セバル   作:レストB

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第1部 3章 第9話「そして動き出す者たち」(3章最終話)

 ジルフはその後メリスに回復してもらった。しかし、回復する側もそれは辛そうだった。卑怯な手を使われたとはいえ、こんなに苦戦した2人を見るのはゆうやとゆかりには初めてのことだった。

 

 ゆうやには身を呈しても何かをかばうジルフの姿が胸に焼きついていた。いつか俺もそんなことができる人になりたい。

 

 負傷した人々が手当てを受ける中、人々が騒いでいた。

 

「た、大変だー! ゼノスがいなくなったぞ!」

 

 その話を聞いてジルフが驚いていた。

 

「あいつ、まだ逃げる力が残っていたのか!」

 

 メリスが立ち上がろうとするジルフをたしなめた。

 

「組織も壊滅させたし、しばらくは何もできないでしょう。またどこかで邪魔してきたら、今度こそ倒せばいいわよ」

 

 ジルフは一息つくと言った。

 

「それもそうだな。ひとまずの目的は達成できたか」

 

 ヘイロン、終わったぞ――ひとまずはな。

 

 

 

 第2都市地下水道。ゼノスはこの地下を調べつくしていた。よろよろになりながら都市を脱出する。

 

「く、くそう! 今回は邪魔されたが、いつかかならず! 必ずこの国を乗っ取ってやるからなあ! ふっはっはっはっは……ぐうっ」

 

 地下水道を抜けた都市の外れあたりに、1人の男が待っていた。ゼノスはその男に見覚えがあった。たしかヘイロンを殺したときに資金提供をしてくれたやつだったなあ。

 

「なんだ、お前か。敵が待ち受けているのかと思ったぞ。おい、また資金は提供してくれるんだろうなあ?」

 

 男は静かに口を開いた。

 

「ゼノス、あなたはよく働いてくれたよ。だが、少々やりすぎだったようだな。あそこまで汚いやり方をするとは思っていなかった。失望したよ」

 

「なんだ、見ていたのか。このオレに意見を言うんじゃねえよ!」

 

 男は、しかし冷たい目でゼノスを見下すように言った。

 

「チャンスをやろう。我々の下につかないか?」

 

「ふざけるのもいい加減にしろよ。オレが人の下につくとでも思っているのか!」

 

「……そうか、残念だ」

 

 男は剣を抜き、刀身に気を込め始めた。

 

「もうあなたは邪魔なだけだ。死んでもらおう」

 

「なんだと!? なめた真似言いやがって。貴様こそくだばれ! “邪龍”セイントブラスター!」

 

 しかし、気力の尽きたゼノスからは何も出なかった。

 

「うっ……くそ!」

 

「センクレイズ」

 

 男の静かにそう言うと同時に剣は振り下ろされ、ゼノスに巨大な気の刃が差し迫る。

 

「ち、ちくしょおおおお!」

 

 地下水道の外れで斬撃の音と、ゼノスの断末魔が響いた。自らを悪魔と称した男の、あっけない最期だった。

 

 男が何者かに電話をかける。

 

「終わりました。ゼノス抹殺完了です」

 

 電話越しに男の声が聞こえる。

 

「ごくろう。こちらはまた1人強力な賛同者が現れた。今まで陰で動いていたが、ようやく本格的に動き出すときがきたようだ」

 

「では、これからが本当の粛清の始まりですね」

 

「そうだ。さあ、バル狩りの始まりといこうじゃないか。よろしく頼むぞ」

 

「あなたにならどこまでもお供しますよ」

 

 

 

 

 ヒルメスの人々に大いに感謝され、この国を後にしたジルフたち4人。このヒルメスの戦いはニュースで取り上げられ、結果的に英雄ジルフの健在を各国に知らしめる形となった。そして、ゼノスの変死体のニュースも同時に取り上げられる。死因は溺死ということであった。しかし、ジルフたちにはどうにも腑に落ちない。とりあえずこれでもうやつの野望が実現することはなくなったわけで、あまり気分のよい決着ではなかったがよしとした。

 

 この事件が終わってから10日間、ジルフとメリスはさすがに休養を取ることにした。とはいっても、そのとばっちりはゆうやとゆかりに回ってくるわけで、いつもよりも厳しい修行メニューをこなすことになった。

 

 その10日の間に、バルの情報端末をちまちまチェックするジルフをゆうやは見ていた。ここ数日のジルフさんの様子はどこかおかしい。そして、メリス先生とどこかに話に行ってしまう。

 

 そして、そんなゆうやの不安は的中することになる。仕事を再開する日、ジルフが急にこんなことを言い出したのだ。

 

「これからの仕事は危険だ。お前たちはまだついていかせられない」

 

 メリスもこのように言ってきた。

 

「いい子にして待っていなさい。お金は十分にあるし、生活はできる。修行も欠かさないようにね」

 

 ゆうやとゆかりは食い下がった。

 

「そ、そんな! 急になんでそんなことを言うんですか?」

 

「わたしたち、今までだって十分危険な目に遭ってきたじゃないですか!」

 

「だめだ。この間のヒルメスでの一件もそうだが、ここ最近の仕事は特に危険度が上がっているんだ。大人しくしていろ」

 

「俺だってバルですよ! バルが危険を避けていてどうするんだよ!」

 

 ゆうやはジルフにまだ食い下がるが、それでもあしらわれてしまった。

 

「バルって言ってもまだまだひよっこだ。黄気使いにもなれていないお前たちがいっぱしな口を聞くな! 分かったらここに残って修行に励むんだ! いいな!」

 

 ジルフとメリスがどうして急に自分たちを連れて行ってくれなくなったのか、ゆうやとゆかりには分からなかった。

 

 それでももっと強くなればきっとまた連れて行ってもらえる。そう信じて修行はきちんと続けることにした。

 

 ジルフは仕事に向かう途中、移動しながらぼそっと言った。

 

「ちょっときつく言いすぎちまったかな」

 

「仕方ないわよ。ああでも言わないとついてきちゃうでしょ?」

 

「本当は連れて行ってやりたかったが」

 

「……ついに始まったわね。バルが次々に殺され始めている」

 

「ヘイロンが言っていたこと、その通りになったな。一体誰がこんなことを」

 

「わからない。仕事をこなしながら調べていかなきゃならないわね」

 

「そうだな。1日でも早くゆうやとゆかりが仕事に戻れるように――」

 

 

 

 ジルフさんとメリス先生は、それから本当に忙しそうにしていた。家に帰ってくる日が減っていき、1週間、2週間、1カ月、とちっとも帰ってこなくなったんだ。

 

 そしてヒルメスの戦いから半年。ジルフさんとメリス先生は、2カ月経っても帰ってこなかった。

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