし俺の仮説が本当だとすれば……
そして、最も恐るべきは、卑怯討ちの形になったとはいえ、ヘイロンを倒してしまうほどのリーダーの実力であった。これは、もしかすると自分と同格の強さを持っていることになる。
そこに、緊急ニュースが流れた。ジュラミスクとヒルメス第4都市常駐隊の衝突開始のようだ。ヒルメスの大都市は首都である第1都市から、第7都市まで存在する。第4都市常駐隊は3000人ほどらしい。これでは負けてしまう。
「行くぞ! 3人とも、ついてこい!」
4人は一斉に空を飛んで行った。ぐいぐいスピードを上げる。第3都市から第4都市まではそれでも2時間くらいかかる。それくらいならなんとかもつだろうか。
しかし、その目論見は甘かったことを知る。ジルフたちがたどり着いたときにはすでに都市は半壊。完全に敗勢となっていた。
だが、まだジュラミスクは残っているようだった。それがバルにははっきり分かった。なぜならば。
ゆうやが驚いたように声を上げる。
「こいつら、みんな気の使い手じゃないか!」
ジュラミスクの兵士は皆すべからく赤気使いだったのだ。それも生半可な鍛え方ではない。各々が今のゆうやとゆかりにひどくは劣らない気の強さを持っていた。2人までならいけそうだが、3人同時には相手にできそうにない。ジルフが納得の声を上げた。
「やはりそうか! こいつら、精鋭というだけのことはある。道理で300弱でも1万を相手にできたわけだ。多勢に無勢とは言っても、市街地戦ならばゲリラ戦法が取れるからな」
「あそこに強い気を感じる。こちらは気を消しながら行くわよ」
メリスの合図とともに進んでいく4人。気配を消しながら、相手に悟られないように都市の中心部へと向かっていく。そこは、銃撃の音と、ただの拳の音が入り乱れる奇妙な世界だった。
一方、都市の中心、第4都市セントラルタワー。ここの屋上付近に、ジュラミスクのリーダーと思われる人物がたたずんでいた。
「ふっはっは。こないだの厄介なやつも倒したし、これでオレの邪魔者はいなくなったわけだ! 今回は実にうまくことが運んだな。おい、そこのぼろくずをさっさと窓の外に捨ててしまえよ。ガナパルト」
ぼろくずと言われた男は、息も絶え絶えになりながらリーダー睨みつける。
「こ、このヒルメスの鬼め! お、お前になど天下を取らせてたまるか!」
そう言った男を凍るような目で見つめ、それから言い放った。
「ヒルメスの鬼だと。ふっ、笑わせるな。このオレはアッセリアの悪魔だよ。ガナパルト、殺れ」
「はっ」
ガナパルトと呼ばれた男は、ぼろくずと言われた男を放り投げた。ガラスの飛び散る音とともに、第4都市市長は真っ逆さまに落ちて言った。
「あーあ、そんなに強く叩き付けちゃあだめだろ。即死してしまったら落ちる恐怖を味わえないじゃないか」
血がべっとりとついた窓がそこにはあった。それを笑いながら見つつ、妖艶な格好をした女性が言った。
「さて、ゼノス様。これで第3都市と第4都市、この地で主要の工場を持つ都市を2つ落としました。あとは……」
「第2都市。これを落とせば国獲りも近い。そして国を乗っ取ったら、いずれはグランゼスタをかき回してくれるわ。ふっはっはっは」
そこに、ジュラミスクの兵士がやってきた。
「ゼノス様。申し上げます! この塔に侵入者が。まもなくやってきます」
「何者だ?」
「それが、バルです!」
「ほう。どうやらあれがニュースになってしまったのがよくなかったらしいな。総員退避準備だ! どれ、少し遊んでやろう。ガナパルト、コレンナ、いつでも来られるように構えておけ」
「はっ」
2人は同時に返事した。
ジルフたちはタワーの床をぶち破って一気に最上階までやってきた。ゼノスはゆったりと構えながら不敵な笑みを浮かべる。流れるような銀髪、そして青い瞳が怒りをむき出しにしたバルたちを捉える。
「最近のバルの登場の仕方はずいぶんと派手になったもんだな。さて、ご立腹のようだが、オレはお前たちになにかしたのかな? これからするのかもなあ。ふっふっふ」
ジルフは怒りを秘めたまま、しかし静かに言った。
「お前か。ジュラミスクのリーダーにして、俺の親友ヘイロンを殺し、さらに都市2つ壊滅させてみせた野郎は」
「いかにも。オレの名はゼノスという。今までやってきたことはオレの野望に必要不可欠なんだよ。このオレがアッセリアを支配する悪魔になるためにな。そうか、親友か。それはさぞかし強いのだろうなあ?」
「ああ。ヘイロンの遺志を継いでお前を倒しにきてやったぞ。覚悟するんだな」
その言葉を聞いたとたん、ゼノスから邪悪な笑みが漏れた。
「あいつの遺志を継いでねえ。では、そのくだらない犠牲心とやらも受け継いでいるのかな?」
ゼノスは急上昇し、タワーの天井を突き破って外へ出た。ゼノスはそれから右腕を構える。ジルフは後を追い、ゼノスを睨みつけた。
「何をするつもりだ!?」
「なあに、この町はどうせ用済みだし、少しくらい掃除してもいいと思ってな」
そう言うと、ゼノスは気を溜め始めた。右腕がスパークするほどの気力が溜まっている。ジルフとメリスはそれを見て危機感を感じ、止めようとゼノスに突撃した。しかし、ガナパルトとコレンナが急に現れて邪魔をしてきた。ジルフとメリスはこの2人に動きを止められてしまった。
「おっと。リーダーの邪魔はさせないぞ」「この私がいるかぎり、ゼノス様の邪魔はさせなくってよ」
「くっ。まて、ゼノス!」
そんなジルフを横眼で蔑みながら、ゼノスは冷酷な声で言った。
「砕け散るがいい。“邪龍”セイントブラスター」
右手から龍のような形の黄気のかたまりが飛び出した。それは邪龍という名とは似つかわしくない神々しい黄色の輝きを持っていた。都市にとっては残酷な威力を保ちながら、うねりつつ地上に迫る。
これがあの家族が言っていた龍のような技か。なんて狂ったやつだ。このままでは、都市のみんなが無事じゃ済まないぞ!
ジルフはとっさにガナパルトを振り切ると、まっすぐ気の龍に向かっていった。もはや技を撃って迎撃するには間に合わない。ならば。
「うおおおおおおお!」
ジルフは自らを盾にして龍の都市への直撃を避けた。そのままジルフは焼け焦げるようにして市街へと落下していく。その光景に、ゆうやとゆかりは思わず目を覆ってしまった。
「やはりな。すばらしい自己犠牲だ。それでこそバルだよ。だが、それが弱点なのだ! ふっはっはっは。もう撤退の時間稼ぎは済んだ。行くぞ」
そう言って帰ろうとするゼノスたちにメリスが呼びかけた。
「待ちなさい!」
体は後ろを向いたままゼノスが少しだけ振り返って言った。
「お前は向こうの心配でもしていた方がいいんじゃないのか? 今までこのオレの邪龍を受けて生き残ったやつはいない」
「あんたとは違って卑怯な手を使わないと勝てないほど弱くはできてないのよ」
「ふっ、言ってくれるじゃないか。今度の邪龍の餌食はお前に決めたよ。また会うかもしれないな。ふっはっはっはっは」
ゼノスたちはざあっと空を飛んで行った。メリスはそれでも追いかけようとしたが、コレンナが目くらましの気弾を放っていった。
「くっ、この!」
光が止んだ後3人がようやく目を開けると、そこにはもう誰も残っていなかった。
ゆうや、ゆかり、メリスはジルフが落ちたと思われるところへすぐに飛んで行った。
「ジ、ジルフさん!」
ゆうやは遠目で建物の残骸にうち捨てられているようになっているジルフを発見した。近づくと、どうやら動けないほどのダメージを受けてしまっているようだった。
「お、おう、ゆうや。情けない姿を見せちまったな」
ジルフはどうにか無事だった。しかし、焼けただれた背中が見ていてとても痛々しかった。
「野郎、え、えげつない攻撃してくれるじゃねえか……」
「ひどい状態よ! 回復には時間がかかるわね。ジルフ、しばらく安静にしててよ」
メリスの回復術で、10分後にはなんとか歩けるレベルにまでジルフは回復した。
「あとはまた別の場所でやってあげる」
「ああ、助かった。ありがとう、メリス」
ジルフはこの都市を後にしながら思う。それにしても恐ろしい野郎だ。平気でこの都市をぶっ壊そうとしやがった。それも、この俺かメリスのどちらかが身を呈して助けるということを計算した上で。ゼノス、野望のためなら手段を選ばぬ男か。やつに国を渡せば大変なことになる。本当のアッセリアの悪魔になってしまう前に止めなければ。