オーバーロード 黄櫨染の鳥   作:日々あとむ

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亡国の吸血姫編を書いている人が少なく感じたので、書きました。がっつりネタバレしていますのでご注意下さあああああああうるせえ!!!!
キーノちゃんかわいすぎるんだよ!!!! 悟×キーノを俺は書く!!!!!!
 


Prologue

 

 

 水の都とも呼ばれるユルシュルは、巨大な湖の上に存在する都市だ。山の麓に巨大な湖が出来上がり、その湖に棲み付いた水竜を先住民たちが信仰し建設したことが切っ掛けとなる。

 湖の底に水竜は棲んでおり、時折表層まで上がって来る。その姿を見ることが出来た住民はその日はラッキーディ、などというジンクスがあるがここ数年姿を見た者はいなかった。

 

 傭兵探索者隊のベッツはその都市の通路を歩く。傭兵探索者隊とは普通の傭兵団とは異なり、十人以下の少数精鋭でチームを組んでいる。国を跨いで仕事を探し、国家間の戦争やモンスター退治、遺跡の調査など様々な依頼を請け負う。

 そしてベッツは尖角種と呼ばれる人間種で、額から一本の水晶のような角が伸びているのが特徴だ。

 ベッツのチームがユルシュルに来たのは、この都市で依頼人と会う約束をしているためである。このユルシュルは混合種族都市であり、人間種だけでなく亜人種――異形種までもが暮らしているため、あらゆる種族が集まりやすい。

 ただ、さすがに異形種までもが棲み付く都市であろうとアンデッドだけはお断りなために、エルダーリッチなどが町中を歩いている姿だけは見られないが。

 ベッツの今回の依頼人は異形種であるため、会合の場を此処に指定していた。更に言えばこのユルシュルは彼らの宗教指定都市でもあるため、彼も滞在しやすいのだろう。というより、彼の本拠地と言ってもいいかもしれない。正しくは彼の派閥の、だが。

 本来ならば夜に酒場で一杯やりながら……と言いたいところだが、残念ながら今回の依頼主にそうした思いやりの精神は無い。何せ、そもそも感情があるかどうかも分からない相手なので。

 

(まったく、前の依頼人は最高の依頼人だったんだがな)

 

 以前ゾンビが蔓延している都市の調査を依頼した男は、金払いといい誠実さといい最高の依頼人だった。ああいう依頼人ばかりだといいのだが、残念ながら傭兵を雇う依頼人には最悪な者もいる。例えば報酬をごねて減らそうとしたり、嘘を吐いてこちらの破滅を誘ったり。今回の依頼人はそういう類の依頼人ではないが、他人の心の機微を感じ取ってくれるような繊細な心の持ち主ではないので、自分たちの感情の動きを理解してくれることはない。おそらく、「ちょいと奢ってくれ」と言ったところで「仕事と関係無いのにどうして酒を奢らないといけないのか分からない」と真面目な顔で告げるだろう。

 ただ、依頼に対しての報酬は色をつけない代わりに正確なので、その辺りの文句は出ない。

 ベッツは待ち合わせの場所である水竜の銅像がある広場につくと、その瞬間に一陣の風が吹いた。依頼人の登場である。

 

「報酬を受け取れ」

 

 依頼人の正体は異形種で、エア系エレメンタルだ。エアエレメンタルは空気で出来た異形種であり、召喚系魔法で召喚されることもある種族である。大抵は竜巻のような姿をしているが、人語を解するタイプは変わった見た目をしていることもある。

 依頼人はそうした特異個体の一種で、鳥と蜥蜴と蟷螂を合体させたような歪な見た目をした風の塊であり、地面から浮いている。体躯は二メートルを優に超えており、かなりの巨体だが周囲の人物が視線をやることは無い。本来ならかなり目立つ風体であり有名人なのだが、無害であるためにわざわざ視線をやるような人物ではないためだ。

 依頼人――彼の名はヒュムヌス・ノア。唯一神信仰というかなりマイナーな宗教団体の一員であり、この都市の水竜よりも年寄りだと聞いたことがあるが、事実はどうだか分からない。

 

 唯一神信仰とは、この世界は全知全能の神に創造された世界であり、あらゆる生命は徳を積むことで死した後に神の御許へ旅立ち、天の国で永遠に幸せに暮らすという教えを持っている。

 ヒュムヌスはこの唯一神信仰を広めた教祖のような立場らしいが、実際は創始者は別なのだとか。

 この唯一神信仰はマイナーではあるが、かなり性質の悪い宗教団体として一部界隈では有名だ。何せ、二つある最大派閥が「異教徒は全員皆殺し派」と「異教徒で改宗しない奴は殺してもいい派」に別けられるからだ。人間種や亜人種、異形種の区別はつけないがこのかなりの過激思想で周囲には恐れられている。

 ……しかし、ヒュムヌスは彼らの中で最大権威を持っているが、彼自身は驚くべきことに穏健派だ。「信仰は人それぞれ」と言い改宗を勧めはするが断れば無理な改宗は勧めない。だが代わりに「解釈は人それぞれ」とも言うためにああいった過激思想に派閥としては負けている。

 派閥闘争では完全に敗北しているヒュムヌスだが、しかしこの穏健派が完全に消滅することは無いだろう。普通は派閥闘争に負けると敗北派閥の筆頭は殺されて然るべきだが……周囲の生物たちにとっては幸いなことに、穏健派筆頭のヒュムヌスは彼らの中では最強の実力者だった。異形種でもあるため、寿命による死去も期待出来ないので彼の実力を上回らないかぎり、穏健派が消滅することは無いだろう。

 ベッツが仲間と集めた依頼人の情報はこんなところだ。実際の実力は知らないが、かなりの手練れであることは確かだろう。

 

 ヒュムヌスは現れるなり開口一番にそう告げ、皮袋をベッツに明け渡す。簡潔なその言葉に、ベッツは苦笑が漏れた。

 

「はいよ、ご贔屓に」

 

 一応中身を確認すると、中には宝貨が入っていた。宝貨とは宝石から削り出した金貨以上の超高額貨幣であり、希少金属であるはずのミスリルやアダマンタイトの輝きが中からは見て取れた。

 金貨はどうしても重くなるために、高額の取り引きになると宝石などでの支払いとなる。そのため、若干の誤差は出るが宝石での支払いが暗黙のルールとなっている。

 彼らエレメンタル系種族は感情の機微を理解出来ないようで、報酬に色をつけるということはしない。そのため報酬額が上下することはないが、余計な働きをするとこちらが一方的に損をするためにベッツたちもあまり得意でない相手だ。

 ただ、彼らの良いところは基本的に嘘を吐かないのでわざわざ鑑定をする必要が無いことだろう。本来ならしっかりと鑑定して報酬が支払われているか確認しなくてはならないが、彼らは誤魔化さない。宝石類は売る場所によって差額が出ることがあるが、それは依頼人のせいではないのでベッツは気にしたことはない。

 ヒュムヌスが渡してきた金額は此処で換金すれば、間違いなく正確な報酬額となるだろう。

 皮袋を懐にしまったベッツは、続いて彼に成果を教えることにした。本来ならば報酬の前に届けるものであるのだが、ヒュムヌスは報酬を先に渡す。このまま持ち逃げされるかもという考えがないのか――あるいは、持ち逃げされようと殺せるという判断なのか。ベッツはどんな答えでも恐ろしいので聞いたことは無いが。

 

「そんじゃ、調査結果の報告をさせてもらうぜ――」

 

 本来ならば昼間の広場でこのような話をするべきではないが、ヒュムヌスがかまわないのだから、かまわないのだろう。どの道、依頼内容は別に誰かに隠さなくてはならないようなものではない。

 

「リュリュミーシィの羽を幾つか発見したぜ。あと、鳥の糞っぽいものもな。正確な数は分からんが早朝に十数羽ほど飛び立つ鳥の影も見た。これで満足かい?」

 

 懐から鳥の羽を一枚取り出して、ヒュムヌスに見せる。ヒュムヌスは羽を受け取ると、じっくりと見つめているようだった。

 リュリュミーシィというのは、かなり珍しい鳥の名前だ。名前の由来はこの都市の先にあるリュリュ山の「リュリュ」とかつてこの都市を作った先住民たちの言葉である"見えない"を意味する「ミーシィ」から来ている。

 やや黄色みのある鮮やかな赤色の羽毛を持ち、全長は最大で1メートルほどになり、ヒレのついた長い脚と鉤状になった嘴を持っていた。リュリュ山にのみ棲息している固有種のようなのだが、かなり高い標高に棲息しているようで飛んでいる姿以外を見たことは無い。ベッツも空に浮かんでいる影以外は見たことが無かった。

 だが、このユルシュルにはリュリュミーシィの剥製が置いてあるため、姿は分かる。だからこそ山に登り落ちている羽を持ち帰り、こうして依頼主に調査結果を告げることが出来るわけだ。

 

 ヒュムヌスは納得がいったのか、羽をベッツに帰すと「ご苦労だった」と告げ満足したようだった。

 

「では己の依頼は終わりだ。以降は好きにするが良い」

 

 その言葉と同時に、再び一陣の風が吹く。次の瞬間にはヒュムヌスはベッツの前から姿を消しており、どうやら帰還したようだった。

 ……ヒュムヌスの依頼はこのリュリュミーシィが麓近くまで降りてきているかの調査で、リュリュ山に入る必要性があった。リュリュ山は危険な山であり、その標高は6000メートルほどになると言われている。

 正確な数字が分からないのは、亜人種や人間種が未だ登頂に成功した例が無いためだ。しかしどうして標高が分かっているのかと言えば異形種――先程のヒュムヌスやドラゴンたちならば山頂に楽に到達出来るためである。つまり、ヒュムヌスが6000メートルほどあったと言うから、下界ではそれぐらいの標高だろうと言われている、ということだ。

 リュリュ山は気候の移り変わりが激しく、遠くから見ても一定より上は常に雲に覆われており見えない。この雲はどうやら山から噴き出したガスのようで、毒耐性を全く持たないものがこのガスを吸うと即座に昏倒し、息を引き取ることになる。

 更に危険なモンスターが何種類も棲息しており、彼らの外殻はアダマンタイト級の金属でなければ傷一つつけられないと有名だ。魔法も効果を発揮し辛く、安全に登山するのは不可能と見ていい。

 そして、地形は複雑になっており切り立った岩壁などがあるため、単純に足で登ることは出来ず、何度も登攀を試みなければならない。これは歴戦の傭兵や戦士でも鎧を着込んだままでは不可能に近く、〈飛行(フライ)〉の魔法を使わなけばならない。だが、魔法で浮かぶにも効果時間がある。途中で魔法効果が切れた場合は目も当てられない。地面で染みになる羽目になる。

 更に恐ろしいのが――あの山の水は、飲めないのである。

 麓のユルシュル辺りになると飲める水となるのだが、標高2000メートル辺りから川の水の色が緋色に染まっており、その水を飲むと手足の痺れが始まり幻聴や幻覚が見え初め、次第に手足の痺れが骨が折れるほどの痙攣となり――そして死に至る。

 そのためか、あの山に棲息するモンスターたちも標高2000メートル以下のところに棲んでいるようで、それより上に登った者たちの伝承曰く生物の気配が無くなるのだそうだ。

 そしてそんな異様なリュリュ山の標高の高い場所に棲息しているのが――件のリュリュミーシィである。詳しい生態はほとんど不明であり、どうやって繁殖しているのか何を食べているのかも全く分かっていない。

 

(でも――)

 

 おそらく、ヒュムヌスはある程度の生態は知っているはずだ。そうでもなければ、こうしてベッツに羽が落ちているか、糞があるか調査して欲しいとは頼まないだろう。彼は何故リュリュミーシィが麓近くまで降りてきているのか理由を知っているに違いない。

 出来ればその情報を教えて欲しいところだが……彼はそうした機微には気づかない不感症なので、教える気がなければバッサリと断られて終わりだろう。飲食不要の異形種である彼に、金銭などの交渉をしても無駄にしか思えない。

 

「まったく――とっかかる隙も無い依頼人は困るぜ」

 

 かつてベッツたちに住民がゾンビになった都市を見てくる依頼をした、金払いの良い依頼人の姿を思い出しながら、仲間たちの待つ宿へ戻るために歩く。

 ヒュムヌスはベッツから羽を取り上げなかったために、この羽も売ればかなりの金額になるだろう。希少な鳥の羽は一部の趣味の人間がかなりの値をつけてくれるため、商人に売ればかなりの金貨を貰えるはずだ。

 機嫌良く歩くベッツの横を、馬車を引くゴーレムの馬と、その馬を操る奇妙な仮面をつけた男と隣に座る金髪に赤い瞳の少女が楽しそうに会話に花を咲かせながら通り過ぎていった。

 

 

     

 

 ゴーレムの馬に引かせた幌馬車に乗って悟とキーノは進む。

 この幌馬車は五代目だ。キーノの国であるインベリアの時のものは破損し、二代目は襲撃によって全焼、三代目は旅の途中で廃棄。そして四代目は再び襲撃によって消滅した。

 御者台に座り、悟が手綱を握ってキーノが隣で魔法書を読む。この魔法書は"深淵なる軀"と呼ばれるアンデッドの構成員が持っていたもので、彼らの研究成果が纏められている。

 "深淵なる軀"という組織は魔法の深淵を探るという目的を持っていたが、とある事情から悟とキーノが狩り尽くした。生き残りもいたはいたが、それらも悟があの恐るべきアンデッドドラゴン・柩棺の竜王(エルダーコフィン・ドラゴンロード)のキュアイーリムを滅ぼす時に動員して消滅した。

 インベリアを初めとした周辺国家の住民をゾンビに変生させ、それらを自らの鎧にした魂の冒涜者キュアイーリム。何を目的としていたのか分からないが、キーノの人生はあのドラゴンロードのせいで破滅した。今はキーノも他とは違うがアンデッド――ヴァンパイアとなり、こうして悟と共に世界を彷徨っている。

 悟はキーノにも言っていないが、異世界――DMMORPGである"ユグドラシル"の自アバターの姿で、何故かこの世界に召喚された。キュアイーリムや最高峰の山頂にいる七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)の台詞から竜帝と呼ばれる存在が関わっていることは分かるが、実際はどうなのか分からない。

 召喚された時、インベリアでひとりぼっちのキーノと六年前に出会い……一年前にキーノたちを破滅させたキュアイーリムを滅ぼした、という経緯がある。

 残念ながら、キーノやその両親……国民たちをアンデッドから元に戻す方法は分からなかったが、世界を旅しながら二人はその方法を探している。"深淵なる軀"はアンデッド化の解除方法を探しているうちに、アンデッドたちが魔法研究を目的として組織を作っていると聞いて研究成果を奪い取ったのだ。

 何せ、悟の知る"ユグドラシル"の知識とは異なる魔法などの存在がこの世界にはある。ドラゴンロードたちがそれだ。彼らは独自の魔法を使う。そして、人間種や亜人種などにも武技という奇妙なスキル所持者がいた。この世界の知識人は重要である。

 ただ……悟としてはその過程でお姫様であったキーノがちょっと荒んでしまったので、彼女の両親に申し訳なく思っているが。押し込み強盗はやはり教育に悪かった。

 

 二人が次の目的地として選んだのはユルシュルと呼ばれる都市だ。エナ多種同盟国の一つで、辺境の田舎都市ではあるが人間種だけでなく亜人種や異形種も暮らす珍しい都市でもある。

 その理由が、唯一神信仰と呼ばれる宗教団体の宗教都市の姿を持つからだろう。あの宗教組織は悟たちにとって苦い経験があるが(何せ幌馬車を失った原因の一つでもあるのだから)、此処は穏健派筆頭であるノア派の本拠地だ。穏健派であるノア派は異教徒に対して寛容であり、荒事を好まない。それが、この都市に様々な種族を呼び集める原因だろう。ノア派のリーダーが異形種だということも拍車をかけている。

 二人が訪れたのはそうした過ごしやすいという理由と、もう一つ。此処が水竜が見れたり、リュリュ山にしか存在しない鳥が見れるという観光地でもあるからだ。

 リュリュ山にのみ棲息する鳥類リュリュミーシィ。リュリュ山はかなりの難所だと聞くが悟とキーノにとってはそうではない。正しくは、アンデッドでありこの世界で屈指の強者である悟には、だが。

 

「止まれ!」

 

 ユルシュルの門の前には警備兵が集まっており、全員が槍や武器を構えていた。いつものことである。二人は特に気にせず馬を進ませる。

 

「やあ、いい天気だな!」

 

 ――そこからは、単なるいつも通りのやりとりだ。悟はかつて幻術を見破られた経験から、人間種に化けて門を通ることをやめた。幻術を見破られた方が、余計に面倒な事態に巻き込まれるからだ。なので、今はアンデッドそのままの姿で「自分はスケール族のサトルです」とごり押すことにしている。ちなみにキーノも同じスケール族だ。なお、王都の名前はグラントウキョウである。設定は商人。

 多種多様な種族が存在するこの世界では、他種族を排斥しようとすると相手の国を怒らせて戦争になる場合がある。そのため、大きな都市の門番はしっかりとした教育を受けている場合が多い。ユルシュルは亜人種や異形種を幾人も受け入れているので、間違いなく他種族に寛容になるよう教育されているだろう。

 だが、アンデッドは生者の敵であり、どこでも嫌われている。そのため、アンデッドだけは通れない。

 ある程度やりとりをすれば、神官が呼ばれてきて信仰系魔法でアンデッドを探知して終わり――というのが一連の流れだ。今回も神官が呼ばれたのだろう、街の中から走って来ている姿が見れた。

 今回の神官は蛇身人(スネークマン)のようだ。毒蛇のような頭を持ち全身には鱗が生えている亜人種の一種である。

 

「ふー……本当にスケール族……? 聞いたことないけど、はあ……」

 

 随分とやる気のない神官だ。門番たちも不安に思ったのだろう、ジト目でこちらを見ている。

 

「同志ノアがおられればパッと終わるのに……はあ……」

 

「ノア殿はどうされたのだ?」

 

「同志ノアはリュリュミーシィの生態調査のため、教会におられません。なんでも、繁殖期が近いそうですよ。近々山に登られる予定なので、何かご用件がある場合はお早目に言伝を頼んでおきなさい……はあ……」

 

「なんと。ノア殿がおられれば例えどのようなアンデッドであろうと正体を見破り、そのまま撃退出来たであろうに」

 

「まあ、同志ノアは復活魔法さえ可能とする信仰系魔法の使い手ですから。大抵のアンデッドは勝負にさえならぬでしょう……はあ……」

 

 ノア、というのは間違いなく唯一神信仰のノア派のリーダーだろう。悟は詳しくは知らないが、確かに復活魔法――第五位階の信仰系魔法が使えるならばこの世界ではかなりの手練れだ。

 位階魔法は"ユグドラシル"に存在するシステムの魔法だが、この世界でも使われている。ただ、この世界では第五位階以上の魔法を使える存在は少なく、大抵の魔法の使い手は第三位階で打ち止めとなり、第四位階に昇れる者は一握り――更に上の第五位階に到達する者は天才の中の天才だ。ノアはそうした天才のほんの一握り、ということなのだろう。

 

「そのノア殿は復活魔法を使われるのですか?」

 

 悟が二人の会話に割って入ると、門番たちは警戒するが頷く。キーノも興味深そうに門番たちや神官の話を聞いていた。

 

「ああ。ノア殿は最高の神官だ。お前も、アンデッドならば逃げた方がいいぞ」

 

 威嚇するように門番が告げるが、悟としてはノアという人物に興味がわいた。是非とも、会って話してみたい程度には。

 何せ、悟もこの世界で復活魔法を使える信仰系の魔法詠唱者(マジック・キャスター)は初めてだ。死者の復活がどのように行われるのか知りたいという欲求がある。

 

「そうですか。是非とも会ってみたいものです」

 

 悟がそう言うと、門番は拍子抜けしたようだった。そうこうしている内に神官が魔法を唱え、無事悟とキーノがアンデッドではないと証明されたため、都市内部に入ることが許可された。

 勿論、これには絡繰りがある。レベル的な差と、マジックアイテムによる守りのおかげだ。

 二人は幌馬車を進めながら宿屋へ向かう。中に入った後は、一応悟は仮面で顔を隠すことにしている。街中で会う人物全てに「アンデッド!」と叫ばれないためだ。その度に言い訳をしたり、神官を走らせるのは心が痛む。

 そして宿屋に顔を通した後にまず二人がすることがある。それは――

 

「さて、それじゃあ市場を見て回るかキーノ!」

 

「うん、悟!」

 

 都市に入った際にはキーノと二人で市場を見て回る、というのがいつものパターンになっている。幸い、今は昼間なので子供の見た目であるキーノが出歩いていても何も言われない。

 市場を見て回った後は、取り引き用の麦などの売買だ。その後は、件の水竜や鳥を探しに行こう。

 二人は手を取り合って宿を出た。

 

 

 




 
亡国の吸血姫√を見るとホント原作本編のスレイン法国から西は田舎って感じですな。現代で言うところのヘリを見たら槍とか弓矢でヘリを落とそうとする原住民レベル。人権とか無い異世界だとこれは絶滅の危機に瀕する(確信)。
 

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