「目が覚めたみたいでよかった」
最悪と言っていほどの血生臭い匂いと、べっとりまとわりつくような湿気。
無雑作に伸びた草に身体を沈めていた私は、ゆっくりと目を開く。
真っ青な空と、まだらに赤い地面。
これが芸術作品とか、アート作品ならば素敵なコントラストだとでも思えたのだろうが。
「ひっ……これはなに!?」
思わず大きな声で叫んでしまう。
体を起こして目に映ったのは、血を流して倒れこむ人の亡骸と、赤く濡れた金貨を握りしめる女性。
「なにって、あなた襲われてたから助けたんだけど」
「襲われ……えっ」
一番新しい記憶は……確か屋上から突き飛ばされたんだった。
それで、地面が迫ってきて、意識が飛ぶほどの鈍痛を一瞬だけ感じて、それで。
いや、それが最後の記憶だな。
よく見ると、女性は外套やら軽鎧やらを身に着け、両腰に鞘を引っ提げている。
その現状を受け止めきれないでいた私だったが、不思議と冷静さを保っていた。
なんだろう、第三者の視点からゆっくり見下ろすような。
そして感情やら情報やら余計なものを一切感じないのだ。
私の周りには五人程度の軽装の野党が倒れていて、それらから私を助けたであろう女性がいる。
美しい銀のショートカットで、背も高く細身。
私はというと大学に向かった時の服装そのままで、手ぶら。
まるで全く違う世界に迷い込んだみたいな違和感すらある。
「おーい、大丈夫?」
女性の声で、私から除かれていた余計なものが一気に戻って、今この瞬間が現実味を帯びる。
恐怖やらなんやらよりも先に、目の前の女性に助けられたという事実と、ここはどこだという疑問が浮いてくる。
「あ、はい大丈夫です……私、襲われてたんですか?」
「襲われてたんですかって、助けてって叫んでたけど」
「あ、そうなんですね」
「怖くて記憶が飛んじゃったのかな、でも戦いの経験がないのに街からは離れすぎているというか……それにその恰好。よその国の人?」
「あ、えっとそう……なのかな?」
「まさかガチの記憶喪失?」
「みたいです……えへへ」
「あっはは、えへへって」
大きく口を開けて笑う姿は、その端麗で落ち着いた姿とのギャップがあった。
悪い人ではなさそうで一安心した。
「お姉さん、ここはどこですか?」
「んーと、ここまっすぐ行くと王都パルミアだけど」
「そうなんですね、ありがとうございます」
「ちょっとまった」
「はい?」
「武器も食糧も持たずにパルミア目指すのは死ぬようなもんだよ?」
「でも……」
困っている私を見かねてか、それとも最初からそれ目的か。
彼女は私にこう提案する。
「ならついておいでよ、一人旅にも飽きちゃってさ」
「でも私戦えないしお金もないし」
「こんな可愛い女の子と居れるなら大歓迎さ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「私の家、近いからとりあえずそこでその服どうにかしたほうがいいかもね。ある程度丈夫でこの国らしい服にしないと。最近は観光客を狙った野党が多いから」
「ごめんなさい、なにからなにまで」
「ま、これもなにかの縁だから……とその前に」
女性はおもむろに野党の遺体を漁り始める。
「なにしてるんですか!?」
「なにって、遺品漁ってるけど」
「な、なんで……?」
「この世界じゃ、常に生きるか死ぬかだし、金目のものとか漁っとかないと」
この世界じゃ、か。
どうやらここは本当に私のいた世界とは違う場所のようで。
これから、どうなっちゃうのかなぁ。