戦姫絶唱シンフォギアAG・歌とメダルと13のコンボ   作:バルバトスルプスレクス

11 / 22
前回の三つのあらすじ

一つ、カ・ディンギルの射線を逸らすべく絶唱を紡いだクリス。しかし、月の完全破壊は免れたが、クリスは地表に激突してしまった

二つ、フィーネに敗れたオーズが突如として新たなコンボに変身。暴走状態に陥っていた響と激突してしまう

そして三つ、戦う気力と体力も残っていなかった四人が、リディアンの生徒達の歌により響達三人はエクスドライブに、映司は不死鳥のコンボに姿を変えた

Count the Combo 現在オーズが変身したコンボは

タトバ

ガタキリバ

ラトラーター

サゴーゾ

シャウタ

プトティラ

タジャドル


夜明けと黙示録と三枚のメダル

 

 夜明けの空に舞う三人の戦姫と真紅の戦士。

 モニターに映る四人の雄姿を視界に収めるのはリディアンの校歌を歌い、響達に自身の無事を報せた未来達リディアンの生徒数名と避難してきた街の住人達。傍らでは響に助けられた少女が目を爛々と輝かせていた。

 一時的に視力を失っている奏はモニターを視る事は出来なくとも、この場で沸き起こる歓声で翼が立ち上がって戦う気力を取り戻したことを理解した。

 後輩たちが歌っている中で弦十郎から翼の敗北を聞いた時は何かの冗談ではないのかと、教えてくれた弦十郎に突っかかりそうにはなったが、例え今は負けたとしても、翼は必ず立ち上がると信じて必死に堪えた。そしてこの歓声を聞いた時には胸の中で渦巻いていた不安は消えていた。

 

「奏さん、翼さんたちが…!」

 

「ああ、分かってるさ」

 

 行け、翼。反撃開始だ!

 もう一度戦い歌う為に立ち上がっただろう友に向けて胸の中でエールを送る。目が見えない今の奏にはそれしかできないが、精一杯できる唯一の方法でもある。

 

 

***

 

 

 響達の纏うシンフォギアはそれぞれのパーソナルカラーが基調になっているのが特徴なのだが、今の彼女たちのギアは白基調にそれぞれのパーソナルカラーが差し色に変化しており、元来飛行脳能力を有していなかったシンフォギアに、新たに飛行能力を秘めた大翼(だいよく)が備わったのだ。

 その三人に並び立つのは、三枚の鳥系コアメダルから変身した真紅のコンボ。それはオーズの変身するコンボの中でも紫のコンボに次ぐ火力を誇っている。頭部は通常のタトバコンボや亜種コンボ時と大きく変化していた。複眼も緑から赤に変色し、赤いバイザーが出現。そしてクジャクの亜種コンボ時よりも飛行能力は桁違いな程に上昇している。

 それぞれの形態の名は、エクスドライブモードとタジャドルコンボ。

 

「みんなの歌声がくれたギアが、私に、私達に負けない力を与えてくれる!クリスちゃんや映司さん、翼さんにもう一度立ち上がる力を与えてくれる歌は戦う力だけじゃない命なんだッ!」

 

「今度こそ了子さん、貴女を止めて見せる!」

 

 不死鳥が描かれたオーラングサークルに添えた左腕に、バックラーの形状に似ているタジャドルコンボの専用武器であるタジャスピナーが召喚される。

 その時、響達三人の胸のマイクユニットからそれぞれ赤、青、黄色の光がタジャスピナーに流れ込んだ。疑問に思ったオーズが中を調べると、見覚えのない三枚のコアメダルらしきメダルが出現。黄色いメダルには槍と拳のレリーフが、青いメダルは日本刀、そして赤いメダルにはクロスボウがそれぞれ刻まれていた。それがガングニール、天羽々斬、イチイバルの力を宿したメダルであると推測した。

 

「二年前の意趣返しと言うのか……だが所詮聖遺物と言えど欠片如きがこの私に勝る等とっ!!」

 

 忌々し気に見上げるフィーネの視界に収まる四人の姿。特にクリスは超高度からの落下、翼はエネルギー臨界のカ・ディンギルへの激突に生じた爆発に飲み込まれそれぞれの生存は絶望的だったはずだ。それが今ではフィーネの頭上で負傷している様子も無いままに滞空しているのだ。

 原因が二年前のネフシュタンの起動実験と同様、沸き上がるフォニックゲインの高まりによるものだと瞬時に理解できたフィーネの頭にクリスの声が響き渡る。

 

――んなこたぁ、どうでもいいんだよ!――

 

「念話までもかッ!」

 

 自分の知らない未知の領域を見せ付けられて虫の居所が悪くなると量子化していたソロモンの杖をその手に呼び出してそれを高く掲げるフィーネ。

 

「限定解除されたギアを纏い、今更見慣れたコンボを遂げて何になる!」

 

 ネフシュタン由来のエネルギーをソロモンの杖に溜めながらの状態でフィーネは響達に念話で語り始める。

 

――そもそもノイズとはバラルの呪詛にて、相互理解を失った人類が同じ人類のみ殺戮するために作り上げた自律兵器――

 

――人が人を殺す為に?!――

 

――バビロニアの宝物庫は扉が開け放たれたままでな。そこから十年に一度の偶然を私は必然を変え、純粋に己の力として使役しているだけのこと――

 

 充填しきったソロモンの杖を掲げると、宝玉の部分から溜められたエネルギー球が発射されて花火の様に爆散した。

 拡散されたエネルギーは千を超えるノイズを生み出し、地を、空を埋め尽くさんばかりに増殖していく。町の方にまだ避難出来ていない人が何人かいるに違いない。今更過ぎる物量戦を仕掛けるを見るに余程フィーネには余裕と言う物が無いのだろう。邪悪な笑みを浮かべているようだが、その面の下は大いに焦っている事だろう。

 

「翼ちゃん、さっきはごめん。俺、暴走してたみたいで」

 

「意識があったんですか?!」

 

「うん。半分だったけど、本当にごめんなさい」

 

「え、映司さんだけの責任じゃないですよ!それを言ったら私だって翼さんに――!」

 

「もういい。二人は私の呼びかけに応えて自分から戻ってくれた。立花はその自分の強さに胸を張ればいいし、オーズは今後出来るだけ紫のメダルの使用を控えてもらえますか?」

 

「え、いや、あの俺変身した時のプロセス覚えてないんだけど?」

 

「控えてもらえますか?」

 

「……はい」

 

「それと立花、作戦行動中は彼をオーズと呼べと司令から言われて無かったか?」

 

「うっ、ご、ごめんなさい……」

 

 翼の指摘に項垂れる響ではあったが、フィーネはオーズの正体なんて分かりきっていると言うのに何故今更こんな指摘を受けなければならないのだろうかと思った所でうっかり念話に出そうなので飲み込んだ。

 

「身内ネタやってる場合か!後れを取るんじゃねーぞ!」

 

 四人が街を跋扈するノイズへと飛翔する。

 三人の戦姫達の歌が各々の出力を高めていく。今までは決定打にならなかった大型ノイズへ装甲を稼働させた響の拳が突き抜けて、後方の二体目も纏めて撃破する。それ程に威力は向上している事に驚きを隠せない響はすぐに次の大型ノイズに狙いをつける。

 その近くではビルの合間を縫うように低空で飛行するオーズが左腕のタジャスピナーから火炎弾を撃ち出して小型大型問わず撃破しつつ、クジャクの羽を模したエネルギー弾を広げて乱射。

 更にタジャスピナーを開き、内部にある七枚の銀色のメダル。セルメダルと呼ばれるその内の三枚を取り除き、ドライバーのメダルをタジャスピナーに再装填。蓋を閉じ、オースキャナーで読み込んだ。

 

タカクジャクコンドルギンギンギン

ギガスキャン!!

 

 突如としてタジャスピナーから炎が湧き出て、瞬く間にオーズの全身を包み込んで巨大な不死鳥が現れた。スキャニングチャージとは違う、三枚以上のメダルの力を開放して放たれるタジャドルコンボ特有の必殺技『マグナブレイズ』だ。

 

「セイヤーっ!!」

 

 燃え盛る炎に身を包み、やがて不死鳥となったオーズが一度に多くの空母型を貫き、その余波で眼下の通常ノイズ達を纏めて焼き尽くしてその全てが爆散する。

 爆散した空母型だった粉塵を突き抜けて現れたのは両手に握られたアームドギアを極限にまで変化させたクリス。

 

――やっさいもっさい!!――

 

 出来上がった大型飛行ユニットを纏う彼女が東北地方の祭囃子の掛け声に合わせて上空からビーム状の『MEGA DETH PARTY』を放てば、一発も外すことなく的確に駆除していく。浮遊する大型の空母ノイズが何度も小型飛行ノイズを吐き出すも、余すことなくイチイバルの餌食になっていた。

 

――すッごいクリスちゃん乱れ打ちぃッ!――

 

――全部狙い撃ってんだッ!――

 

――だったら私がぁ…乱れ打ちだァッ!――

 

 精一杯振りかぶった拳を振りぬいて眼下にいた地上を跋扈する通常型を複数体撃破。更に脚部のジャッキパーツを稼動させてのキックでまた別の空母型をも撃破する。

 続けて翼が強化された得意技『蒼ノ一閃』で空母型二体を葬り去ると、蔓延っていた多くのノイズが何処かへと移動を開始しているのが見えた。どのノイズもわらわらと同じ方角へと走ってはいるが、人間を襲うべく闊歩している様には見えなかった。

 

「どんだけ出ようが、今更ノイズ!」

 

 あたし達の敵じゃねぇと意気揚々にクリスが吠える。

 しかし、何の為にフィーネは悪足掻きの様にも思えるノイズの大量召喚を行ったのだろうか。

 考えられるべきは二つ。

 一つは圧倒的数による物量作戦。万をも超えながら尚も増え続けるノイズを以て、スタミナ切れを狙うという戦法だ。だがしかし、先程もクリスの言った様に、召喚されているのは今まで散々倒してきたタイプのノイズだ。今の四人からしてみれば、恐れるに足らず。それをフィーネが分かっていないことはあり得ないので、これは無いだろう。

 そしてもう一つは、四人の注意を本命から逸らすこと。十分に注意を逸らせておいて、その間にとっておきの奥の手の準備に取り掛かり更なる切札を用意するのだが、カ・ディンギルが倒壊した今、更なる切札があるのだろうか。

 

「ぐぅぁ……がぁっ!!」

 

 その時四人の耳に突如としてフィーネの苦悶の叫びが届いた。

 見るとそこではソロモンの杖で自身の腹部を貫くと言う奇行にフィーネが走っていた。その上ネフシュタンの鎧の回復能力も機能し、杖と肉体が融合。更に残っていた多くのノイズが彼女を覆い始めた。

 ノイズに取り込まれているのかと驚く響に、そうではないとクリスが異を唱えた。

 

「取り込まれているんじゃない。あいつが……フィーネがノイズを取り込んでいるんだッ!」

 

 してやられたと吐き捨てながらも急いでフィーネの元へと急行する。

 ノイズ討伐の為にフィーネから随分と引き離されてしまった。まんまと彼女の策略に乗ってしまった四人は進路を阻む飛行型を蹴散らしながら飛行していくも、阻止するには余りにも遅く、フィーネは炉心としての役割を終えたデュランダルすらも吸収してしまう。

 そうして現れたのは、強襲型よりも、空母型よりも巨大な龍の様な怪物だった。

 今までに相手をしてきたどんなノイズとも比べ物にならない程の威圧感を全身で感じ取る四人だったが、龍はステンドグラスの様な装飾が施されている頭部から極太の破壊光線を吐き出して街を薙いだ。彼方では巨大な爆発が起き、赤く抉れた大地がその高すぎる威力を物語っていた。

 

(さかさ)(うろこ)に触れたのだ。相応の覚悟は出来ているのだろうな?」

 

 二射目を撃ち出す前に、四人はあらゆる角度から龍に目掛けて必殺技を叩き続ける。

 しかし響の強化された拳や蹴りが、クリスのフルバーストが、翼の斬撃波が、オーズの必殺キック『プロミネンスドロップ』が止め処なく龍に攻撃を仕掛けていくが、ネフシュタンの再生能力により深紅の身はどれほど傷つけられようとも、瞬時に傷一つない元の光沢を保ち続けている。

 その龍の体内でフィーネは静かにほくそ笑む。

 

――無駄だ!如何に限定解除されたギアであっても、所詮は聖遺物の欠片から作られた玩具。完全聖遺物に対抗できるなどと思うてくれるな!貴様らとは数が違うのだ!!――

 

 そのフィーネの念話でクリスと翼はあることに気が付いて互いに頷き返す。

 オーズは複眼がほんの一瞬だけ赤から紫に変化。元の赤い複眼に戻り、紫のメダルと新たに生まれた三枚のメダルを取り出すと、ある策が急に浮かび上がって、響に視線を向ける。

 三人の視線を受けて響は戸惑いを見せつつも、三人の意図を察して意を決して応えた。

 

「えぇと…、やってみます!」

 

 視線を交わした四人が動き出す。

 オーズを先頭に、翼とクリスが続いて攻撃を再開する。再度放たれた『プロミネンスドロップ』に、最大まで威力を高めた得意技の進化版『蒼ノ一閃滅破』が龍の喉元を穿つ。すかさずそこに、再生能力が機能する直前に真っ先に内部に進入したクリスの絶え間ないフルバーストが龍の傷口を広げていく。続けて進入した翼とオーズが心臓部のフィーネと相対するが、狙いはその手に握られたデュランダル。

 今のフィーネにネフシュタンの主兵装たる鞭は装備されておらず、しかも攻撃のリソースの殆どが龍の方に割り振られているようで、先程見せた戦闘スキルが今の彼女には無かった。

 

ギンギンギンギンギンギン

ギガキャン!!

 

 だからこそ、今この時がチャンスなのだ。

 セルメダルのみで繰り出されるギガスキャン技を左腕に纏い、オーズはフィーネの手中に収まるデュランダルを殴ってクリスへと弾き飛ばし、取り戻さんと伸びてくるフィーネの触手を翼が総て切り捨てていく。

 目には目を歯には歯を、完全聖遺物には完全聖遺物を。

 数でフィーネが勝るならその分減らせばいい。

 

「今だ、響ちゃん!!」

 

「そいつが切り札だ!」

 

 オーズと翼の合図に響は身構える。

 

「正気をこぼすな、掴み取れ!」

 

「ちょせいっ!」

 

 飛距離が足りず落下し始めるデュランダルをクリスが銃撃で響の元へと弾き飛ばし、距離を稼いでいく。

 響が手を伸ばす。以前デュランダル移送の際には暴走状態に陥ってしまい、甚大な被害を及ぼしていた。その時の記憶はハッキリと残ってはいないが、今の自分ならきっと大丈夫と己に言い聞かせてしっかりとデュランダルを掴み取った。

 瞬間、響の目が赤く染まると途端に体全体が黒く染まっていく。『全てを壊せ、殺せ、潰せ』と強い破壊衝動が剣を握る両手を伝い全身に纏わりついた。いくら限定解除され、通常時よりも多く溢れ出るフォニックゲインをその身に纏わせていても、破壊衝動はお構いなしに響の精神を蝕んでいくが、響は耐える。金色の輝きを放ち絶大な力を誇る聖遺物から来る破壊衝動を必死に耐え続ける。背中を押してくれている皆の為にも、共に戦ってくれている三人の心強い仲間たちの為にも。

 その時、リディアン地下シェルターの出入口を塞いでいたシャッターが吹き飛んだ。

 シャッターを蹴り飛ばせるまでに回復した弦十郎を先頭に、緒川ら二課の職員と友里の肩を借りている奏、リディアンに入学してからできた友達、そして未来が飛び出して、呑まれかけながらも抗い続ける響に声援を送った。

 

「正念場だッ!踏ん張り所だろうがッ!」

 

 腹部を貫かれて相当の痛みが支配している身であると言うのに、居ても立っても居られない彼は自分以上に苦しんでいる弟子の姿を見て腹の底から叫ぶ。

 

「強く自分を意識してください!」

 

「昨日までの自分を!」

 

「これからなりたい自分を!」

 

「ガングニールを信じるんだ!」

 

 緒川が、藤堯が、友里が、奏が響に声援を送る。響が二課に関わってから今日までずっと裏から支えてくれた仲間達や先輩が背中を押してくれている。

 

「屈するな立花ッ!お前が構えた胸の覚悟を私に見せてくれッ!」

 

「皆がお前を信じ、お前に全部賭けてんだッ!お前が自分を信じなくてどうすんだよッ!」

 

 翼とクリスがデュランダルを握る響に手を添える。

 初めはどちらとも衝突する事はあったが、アームドギアを生み出せない響だからこそ、何も握っていないこの手を諦めずに伸ばし続け、手を取り合って分かり合うことが出来た。

 今回もそうだ。ただ了子を、フィーネを倒す為ではない。邪魔な殻をぶっ壊して、その中の彼女に手を伸ばす。

 

「あなたのお節介をッ!」

 

「あんたの人助けをッ!」

 

「今日はあたしたちがッ!」

 

 リディアンで新たに出来た響の友達もまた、響の人助けを日ごろから見て知っていた。だから今度は、今回は彼女たちが響の背中を押す番なのだ。

 地表から送られる響へのエールに煩わしさを感じたフィーネが響達に触手攻撃を繰り出すが、響達を包むバリアフィールドによって阻まれる。ならば今度はと目標を地表の弦十郎達に切り替えて襲い掛かるが、そこはオーズが各コアメダルのギガスキャン技や大量に展開されたクジャクの尾羽を模したエネルギー弾ピーコックフェザーで阻止し続けて妨害も叶わなかった。

 そのフィーネの妨害攻撃に刺激されたのか、デュランダルからの強力なエネルギーがついに響の全身を真っ黒に染め上げた。完全なる暴走状態になってしまったら今度は地表にいるみんなが危ない。一帯に蔓延しているフォニックゲインと気力で必死に紫のメダルの沸き上がる破壊衝動を抑え込みつつフィーネの妨害攻撃を確実に防ぎ続ける。

 

「響ーっ!」

 

 小日向未来が響の名を叫んだ。

 瞬間、響の心と体を蝕んでいた黒い破壊衝動が瞬く間に胸の傷へと吸い込まれていく。あれ程にまで抗うので精一杯であったにもかかわらず、今ではすっかりと体の制御を完全に取り戻すことが出来た。

 振りかざすデュランダルの刀身に光がまとわり、天に向かって伸びだした。

 

「(そうだ。今の私は私だけの力じゃない、この衝動に――塗り潰されてなるものかッ!!)」

 

 暴走状態から克服し、金色の剣を掲げる戦姫。その姿に巫女は恐怖を覚えた。

 

「その力、……何を束ねたッ!?」

 

「響き合うみんなの歌声がくれたシンフォギアで――ッ!!」

 

 振り下ろされた光の刃『Synchrogazer』の威力の前に為す術もなく、龍の体が崩壊していく。

 余りにも強大な威力の前にネフシュタンの回復能力は追いつかない。

 その中で狼狽えているフィーネ。彼女がいる区画でも爆発が連鎖的に生じ、己が内包するネフシュタンの性能をフルに引き出そうとしても、完全聖遺物同士の衝突により生じる対消滅で回復効果を阻害しているのだ。

 

Scanning Charge

 

 そんな崩壊中の龍の体表を突き破って突入したのは、三度目に繰り出されるオーズの必殺技『プロミネンスドロップ』だ。その技は両足のアーマーが展開して猛禽類の脚を思わせる膝蹴り。しかし、ただ単に膝蹴りで終わらせずにオーズはフィーネの両腕を脚でしっかりと掴んで身動きを封じる。

 

ガングニールアメノハバキリイチイバルプテラトリケラティラノ

キャン!!

 

「その体、返して貰う!」

 

 オーズには知る由は無いのだがガングニールと天羽々斬そしてイチイバルのシンフォギアのアームドギアの彫刻が施されたメダルにはフォニックゲイン、紫の恐竜メダルには氷雪だけでなく『無』とも言うべき能力が備わっている。狙いはこれらのメダルによって引き出されるギガスキャン技で櫻井了子の肉体からフィーネの精神を引きはがす事。

 複眼が一瞬だけ紫に染まった際に見得た了子を救う唯一の方法。都合(タイミング)が良すぎる能力ではあったが、今はこの方法に賭けるしかなかった。

 反撃できないこの状態でフィーネの身柄を引きずり出し、そのままタジャスピナーを腹部に叩き付けた。奇しくもそこは、弦十郎が渾身の一撃を繰り出した箇所でもあった。

 

 

***

 

 

 大地が夕焼けの色に染まりだす。

 嘗ては多くの女子生徒の歌声が響いたリディアンの学び舎も、汗を流しながら駆け抜けたグラウンドも見るも無残に更地となって荒れ果てたこの大地を響とオーズの肩を借りてフィーネは弱々しい足取りで歩みを進めていた。

 身に纏っていたネフシュタンの鎧はデュランダルと共に完全に消え去って、その姿は直前に見せていた白衣姿の了子に戻っており、今の彼女からすっかりと覇気が消え去り別人のように様変わりしていた。そこに、先程まで見せていた先史文明期の巫女の面影は残っていない。

 

()()な事を……」

 

 仰向けに寝かされてポツリとつぶやく。

 何故とどめを刺さないのか、何故こんな自分を助けたのか。疑問に満ちた眼差しを受けた二人にはこれ以上フィーネと戦うことも、ましてや命を奪う事など望んでなかった。

 

「もう、終わりにしましょうよ、了子さん」

 

 仮面に覆われていて表情が分からずとも、声音からオーズには敵対の意思が現れていない。

 

「私はフィーネだ…」

 

 乱れた黒髪の隙間から鈍く煌く金色の眼。了子として接してきた時は色付きの眼鏡をかけていたのは、その瞳の色を誤魔化す為の物だったのだと二課の誰もが理解できた。

 

「言ったであろう?櫻井了子の意識は食い尽くしたと」

 

「そうですけど……俺にはそう思えないんです。クリスちゃんや弦十郎さんをいつでも殺せるはずだったのにそうしなかったのは…、クリスちゃんにカ・ディンギルの事を教えたのは…」

 

 本当は本の僅かながらに残っていた了子の意思が止めてもらいたかったのではないかと。そう言いたかったオーズに答えるつもりは無いとフィーネが手で制した。どちらもフィーネの思惑でしかなく、了子の意思は関係ないと、止めてもらいたかったわけでもないと返して彼女は視線をオーズから響へと向ける。

 

「何と言おうと、私にとって、私たちにとって了子さんは了子さんなんです。私たちはきっとこれからもずっと分かり合えます」

 

 響がフィーネの手を取ってクリスの時と変わらずに怒りや憎しみに流されず、同時に相手と分かり合おうと言う姿勢を見せる。

 そのやり方は、フィーネの取ろうとした行動とは正反対のものだった。

 クリスにも言ったように、フィーネは痛みで人と人を繋ぎとめようとした。

 そもそもノイズが如何にして生まれたのか。それが先史文明期の人間によって生み出されたとフィーネは語りだす。昨日まで分かり合い手を取り合っていた人間同士が統一言語を失った瞬間、敵同士になり殺し合う事を求めた。そう言った人間たちが分かり合えないと判断し、フィーネはこのやり方を選んだのだ。

 

「人が言葉よりも強く繋がれること。それが分からない私たちじゃありません」

 

 響の両手でしっかりと握り締められていたフィーネの掌がゆっくりと淡く輝き始めると次第に巫女の全身を巡って温かく優しい光が包み込む。オーズが最後に決めたギガスキャン技が今作用し始めた。櫻井了子の肉体が先史文明期の亡霊から解き放たれる。

 フィーネの最期か。ふいにクリスがそう呟くが、当の本人がそれを否定する。

 

「私は死なん。例えこの身が朽ち果てようと、魂までは朽ち果てない。聖遺物の発するアウフヴァッヘン波形がある限り、私は何度だって世界に蘇る。それが何処の時代の何処の場所でも……それがこの私、永遠の刹那に存在し続ける巫女、フィーネなのだ…」

 

 先史文明期の巫女を包む輝きが徐々に強くなっていく。

 

「じゃあ、最後に。蘇る度に私たちの代わりにみんなに伝えてください」

 

「この世界に痛みを与えるだけの力なんて必要ないってこと。俺達は言葉を越えて一つになれて、未来(みらい)にきっと手を繋げられることを」

 

「私たちにはそれを伝えられないから、了子さんにしか出来ないから」

 

「だから貴女に、未来を託します。()()は俺達が手を取り合って、守ってみせます!」

 

 オーズの手も重なった。

 今まで痛みや悲しみだけを伝えてきたのだったなら、次からは優しさは勿論強さと温かさを伝えてほしい。そう受け取ったフィーネは呆れながらも、微笑みを浮かべる。

 

「私からも最後に……胸の歌を信じなさい。そしてどれだけ伸ばした手を払われようとも、最後まで諦めないで」

 

 やがて完全に光に包まれると元の櫻井了子の身体だけが残り、先史文明期の巫女の魂は光の粒子となって、宵の明星が輝きだした大空へと溶けていった。

 だが、これで全てが解決したという事にはならない。

 クリスが命がけで絶唱を用いて荷電粒子砲を逸らしても、それによって生じた月の欠片。藤堯が持ち出した端末ではじき出した軌道計算によると、欠片の落下は免れないとのこと。

 激戦の最中で気にする余裕が無かったにせよ、このままでは()()は滅亡してしまうだろう。

 

「じゃあ俺、ちょっと行ってきます」

 

 危機感と絶望感が漂うこの場に相応しくないまるでコンビニに行くような声音でオーズは背面のウィングを広げ、落下し続ける月の欠片へと飛翔。そのまま成層圏を抜け出すと、オーズの鎧の性能か呼吸が地上にいるときと変わらず出来ている事に驚きつつも、迫る強大な欠片を見据えてオースキャナーを構える。

 その時、背後から三人の少女達が紡ぎ出す爽やかな歌が虚空に響き渡る。

 

――そんなに(ヒー)(ロー)になりたいのかよ?――

 

――映司さん、私たちを置いてけぼりにするなんてヒドイですよー!――

 

――まさかこんな大舞台で挽歌を歌う事になるなんて、想いもよりませんでしたよ!――

 

「皆……何でッ?!」

 

 たった一人で事を済ませようとしたオーズに呆れた顔して三人はここまで翔んできた。

 三人ともオーズが己の命を棄ててまで月の欠片を破壊するとは思ってもいなかったが、どうせやるならば手が多い方が良いだろうとのことで後を付いてきたのだと言う。

 色々と言いたいことがあったオーズだが、ここまで付いて来たのなら共に事に当たるしかないだろう。三人は絶唱を紡いで己のフォニックゲインを極限に高めていき、オーズはオースキャナーを構えた。

 

――Gatrandis babel ziggurat edenal

 

Scanning Charge

 

――Emustolronzen fine el baral zizzl

 

Scanning Charge

 

――Gatrandis babel ziggurat edenal

 

Scanning Charge

 

――Emustolronzen fine el baral zizzl

 

タカクジャクコンドルギンギンギン

ギガスキャン!!

 

 絶唱によるブーストで翼はアームドギアを肥大化させ、クリスは限界までミサイルを生み出し、響は両手足の装甲に内蔵されたハンマーパーツとジャッキを最大限引き伸ばし、オーズは三連続のスキャニングチャージで活性化させたベルトの赤いメダルを用いてギガスキャン。

 タジャスピナーから溢れ出る炎が四人を包み込む程の巨大な不死鳥が一瞬だけ形成されると、余剰エネルギーがオーズから響達に行き渡り、その剣に、その矢に、その拳に炎が宿る。

 そうして放たれる四種の攻撃。

 粉々に砕け散る月の欠片。

 口から血を流す戦姫達と、仮面に罅が走る不死鳥。

 命を賭けた四人の奮闘が、世界を救った。

 

 

***

 

 

 後にルナ・アタック事変と呼ばれるようになったあの日から、実に三週間の時間が経過。被害を受けた地区は未だに復興の只中にあり、未だに倒壊の危機が見える家屋がそのままの状態で放置されている。

 落下する月の欠片を破壊し、見事に世界を救った筈の四人は、事件後の捜索の甲斐も無く打ち切られて、作戦行動中の行方不明から死亡扱いになっていた。

 雨が降りしきる中、傘を差さずに手向けの花束を抱えて機密上の関係で名前も何も刻まれていない墓前で佇んでいるのは小日向未来ただ一人。弦十郎に渡した響の写真が目印にされているその墓を前にして、膝から崩れ落ちて泣き出した。

 響が死んだなんて未来には到底信じられる事ではなかった。未だに遺体が見付かってないから生きているかもしれないと昨日まで強く思っていたが、何も入っていない何も刻まれていないその墓を見て、響はまだ生きているかもしれないと言うその思いは無惨にも打ち砕かれてしまった。

 立花響はもういない。彼女は死んだのだと突きつけられている様で。

 いつの間にか雨は止んだものの、未来の内面は晴れないまま。

 その時、車のスリップ音と激突音が未来の耳に届いた。涙を拭ってその場に走ると、そこではジリジリと迫り寄せるノイズから一人の女性が大破した車から逃げ出していた場面であった。

 中学時代陸上部だった未来は、女性の手を取って駆け出した。

 諦めちゃダメだ。響達がつないでくれた今を無駄にしないためにも。

 入り組んだ路地に身を隠し、廃屋を抜けつつ二人は走り続けるが、未来に手を引かれている女性が限界を迎えていた。

 

「もう、ダメ………動けない…!」

 

 過度の緊張感が祟り、積もった疲労感が女性の体力を奪いその場に膝をついてしまった。

 未来が女性の方を見ると、その背後に続々と撒いた筈のノイズが徐々に姿を表しており、進行方向からもまたノイズが群れを成して二人を完全に囲んでいた。

 逃げ場がなくなったというのに、未来は諦めない。恐怖で蹲る女性を守る様に両手を広げ立つ。

 

――Balwisyall nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)

 

 突如として未来の耳に届く()()。ノイズの群れを瞬く間に葬る四つの軌跡。

 もしかして、と視線を巡らせるとそこには、クリスと翼。オーズの変身を解いた映司。

 

「ごめん未来……色々と機密を守らなきゃいけなくてさ……未来にはまたホントのことが言えなかったんだ」

 

 そして、満面の笑顔を浮かべた響が皆揃って生きていたのだった。

 親友が生きていたことに未来は感極まって響に駆け寄って抱き着いた。

 

 

***

 

 

 感動の再会の一場面を見ていた映司。青春だなぁと年より臭い独り言を漏らして、先程まで腰に着けていたドライバーに目を落とす。あの戦いの最中に訪れた都合が良すぎた現象が気掛かりで、了子不在の今詳しく調べる事が出来ないでいた。今思い返してみれば()()()()()()()()感覚に近かった。これがオーズドライバーの完全聖遺物たる所以(ゆえん)なのだろうか。

 だがしかし、フィーネがいなくなろうと、ソロモンの杖が厳重に保管されようともノイズの発生は止まらない。事件は解決しても、ノイズが発生する限り映司達の戦いに終わりは無い。

 未来が命がけで守った女性には二課の女性スタッフが付いており、機密関連の念書を書かせていた。今回は間に合いはしたが、今後同じ様に救い出せるとは限らない。そうならない為にも、映司は改めて脅威に立ち向かうだけでなく、助けを求めている手を取り続ける決意を決めた。

 

 

 

 

 

第一部 完




今回で無印編は完結し、次回しないを投稿いたしましたらG編に入ります

前回の投稿から5か月経ってしまいました

自分自身初のシンフォギア二次なので、Blu-rayboxやXDUや様々なサイトでセリフやら何やらを確認しつつ今日でようやく無印編を完結する運びとなりました

これもひとえに皆様の応援のおかげでここまで来ることが出来ました

これからも応援ご意見ご感想をお待ちしております
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。