セバル   作:レストB

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第1部 1章 第3話「気を引き出せ」

 翌日。メリスは本当に朝の5時半にゆうやを叩き起こした。

 

「ほらほら。顔を洗ってさっさと支度しなさい」

 

「はーい……」

 

 ゆうやはまだ相当眠そうだ。目をこすっている。立とうとしたところ、つっ、ゆうやは体の節々が筋肉痛になっているのを理解した。

 

「それじゃあ、柔軟体操をしたら走るところから行くわよ」

 

 そう言って、とっとと柔軟体操を終えると、メリスはゆうやと一緒に走りだした。山道のコース、約5キロをゆっくりとしたペースで走ってゆく。しかし、傾斜はあるし段差はあるしで、ゆうやにとってはかなりきつい運動だった。なにしろ5キロという長距離は、4歳の子供にとっては未知の距離である。さらには山ということもあって少々空気がうすい。ついに途中でへばってしまった。

 

「はあっ……はあっ……も、もうはしれないよ……はあ……」

 

「これくらいでへこたれてどうするの。そんなんじゃ強くはなれないわよ」

 

「からだがいたくてしょうがないし、ちからがはいらないよ……」

 

「じゃあそこで休んでいてもいいわよ。でも、私は知らないよ。先に行っちゃうからそこにずっといれば?」

 

 そう言って、メリスはゆうやをおいて走り出してしまった。

 

「あっ、まってよ! おいてかないでよー!!」

 

 必死だったゆうやは、いつの間にか自分がまた走り出せていたことに気づく。

 

 

「ほら。まだ走れるじゃない。限界ってのはね、自分がそうだと言っているその先にあるものなのよ。言葉でもうだめだ、と言っているうちは案外まだやれるものよ。こっちだってあんたの体のことはちゃんと分かってるんだから。すぐに弱音を吐かない。このことを肝に銘じておきなさい」

 

「はい。ごめんなさい……」

 

「分かったらいいのよ。あとは、折り返して戻るだけだから頑張ろう!」

 

 

 そして何とか走り終えることができた。ゆうやの顔は真っ青である。息を切らして倒れ込んだ。

 

「おつかれさま。これも少しずつ距離を長くしていくから、そのつもりで」

 

 メリスの言葉がグサッと突き刺さる。このひと、おにだ。

 

 

 朝食をとったあとは、また勉強の時間。セント語、算数、社会を習う。そして昼食後は座禅の修行と筋トレ、そして水泳。ときには木登りを教えられたり、裏庭の畑を手で耕すなんてどっかで聞いたような修行もやらされた。夕食後は風呂に入って歯を磨いたらすぐ寝る。そして朝は5時半に起きてまたランニング。

 

 

 こんな調子で毎日が過ぎて行った。そして話は現在に戻る。

 

 

 修行を始めてから約1か月。ゆうやはメニューにも慣れてきており、少しずつではあるが余裕も見せるようになってきた。

 

 セント語も基本的な言葉は覚え、片言ではあるがしゃべられるようになってきた。ついでに、日本語の語彙力も少しついたようだ。算数は、3桁や4桁の加減ができるくらいにはなった。そしてこの世界の社会知識についても、少しずつではあるが身についてきているようだ。

 ここ1か月の努力によって、彼の身体能力はセントバレナの同年代の子供と比較しても相当上の方になるほどまで改善された。

 

 いまだに、気のコントロールは全くできてはいなかったけれど。

 

 5大陸に関する知識を教わったあと、昼食を取り、ゆうやはいつものように座禅を組んだ。

 

 最近は自分の中からあふれる何かを感じられるようにはなってきた。しかし、それでもまだ、何かがつかめない。これを引き出すにはいったいどうすればよいのだろうか。あれこれと考えてみたが、うまくいかない。

 

 その様子を見ていたメリスが言った。

 

「どうやらあと一歩のところで詰まっているようね。じゃあ、一度私がゆっくり手本を見せてあげるから、そこから何かをつかんでみなさい」

 

 そう言うと、メリスは座禅を組んで、精神を集中させ始めた。次第に黄色いオーラがメリスの体からあふれ出る。それをメリスは、ゆっくりととどめ、身にまとわせた。

 

「こんなふうにやるのよ。さあ、何かつかめたかしら?」

 

 ゆうやはメリスを見て考えた。今まで、自分はあふれるということばかりを意識してきた。外に出そうというイメージ。しかし、メリスのオーラはまとまっていた。もしかして!

 

 ゆうやは再び座禅を組んだ。ゆっくりと気を静める。自分からあふれ出るものを感じる。それを外に出そうとするのではなく、思い切り留める! このイメージを持ってやってみた。すると……あれ? 何かがひっこんじゃった。

 

「おしいおしい。それは、気を消すという技よ。……まだ教えてないのによくできたわね。それは気を体の内側だけにとどめて、相手から自分を悟られないようにしたり、自分の体力の回復に努めたりするときに使うものなの」

 

「そうなんだ」

 

 でも、失敗には変わりない。ゆうやは少し悔しかった。

 

「失敗も成功のもとって言うじゃない。今のは収穫だったわよ。その技、そのうち使うことになるから、よく覚えておきなさい」

 

「はーい」

 

 思い切り留めるイメージか。よし。もう一度やってみよう。

 

 こうして、気の修行を始めてから1か月、ゆうやは気の引出し方よりも先に気の消し方を覚えてしまったのである。

 

 ほんとは順序が逆なのに、よくわからないものね。メリスは変に感心していた。

 

 

 この日の夜、ゆうやはなかなか寝付けなかった。そこで、メリスはふとんの中でこんな話をしてくれた。

 

「今日の話で、この世界ではオルキア歴というのを使っているというのを覚えてる?」

 

「はい」

 

「オルキアっていう人はね、セントバレナの歴史上最大の勇者にして、最初のバルと呼ばれているの。そのときにはバルって職業はなかったから、今で言うところの、だけどね」

 

 

 そこから、彼女はゆうやに勇者オルキアの伝説を話し始めた。

 

 

 

 かつて、約1万年前、このセントバレナを絶望の淵に追いやった怪物がいたという。その名を、魔人バクテスと言った。バクテスは今でも絶望を意味するセント語として残っている。その魔人に、天から授かったといわれる伝説の聖剣をかかげた勇者オルキアと、その仲間たちが、それは壮絶な戦いを挑んだと言われている。結局、今この世界があるように、オルキアたちによって世界は救われたらしいのだが、その真相ははっきりとはしていない。しかし、こんな伝承が残っている。

 

 

 

 

 緑の気を纏いし者、その名を魔人バクテス。この地に滅亡をもたらせし者なり。勇者オルキア、友と戦いに応ぜど、緑の力の前にして全くの無力なり。勇者、聖剣をかざし、その命と引き換え、魔人をかの赤き月に封印す。かくしてこの地に平安はきたる。

 

 

 

 

 緑の気とか(気は赤と黄の2種類しかないのは常識)、赤い月とか(そんなものは見当たらない)、色々とあやしい部分はあるが、この伝承は口伝えで、約1万年経った今も残っている。そして、勇者オルキアの話は、どこの子供もうんざりするほど聞かされて育つから、知らない者はいないのだ。オルキア歴というのは、その勇者オルキアが、魔人を封印したといわれる年を元年としたものだ。世界共通の暦の基準として使われている。この世界の誰もが、オルキアを英雄として認めている。

 

 

 近年、魔人は1万年経つと復活するという噂がまことしやかに流れているが、真相は分からないし、今のところ根拠はない。なんにしても、オルキア歴が本当に正しいなら、あと20年ちょっともすればわかるはずだ。その日を怯える者、鼻で笑う者、様々な人がいた。

 

 

 

 

「……ということで、オルキアは見事に魔人を封印したのでした。めでたしめでたし」

 

「すごい。オルキアって人、かっこいいね」

 

「中にはオルキアに憧れてバルになっちゃうやつもいるのよね。どっかのジルフさんみたいに」

 

「えー、ジルフさんが!?」

 

「そういうかわいいとこもあったのよ」

 

 2人はおかしくて笑い合う。

 

「もう落ち着いたでしょう。明日も早いからそろそろ寝なさい」

 

 ゆうやが寝付けない原因は察しがついた。やはり時々地球のことを思い出しては辛い気持ちになっているのだ。最近はそういうことが少しずつ減ってきたとはいえ、まだまだこの子を支えてあげないといけないな、とメリスは感じていた。

 

 

 

5日後

 

 気の修行。ゆうやはついにその何かをつかんだ。広げるのでもなく、留めるのでもなく、包み込むようなイメージ。それが気の引き出し方のカギだったのだ。ついにゆうやにもその身をおおう気が、淡いながらもはっきりとうつった。

 

「これが、気!?」

 

 力を抜くと、一瞬で解けてしまった。

 

「おめでとう。そう、それが気の引き出し方よ。今のイメージを忘れなければ、訓練次第で、好きな時にいつでも気を引き出すことができるようになるわ」

 

「これは言葉で言ってもなかなか伝わらないから、自分でコツに気づくしかない。そこが難しいところだったんだけど、よくできたわね」

 

「やった! ついにできたんだ!」

 

「ねえ、これですぐ岩を壊したり空を飛べるようになるの?」

 

「うーん。残念ながらそれはまだ先ね。あなたの気の色、赤だったでしょ?」

 

「そうかな」

 

 確かに淡いけど赤色だったような気がした。

 

「赤色じゃ空は飛べないのよ。黄色にならないとね。でも、岩を壊す方は小さいのならそのうちできるようになるわ。あとはコントロールさえ出来ればね」

 

「どうして俺の気は赤くて、メリスさ……先生のは黄色いの? どうして赤いと空を飛べないの?」

 

「簡単に言うと、赤い気は子供の気、黄色い気は大人の気ってとこね。気を意識できるようになってから、気の修行を相当積んで初めて、黄色い気が出るようになるの。ああ、別に大人になったら勝手に黄色くなるわけじゃないのよ。修行を頑張っていれば、いつか必ず黄色い気に覚醒することできるから、焦らないでね。」

 

「そして、赤い気と黄色い気ではやれることに大きな差があるの。赤い気は硬いというか、確かに力は引き出すことはできるけど……例えばこういうふうに……」

 

 

「はあっ」

 

 メリスの手から気弾が放たれた。

 

 

 爆音とともに近くの岩が崩れ去った。ゆうやは目を丸くした。

 

 

 

「こんなふうに、気を飛ばしたり、あるいは形を大きく変えたりすることができないの。それに対して、黄色い気ではうまく使うことによって空を飛んだり、いろんなことができるのよ」

 

「だから、気は黄色くなって初めて一人前なのよ。わかった?」

 

「は、はい! よくわかりました。」

 

 最近ゆうやは言葉づかいをようやく意識するようになったが、まだ徹底されてはいなかった。

 

「よろしい。でも、赤い気でもうまくコントロールすることによってかなりの武器になるから、明日からはそれをやっていきましょう」

 

「では、休憩したら筋トレよ。今日からはひとつにつき65回!」

 

「えー、昨日に続けてまた増えるの?」

 

「文句言わないで素直に従う! そうそう、もしこの先気をうまく使えるようになっても、それを使って楽しちゃだめよ。むしろ気を消して肉体だけの力でなるべくやるようにしなさい。それが一番効果があるのよ。」

 

「わかりましたー」

 

「そうそう、それでいい。じゃあ今日もいくよ。まずは腕立て伏せから……」

 

 

ゆうやの修行は、まだまだ続く。

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