セバル   作:レストB

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第1部 3章 第4話「国際バル機関本部へ ヘイロンの残したもの」

 ヒルメス第5都市。ジルフはここのホテルでメリスに完全回復させてもらった。ジルフたちは休息を取りながら次に取るべき行動を考えていた。どうにかして奴らの行動を察知できなければ、また第4都市の二の舞になってしまう。しかし、どうしたらよいかわからぬまま時間が過ぎてゆく。結局やつらの襲撃を待って後手に回らなければならないのか。

 

 ゆかりが、思いついたように言ってみた。

 

「そうだ! もしかしたら、ヘイロンさんなら。ヘイロンさんが情報を残していれば、そこから何かわかるかもしれません!」

 

 メリスははっとした。

 

「それよ! ヘイロンのことだから、きっとどこかにデータを残してあるはず。おそらくは――」

 

 ジルフがメリスの言葉から続けた。

 

「たぶん、バルの個人用端末中に保管してあるはずだ。緊急を要するから、国際バル機関本部に行ってきて情報を開示してもらおう。俺ならそれはできるが」

 

「ここからグランゼスタにある本部まで行って戻ってくるとなると、急いでも丸1日かかるわね。その間に次の攻撃が始まらなければいいけど」

 

 次の攻撃を心配するメリスにゆうやが答えた。

 

「先生、たぶんそれは大丈夫だと思います。リーダーたちはともかく、あの赤気使いたちの移動と準備にはもう少し時間がかかるはずです」

 

「そうね。確証は持てないけど、第3都市から第4都市の攻撃まで1週間以上空いたことを考えてもたぶん大丈夫なはず。万が一明日までに襲撃が起こったらなんとか私たち3人で持ちこたえてみせるわ。行ってきて、ジルフ」

 

「わかった。なるべく急いで戻ってくる」

 

 ジルフは1人南へ向けて飛び立っていった。本部へ行くのは5年ぶりか。それもこんな用事で行くことになるなんてな。

 

 ジルフは全速力で体を前へ前へと飛ばし、夜闇を切り裂くように突き進んでいく。木々が次々と後ろに流れ、山々は過ぎ去ってゆく。そして、夜明けを迎え、朝日が山から顔をのぞくころ、見えてきたのは巨大都市群を中心に広がる美しい街並みである。グランゼスタ王国。アッセリア大陸一の大国であり、名君グランゼスタ8世が実に300年以上に渡りこの国を治めている。レイバス戦争では連合国側の中心となり、バルを積極的に投入して勝利へと導いた。現在でも、世界の調和と平和を担う大国としての威信は全く衰えを見せない。

 

 国際バル機関は、国家とは独立の権限を持っているが、その本部はこのグランゼスタの外れにある。本部の建物は巨大な要塞のようであり、世界の平和を担う力の象徴としてそびえたつ。建物ばかりではなく、中にはSSランクが3名、Aランク以上で30名の本部専属バルが有事に備えて常駐しているのだった。

 

 ジルフは本部に到着すると、門番に顔パスで通してもらった。そして、受付に取り次ぐとすぐに直接最上階の会長室へと向かった。

 

 会長室は、割合質素ではあったが、すみずみまで整った部屋であり、壁には国際バル機関の紋章が入った旗がかかっていた。黒服を着た会長が豪華な椅子に座っている。そこに、ノックの音が聞こえ、ジルフが入ってきた。会長は立ち上がってジルフを迎えた。

 

「急にこちらへ来るとは思いませんでしたよ、ジルフ殿。5年ぶりでしょうか。して、今日はどのような用件で参られたのでしょうか」

 

「シャルディート会長、あなたに頼みがある。先日のヘイロンの凶報は聞いているか?」

 

「ヘイロン殿のこと、ええ、存じていますよ。確かジルフ殿は彼の戦友であったと思いますが、本当に気の毒な話です」

 

「それに関連するのだが、緊急でヘイロンの個人端末用のデータが必要になってしまったんだ。手続きを通しているヒマはないから直接言いに来た。ヘイロンのデータにアクセスできるようにしてくれないか?」

 

「わかりました。早速係りの者に指示しましょう」

 

「ありがたい」

 

「ところで、最近不穏な空気が漂っているような気がします。ジルフ殿の周りでは何か異変はありませんでしたか」

 

「俺もそんな気がしている。今回の俺が関わっている事件もそうだが、バクテスファルド(絶望教)なんかは終末思想に基づいて活動が活発化しているな」

 

「人間と魔族の問題もそうですね。近年の緊張関係から、直近で最も警戒すべきはこちらかもしれません。有事に備え、我々はより一致団結していかねばなりませんな」

 

「そうだな。では、失礼する」

 

「ご武運を」

 

 ジルフは会長室を後にした。バクテスファルドといい、魔族といい、ここ数年、何か世界が落ち着かなくなってきている。何かが動き始めている。ちょうどゆうやたちがこの世界にやってきたあたりからか。

 

 30分後、ヘイロンのデータにアクセスできるようになったので、ようやくチェックする。最近の記録を読んでいくと次のようなことが書いてあった。

 

 

 

 

 

 ジュラミスク

 

 ゼノス(リーダー)、ガナパルト、コレンナの3人が黄気使い、あとは赤気使いのようだ。

3人とも、グランゼスタの貧民街の出身であるらしいことがわかった。

 

 奴らの目的は国獲りである。おそらくだが、今回第3都市を襲撃しているのは、そこにはヒルメス主要の兵器工場や化学工場があるからだろう。そして、それらがある都市はあと2つ、第2都市と第4都市。この2つを攻める可能性が高い。しかる後に、第1都市を占領するという計画なのだろう。

 

 調べを進めるうちに、恐ろしい事実が判明した。バルの命が狙われている。おそらくは間違いない。ここ最近のバルの死亡率が異常に高い。各国の小規模な事件、一見すると何も変わらないように見えるが、Aランク以上のバルがほぼ必ず1人以上死亡している。バルを殺した組織に資金提供が行われていた、ということも調べがついている。

 

 今回の事件でも、この私を優先的に消そうと動いている。何者かが裏で手を引いている可能性がある。今は水面下での行動であるが、後に大規模な動きに発展しないかと恐れる。

 

 

 

 

 

 ここまで読んで、ジルフに衝撃が走った。俺たちの命が狙われている!? しかし、字面を見てもそれ以上のことは何もわからなかった。ともかく、次の襲撃は第2都市の可能性が高い。さすがヘイロン。ここまで調べがついていたとはな。

 

 最新の文章があった。今までまめにタイトルをつけていたのに、1つだけ無題なのが不自然だった。ジルフはそれを開いてみた。そこに書いてあった文章は――

 

 

 

 ジルフかメリス、お前たちがこれを読むということを予期して、最後の便りとしよう。おそらく、私はゼノスの手にかかり、今はもうこの世にはいまい。

お前たちに忠告しておく。間違いなく、バルの命が狙われている。ゼノスが私の命に異様に固執したのは、この私が目に付いたということもあるが、やはりバルを殺した際に多大な資金を提供する者がいたからでもあることが分かった。そいつのしっぽまではつかみかけたが、残念ながら正体は分からなかった。

 近い将来、バルが表だって狙われるような気がしてならない。気をつけてくれ。

 そして、最後に頼みがある。私にはもう時間がない。情勢が不安定になってきている中、これからゆかりを守ってやれるのはお前たちだけだ。ゆかりを、娘を、よろしく頼む。私は結局あの娘のそばにはいてやれなかった。成長を見届けられないのが残念で、無念でならない。

ゆかりに伝えてほしい。本当の娘のように愛していると。そして、これからもずっとそばにいると。

 

 親愛なる友よ、今まで楽しかった。いい人生をありがとう。と、ここまで書いておいて、案外まだピンピンしていたりするかもしれないな、はは。じゃあな。

 

 

 

 

 バカ野郎。最後にこんなもん残しやがって。娘の責任くらい最後まで自分で取れってんだよ。ジルフは不意に目頭が熱くなるのを感じてしまった。わかったよ。お前の頼みだ。聞いてやるさ。

 

 

 

 少し余韻に浸った後、ジルフは決意を新たにして立ち上がった。端末を後にして去ろうとするジルフ。そこに、3人の人物が挨拶にやってきた。本部専属SSランクバルたちだ。

 

「ジルフ先輩! 先輩がここにいるって聞いて、あたし飛んできたんですよ! お久しぶりです。5年前は会えなかったから、15年ぶりですか?」

 

 そう息を荒立てながらやってきたのは、ジルフに遅れること数年でバルになった、同郷キルデガラン出身の女性銃士、ベレッサである。

 

「お前が失踪したエスケールの後任になったって聞いた時は驚いたが、この20年立派にやっているようだな」

 

 ジルフはベレッサの肩に軽く手を乗せながら言った。

 

「はい! あたし、この仕事が誇りです。で、メリス先輩とはよろしくやってるんですか?」

 

 ベレッサはにんまりしながらジルフに聞いてきた。

 

「そういう人の身上をつっつくのが好きなところは変わってないな」

 

 ベレッサの後ろには、レイバス戦争の英雄の活躍に憧れてバルになったという男性剣士のランシードと、ジルフのレイバス戦争時代の仲間、男性剣士のレオンがいた。

 

「よう、ランシード。お前も、グレイバルドがいなくなってから今までよく頑張ってるよ」

 

「そうですか。まだまだあの人には及ばないなあって感じているんですけどね」

 

 ランシードの言葉を聞いて、レオンが深くうなずきながら言った。

 

「まったくだ。この2人とあの2人を比べるのは悪いかもしれんが、まだまだ遠く及ばない。俺も含め、より修練が必要だろう。おっと、ジルフ、久しぶりだな」

 

「おう、レオン」

 

 ジルフとレオンは握手した。それからレオンが言った。

 

「それにしても、エスケールとグレイバルドがほぼ同時期に失踪してからもう20年か。今頃、あの人たちはどうしているのだろうな……」

 

 ランシードが言った。

 

「まったくどこにいるか手がかりがつかめてないですもんね。最近は何かと世間が不安定になってきているし、あの人たちの力が欲しいなあと思ってしまいます」

 

 ジルフは、この3人なら何か知っていないかと、ヘイロンが言ったということは伏せて聞いてみた。

 

「なあ。ところで最近、バルたちがよく亡くなっているという話は聞かないか? そして、バルの殺したやつに金を出しているやつがいると聞いたのだが、何か知らないか?」

 

 ベレッサが首を横にふった。

 

「確かに最近バルがよく亡くなっていると聞きますね。でも、金を出している者がいるなんて初耳ですね」

 

 ランシードとレオンもわからないと答えたが、レオンは協力を申し出た。

 

「バルが最近死にすぎているとは感じていたのだ。そうか、金が絡んでいるのか。今度調査してみよう。情報感謝する」

 

「レオン、よろしく頼む。それじゃ、もう行くよ」

 

「え、先輩、もう行っちゃうんですか?」

 

 ベレッサが少し驚いたような顔をした。

 

「これから大きな仕事があるからな」

 

「その仕事、手伝いたいですが、あたしたちはここから離れられません。お元気で」

 

「ああ。また会おう」

 

 ジルフは本部を出て、ヒルメスへと戻っていく。そう、大きな仕事が待っている。とりあえずは目の前の事件から。ジュラミスクは止めてみせる。

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