戦姫絶唱シンフォギアAG・歌とメダルと13のコンボ 作:バルバトスルプスレクス
予定としてはガングニールメダルやら神獣鏡メダルとかどっかのタイミングで出します
ビカソとかムカチリとかシガゼシサラミウオとかセイシロギンとかも出す予定です
切欠は何気ないはずの日常の一ページ。
そのはずだった。
高校二年生の
映司の家には居候が四人いる。元より両親との三人暮らしであったが、職業が『ちょっと言えない所で公安』な父親が世界各地を仕事で訪れてはその地で孤児を引き取り、今では七人家族。その為少しでも食費を浮かすため、朝刊の折り込みチラシと睨めっこしながら日々の献立を居候の一人と共に相談し合っている。
今日が映司の買い物当番の日で、忘れたまま帰ったらどうなっていたか。思い出してよかったと安堵のため息を吐きながら、生鮮食品売り場でチラシに掲載されていた目当ての野菜を吟味して、会計を済ませたその時だった。
自動車のスリップ音と痛々しい激突音が買い物袋を提げた映司の耳に届いた。それが単なる交通事故であるならば好奇心が働いて様子を見に行こうとしただろう。
「ノイズだーっ!!」
誰かが発したその悲鳴と、避難警報のけたたましいサイレンを聞くまでは。
認定特異災害ノイズ。ゆるキャラの出来損ないの様な外見ではあるが、ノイズは単なるご当地マスコットキャラクターではない。触れた相手を諸共炭化させる謎の生命体。
文字通り生きた災害と言うべきか、それらは明確な意思や目的を持ち合わせておらず、ただ人間だけを狙って炭化させるだけ。その上こちらからの干渉、特に銃火器などの一切が効かないまさに災害。時間が経てば勝手に炭化するのだが、その時間まで逃げきれる保証は余りにも少ない。
スリップ音の正体の電柱に激突して大破した黒い車から頭部に傷を負ったであろう一人の男がアタッシュケース片手に脱出するが、たちまちノイズの餌食になってしまった。炭化させられた男の手にあったアタッシュケースは、運悪く映司の足に直撃して転倒させた。しかもそのアタッシュケースが衝撃で開かれ、中身が飛び出していた。
「あっ…!ぐぅっ……!」
赤、黄、緑色の生き物のレリーフが刻まれた三枚のメダルらしき物が装填された何か。それを視界に捉えた映司を突然の頭痛と謎のフラッシュバックが襲う。
バックルのメダルを取り換えながら怪物たちを屠っていく戦士の姿。
獅子のような頭の琥珀の戦士は、風をも超える速度で戦場を駆け抜ける。
二本の角を生やした深緑の戦士は、分身に分身を続けては雷を撒き散らして制圧する。
一本角の白銀の戦士は、両の剛腕でドラミングして重力を思いのままに操る。
海の様な深い青の戦士は、液状化するその身で敵を翻弄しては二本の電気鞭を振るう。
不死鳥を思わせる深紅の戦士は、大空を自由に飛び回りその身に炎を纏って大地を焼いた。
白い身体に紫の装甲を纏った戦士は、絶対零度の世界を作り出し、生きとし生けるものの時間を止めた。
ほんの一瞬の出来事でしかないのに大作映画を観終わったかのような錯覚に陥っていたが、兎に角戦い方は理解できた。あとは、実行するだけ。
アタッシュケースから飛び出たアイテムの名は『オーズドライバー』。映司はそれを腰にあてがい、ドライバーから伸びた帯の、映司から見て腰の右側に現れた『オースキャナー』を手に取り、バックルを傾けてメダルを読み込ませる。
<タカ・トラ・バッタ>
<タ・ト・バ!タトバタ・ト・バ!>
「タカとかトラって……」
いや、気にするのはやめておこう。
今は、生き延びることを優先しなくてはならない。
黒い装甲に頭部から脚部にかけて赤黄緑の三色のラインと胸のタカとトラとバッタのマーク。素顔はタカの意匠の仮面に包まれており、何者からもその表情をうかがい知ることはできない。
両腕の折りたたまれていたトラクローを展開して、手近なノイズを切り裂いた。炭化されたのはオーズではなくノイズ。
通常兵器ではすり抜けるだけなのだが、どういった原理かは理解できないが、考えるよりも手足を動かし生き延びる事だけだ。しかし喧嘩らしい喧嘩とは今までほとんど無縁だったため、技と呼べるものは一つもなくただ闇雲に腕を振るう。そうしていく内に、ノイズから受けるダメージ以上にオーズ本人の疲労が溜まり続けていく。オーズ本人も気が付かぬままに。
***
特異災害対策機動部二課。通称
事の始まりは長野県松代にある組織の前身である風鳴機関本部に保管していたオーズドライバーの移送任務にあった。
欧州の経済破綻の際の不良債権の一つだったそれの稼働実験の目途が立った矢先、本部に向かう途中の住宅街に入ったところでノイズの襲撃を受け、運転手の保護とオーズドライバーの回収のために、そしてノイズ殲滅の為に二人のシンフォギア装者を向かわせた。
しかし、事前に持たせていた発信器が途絶えた事により運転手を助け出すことは叶わなかった様だが、それでもこれ以上犠牲者を出さない為にも二人を乗せたヘリの到着を急がせたのだが、その時彼らにとって信じられない事態が発生。
「し、司令!ノイズの反応とは別の特殊波形をキャッチしました!」
「直ぐに解析するんだ。現場の映像だせるか!」
「モニターに表示します!」
手慣れた様子でコンソールを操作する
映し出されたのは映司が変身したオーズが逃げ遅れている人々を守りながら複数のノイズを相手に何とか立ち回っている所と、オーズの胸部に描かれた紋章『オーラングサークル』が並んで表示された。
「オーズだと!?」
現場のカメラ映像と解析結果の内容を見て、驚きの余り思わず声をあげる組織の長たる
映像の中のオーズは戦い慣れていないようで、このまま戦い続ければいずれスタミナ切れになり、いずれノイズの大群に蹂躙される事になるだろう。
誰がどんな理由で変身しているのかどうかは未だ定かになっていないが、少なくともノイズを相手取ってる時点で、逃げ遅れている市民の盾に自らなっている時点でこちら側の味方であることは間違いない。
二人のシンフォギア装者が現場に到着するまでの5分間、弦十郎は努めて冷静に己の職務を全うする。
***
もうどれ程ノイズを倒したことだろう。
20体以上倒したはずだが、最初の数より増えてきている気がしてきた。
蓄積していく疲労により、蹴りや拳の威力が徐々に落ちてきている事を痛感するオーズは、腰部左側にマウントされているメダルホルダーを開き、最初に目についたメダルをベルトに装填されているメダルと取り換えてオースキャナーで読み込ませる。
<タカ・ゴリラ・チーター>
トラをモチーフにした三枚爪トラクローを有した腕は、ゴリラをモチーフにした剛腕ゴリバゴーンに包まれた腕部に変わり、続けて脚部は跳躍力に秀でたバッタレッグから、高速移動能力が自慢のチーターレッグに変わる。
オーズの数ある亜種コンボの一つタカゴリーターなのだが、オーズに変身している映司にはそんなこと知る由もない。
この形態のオーズは高速移動からの力強い拳を繰り出すのが特徴である。
だがそれでも、ノイズの群れは増え続ける一方で、それに伴いオーズのスタミナは減り続けるばかり。
流石に死を覚悟するしかないのか、と諦めかけていたその時だった。
――
――
歌が聞こえた。
凛として、美しく、力強い歌がオーズの頭上から響き渡る。
オーズが視線を真上に向けると、上空からオレンジと青の二つの人影が見えた。その人影はそれぞれ槍と刀を手にしており、翼を持った飛行型のノイズたちを落下しながら撃破していく。それも、歌いながらだ。
着地した人影の正体は、年格好が近い少女二人だ。その二人は歌いながら槍と刀を振るい駆逐していく様子から驚きよりも戦い慣れていると感じるほかなかった。
「そこのアンタ。大丈夫かい!」
「え?あー、うん。何とか!」
何とも間の抜けた返事だろうかと独り言ちるオーズだが、何とか希望が見えた気がした。
青い髪の少女が身の丈ほどの大剣を振るい、斬撃波『蒼ノ一閃』を放てば、複数体のノイズを巻き込んで炭化させる。
オレンジの髪の少女が手にした槍の穂先を高速回転させて生み出した竜巻、『LAST∞METEOR』に閉じ込められたノイズ達も例外なく炭化させられた。
<Scanning Charge>
脳に流れ込んだビジョンに従い、変身と同じ手順でオースキャナーでベルトのメダルを読み込んで必殺技を開放する。
チーターレッグ内臓のブースターが展開され、それによる高速移動からのタカヘッドの視力強化によって上昇した命中力でのゴリバゴーンの乱射。ノイズ一体一体を的確に貫いていく銀色の手甲の頑丈さに思わず感嘆の声を漏らす。
そして、最後の一体が炭化して戦いが終わる。
ベルトのバックルを水平に戻して元の姿に戻る映司。変身解除と同時に溜まりに溜まった疲労により、足元から崩れてしまう。体中に嫌な汗が流れ出ており、直ぐにでも風呂に入りたかったが、どうもそんな願いは叶わなかった。
突如として現れた黒服たちが流れ作業のごとく映司に手錠をかけ、車に乗せ、そのまま何処かへと発進する。急な出来事と疲労とで反抗する間もなかった映司が連れていかれたのはリディアン女子音楽院。比較的学費が安いとの評判の女子高なのだが、現在公立高校二年生の映司にとっては全くの正反対の場所のはず。
そのまま映司は教員棟に連れられ、絶叫マシン並みの速度で降下するエレベーターに乗せられた先に待っていたのは……。
「ようこそ、火山映司君。人類最後の砦特異災害対策機動部二課へ!」
シルクハットを被った赤いカラーシャツの大柄な男と、映司の登場を温かく歓迎する複数人の大人達。その中には剣を携えた少女と槍を構えていた少女の二人の姿もあった。しかし映司にはそれ以上に驚いたことがある。
「面倒なことに巻き込まれたな映司」
苦笑いを浮かべながらわしゃわしゃと映司の髪の毛をかき回すのは、ワックスで固められた頭髪にがっしりとした体形の一人の男。火山
しかし、映司の一番の疑問は父親の仕事内容とかではなく、自分が変身したオーズについてだ。
「知っているなら教えてください。このベルトにメダルっていったい何なんですか?」
懐から取り出したオーズドライバー。映司は手に入った経緯、更にその後の変身してからの事を語り終えると弦十郎と、彼の隣にいた特徴的な髪形の眼鏡の女性が答える。
「そのアイテムはオーズドライバー。かつて欧州において一国の王がオーズの鎧と称して使用していたとされていた聖遺物。近い内に我々が稼働実験をする予定だった」
「元々それにはノイズに対抗できるという文献もあったから、前々から準備は進めてたんだけど、難航しちゃってたのよ」
「それを俺が……」
元から自分の物であるかのように稼働してオーズへと変身を遂げた裏で、多くの人たちに迷惑をかけたのではないかと落ち込む映司。
だがしかし、弦十郎達は責めるどころか寧ろ体調を気遣って、即座に彼のメディカルチェックと、オーズドライバーの解析作業を職員たちに指示した。
***
検査結果は翌日に出るとのことで今日のところはオーズドライバーは預けたままに、父親の運転する車で帰宅できたものの、既に日は沈んでおり、既に夕食の時間は過ぎていた。教科書やノートが詰め込まれているリュックサックと下校途中にスーパーで買った商品もレジ袋諸共幸いにも無事だっただけまだましであると思いながら、映司は自宅玄関のドアを開く。
「た、ただいまー…」
申し訳なさげに帰宅の言葉を投げかけると、リビングの方からパタパタと二人の少女が映司を出迎えた。
「えーじおかえりデース!」
「映司さんおかえりなさい」
「ただいま切歌に調。ごめんね、ちょっと遅くなっちゃった」
短めの金髪のハツラツガールこと暁切歌と、黒い髪のツインテールで大人しい印象の月読調。火山家に居候している四人のうちの二人は、映司からレジ袋を受け取ると踵を返してリビングへと走り去る。
二人の背中を見送って自室にリュックサックを置いて、ジャージに着替えてリビングに降りると、鈍い痛みが突然映司の額を襲った。
「おかえり。無事なら無事で連絡くらい入れなさいよ。ノイズが出たって心配したのよ」
マリア・カデンツァヴナ・イヴがエプロン姿で左手にお玉を持ちながら映司の額を小突いたのだ。
彼女とその妹のセレナ・カデンツァヴナ・イヴは十年前に雄二が海外赴任の際にその赴任先で引き取った孤児の姉妹。以来火山家の世話になっており、特に映司とマリアは同い年ということもあってか、互いに退屈しない時間を過ごしてきた。
「ごめんマリア。ちょっといろいろとあってさ」
本当のことは言えずにお茶を濁す映司。まさかヒーローに変身して戦ってその後今まで謎だった父親の職場に案内されたと同時に歓迎パーティーを催されていたなんて。言っても信じられないような内容だ猶更言えるわけがない。それに今日の事は他言無用と言われてもいるため機密保持云々の為に誓約書も書かされた。
だからこそ、多くは語れないし語ることもできない。
既に映司以外夕飯を済ませているようで、洗い物を終えたであろうマリアはエプロンを脱ぎ、炊事の邪魔にならない様にポニーテールにしていた髪をほどく。この一連の動作に一瞬見惚れながらも映司は自分の分の夕飯の用意をする。
鍋の中では明日の夕飯の分まで余裕はあるだろうカレーがほんのりと湯気を立たせている。
「で、さっきのいろいろについて教えてほしいんだけど?」
一人遅めの夕食があっと言う間に尋問に早変わりしてしまった。
やはり言わないとだめか。と、腹を決める映司は最大限言える事だけを語る。
「ノイズから逃げてるところを偶然政府の人に保護されてさ、ケガしてないかとか変なものついてないかとかで身体検査うけて。それで時間かけられちゃって」
「…それで?」
「ぐ、偶然父さんもそこにいてさ、家まで送ってもらったんだ。ただ父さんそのまま仕事に行ったみたいだけど」
「ふーん…」
飲み物が注がれているカップを傾けるマリアから納得のいっていない疑いの目をむけられるが、嘘はついていない。実際に半ば拉致されたとはいえ保護されたともとれるし、身体検査もあながち間違っていない。
そう言えば、とマリアが話題を変えることは尋問は終わる。
「私ね、卒業後はアメリカに移住しようと思ってるの」
「……え?急……だね」
「まだ決定したことじゃないのよ?でもね、今日私宛に手紙が来たのよ」
そう言ってマリアは固定電話の脇に置いていた国際郵便の封筒を映司に手渡した。
食事の手を止め、彼女に促されるままに封筒の中身を取り出した。折りたたまれた二枚の便箋には草書体の英文字が記されているが、生憎英語の成績は芳しくない映司であったが、それとは別に一枚の写真が同封されていた。
中央には映司と出会う前くらいの幼い年頃のマリアとセレナ。その二人の隣には二人の成人男女と一人の老婆。場所は何処かの花畑。
「昨日届いたのよ。セレナは覚えていないかもしれないけれど、その二人が私たちのパパとママ。もう一人は差出人でここに来る前にお世話になった人よ」
「手紙の内容って?」
神妙な面持ちで彼女が語ったのは、育ての親から届いたこの手紙にはアメリカに滞在しているマリアとセレナの両親と偶然連絡が取れたとの旨が書かれていた。ただ、何らかの理由で会えるのはマリアがリディアンを卒業してからとの事。更には切歌と調の両親についても話す必要があるので、マリアの卒業後には四人でアメリカに来てほしいと記されていた。
些か信用性に欠ける内容ではあるが、マリア曰く「その人は嘘を言う人でもないし、筆跡だって間違いない」と言う。
「寂しくなるな……」
「え?」
ボソリと呟いた本音を聞かれた映司だったが、風呂場からパジャマ姿で出てきた切歌と調がマリアに入浴を勧めてきた。今がチャンスと捉えると、皿の上の残ったカレーを掻き込んでキッチンに駆け、即座に皿とスプーンを洗い流し、部屋に逃げ込んだ。
「ちょっと映司……寂しくなるなって………そういうことで良いのよね?」
「どーしたデス、マリア?」
「お風呂入らないの?」
逃げ込むことには成功したが、しっかりと本音は聞かれていた。
***
翌日の放課後。校門を出たところで、緒川と名乗る青年に手錠を掛けられ、前日と同じように映司は連行され、同じようにリディアン内のエレベーターに乗り込み、連れてこられたのは二課本部にあるラボの一室。
昨日の身体検査の結果は良好。ほんの少しのかすり傷はあれど、それ以外の裂傷などの外傷も骨や内臓の破損も無かった。炭化されなかったとはいえ、多くのノイズに袋叩きにされたはずなのにだ。
「大きな傷がなかったのはオーズの鎧の性能が大きいみたいね。変身の時に流れる歌の様な現象がシンフォギアでいう聖詠の役割を果たしていることは確かよ」
一方のドライバーの方の解析も完了したようで、弦十郎と映司は目の前の眼鏡をかけた特徴的な髪形の櫻井了子技術主任による説明会を受けていた。
その際に了子は映司にシンフォギアが何なのかを説明する。
シンフォギア最大の特徴。それは身に纏う者の戦意に共振・共鳴し、旋律を奏でる機構が内蔵されており、更にそこに装者が歌唱することによってシンフォギアを稼働させるフォニックゲインを高めて、これによりシンフォギアはバトルポテンシャルを相乗発揮していくと言う。
「さて、ここまでで分からないことはあったかしら?」
「えと、つまり……オーズとシンフォギアは他人の空似みたいなものってことですよね」
「かみ砕いて言ったらまーそうなるかもしれないわね。歌いながら戦うのがシンフォギアで、変身するときに歌が流れるのがオーズってとこかしら。多々違いはあれど、私が『櫻井理論』の提唱者って事だけは覚えてくれるかしら?」
続いてはドライバーの解析結果。映司以外が試しにドライバーを腰に当ててもベルトの帯が出現せず、逆に映司がドライバーを腰に当てた瞬間ベルト帯が巻かれたことから、マスター登録している為に映司以外はオーズに変身できない。もう一つはメダルホルダーにはメダルが複数枚内蔵されいていることが明らかになっており、変身者の意思に応じたメダルが取り出せるようになっている。
メダルの内訳は赤黄緑灰青がそれぞれ三枚ずつ。レリーフは赤は鳥類、黄は猫科、緑は昆虫、灰は鈍重な動物、そして青は水棲系の生き物が刻まれていた。しかし、映司が視たビジョンにあった紫色のメダルがそこにはなかった。メダルホルダーの中にも入っていないようで、映司はそのことを弦十郎と了子に伝える。
しかし先ほどの解析作業の際にくまなく解析したものの、それらしき反応は全く観測されなかった。
「さて、ここからが本題だ。映司君。君はオーズに変身でき、ノイズを打ち倒すことができる。本当は子供の君にこんなことは言いたくはない。だが敢えて言わせてもらう。日本政府、得意災害対策機動部二課として、あらためて協力を要請したい。火山映司、君のオーズの力を対ノイズ戦のために、役立ててはくれないだろうか?」
差し出されたのは弦十郎のごつごつとした右手。彼の本音としては、子供である自分には戦うことはせず総てを忘れて元の日常を過ごして欲しいということ。しかし、ノイズに対抗できる手がある以上共に戦ってくれという建前もある。
「……少し時間を、考える時間をください」
***
「あらら、振られちゃったわね弦十郎くん」
ラボを後にした映司の背中を見送って残念がっている様子の了子ではあったが、そんな彼女とは対照的に弦十郎は仕方がないと言いたげに腕を組む。
「茶化さないでくれよ。だが、幼い頃より鍛えてきた翼や、復讐のために戦う奏の二人とは違いある日突然覚悟が無いまま戦う力を手にしちまったんだ。むしろ、彼の力を手にした状況を鑑みれば彼の選択は間違っていないさ」
確かに、と了子も一応は納得する。明確な目的がある二人と比べて、件の少年には戦う理由が見つかってない。ならば映司からドライバーを取り上げてすべて丸っと忘れなさいと言って帰すこともできよう。だがしかし、そんな選択肢は初めから存在しない。
「でも、お上はどう反応するかしら?ドライバーの件はもう報告したんでしょ」
「上は上で、彼を戦力の一つとしか見てないだろうよ。こっちとしては彼には戦いとは無縁の生活を送ってほしいってのが本音なんだがな」
そう言って弦十郎も了子のラボを退室する。
たった一人残された部屋の主は
戦う覚悟がない青年と非情になれない
だが、そんなイラつきもPCモニタに表示した設計図を見るだけで直ぐに解消される。
櫻井了子。否、彼女の中にいるその存在には目的がある。成し遂げなければならない目的が。
必要なモノは時間をかけてでも集めなければならない。しかし、決行のその日まで焦ってはならない。さすればすべてが水の泡になる。
その日が来るまで道化を演じよう。真実を知った連中がその時にどんな間抜け面をする事だろう。そう思うと彼女は小さく笑いだし、ついには我慢できずに高笑いをした。
***
二課施設内の休憩スペース。その自販機横のベンチで映司は天井を見上げていた。
ノイズから人を守れる力が自分にある。だが自分自身にそんな大役が務まるのだろうか。戦うことを選べばこれから幾度となく死の危険に晒されることだろう。しかし、オーズドライバーを扱えるのは映司ただ一人。誰かにその役目を押し付けることは不可能である。
悩み続けては自分自身が納得のできる答えを見出せないまま、飲み終えて空になったドリンクの缶を無意識のうちに握りつぶしていた。
「お、いたいた。そこのアンタちょっといいかな!」
快活な声音に気が付いた映司は視線を向けると、赤い長髪の少女がつかつかと歩いてきた。確か昨日青い髪の少女と交えて三人でノイズを駆逐していた少女だったはずだ。
「えーっと、俺……?」
「ああそうさ。風鳴の旦那から話は聞いてるよ」
「じゃあ昨日のも?」
まーな、と短く返して彼女も自販機で適当なジュースを購入して、映司の返事も聞かず隣に座る。
「そういえば名前聞いてなかったな。アタシは
「俺は火山映司」
奏と名乗った少女は二度三度映司の名前を繰り返す。
それにしても自分より少し年下のこの少女が如何にしてあの鎧を纏って戦えるのだろうかと戦う理由を彼女に訪ねる。
「復讐だよ、家族のな」
あっけらかんに答える彼女の表情は朗らかな笑顔のままで、とても復讐心に駆られた人間のそれには見えない。驚く映司の表情を見て「今は違うさ」と付け加えて一気に缶の中身を飲み干した。
その時、施設内のスピーカーからやかましい程に警報が鳴り響く。慣れていない映司がその騒音に怯む中、奏は先ほどまでの人当たりのよさそうな明朗な笑顔から憤怒の表情に変えて、戸惑い気味の映司に構う事無く脇目も振らず駆け出して、そのまま通路の先へと消えていった。
次いでスピーカーからはノイズの発生を知らせるアナウンスが流れる。場所はそう遠くない市街地の一画。そこで映司は言い表せないほどの不安を抱いた。その不安感に駆られて通路を駆け、弦十郎と鉢合わせすると指令室へと続く道すがら映司は未だに答えが出せないことで謝罪する。
しかし、弦十郎は責めるどころか寧ろもっと悩めなどと言って励ました。
「君が戦うことを悩んでいるのは、死の恐怖があるからじゃないのか?誰だって死ぬのは怖いさ。かく言う俺も、現場で戦う奏と翼もな。だが、逃げることは恥ではない。それも生きるためのはな」
だから、映司がドライバーの所有権を放棄したとしても誰も責めることはないと付け加えて。
気が付かない内に、やらない理由、出来ない理由を探していた映司。痛い思いも死ぬ思いも味わいたくないのに、目の前の大人はそれを否定しない。蔑まない。
指令室を目前にしたところで、映司のスマートフォンに着信が入った。ディスプレイに表示されたのは切歌の名前。弦十郎から許可を貰い回線を開くと慌てているのか切歌の要領を得ない単語の応酬が繰り出されてきたが、セレナが切歌の代わって彼女の悲鳴に近い声を聞いた映司は途端を顔を青褪める。
通話を終えると同時に、意を決し己のなすべきことを自覚した映司は覚悟を決める。
***
まさか二日連続でノイズが出現するとは夢にも思わなかったマリアは現在、路地裏で息を潜めながら通りを闊歩するノイズ達をやり過ごしていた。
たまたまセレナと切歌、調と合流した帰り道に突如として前触れも無く出現したノイズ。命からがら逃げ伸びて、己を囮にして三人からノイズ達を引きはがすことはできた。しかし、大人しく死ぬつもりはない。マリアには生きて両親と再会するという目標がある。それを成就するまでは死ぬわけにはいかない。
タイミングを見計らっては見つからない様に出来るだけ遠ざかるということを繰り返していた彼女だったが、幸運は長続きせず、ふとした拍子で見つかってしまいまたも追われる羽目に。
体力や運動神経には自身があるほうだと自負するマリアだったが、スタミナ切れと極度の緊張感により足がもつれ、開けた場所で倒れてしまう。更に運が悪いことに足がもつれた上に足首を捻ってしまったようだ。
じりじりと距離を詰める一体のノイズ。その背後にはいくつものノイズ達が
誰が見てもマリア一人では覆しようもないこの状況で、歌の様な音が聴こえた。
<タカ・トラ・バッタ>
<タ・ト・バ!タトバタ・ト・バ!>
<Scanning Charge>
何事かと思ったマリアが見上げると、空に赤、黄、緑の三色の光輪が浮かんでいるのが見えた。その三色の光輪を潜り抜ける黒い装甲に仮面を付けた何者かによって放たれるドロップキック、『タトバキック』により、たったの一撃で十体ほどのノイズを一気に倒したのだ。
「ノイズを…倒した……?」
ミサイルやら銃弾やらをも受け付けぬ特性を持つノイズをどういった原理で倒しているのかが理解できないマリア。彼女の目の前では一人の戦士が複数のノイズを相手に、両腕の三枚爪で立ち向かっていた。
一体何者なのか。訝しげに見つめるマリアだったが、次第に視界がぼやけて最後には目の前が真っ暗になって意識を手放した。
***
夢を見ていた。
十年以上前の思い出。
両親と自分と妹の四人で裕福でも貧しくも無い平凡ではあるが、それでも毎日を幸せに暮らしていた。
しかし、何故だか両親の顔が影に隠され表情が読み取れなかった。
寝る前に絵本を読み聞かせてくれたパパと、遠い昔から伝わる
***
「パパ、ママ……!」
「あ、起きた?」
日が沈み、辺りを茜色に染め上げた住宅地。先ほどまで見ていたはずの夢の内容が思い出せずにいたマリアは今、映司に背負わされていた。
「あ!こ、こら降ろしなさっていっつぅ…!!」
「足腫れてるみたいだったからね。家に着くまで我慢してよ?」
聞こえているのかいないのか、痛みやら恥ずかしいやらで抵抗する気が失せたマリアは映司の背中に顔を埋める。同時に、「こんなに大きかったかしら?」と彼の背中をそっと撫でた。
無事に逃げ切って帰宅し、切羽詰まった切歌やセレナから連絡を受けた映司が必死になって探し回り、足首を痛めていて気を失っていたところを発見して今に至ると説明を受けていたが、何処か腑に落ちなかった。映司の説明が下手とかそういう問題ではなく、何か隠しているのではないのかという疑惑が彼女にはあった。
問い詰めようと思ったが、気疲れからかそんな気力は最早残っていない。
対して映司は、背中に感じる二つの大きくて柔らかい感触に何とか反応しない様に必死に耐えていた。
***
「弦十郎さん。俺、変身します。戦います!」
本日の業務を終え、以前から気になっていた映画を何作か借りた帰りで弦十郎は今日から仲間になってしまった映司の顔を思い出す。弱弱しく自身の置かれた状況に戸惑い悩んでいた表情から、自分のなすべきことを理解した決意に満ちた表情に変わっていた。
また未来ある子供を
しかし、こうなれば自分達大人がすべきは彼らを支える事のみ。ならば、と気を取り直した弦十郎は新米の映司が死なない為にも自分の手で稽古を付けるべく帰路を急ぐ。借りてきたアクション映画を観る為にも。
続く