セバル   作:レストB

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第1部 序章 第4話「幼子の選択」(序章最終話)

 一方、ジルフとメリスはそろそろ略奪者たちのアジトである砦に到着するころだった。

 

「気を探るぞ。手分けしよう。俺は右半分。おまえは左半分だ」

 

「了解」

 

 精神を集中させ、敵の位置と大体の強さを探る。敵が気を意図的に消したりしていなければ、それで敵の情報はある程度つかめる。

 

「こっちはざっと18人ってところ。色は全部赤だ。そっちは?」

 

「17人ね。こっちも全部赤よ」

 

「それじゃ、今回は楽勝かな」

 

「あまり時間かけたくないし、正面突破で行こうよ」

 

「よし、じゃ、そうするか」

 

 見張り役の2人はこちらにまだ気づいていない。合図とともに、2人は目にもとまらぬ速さでそれぞれの見張りに接近し、みぞおちに一撃を食らわせた。見張りはしゃべることもままならずに意識を失った。

 

 見張りを黄色い気の錠で縛った後、2人は堂々とアジトに乗り込んだ。アジトの中は酒場のようになっていて、33人の男たちが酒をあおったり、暴れたりしていた。そこの入口のドアをバンと開け放ったものだから、男たちは全員が驚いて入口の2人を見つめた。

 

「バルのジルフだ。お前たちを捕まえにきた」

 

「同じくバルのメリスよ」

 

 男の一人が言った。

 

「お、おい。ジルフって言ったらあの……」

 

 別の男が言う。

 

「まずいんじゃねえのか?」

 

 また別の男が言った。

 

「おいおい。何を怖気づいてんだ?こっちは30人以上いるじゃねえか。それに対してあっちは2人だ。もしあのジルフだからって、いったい何ができるって言うんだ?」

 

「それにジルフっていったら裏ではすごい額の首だろ? みんなでかかれば俺達は遊び放題だ!」

 

 そうだそうだと野次が飛び交う。

 

「おい。おめえたち。表の2人はどうした?」

 

「のして縛ってある。」

 

 とジルフが言うと、

 

「そうかい。じゃあたっぷりとお返ししてやらねえとなあ!」

 

 笑いながら男たちがナイフやサーベル、そして銃を構えた。

 

「だってさ」

 

 メリスはあきれている。

 

「戦闘のプロを甘く見ちゃいけないよな」

 

ジルフはそう言い終わるか終らないかのうちに、もう先ほどお返し宣言をした男の目の前に立っていた。

 

「くっ」

 

男がサーベルを振り落とそうとしたその瞬間に、パンチが一閃。男の体は壁まですっ飛んだ。壁に叩きつけられた男は完全にダウンしている。

 

「まだやる気はあるか? やろうとしたやつ、逃げようとしたやつは全員ああなるぞ。」

 

う、あ、あ……男たちはその場を一歩も動けなかった。

 

 しかし、一人だけ、先ほどから電話で誰かに連絡を入れていた男がいた。

 

「おい。何をしている」

 

 ジルフが詰め寄った。すると男は捨て台詞を吐いた。

 

「カーサにいる仲間に連絡を入れたのさ。町長宅を襲って逃げろと。はたして今からでも間に合うかな? はははははははは!」

 

 しまった! カーサの内部に仲間が潜んでいる可能性も考慮すべきだったのだ。だが、ゆうやのことを考えて仕事を急ぐあまり、このことを見落としてしまった。甘く見ていたのは自分のほうだったのかもしれない。

 

「おい、メリス! こいつらをすぐに縛って急いで戻るぞ! ゆうやが心配だ。」

 

「わかった!」

 

 メリスはジルフと手分けして黄色い気の錠ですぐさま男たちを縛った。

 

 メリスは気が気でなかった。ゆうやは無事でいてくれるだろうか。それはジルフもまた同じだ。

 急げ!2人は全速力でカーサに向かって飛び立った。

 

 

 

 

 

 ゆうやはまだ立ち直れないでいた。なにもする気が起きない。ぼーっと天井を見つめる。おかあさんの顔、おとうさんの顔、先生の顔、クラスのみんなの顔が浮かぶ。手を伸ばしてみる。するとみんな遠くへ行ってしまった。もうみんなにあうことはできない。もうおかあさんのハンバーグをたべることはできない。もうおとうさんやおかあさんといっしょにねることはできない。もうせんせいにゆめをはなすことはできない。もうクラスのみんなとしゃべったり、あそんだりすることはできない。もうじぶんをよくしっているひとはちかくにいない。

 

 

 考えを巡らしながら、思う。まるでしんじゃったみたいだなあ、と。こんなことになるなんてちっとも思わなかった。みんなと一緒のいつもの生活がずっと続くものだと、そう信じていた。これだって夢みたいなもので、覚めればまたおかあさんがおはようって言ってくれるって信じていた。だから、今まで怖いこともあったけどなんとかやってこれたんだ。なのに。

 

 

 

 幼き男の子は、ずっとうつむいていた。これが絶望というものなのかもしれない。彼は、4歳にして自分の考えの甘さを思い知らされた。そして、自分という存在の、あまりの小ささと弱さを、いやというほどに感じさせられたのである。

 

 

 そこに、あきひろが血相を変えてやってきた。

 

「なにさ。おれはもういいんだ……」

 

「そんなこと言ってる場合じゃない! 早く逃げるぞ! 敵が襲ってきた!」

 

 言われるがままに手を引っ張られ移動させられる。だが、今のゆうやにはあまり耳に届いていないようだ。

 町長宅は、連絡を受けた略奪者たちの仲間3人ほどによってすでに取り囲まれていた。裏口から逃げようとしたところ、運悪く2人は男に見つけられてしまった。町長はすでに2階で縛られていた。

 

「へっへっへ。ガキが2人でどこへ行こうって言うんだ?」

 

 男は銃を持っていた。ゆうやはようやく事態に気づき、恐怖に身が震えた。あきひろはこっちだと言って走って廊下の奥へ逃げる。

 男はそれを楽しむかのようにゆっくりと2人を追いかける。

 

 しまった! 廊下の先は行き止まりだった。すぐさま横の部屋に隠れようとしたそのとき、

一発の銃声が鳴り響き、あきひろはその場に崩れ落ちた。

 

「おっ、当たったか」

 

 男は満足そうにつぶやいた。そう、この男にとってガキの命などどうでもよかったのだ。残酷にも、ゲーム感覚で遠くから子供を撃ち抜いたのである。

 

 ゆうやはあきひろを必死に引きずって横の部屋の奥に隠れた。あきひろは今にも力尽きそうだった。銃弾が急所をとらえていたのだ。

 

「な……なあ。ゆうや。聞いてくれ。さ……さっきは……ごめん……な」

 

「い、いいよ。そんなことよりげんきだしてよ」

 

「たしかに、もう……みんなには……あえないかも……しれない……」

 

 あきひろの口から血が噴き出た。

 

「でも、ここにも……あたら……しい……出会いが……ある。だから……前を向いて……生きて……ほし……い……んだ……ぼくも……そう……だった……から――」

 

「わかったよ。だから、ねえ、げんきだしてよ。そんなかお、しないでよ……」

 

「さい……ごに……おねがい……ちょう……ちょ……うさんに……あり……が……とう……って…………」

 

 ――ああ、これで父さんと母さんのところに行けるんだなあ。

 

 あきひろは動かなくなった。ゆうやは揺さぶってみる。返事がない。

 

「あきひろにいちゃん。ねえ、にいちゃん。うごいてよ。へんじしてよ。ねえ」

 

 しかし、もうあきひろが応えることはなかった。

 

 そこに、男がやってくる。

 

「へっへっへ。2人目発見。これでゲームセットだ」

 

 銃口をこちらに向ける。もうだめだ! そう思ってゆうやは目を閉じた。一発の銃声が鳴り響く。

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 恐る恐る目を開けてみた。するとそこには銃弾を受け流し、男を打ちのめすジルフの姿が。

 

「この、くそ野郎が!」

 

 ジルフの怒りは収まらなかった。

 

 

 メリスはそのころ町長を救い出していた。それから急いでゆうやの元へ向かう。

 男を縛った後、間に合ってよかったと言いかけて、ジルフは凍りついた。

 

 さっきは夢中で気がつかなかったが、ゆうやの手には冷たくなったあきひろが抱えられていた。

 

「…………あきひろにいちゃん……しんじゃった…………」

 

 ゆうやは死んだような虚ろな表情でジルフの方を見つめている。

 

「あきひろっていうのか――俺がしっかりしなかったばっかりに……」

 

 ジルフは言葉が出てこなかった。

 

 するとゆうやは、そっとあきひろを降ろした。それから、ジルフを見つめる。虚ろな表情をしていた彼の中には、あきひろを失ったことに対する、どうにもしがたい感情が巻き起こっていた。それが、ジルフに助けられた今になって、爆発した。彼はジルフに向かって走り、足元に飛びつきながら言った。

 

「どうして? どうしてもっとはやくきてくれなかったのさ!」

 

 ジルフの足をポカポカと叩きつける。涙を流しながら。ゆうやは、やり場のない気持ち、怒りとも悲しみともとれぬその気持ちを、ありったけジルフにぶつけていた。

 

「ヒーローなんでしょ? だったら――どうして? どうしてたすけられないんだよ!」

 

 ジルフは、その問いに適切な答えを与えられなかった。黙ってゆうやの言葉を受け止めていた。。

 

「ねえ、どうして? あきひろにいちゃんは、にいちゃんは……」

 

 それ以上はもう言葉が続かない。ただただ、力任せにジルフに拳を叩きつけながら、ゆうやは泣きじゃくっていた。  

 

「……ごめん…………ごめんな…………」

 

 ジルフには、結局それしか言うことができなかった。

 かけつけたメリスもまた、その様子を見て、心の中で謝ることしかできなかった。

 

 

 

 

 翌日。仕事の報酬をと町長は言ってきたが、2人は、とてもじゃないが受け取れない、あきひろ君の供養にでも使ってくださいと言って断った。町長は丁寧にお礼を述べた後、別れを告げようとした。

 

 するとゆうやが、町長にこう言った。

 

「ちょうちょうさん、あきひろにいちゃんがね、ありがとうって」

 

 町長にはかろうじてその日本語の意味が分かった。すると町長の目にはいつの間にか涙があふれてきた。

 お礼をいうのはこっちのほうさ。あきひろ、子供のいなかった私には、きみがきてくれたおかげで、きみが日本人だってのは関係ない、きみがきてくれた、それだけで幸せだったんだ。きみとはもっと一緒に暮らして、恩返しをしたかった。なのに、きみはもうそんなに急いで遠くへ行ってしまったんだね。無力な私は、きみを助けられなかった。すまない。でも、きみはそんな私を最後まで親のように慕ってくれた。本当にお礼をいうのは私のほうなんだよ。ありがとう。そして、どうか安らかに――

 

 

 

 

 帰り道、なんとも後味の悪い仕事だった、と2人は思う。バルを続けていく上ではこういうこともよくある。それは分かっていたが、もう少し注意が行っていたら、あきひろを死なせずに済んだかもしれない。そう思うと、後悔の念がこみ上げてくる。結局はゆうやの命も危機にさらしてしまった。ゆうやだけでも助けられたことに、少しだけでもほっとしてしまう自分たちがいる。ゆうやをいつの間にか自分の子供のように思ってしまっているのかもしれない。

 

「ちょっと休憩しましょう」

 

「そうだな」

 

 そう言って、3人は小高い丘の上に降り立った。ネクトを食べ、しばしくつろぐ。

 

 

 すると、意を決したようにゆうやが言った。

 

「ジルフさん。こないだはごめんなさい。いっしょうけんめいやってくれたんだよね。せめたりしてごめんなさい」

 

「いいんだよ。こっちこそごめんな」

 

 ゆうやはそのあと少しだけもじもじしていたが、意を決したように口を開いた。

 

「あのさ!」

 

「なに?」

 

 2人はそろって聞いた。

 

「おれ、あきひろにいちゃんにきいちゃったんだ。もうちきゅうにはかえれないって」

 

 それを聞いて、2人には動揺が隠せなかった。いずれ言おうとしていたことだったが、ゆっくり話すつもりだった。今どんな気持ちでいるのだろうかと心配になってくる。

 

 

「どうすればいいかわかんなかった」

 

 ゆうやは正直な気持ちを精一杯の言葉で述べていく。

 

「でもね、きめたんだ。ここでせいいっぱいいきてみようって。たのしいこと、つらいこと、いっぱいあるかもしれないけどさ」

 

「あと、つよくなりたい。あんなかなしいこと、もうぜったいにおこしたくない」

 

「いつか、バルになりたい。バルになって、わるいやつらからみんなをたすけてやるんだ」

 

「だから、つよくしてください。ここにおいてください。おねがいします」

 

 

 小さな体に似合わぬ強い決意を秘めた瞳。

 2人は驚きをもって彼の言葉を聞いていたが、聞き終わると、とても温かい感情が起こっていた。

 

「こいつは大物になるぞ。なにせ小さいときの俺の目にそっくりだ」

 

 ジルフが笑う。

 

「メリス、これはお前が世話してやるべきなんじゃないか?」

 

「そうね。ねえ、ゆうや。ここにおいてほしいんでしょ。だったら私と一緒に暮らさない? もちろん修行もかねてよ」

 

「うん」

 

「ジルフ。そういうことで、しばらくバルの仕事はあんたにまかすわ。悪いけどね」

 

「問題ないぞ。最初からそのつもりだったしな。だがなあ」

 

「これでメリスも子持ちか!」

 

 ジルフがからかった。

 

「別にそういうわけじゃないわよ! ただ身寄りがいないから世話もしてあげるだけ」

 

 といいつつ内心まんざらではないメリスがいた。そう、自分はこれからゆうやの育て親のような存在となるのだ。確かに本当の子持ちみたい。

 

「メリスさん、ジルフさん」

 

「よろしく!」

 

 そう言って2人に飛びつくゆうや。

 

 穏やかな日差しの下、ゆるやかな丘の上で流れるやさしい時間。

 

 

 

 

 

 

 

 物語は、ここよりはじまる――

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