戦姫絶唱シンフォギアAG・歌とメダルと13のコンボ   作:バルバトスルプスレクス

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前回の三つのあらすじ

一つ、二課本部での会議中に突如として超大型ノイズが現れてしまう

二つ、クリスを手駒にしていた黒幕のフィーネの正体は櫻井了子。彼女はオーズと弦十郎を倒して、デュランダルが眠るアビスへと侵入してしまった

そして三つ、崩壊したリディアンの地下から巨塔カ・ディンギルがその姿を現したのだった

Count the Combo 現在オーズが変身したコンボは

タトバ

ガタキリバ

ラトラーター

サゴーゾ

シャウタ

???

???


月と暴走と不死鳥のコンボ

 

 熾烈極める三人の戦姫と先史文明時代の巫女との激闘を再接続され表示されたモニター越しに固唾を飲んで見守っていたのは、弦十郎をはじめとした本部を放棄して脱出した二課の職員達と、未来と彼女のクラスの友人たち数人。リディアン地下に有事の際を想定して設けられた避難スペースで合流し、藤堯が持ち出してきた自前の端末でどうにか生きている回線に繋ぎ、今の外の様子を映し出したのだ。

 

「響、それにあの時のクリスも…!」

 

 モニターの中でクリスが牽制技の一つ『MEGA DEATH PARTY』を巻き散らかしフィーネの四方を囲むも、難なくフィーネに総て振り払われて爆散する。

 

「ヒナはさ、ビッキーがこんな危ない事をしているの知ってたの?」

 

 戸惑いの表情を浮かべる同級生たちに、未来は何も言わず弱々しく頷いてモニターに視線を戻した。

 創世達が戸惑うのも無理はない。自分たちの知らない所で新しく出来た友達が変身ヒロインの様な装束を纏い、命懸けの戦場を駆けているという深夜アニメにありそうな事など誰が想像できるだろうか。同時に、彼女たちの中で響の存在が揺らぎ始めていた。日中の学園生活で見せる屈託のない明るい笑顔を見せる響と、モニターの中で拳法の型を取る響がイコールで結べないからだ。

 それと同時に、以前二人の仲がすれ違った理由も大まかながら判明されて、ほんの少しではある物の理解することは出来た創世と詩織。だが弓美の心境は二人とは違っており、少なからずの恐怖心を抱いていた。

 

 

***

 

 

 撃ち出された多数のミサイルの正体は殺傷力の低い煙幕弾だった。視界を奪われたフィーネに反撃は許さないと煙の中から拳を構えた響と、得物を構えた翼が現れ、徒手空拳と剣術のコンビネーション。顔面を狙う響のハイキックをいなせば、アームドギアを構えた翼が突撃する。アームドギアを鞭で弾き飛ばされても即座に両足に備えられたブレードを展開。『逆羅刹』ならばそう簡単に弾き飛ばされる事も無ければ、絡みつこうとする鞭も両断できる。

 

「今に貴様らもオーズの後を追わせてやる」

 

 響の奇襲を片手間に防ぎながらせせら笑うフィーネの表情を見て翼は最悪の予感が当たっている事に苦虫をかみつぶしたような顔を浮かべる。現に何処を見回しても、防衛に就いていたかもしれないオーズの姿は見当たらない。

 そんな戯言など欠片も信じたくない響と翼。二人に猛攻は尚も止まることなくフィーネの()()()()()()()()()()

 

「本命はこっちだ!ロックオンアクティブ!スナイプ、デストロォイ!!」

 

 そう叫ぶクリスの背には二基の大型ミサイルが装填され、照準を済ませて発射された。誘導性のあるそれは執拗にフィーネを狙い、最後には鞭で両断され、煙を上げて爆散。そのまま二基目のミサイルを探して周囲を見回すが、一向に飛来して迫ってくる気配は無い。まさかと思い視線を上げると、フィーネは忌々し気に強く舌を打ちたくなる光景がそこにあった。

 天に向かって飛翔し続ける二基目のミサイルの先端。クリスはそこにしがみついて軌道を操っていた。これにはフィーネどころか味方である響と翼も驚き困惑の表情を浮かべて、ただその行方を見守るしかできなかった。

 

「足搔いたところで所詮は玩具。カ・ディンギルの発射は止めることなど――!」

 

 不可能だ。そう言いかけたところでクリスの凛とした声での絶唱が、響き渡る。

 

――Gatrandis babel ziggurat edenal

――Emustolronzen fine el baral zizzl

 

 絶唱を紡ぐクリスは成層圏を抜け出し、ありったけのリフレクタークリスタルを展開。それらすべてにフォニックゲイン由来の光のエネルギーが満たされて巨大な蝶の羽が出現。更に両手に握られた二挺のアームドギアの砲身が伸び、巨大化して、二つ合わせて大口径バスターライフルに変化してリフレクタークリスタルに充填されたエネルギーを銃身に満たしていく。

 チャージが完了し、一点収束されたクリスのビーム砲撃とカ・ディンギルの砲撃がせめぎ合う。しかし、例え聖遺物の力を持ち入れようとヒトの身であるクリスには拮抗し続ける程の力はあっても、押し返すほどの威力は持ち合わせていないようで、逆に押し返されてカ・ディンギルの奔流に包まれた。

 砲撃はそのまま月へと向かっていくが、側面を削る程の損害に押しとどめられた。クリスの絶唱は、文字通りの命がけの行動は決して無駄ではなかったのだ。

 そうして荷電粒子砲の軌道をその身を以て変えたクリスは、赤い流星となって堕ちて行った。

 

「仕留め損ねた!?僅かに狙いを逸らされたか!?」

 

「雪音……」

 

「せっかく……仲良くなれたと思ったのに、こんなの無いよ、嫌だよ、嘘だよ……!」

 

 呆然と立ち尽くす翼の隣で、地に膝を付け項垂れて悲しみに暮れる響。絶唱を唄い、超高度から落下して地表に激突してはいくらノイズから身を守るバリアコーティングが施されていようとも、その機能によって落下ダメージが軽減されていようとも、生存は絶望的である。

 

「もっといっぱい、もっとたくさんクリスちゃんと話がしたかったよ。だって話さないと喧嘩することも今よりもっと仲良くなることもできないんだよ?クリスちゃん夢があるって言ってたけど、私クリスちゃんの夢聞けてないままだよ……!」

 

「哀れだったな。自分自身を犠牲にして自分が描いた夢すらも叶えられないとはとんだ愚図だな」

 

(あざ)(わら)うか。命を燃やして大切な守り抜くことを、お前は無駄とせせら笑ったかッ!」

 

 命を賭して飛び立った仲間の行為を侮辱された翼は新たに呼び出したアームドギアを握りしめ、静かに燃え滾る怒りの炎を心に宿す。切っ先はフィーネに向けたまま。このまま自分も絶唱を唄い、フィーネ諸共黄泉の国へ心中しようとするが、今までに味わった事のないおぞましい程の殺気を感じ取って、その出所に視線を向ける。

 そこにいたのは、禍々しく光る赤い目と、体全体が文字通り黒く塗りつぶされた響だった。

 

「ソレガ…夢ゴト命ヲ握リ潰シタ奴ノ言ウコトカァッ!」

 

 暴走状態に陥ってしまった響は弦十郎との特訓で得た徒手空拳ではなく、獲物を仕留める獅子や虎の様な動き。両手の鋭くなった爪での切り裂きをフィーネに浴びせ続けるが、ネフシュタンの性能故かどれ程絶命してもおかしくない程肉体が斬り裂かれても瞬く間に傷が癒えていく。クリスの時よりも再生に要する時間が大幅に短くなっている。

 再生速度の違いを見せられて呆然とする翼だったが、あろうことか暴走響の視界に入ってしまい、黒く染まった拳が無情にも迫る。

 しかしその、拳を受け止めたのは三枚の()のメダルだった。それぞれが意思を持っているかのように浮遊しており、暴走響の興味を十分に引き付けたメダルはゆっくりと移動して、瓦礫の陰から亡霊の様に歩いてくる映司のドライバーに収まった。

 

「生きていたか。死にぞこないが」

 

「………変身」

 

 オースキャナーもメダルと同様に生命を宿しているかのように浮遊し、ひとりでに映司の代わってベルトのメダルを読み込んだ。

 誰かを守るために戦う彼の姿はそこには存在していない。今あるのは、紫のメダルに心を支配された戦闘マシーン。

 

プテラトリケラティラノ

プットティラァァノザウルゥゥス!!

 

 そうして出現した今までに無い三つの紫色のオーラが一つに合わさって映司の胸に吸い込まれたその瞬間、オーズドライバーを中心に氷結し始めた。やがて映司の身体を氷の結晶が包み込むと、間を置かずに結晶を内側から粉砕する一人の影が現れる。

 白いボディに恐竜を思わせる紫の装甲。頭部は翼竜プテラノドン、肩部装甲には角竜トリケラトプスの様な角が左右に一本ずつ、脚部は暴竜ティラノサウルスを思わせるほどに強靭さと鋭さを見せている。

 紫の三枚のメダルを用いたこのコンボの名はプトティラコンボ。フィーネすら知らないオーズの最恐の形態である。そんなオーズに完全に意識が向いた暴走響はフィーネと翼には目もくれず、唸り声を周囲に響き渡らせて突撃。相対するオーズも低く唸って迎え撃つ。

 眼前で繰り広げられる激闘に、フィーネの中の科学者としての(さが)が無意識の内に働いていて、オーズの状況を冷静に分析し始めた。

 

「(あのオーズの紫のメダル。もしやデュランダル護送の時が切っ掛けか?)」

 

 シャウタコンボの鞭が、デュランダルを握った状態で暴走する響に接触したあの日の事を思い出す。恐らくその際に響のガングニールから流れる相当量のフォニックゲインが、鞭を経由してドライバーに作用しいたのだろうと仮説する。

 だが現状ではその仮説を立証することは叶わないため、いつかの為の()()として()()することにして翼に向き直る。

 

「融合したガングニールの欠片が暴走を引き起こし、制御できない力にやがては意識が塗り固められていく。それが融合症例たる立花響の末路だ」

 

「やめろ、立花!私の言葉が分からないのか!!」

 

「無駄だ。最早そいつらはヒトに非ず。ヒトの形をした破壊衝動そのもの。下手に関われば貴様とて肉塊にされる」

 

「だとしてもだ。それでも私は声を掛け続ける、手を伸ばし続ける!」

 

 『千ノ落涙』が辺り一面に降り注ぎ、二人の動きを制限するのと同時に注意を一身に受ける翼。肩越しにフィーネに一瞥して視線を二人の方に戻した。

 

「もう止せ、立花ッ!これ以上は聖遺物との融合を促進させるばかりだッ!オーズもだ!貴方の手にしたその力は、ただ相手を倒す為の者ではない筈だ!」

 

 必死の呼びかけに二人は答える事も無く、ティラノサウルスの尾を模した部位・テイルディバイダ―で周囲の瓦礫等の障害物を破砕するオーズと、獅子や虎のような獰猛さを漂わせる暴走響がぶつかり合う。

 

 

***

 

 

「何なの………、何なのあの二人は!!もう終わり、何もかも……きっとあの二人は私達を殺しに来る!!」

 

 得体の知れない不安感と恐怖心に駆られ、半狂乱に陥ってしまった弓美。創世と詩織が崩れ落ちて泣き叫ぶ彼女を落ち着かせようとしても、

 

「そんな事無い!響も映司さんも私達を助けるために――!!」

 

「アレの何処が私達を助けるっていうの!!」

 

 涙目に叫ぶ弓美に未来の言葉は届かない。

 一方は数時間前のノイズ襲撃時にシェルターまで守ってくれたであろう男。もう一方がよく知るクラスメイト。その二人がいくら人助けの力を持っていても、今の暴走している二人が何かの拍子で自分たちを殺すのではないかと信じて疑わなかった。それほどまでに弓美は心に余裕を持つことが出来なくなっている証拠である。

 

「私は二人を信じる。絶対に」

 

 しかしそれでも未来は諦めずに信じ続ける。オーズは、響は絶対に何とかしてくれるという事を。

 

 

***

 

 

 ヒトであることを捨てて、文字通りの獣となった暴走響とオーズ。そしてその近くでは翼とフィーネが互いの得物で撃ち合っていた。

 しかし、状況は再生能力を持つネフシュタンの鎧を纏うフィーネに分があった。翼もフィーネと変わらない程に負傷しているが、天ノ羽々斬もといシンフォギアシステムには再生能力などと言う都合のいいシステムは存在しておらず、結果的に翼にだけダメージが蓄積されていくのだ。

 

「諦めよ。如何にこの私に斬撃を浴びせようとも、完全聖遺物の前では、再生能力を持つネフシュタンの鎧の前では玩具など役に立たぬ」

 

 切り裂かれたはずの心臓部が再生されたフィーネが不気味な笑みを浮かべる。

 

「雪音の時よりも早い…人の在り方すら捨て去ったか……ッ!」

 

「当然だ。私と融合したネフシュタンの性能だからな。面白かろう?」

 

 その時、カ・ディンギルが再度輝き始めた。まさか、と嫌な予感が翼の胸をよぎる。

 

「カ・ディンギルがいかに最強最大の兵器だとしても、ただの一撃で終わってしまうのであれば兵器としては欠陥品。必要がある限り、何発でも撃ち放てる。その為にエネルギー炉心には不滅の刃デュランダルを取り付けてある。それはまさしく尽きることのない無限の心臓なのだ」

 

 それを聞いた翼は、アームドギアを捨てて暴走響とオーズの間に入った。

 

「二人とも、私はカ・ディンギルを止める」

 

 暴走している二人がカ・ディンギルを止める事は恐らくは出来ない。絶唱を唄えば『天ノ逆鱗』でカ・ディンギルを破壊することは出来るだろうが、その為には幾つもの手順を踏まえる必要がある。

 その為に翼は、迫りくる二人を真正面から抱きしめた。

 

「立花、お前のこの手は束ねて繋げる力の筈だろ?映司さん(オーズ)、貴方のこの力は助けを求める誰かの手を取る為の筈でしょう?頼むから、力をそんな風に使わないでくれ」

 

 優しい声でそう語った翼は、『影縫い』で二人の動きを完全に止めた。これならば、テイルディバイダーで拘束を解除することは難しい事だろう。もしできたとしても、そうなる前に翼が決めれば済む話である。

 入院している奏の顔が脳裏に浮かんできた。もしかしたら永遠にサヨナラしてしまうかもしれない。先日海外進出の件を話したときは、悔しがったり喜んだりと賑やかな反応を示していた。時々意地悪してくる彼女だが、翼は、もし自分がいなくなったら奏はあの性格だから気丈に振舞っても、泣くときは隠れて泣いてしまうであろう場面を容易に想像してしまう。

 

「待たせたな」

 

「どこまでも剣と往くか」

 

「今日に、折れて死んでも、明日に人として歌うために、この()()()が歌うのは戦場(いくさば)ばかりでないと知れッ!!」

 

「ヒトの世界が剣を受け入れることなど在りはしない。在りはしないのだッ!!」

 

 翼は歌う。家族が、友が、仲間が生きるこの世界を救うために現時点で覚えている多くの技を駆使して徐々に、徐々にではあるがフィーネを追い詰めていく。

 『逆羅刹』で鞭を防ぎながら突撃し、隙が出来たところで得意技の『蒼ノ一閃』を放つも簡単に防がれてしまった。しかしそこは風鳴翼。如何に手を潰されようとも次の一手を用意することは忘れず、質量で攻める『天ノ逆鱗』が繰り出される。

 流石のフィーネも結界による防御技『ASGARD』を幾重にも張り、大質量の巨大剣を受け止めた。

 

「本命は……こちらだぁッ!」

 

 足場として繰り出した『天ノ逆鱗』の柄から飛翔し、新たに二振りのアームドギアを呼び出して刀身と足先から炎が燃え盛り、翼のシルエットを不死鳥に変えた。

 繰り出したこの『火鳥極翔斬』と呼ばれるその技は、フィーネの妨害を受けても尚飛翔し続け、エネルギーが臨界点を突破したカ・ディンギルを貫いた。

 激しい爆発が生まれるが、その煙の中から、その炎の中から翼が現れることは無かった。

 

「私の想いはまたも……!」

 

 破壊され燃え上がる塔を見上げてフィーネは今日一番の焦りを見せていた。

 どうしてこうなった。何故こんな結末になってしまうのか。また悠久の時を過ごさなければならないのか。屈辱と絶望を味わう彼女の背後では、正気を取り戻した響と、体が限界を迎えて強制変身解除を迎えて膝をつく映司が翼の決死の行動に涙を流す。

 

「ぁ……ぁ……翼さん……。そんな…………」

 

「まただ……また、俺は……」

 

 

***

 

 

「天羽々斬……反応途絶……ッ!バイタル……確認できません…」

 

 朔也が操作している端末に無情にもその一文が流れると、この場にいた人物たちは涙を流す者と悔しさを露わにする者に分かれていた。

 クリスのイチイバルも反応が途絶している事も合わせて、二人そろって生存しているかさえも疑わしい。

 二人をよく知る弦十郎は、未来ある二人の少女の安否を憂い、同時にフィーネを止めることが出来なかった自分を強く憎んでいた。もっと自分が非情になっていれば、あの時フィーネの芝居に手を止めていなければ、こんな事態にはならなかった。ならなかったはずなのに、と一人強く歯を食いしばる。

 

「身命を賭してカ・ディンギルを破壊したか、翼……お前の歌、世界に届いたぞ……世界を守り切ったぞ……守り切ったんだぞッ!」

 

「わかんないよ……ねぇ、どうして皆は戦うの?痛い思いして、怖い思いして、死ぬために戦ってるんじゃないのッ!」

 

 だが、誰もが皆弦十郎の様な心構えを持ち合わせてはいない。

 命のやり取りなんてアニメや漫画の出来事と捉えている立場にいる一般人の弓美は、どうして死んでるか生きてるかもわからない行動を翼は取ったのかを疑問に思い泣き叫ぶ。平時では例えにアニメを用いて茶化したりツッコミを入れる彼女だが、そんな事を言える余裕が無い。

 泣き続ける弓美に強く平手を打った未来が、同じく涙を流しながら強くしっかりとした口調で語りかける。

 

「わからないのッ?」

 

 未来は知っている。翼もクリスも、映司にそして響も根っこは自分達と同じ人間だ。泣けば涙は流すし、笑えば笑顔にもなれる。ここに来るまでの人生に大きな差異はあれど、特異災害(ノイズ)に対処できる力を持っていようと、皆普通の人とそうそう変わらないのだ。

 

「わからないの……」

 

 普通の人と変わらない筈の響達が戦うのはいつだって、誰かを守る為なのだと。

 未来のその真意を察することが出来た弓美は、膝から崩れ落ちて泣いた。

 

「司令!他の生存者の方々をお連れしました!」

 

「緒川さん、ありがとな」

 

 先程まで他の生存者の有無を確認して別行動を取っていた緒川が、合計十数人程のリディアンの生徒や近隣住民だけでなく、車椅子に乗って目元を包帯で隠している入院中の筈の奏を連れてきた。

 避難民の中で一番幼い少女、響のガングニールが覚醒した時に助けた少女がモニターに映る響に反応を示し、駆け寄った。

 

「あの、ビッキーの事知っているんですか?」

 

「はい。詳しくは言えませんが、うちの子はあの子に助けていただいたんです。自分の危険を顧みずに」

 

「響の人助け…」

 

 ふと弓美は少女に視線を向けていた。

 

「ねぇ、助けてもらった時怖くなかった?」

 

「こわかったよ。こわかったけどね、かっこいいお姉ちゃんが大丈夫だよって言ってくれたんだ」

 

 ――だから泣かなかったよ。

 爛漫な笑顔を浮かべて、弓美の質問に少女はそう返した。

 

「ねぇ、あのかっこいいお姉ちゃん助けられないの?」

 

 無理だ。誰もがそう言いかけて飲み込んだ。助けるとしても、一部の通路はふさがっているし、仮にあの場へ行けたとしてもフィーネに殺されるだけ。卑劣な罠により負傷した弦十郎でさえもだ。

 

「じゃあ、みんなで一緒に応援しようか。すみません、私たちの声を響達に届けるにはどうしたらいいんですか?響達を助けたいんです!」

 

「それならマイクの設備があるから、外のスピーカーに繋げればこちらの声を届けることは出来る。だけど、その為の電力が……」

 

「でしたら非常電源があります。そこを起動させれば」

 

「よし。藤堯は引き続き接続作業を続けてくれ。そして緒川お前は非常電源を頼む」

 

 指示に従った緒川について行く未来達四人は、中途半端に開いた扉の前に辿り着いた。残された隙間の向こうには電力復旧のための予備電源のブレーカーがある。床からの高さは緒川の様な成人男性の平均的な身長程なのだが、そこに通じるまでの隙間は緒川が潜り抜けるには狭すぎていた。

 全身の関節を外せば行けなくはないが、生憎緒川にはそんな芸当は持ち合わせていない。

 

「大人じゃ無理でもあたしならそこから入っていけるッ!アニメだったらこういう時は身体のちっこいキャラの役回りだしね。それで響を助けられるならッ!」

 

 先程の少女とのやり取りですっかり元の調子に戻った弓美が手を上げた。あの少女は響が戦いの中で救った尊い命。響は決して怖い思いをしただけではないと知り、反省していたのだ。

 

「でも、それはアニメの話で――!」

 

「アニメを真に受けて何が悪いのッ!ここでやらなきゃあたしアニメ以下だよッ!頑張らなきゃ、踏ん張らなきゃ非実在青少年にもなれやしないってのに、響の友達だってこの先胸を張って答えられないじゃないッ!」

 

 未来の制止もなんのそのと言わんばかりに饒舌になった弓美に創世と詩織も響を助けるために手を上げた。

 

「みんな、ありがとう……!」

 

 

***

 

 

 破壊され、崩れ落ちるカ・ディンギルの残骸を前にフィーネは苛立ちを爆発させていた。

 今までに荷電粒子砲にかけた時間や資金、労力の殆どが総て無駄になったのだ。よもや玩具に二度までも邪魔されるとは夢にも思わなかった。

 本来の計画であれば、月を破壊することでバラルの呪詛が解かれ、それと同時に重力崩壊を引き起こす。その惑星規模の天変地異を前に恐怖し狼狽える人類を片っ端から、聖遺物の力を振るうフィーネの名の元に帰順するはずであった。

 

「痛みだけが、人の心を繋ぐ絆ッ!たったひとつの真実なのにッ!!それを、お前は――お前たちはッ!」

 

 尚も叫びながら怒り続けるフィーネは茫然自失の響と、意識はある物のダメージが溜まりすぎて自分から動く事も出来ない映司を執拗にけり続ける。

 その姿はまるで、自分思い通りに動かないことに腹を立てて物に当たる子供のようであった。しかし実態はそんな生易しい物ではない。

 響の心は折れきっていた。立て続けに手を取り合った仲間が、友達が、学校が、そして陽だまりである未来もいなくなって、戦う理由を見失っていた。立ち上がることも、暴行を加えるフィーネに対抗する事も出来なくなっていた。

 

「もうずっと遠い昔――あのお方に仕える巫女であった私はいつしかあのお方を、創造主を愛するようになっていたが、この胸の裡を告げることはできなかった。しかし、ある時私が子の胸の想いを伝えようとするその前に私から、人類から言葉が奪われた。バラルの呪詛によって唯一創造主と語り合える統一言語が奪われたのだ。私は今日まで数千年に渡りたった一人、バラルの呪詛を解き放つため抗ってきた。どれほど時間をかけても、どれほどに肉体を喰らいつくしても、いつの日にか、統一言語にて胸の内の想いを届けるために……」

 

 怒りが落ち着き、欠けた月を見上げて吐露するはフィーネの一途な恋の独白。

 それを聞いていた映司には、少なからずのシンパシーを感じていた。マリアに対する恋心を自覚するのが遅すぎて、想いを伝える前に彼女はセレナ達三人と共に日本を発った。フィーネと比べると余りにもスケールが違い過ぎているし、会いに行ける可能性が無いわけでもない。だが、フィーネにはそんな可能性は映司のよりも低いのである。

 

「胸の、想い?……でも、だからって…」

 

「是非を問うな!恋心を知らぬ小娘が!」

 

「やめてください……了子さん!」

 

 声を出すのもやっとなその制止の声は勿論フィーネに届きはしなかった。仮に届く距離であったとしても、頭に血が上っている彼女には決して届かない事だろう。

 ならば、と映司はドライバーから零れ落ちた紫のメダルをケースに収納して、寝そべった状態で赤い三枚のメダルをゆっくりと一枚ずつ装填していくが、フィーネに感づかれてしまったようでネフシュタンの鞭で上半身を拘束されてしまった。これでは、変身することは叶わない。

 

「シンフォギアシステム最大の問題。それは絶唱使用時のバックファイアまたは後遺症にある。融合体であるお前が絶唱を放った場合、果たしてどこまで負荷を抑えられるのか研究者として興味深いところではあるのだが、最早お前で実験してみようとは思わぬ。私のこの身もお前と同じ融合体だからな。新霊長は私一人だけで、私に並ぶ他の者は全て絶やしてくれる」

 

 死なせない程度に痛めつける事に飽きたのか、それとも反応してこない響にほとほと醒めてしまったのか。どちらにせよ、響に対しての興味がすっかり消え失せていた。

 振り上げた二本の鞭の先にクリスが放った時とは違うエネルギー球を作り出したその時、地面から金色に輝く光球がホタルの様に天に昇っていく。

 

「何処だ、一体何処から聞こえてくる。この不快な――歌?いや待て……歌、だと……」

 

 何かの違和感を覚え動揺を隠しきれないフィーネ。映司を縛り上げていた鞭が緩んでいることにさえ気が付かない程に動揺していた。

 この歌の正体は崩壊している校舎に取り付けられていた数々のスピーカーから流れていた、リディアンの校歌を歌う少女たちの歌声であった。

 響にとって日常の象徴たるその効果はしっかりと彼女の耳に届き、耳を澄ませば未来の歌声も交じっている。

 

「聞こえる……聞こえるよ、皆の歌が……私を支えてくれている皆は、いつだって側に……皆が歌っているんだ……。だから、まだ歌える。頑張れる。戦えるッ!!」

 

「行こうか、響ちゃん。変身!」

 

「はい、映司さん!」

 

タカクジャクコンドル

タァァジャァァドルゥゥ!!

 

――Balwisyall nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)

 

――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

 

――Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)

 

 朝日と共に現れた不死鳥が大空を舞い、三本の光の柱から蘇った三人の戦姫達の周囲を飛翔し続け、全身を包んでいた炎をすべて払うとそこには、黒いボディに真紅の装甲とバイザーと複眼を持ち、胸部のオーラングサークルは他のコンボの時と違い不死鳥の紋章に変化していた。

 

「まだ、戦えるだとッ!?何を支えに立ち上がるッ!?何を握って力と変えるッ!?この鳴り渡る不快な歌の仕業か?そうだ、お前がお前達が纏っているモノは何だ?心は確かに折り砕いたはずだ。なのに、何を纏っている?それは私の作ったモノか?それは何の聖遺物なのだ?!お前の、お前達の纏うそれらは一体何だッ!?何なのだッ!?」

 

「シンフォギアー!!」

 

「オーズだ!!」

 

 今ここに、限定解除(エクスドライブ)を手に入れた三人の戦姫達と、不死鳥の異名を持つ仮面の戦士が現れたのだった。

 

 

 

 

 

続く

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