ジルフの家は少しがらんとしてしまった。なにせ2カ月も帰ってきていない。ゆうやはいつもの素振りを終えると気の訓練に入った。赤いオーラが全身を覆う。まばゆいばかりの輝きを放っていた。
ゆかりは格闘術と気のコントロールのスピードと正確さを上げる修行をした。同じく赤気は洗練された域にまで達している。
そうやって1日中ひたすら訓練に打ち込むゆうやとゆかり。そこに、玄関のベルが鳴った。
「ゆうや、ちょっと行ってきて」
「うん」
なんだろうと思い、とりあえずドアを開けると、そこに立っていたのは1人の少女であった。髪の色は赤、自分よりは少し年上に見える。これといって気は感じないから一般人らしい。少女が目の前の少年を見て言った。
「こ、こんにちは! えーと、息子さんですか?」
「いや、弟子です。ジルフさんとメリス先生なら今はいませんよ」
「え、そうなんですか? どうしよう……」
その少女が非常に困った顔をしていたのにゆうやは気づいた。
「あの、よかったら上がって話をしていってください! 何かの依頼なんですよね?」
「は、はい。そうなんです! 誰も仕事の依頼を受けてくれなくて――」
「誰も?」
ゆうやは疑問に思った。バルはそれなりの数いるはずなのに。
「どうぞ」
ゆうやは居間へと案内した。ゆかりは赤髪の少女を見てゆうやに言った。
「お客さん?」
「うん。何かの仕事の依頼みたい」
ゆかりは少女に挨拶した。
「はじめまして。わたしはゆかりといいます。ジルフさんとメリス先生の弟子です」
「こんな女の子も弟子なのね」
少女は少し驚いたように行った。
「あ、俺はゆうやっていいます」
「ゆうやくんにゆかりちゃんね。私はヘレンといいます。私たちは今大変な状況で――少し聞いてください」
ゆかりがヘレンにお茶を入れてきた。ヘレンは2人を見つめて話し始める。
「実は、うちの村が、バクテスファルドに属する一団に狙われているんです!」
「ええ!?」
ゆうやとゆかりは目を見開いた。バクテスファルド(絶望教)。最近勢力を増してきているらしい宗教だ。教義は絶望。あちこちで略奪と虐殺を繰り広げる凶悪なやつらである。
「このままでは、村のみんなが。でも、どこのバルに依頼をしてもつながらなかったり、断られたりして――ここなら、前ニュースで見たジルフって人ならどんな仕事でもやってくれるって聞いたから、遠くからはるばる直接やって来たんです! ジルフさんは、いつ帰ってくるんですか?」
ゆうやはうつむきながら言った。
「そ、それが……俺たちにもわからないんです。もう2カ月も帰ってきていなくて」
「そんな! 私、どうすれば――」
ひどく落胆するヘレンという少女に、ゆうやとゆかりはどうにかしてあげたい気持ちでいっぱいになっていた。ゆうやが意を決して言いだした。
「ヘレンさん! あの、俺でよければ手伝わせてください。少しでも力になりたいです!」
「わたしも! こんな話聞いてほっとけないよ!」
ヘレンは目の前の子供たちの急な申し出に驚いていた。
「え、でも、あなたたちの気持ちは嬉しいけど……」
「俺たち、まだ子供ですけど、これでも結構やれるんですよ! 絶対に力になりますから!」
「そ、そうは言っても」
ヘレンは当惑気味だった。自分より小さなこの子供たちに、何ができるのだろう?
ゆかりが強く言った。
「ホントです。これでもバルなんです! 困っている人が目の前にいて、なにもしないなんてできません!」
「わ、わかりました! お願いします」
ヘレンはゆうやとゆかりの熱意に押され、承諾してしまった。英雄の弟子らしいし、もしかしたら本当に力になってくれるかもしれない。それに、もう時間がなかった。とにかくすがるしかなかった。
そこに、またも玄関のベルが鳴る。今度は誰だろう? ゆかりが玄関に向かい、ドアを開けると、そこには懐かしい姿が。
「よ。久しぶり」
跳ねた金髪にそれなりに逞しい体つき。3年半前よりも結構大きくなっていたが、一目でわかった。
「レンクス!」
「え、レンクス!?」
ゆうやはドタドタと玄関まで走っていった。ゆうやの姿を見てレンクスは少し嬉しそうに言った。
「ゆうや! お互い大きくなったな。どうだ、少しは強くなったか?」
「もちろんだよ! で、なんで急にここに?」
「それがさ、ラークスさんが3カ月経っても帰ってこないんだ。本当は修行してろって言われてたけど、ずっと1人だと退屈だし。来ちゃまずかったか?」
「いや、いいときに来てくれたよ! レンクスも協力してほしいんだ」
「な、何にだよ?」
ゆうやとゆかりはレンクスを居間に上げ、一通りの話を聞かせた。レンクスが興味深そうにうなずいて言った。
「なるほどね。要はバクテスファルドの一団をぶっ潰せばいいんだな? わかった。一緒にやってやるよ」
「レンクスがいれば心強いよ!」
ゆうやはそう言った。
「ヘレンさんだったっけ? 俺はレンクス。よろしく」
「レンクスくんね。よろしく」
また1人子供が増えた。大丈夫なの?
ゆうやがヘレンに尋ねた。
「それで、村はどこにあるんですか?」
「……え、は、はい。オクタル大陸の西端にあるセムルという村です。高速船に乗って1週間あれば着きますよ」
「高速船乗り場は、ここから北に数十キロね。支度して早速行こう」
ゆかりがそう言って、ゆうやとゆかりは旅の支度を始めた。ゆうやは、もしジルフとメリスが帰ってきたときのために書き置きを残した。
少しの間ゆかりとレンクスと仕事に行ってきます。オクタル大陸のセムルって村まで。危ないかもしれないけど、きっと無事に帰ってきます。 ゆうや
ゆかりが家のドアの鍵を閉めた。ゆうやがヘレンをおぶった。
「落ちないようにしっかりつかまっていてくださいね」
「え、何のこと?」
3人は猛スピードで走り始めた。建物が矢のように流れ、3人はぐんぐん進んでいく。ヘレンはそのあまりの速さに仰天していた。人間ってこんなに速く走れるもんなの? この子たち、ただものじゃなかった。
「あ、あの、ゆうやくん」
「なに?」
「ちょっとあなたたちのこと疑っていたの、ごめんなさい。こんなにすごいなんて、見かけによらないものね。お願い、村を助けて!」
「はい!」
ゆうやはそう答えるしかなかった。自分たちは実はまだまだだったが、これ以上不安にさせるわけにはいかない。今回の仕事は、いつも支えてくれた人たちがいないのだ。俺たちが助けなければ、支えなければ。ゆうやは奮い立つような気持ちでいっぱいだった。
高速船乗り場でチケットを4枚購入し、船に乗って4人はオクタル大陸へ向かうことになった。ジルフもメリスもいない、子供たちだけの仕事が始まった。
4章「小さな戦士たち」
この4章が終わって5章に入ったところで挫折しました。現存しているのはここまでになります。