ジルフは一旦途中の町で降り、メリスに電話をかけた。
「もしもし。ジルフだ。今から帰る。あと数時間ってとこだ。異常はないか?」
「ええ、今のところないわよ。それで、何かわかったの?」
「ヘイロンはちゃんと調べ上げていた。すごいやつだよ。次の襲撃地点はおそらく第2都市だ。ゆうやとゆかりを連れて先に向かっていてくれ」
「わかった」
「それとなんだが、ヘイロンのやつ、最後の文章で俺たちに頼みごとしてきていたんだ。ゆかりをよろしくって。それくらい言われなくたってそうするのに。律儀な奴だよ、ホントにな……」
「……そうね。あいつが死んだなんて、今でも嘘みたいだね」
「ああ。そのうちまたひょっこり現れるんじゃないかって思えて仕方がないよ。人間、最後は案外あっけないのかもしれないな」
「うん。――私たちも、いつかそんなときが来るのかな?」
「おいおい、お前らしくないぞ。そんなさみしいこと言うなよ。ゆうやとゆかりのことだってあるだろ」
「私だって時々感傷的になることはあるわよ。でも、まだまだこの命はやれないわね!」
「そうだよな。あと、ゆかりにあいつの言葉を伝えてやってくれないか。本当の娘のように愛している。これからもずっとそばにいるって」
「娘だなんて、一匹狼のあいつがよく言ったもんね――よし、ちゃんと伝えておくわ!」
「よろしく頼む。またな」
「じゃあね」
ジルフは電話を切った。再び空を飛び、ヒルメス第2都市へと急いだ。
電話を切ったメリスは、修行をしていたゆうやとゆかりに言った。
「2人とも、これから第2都市に向かうよ」
「はい」「わかりました」
そして第2都市へ着いて落ち着いたころ、メリスはゆかりにヘイロンの言葉を伝えた。
「あのね、ゆかり。ヘイロンだけど、あなたに最後にこう言ってたの。本当の娘のように愛しているって。そして、これからもずっとあなたのそばで見守っているって」
それを聞いたゆかりは、当惑の表情を浮かべた。
「わたし、ヘイロンさんの娘でもなんでもないのに。両親にもう会えなくて、さびしくって、どうしようもなくて、そんなとき、いつだって優しくしてくれた。わたし、赤の他人だったのに! 娘なんかじゃなかったのに!」
そんなゆかりを見て、ゆうやは声をかけたくなるが、しかし何を言えばよいのか分からない。メリスがゆかりの肩をそっと寄せ、顔を近づけた。
「娘のように思える。それだけあなたと出会えたこと、過ごせたことがうれしかったのよ。私だってその気持ち分かるもの。あなたとゆうや、私たちにとっては2人とももう家族みたいなものよ。ヘイロンだって、ただ単に同じ気持ちだったのよ。あなたのことが大切で仕方がなかった」
「でも、そこまでわたしのことを想ってくれていたなんて――」
知らなかった。今まで、ヘイロンさんは自分のことを拾ってくれただけだと思っていた。優しかったけど、愛されていたけど、だってあの優しさと愛は、誰にでも向けられていたから。一緒に過ごせただけでも十分うれしかった。ありがたかった。わたしが特別に考えられていたなんて、思いもしなかった。そこまで大切に想われていたなんて。
「あれ、おかしいね――涙、置いてきたはずなのに」
ゆかりの目からはぽろぽろと涙がこぼれおちていた。ゆうやは、間近でゆかりが泣くのを初めて見た。いつもはあんなにしっかりしているゆかりが、どうしてこんなにも弱々しく、可憐で儚く見えてしまうのだろう。彼は、胸が締め付けられるような感じがした。
「我慢しなくていいのよ。泣きたいときは思いっきり泣きなさい」
ゆかりはメリスに抱きついて、顔をうずめて涙を流した。
「ひっく、わたしね、恩返し、したかったのに、そうだって、ひっく、知ったら、もっと、ぐすっ、したかったのに、わたし、何も、まだなにも――」
「ヘイロンは言ってたじゃない。これからもずっとそばで見守っているって。だからきっとその思いは届くわよ。あなたが元気に生きていくこと、それが恩返しなんじゃないかしら」
「う、う、うわあああああん!」
大声で泣き出してしまったゆかりを、よしよしとなでながら、メリスはゆかりが泣きやむまで抱擁を続けた。ゆかりはメリスにしがみつきながら、目いっぱい泣いた。自分を縛り付けていた心の鎖が解けていくような気がした。ありがとう、メリス先生。そして、ありがとう、ヘイロンさん。
ゆかりが泣きやんでしばらくした頃、ジルフが帰ってきた。ジルフはゆかりの真っ赤な目を見て一瞬どうしたのかと思ったが、ゆかりの表情を見て安心した。
ゆかりはいつもの明るい表情に戻っていた。ここ数日の暗い様子が嘘のようにふっきれていた。
「ただいま」
「おかえり、ジルフさん!」
ゆうやとゆかりは笑顔で揃って答えた。