戦姫絶唱シンフォギアAG・歌とメダルと13のコンボ 作:バルバトスルプスレクス
新章G編 始動
Count the Combo 現在オーズが変身したコンボは
タトバ
ガタキリバ
ラトラーター
サゴーゾ
シャウタ
???
???
???
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???
プトティラ
タジャドル
フィーネが齎したルナ・アタック事変から三か月。翼が出演する大型ミュージックフェス会場の一画で、翼のマネージャー補佐の仕事に就いている映司は、目の前の事象に困惑の表情を隠せないでいた。
ケータリングの料理を前に反復横飛びをしながらタッパーに料理を栄養価を計算した上でバランス良く敷き詰めるのは今宵翼と共演する歌姫にして、二年半前に日本を発ったマリア・カデンツァヴナ・イヴ。デビュー二ヶ月弱で全米ヒットチャートに名を連ねるトップアーティストであるはずが、今映司の目の前では何かをぼやきながらタッパー詰めを続けるばかり。そんな彼女の前には、映司に向けてSOSの視線を送り続ける調理スタッフが一人。ちょっと助けてくれと言わんばかりの、雨の日に捨てられずぶ濡れになっている子犬の様な視線を送り続けている。
会場地下の駐車場で二課所有の車を停め、先に下ろして現在控室で打ち合わせ中の翼と慎次の二人と合流しようと通路を進めばこの始末。
何年か前、小学生の時分にバイキングレストランで似たような行動をしていた事を思い出した映司が声を掛けた。
「やぁマリア。久し振り」
努めて朗らかな笑顔を出来る限り精一杯で浮かべる映司。
一方、声をかけられたマリアはと言うと。油の差し忘れたロボットの様にゆっくりと振り返る。少々青褪めた引き攣った笑顔に冷や汗が一つ。久し振りに見るマリアの顔は舞台用の化粧が施されており、最後に会ってから大人の女性としての成長を遂げていた。が、まるで見られたくないものを見られてしまった時の様な見開いた眼の強張った表情が、その評価がややマイナス面に引っ張られていた。
「あ、あら。久し振りじゃない映司。二年半振りかしらね」
タッパーを後ろ手に隠しはしたが時すでに遅し。先程までの奇行などまるで無かったかのように振舞うマリアは精一杯誤魔化してながら先程の光景を忘れろと言いたげに視線を向ける。こういう時のマリアの機嫌を損ねるとロクな事が起きない思い出が今までにあったから、取り合えず己の胸に留めておくことにした。
再会の挨拶もそこそこに、向こうでの生活や家族と再会できたのかを聞き出そうとするが、時間が押し迫っているのかそれとも羞恥心からかマリアは食べ物を詰めたタッパーを両手にそそくさと自身の控室へと走り去っていた。
余程タッパーにケータリング料理を詰め込むことが、世界の歌姫と言う立場上余りにも褒められたものではないからだろうか。
そんな疑問を持ちながらも、映司は待ち人のいる場所へと歩みを進める。
***
「それで、会話の一つや二つしてこなかったんですか?」
あてがわれた控室で、映司から先程交わしたマリアとのやり取りを聞かされた翼が首をかしげる。
「うん。何だかとても慌ててたみたいでさ……」
反復横跳びしながらケータリング料理のタッパー詰めの事は本人の名誉の為に見なかった事にして、当たり障りの無い程度に一から順に説明した映司は最後に見たマリアの様子を思い出していた。彼女からしてみれば、立場上みっともない所を見られた事による羞恥心で占められていたに違いないだろう。
しかし、立場の違いはあれど十年近くも共に家族として過ごしてきた仲なのだから、今更恥ずかしがる必要も無いだろうに、と映司は思う。口には出さない様にして。
「会話する程の余裕が無かったんでしょうね」
ツヴァイウィングのデビュー以来この業界を見てきた立場での慎次の憶測はあながち間違ってはいないだろう。
今日行われるライブ、『QUEEN of MUSIC』は最大規模の音楽の祭典。卒業後は活動の拠点を本格的にイギリスに移すことになる風鳴翼と、新進気鋭のアーティスト、マリア・カデンツァヴナ・イヴは今宵限りの特別なユニットを組んで臨む一大イベント。更には世界同時生継も兼ねており、これも二人のネームバリューによるものが大きい。
そして今、本番の時を刻一刻と待つ翼の表情に緊張の二文字は見られない。或いは見せない様にしているのだろう。ツヴァイウィング時代から築いてきたキャリアの賜物である。
その時、控室の外からマリアのマネージャーを名乗る抑揚のない男性の声がする。
翼が入室を促すと、現れたのは肩に人形を乗せた無表情の男だった。
「おはよございます。私マリア・カデンツァヴナ・イヴのマネージャーを務めております、
無表情無感情と言ったような語りで挨拶する清彦の差し出された手を慎次と映司が順番に握り返す。人形と一瞬だけ目が合って思わず映司は小さく驚いた。
マリア本人は本番直前まで完璧に流れを掴んでおきたいとのことで、当人の代理として楽屋挨拶に訪れたマネージャーの清彦。あまりにも機械的な語り口調で、事務的な会話を終えた彼はにべもなく控室を後にした。
清彦が去った後で、映司にはほんの少しの違和感が生まれていた。ケータリングサービスの前で反復横跳びをしていた彼女に時間に追われている様子や羞恥心はあれど今思えば、あの様子は都合の悪い相手に会ったような、
そのまま映司の違和感は解消されないままに、翼のリハーサルの時間を迎えるのであった。
***
会場の殆どを見下ろせる位置にあるVIPルームでは開演の時を今か今かと待ち望んでいるのは板場弓美。ぶんぶんと振っている両手にはこの会場で購入したサイリウムが、弓美のその動きに合わせて光の軌跡を描き出す。
その背後には創世と詩織、未来の三人が備え付けの無駄に座り心地の良いソファーに腰かけ、弓美程興奮しないにしろ同じようにその時を待ち望んでいた。
「今日は本当にありがとうございます奏さん!」
「いいっていいって」
ルナ・アタック事変終息の折、響達の代わりに何度もお見舞いに訪れた事もあって交流が始まり、何時しか奏と親しい間柄になっていた未来達四人。中でも創世、詩織、弓美の三人は新校舎に移転してから初めての秋桜祭での出し物で、このライブを参考に何か出来ないかと息巻いていたのだが、チケットの事前予約をするも即日完売。ダメもとで二課と繋がりのある響や未来そして奏の三人に相談をしたところ、奏経由で翼からVIPルームチケット五人分が送られ今に至る。
今や奏は運動能力と視力が全盛期よりも低下しており、度が強めの眼鏡と杖無しの生活は困難となっていた。しかしそれでも彼女は逞しく、辛く苦しいリハビリを熟し続け先月やっと退院出来たばかりだ。
「それにしても、響もクリスも災難だったな」
奏の言う災難とは山口県にある米軍岩国基地で起きたノイズの襲撃の事だ。
そもそもその二人は、岩国基地まで完全聖遺物ソロモンの杖の護送任務に就いていた。その護送中にノイズの襲撃に遭うもつい今朝方漸く辿り着いた矢先にその襲撃が起きたのだ。
現在は二課の用意したヘリでこの会場に向かっている最中。いくらヘリの速度が速かろうと、基地のある山口県からこの会場に到着するまでかなりの時間を要してしまうため、開演と同時に到着することは不可能である。奏の言う災難の正体こそがそれなのだ。
開演の時間まであと僅か。
まるであの時とは真逆だなと思う未来であった。
***
翼から眼鏡の事を指摘された慎次と別れた映司は舞台裏で懐にオーズドライバーを忍ばせて待機していた。
岩国基地で響達が遭遇したノイズの襲撃の際、多くの死傷者が出ただけでなく何故かソロモンの杖が紛失。事態が収拾した際に仮設本部で指揮を執っていた弦十郎が偶発的な物ではなく、何者かの手引きによって引き起こされた可能性があると推測したからだ。だが、確実な証拠は無く飽くまでも推測の域を出ない。
翼には慎次がある程度はぐらかして事の詳細を伝えている。防人たる彼女故、この事態が気にかかってしまうのは想像に難くはない。しかし、今の彼女の戦場はこのライブだ。歌女としての風鳴翼の歌を今か今かと待ち望んでいる大勢のファンがいる。彼ら彼女らの期待に応える為にも、この場を疎かにしてはならない。慎次曰く、風鳴翼の歌は戦う為だけの歌ではないのだと言う。
仮にこの会場内または周辺にノイズの反応が出たとすればその時は映司がオーズに変身して対処するだけの話。
そして、程なくしてライブがスタートする。
ステージにはレイピアの様な装飾が施されたマイクを手にする二人の歌女。
風鳴翼とマリア・カデンツァヴナ・イヴの二人が言葉を交わし、歌を紡ぎ出した。
今日の為に書き下ろされた新曲『不死鳥のフランメ』を高らかに力強く歌い上げ、それだけでなくステージを駆けて観客席のファン達を大いに盛り上がらせる。更にそのステージでは炎が舞い、駆けるたびにステージの
『ありがとう、皆!私は、いつも皆から沢山の勇気を分けてもらっている。だから、今日はいつも私の歌を聴いてくれている人達に少しでも勇気を分けて上げられたらと思っている!』
『私の歌を全部世界中にくれて上げる。振り返らない、全力疾走だッ!ついてこられる奴だけついて来いッ!!』
世界中で歓声が沸く。ヨーロッパにアメリカだけでなく中東やその他多くの国々で彼女たちの歌に多くの人々が魅了されている事だろう。
ステージの裏で華々しく輝く幼馴染の姿を見て、映司は思わず感動の涙を流していた。
『今日のライブに参加出来た事に感謝している。そしてこの大舞台に日本のトップアーティスト風鳴翼とユニットを組み歌えたことも』
『私も素晴らしいアーティストと出会えた事を光栄に思う』
壇上の二人が握手を交わすと更に歓声が沸いた。日米を代表するアーティスト二人と、彼女たちを心から慕う大勢のファン達の心が今一つに重なったことだろう。
翼のファン達がマリアを賞賛し、マリアのファン達も同じように翼を賞賛する。
『私達が世界に伝えていかなきゃね?歌には力があることを』
『それは世界を変えていける力だ』
日米二人の歌女が互いに賞賛し合う。歴史的瞬間に立ち会えた事で更に興奮する観客たちを見て、マリアは一瞬だけ表情を曇らせてステージの上を歩き出す。その彼女の表情は観客達は勿論、ステージ裏の映司にも隣にいた翼でさえも気づかない。
『そして、もう一つ』
刹那。衣装を翻すマリアに応じる様に、会場の至る所に多くのノイズが緑色の閃光を弾けさせて現れる。数千に及ぶノイズの大群に映司はすかさずオーズに変身しようとするが、何か様子がおかしい事に気が付いた。
元来ノイズは人間を標的に襲い諸共炭化する先史文明期の産物。ソロモンの杖の制御下でなければ、奏が絶唱を紡いだあの日、響の胸にガングニールの破片が突き刺さったあの日の様に多くの人たちが炭化させられてしまう。
だが、しかし。
『……狼狽えるな』
壇上から微かに聞こえたその一言が映司の耳に入ったかと思えば、その一言は更に大きな声で繰り返された。
『狼狽えるなぁッ!!』
静寂。まるで一切の波紋すらない湖面の様な静けさ。
壇上の歌姫の叫びが、パニックに包まれた会場内の観客達を静めさせた。
よくよく見れば出現したノイズ達も何処か様子がおかしい。余りにも綺麗に並んでいる。綺麗に並び過ぎている。まるで次の命令を待ちわびている兵隊の様に、整列しているのだ。
マリアと翼が壇上で何か一言二言言葉を交わしているこの隙に、静止しているノイズの駆除をすべく映司はタカ、トラ、バッタのメダルを
<サメ・クジラ・オオカミウオ>
同時に、オースキャナーが読み上げるものよりも若干くぐもった音声がオーズの背後で鳴った。
振り返り見てみれば、そこには魚を模した槍を携え、胸部にはオーズのオーラングサークルとは違いサメとクジラとオオカミウオの三匹が向かい合うような紋章が象られていおり、それ以上に目を疑ったのは、腰の部位には丸鋸に似た形状のベルトに目が行った。
胸部の紋章と同じ位置取りで三枚のコアメダルがはめ込まれていたのだ。
「三枚のメダル?!(オーズと似ている…?!)」
元来完全聖遺物とは先史文明期の異端技術の結晶であり、現代の科学力を以てしても複製は不可能とされている。その性質はシンフォギアシステムのベースにもなっている為か適合者の紡ぐ歌に含まれるフォニックゲインにより活性化する。
その前提があるならば、目の前の仮面の戦士もまたオーズと同類と言えよう。
「ポセイドンと申します。邪魔をしないでいただけますか、オーズ?」
くぐもった声で槍を構えながらの自己紹介をする不審者を前に、オーズは両腕のトラクローを展開して臨戦態勢を取る。
先に動いたのはポセイドンだ。携えた槍を巧みに操り、リーチの長さを活かしてオーズのクロー攻撃を捌いていく。
ならば、とオーズはトラメダルからカマキリメダル、バッタメダルからコンドルメダルに入れ替え、蹴り技を交えて流れを変える。そこからコツを掴まれない様にコンボへの変身は控え、亜種コンボのみで応戦しつつコンボに変身するタイミングを探っていく。
『映司さん聞こえますか?』
「慎次さん、今俺不審者の相手してます!オーズと似た様な聖遺物かと――!」
『私たちはノイズを操る力を以てしてこの星の全ての国家に要求するッ!!』
思われます。そう報告しようとして、ガタゴリタの亜種コンボにメダルを変えた矢先のことだ。
その言葉が宣戦布告の言葉と理解すると同時に、かつて家族として十年近く過ごしてきた
――
更に信じられないことに、彼女の口からシンフォギアの起動に用いる聖詠が、聞き馴染みのない聖詠が紡がれたのだ。
しかし、気を取られてポセイドンの重い一撃を背中に受け、壁に激突。
幼馴染が世界各国に向けて宣戦布告しており、更には自分と同じようにメダルを用いる存在が襲い掛かってくる。何が何だか分からず理解が追い付かないオーズはポセイドンのされるがままに、ダメージを受けていく。亜種コンボのサウドルからサゴーゾのコンボに移行しようとメダルホルダーに手を伸ばす。
『私は、私たちはフィーネ!
ホルダーに手を伸ばしかけて視線が完全に壇上へと向けられたオーズに、ポセイドンの槍による連続攻撃を受け、止めのオオカミウオを象ったオーラを纏った回し蹴りが炸裂した。
続く
新章始まりました
G編にあたるこの章には今回からポセイドンを登場させていただきました
勘の良い方ならば、前書きの追加された六行の『?』がどこでどう活躍するかが分かるかと思われます
そしてオリジナルキャラとしてドクター真木をモデルとしました真木原清彦ですが、何処かのタイミングで人形を落とした後のあのリアクションを入れようかと思います