戦姫絶唱シンフォギアAG・歌とメダルと13のコンボ   作:バルバトスルプスレクス

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前回の三つのあらすじ

一つ、二年半ぶりにマリアと再会した映司だったが、歌姫となった彼女に対して僅かながらの違和感を覚えてしまう

二つ、新たなメダルと謎の戦士の出現に困惑する映司はオーズに変身して応戦する

そして三つ、マリアが黒いガングニールを纏いフィーネの名を高らかに語った

Count the Combo 現在オーズが変身したコンボは

タトバ

ガタキリバ

ラトラーター

サゴーゾ

シャウタ

???

???

???

???

???

???

プトティラ

タジャドル


黒いガングニールと正体とコンビネーション

 

「ガングニールだとッ!?」

 

 特異災害対策機動部二課仮設本部作戦指令室では観測されたアウフヴァッヘン波形の結果に弦十郎の驚きの声が響き渡っていた。

 かつての奏の戦装束にして、今や響の心臓に宿る聖遺物。欠片さえあれば同じシンフォギアがあってもおかしくないのだが、櫻井了子(フィーネ)でなければ形にすることは不可能である。もっとも、そのフィーネは既にこの世には存在しないので、新たなガングニールのシンフォギアが今後現れるにしても、既に作成済みの物がある場合を除けばそれは恐らく無い事だろう。

 前面の巨大モニターに表示された解析結果を覆い隠すようにスーツ姿で蕎麦を勢いよく啜る男の顔が映し出された。今は亡き広木元防衛大臣と同じく二課の心強い後ろ盾の一人、日本国外務省事務次官の斯波田(しばた)賢仁(まさひと)である。

 

『弦の字、厄ネタが暴れてるのはこっちだけじゃなさそうだぜ?』

 

 箸の先を向けてくる斯波田。彼が言うには米国某所にある聖遺物研究機関の一つで大きなトラブルが起き、施設自体は廃墟と化し、保管されていたデータは復元が困難な程破損されていたそうだ。

 更にはフィーネとはまた別の誰かによる痕跡が残されていたという。そのフィーネがルナ・アタック事変で暗躍した先史文明期の巫女なのか、今日本でマリアが名乗り出した組織名なのかは今のところ不明である。

 

「クリスちゃんと響ちゃんの到着まであと30分です!」

 

 振り向きながら叫ぶ藤堯朔也。彼は今その二人と共に行動している同僚の分まで仕事をこなしている。彼とその他の職員達から、オーズが謎の存在であるポセイドンとの交戦中で、会場内に現れたノイズの対処が出来ないでいる報告も上がっている。

 30分以内に解決、または30分間持ち堪えて欲しいと願う他無かった。

 

 

***

 

 

 舞台裏でオーズとポセイドンが戦闘を繰り広げられている報告を緒川からインカム越しに受け取った翼は、第三のガングニールとも言うべきシンフォギアを纏う戦姫を睨む。

 チョーカーの下に隠した天羽々斬のギアペンダント。一度(ひとたび)翼が聖詠を紡げば、天羽々斬のシンフォギアを身に纏うことが出来、観客席を支配しているノイズを一体残らず駆逐することが出来る。しかし、未だに観客達は避難できないままで、各国政府に向けて開示された櫻井理論には装者の正確な情報は記載されていない。今ここでシンフォギアを纏えばどうなるかを知らない翼ではない。

 そうとは知らず黒いガングニールを纏うマリアはレイピアに見立てたマイクを通して己の要求を高らかに宣言する。

 

『我ら武装組織フィーネは各国政府に対して要求する。そうだな、差し当たっては国土の割譲を求めようかッ!もしも24時間以内にこちらの要求が果たされない場合は各国の首都機能がノイズによって憮然となるだろうッ!!』

 

 宣戦布告。誰もがそう受け取らざるを得ない宣言に翼は驚愕し、各国政府はどよめき、斯波田は蕎麦を啜りつつ一笑に付した。

 

「どこまで本気だと言うのか……!?」

 

「私が王道を敷き私たちが住まう為の楽土だ。素晴らしいとは思わないか?」

 

 切っ先を向け、自信満々に答えるその様子で翼はマリアが伊達や酔狂ではないのだろうと観察する。

 

「何を意図しての騙りか知らぬが――!」

 

「私が驕りだと?何を以て驕りだと?」

 

「そうだ。ガングニールのシンフォギアは貴様のような輩に纏えるものではないと覚えろッ!!」

 

 もう我慢の限界だ。かつては本物の姉妹の様に触れ合った奏が纏い、今や一人でも多くの人を救うべく手を差し伸べる為に響が纏うそのガングニールを悪用し、己が欲を満たさんばかりに振るうマリアが許せない。

 今すぐにでも首元のチョーカーを解き放ってギアペンダントを晒しだしてやろう。そうチョーカーに指をかけたその時、慎次の「待ってください翼さんッ!」という必死さが滲む制止の声が翼の耳に届く。

 

『今動けば、翼さんがシンフォギア装者だと世界中に知られてしまいますッ!』

 

「ですが、この状況ではッ――!」

 

『風鳴翼の歌はッ、戦いの歌ばかりではありません!傷付いた人を癒やし勇気づけるための歌もあるのです!』

 

 その言葉に漸く冷静さを取り戻すことが出来た翼であったが、状況は一転せず膠着状態の(ただ)(なか)にある。

 好転するその瞬間まで如何に粘り続けるか。思案し続ける中で翼の中で疑問が生じた。

 今目の前にいる歌姫マリアが以前映司から聞き出した人物像と一致していないのだ。

 引っ込み思案な世話焼き、成績優秀眉目秀麗、少し抜けている節もある、そしてトマトが苦手。厳しくも優しい所謂オカン系女子と言う印象を持っていた。であると言うのに、今そこにいるのは傲慢さを秘めた黒いガングニールの装者としか形容できなかった。

 どうしたものか、どう動くべきなのか。頭の中で持ちうる知識や経験則を総動員して現状を打破する手立てを考えていた。が、それをマリアは煮え切らないと判断して次の一手に打って出た。それは、この状況下では誰もが想像し難い事だった。

 

『今より、会場の観客(オーディエンス)諸君を開放する!速やかに引き取り願おうかッ!!』

 

 

***

 

 

「いけませんね、これでは予定が合いません」

 

 壇上で予想外のセリフを吐き出したマリアにポセイドンが視線を向けた僅かな隙をオーズは見逃さなかった。

 頭部のメダルをライオンに変えて即座にライオンヘッドの効果である強力な閃光ライオネルフラッシュでポセイドンの拘束から逃げ出したオーズは再度メダルを読み込ませた。

 

Scanning Charge

 

 両腕のウナギウィップでポセイドンを拘束し、ライオネルフラッシュで動きをさらに鈍らせてからのコンドルレッグの鋭い両足蹴りがその背をえぐった。衝撃でポセイドンが体勢を崩したことで形勢逆転。

 距離を取り間合いを保ちながら壇上へと向かうオーズだったが、倒しきれていなかったポセイドンによる槍の追撃が再び襲い掛かる。

 

「先ほどはやられましたが、今貴方を向こう側に行かせるわけにはいきません。この場でその命を絶ってもらいます!」

 

「だとしても、あなたを突破してマリアの所へ!」

 

「行かせるとお思いですか?」

 

 何度目かの激突。

 ラウドルからシャウドル、合間を縫って漸くシャウタコンボに変身。同じ海洋生物のメダルを用いた戦士二人。方や一振りの槍を、方や二振りの鞭をその手に握りしめ何度も何度もぶつかり合って火花を散らす。

 オーズのコンボ形態はそれぞれ特殊な固有能力を有している。例えばサゴーゾコンボならば重力操作、ガタキリバコンボは50人にまで分裂というコンボ(ごと)に非常にバラエティに富んでいる。そして今オーズが変身しているシャウタコンボの固有能力は液状化。

 ポセイドンが大振りの一撃を繰り出した瞬間に液状に変化して、ポセイドンの脇をすり抜けて壇上へと飛んだ。

 

 

***

 

 

 時間はほんの少しだけ遡る。

 オーズがポセイドンの拘束から逃げ出せた頃、人質となっていた観客達が会場から全員退避しはじめた中で、壇上のマリアはインカムの向こう側の同志たる恩師からの叱責を受けていた。

 

「このステージの主役は私。人質なんて趣味じゃないわ」

 

『だからと言って血に穢れる事を恐れないで。()()調()を向かわせていますので、作戦目的を履き違えない範囲でおやりなさいマリア』

 

「了解先生(マム)、ありがとう。そしてごめんなさい」

 

 やがて、観客席から未来達を含めて全ての観客達が避難しきって無人となり、ノイズだらけの会場を見渡して寂し気にため息をマリアは軽く漏らす。

 

「帰れるところがある。かつては私にもあった筈なのに」

 

「マリア……貴様は一体……?」

 

 典型的な悪役にも思えた先ほどの光景と、今目の前にいるマリアの行動に違和感を覚えざるを得ない翼は困惑した表情を浮かべる。恐らく今目の前にいるマリアこそが映司から聞かされた人物像と一致することだろう。

 だがしかし、そのマリアはすぐに挑発的な笑みを浮かべて翼に向き直る。

 

「さぁ、観客は皆退去したッ!これでもう被害者が出ることはない。それでも私と戦えないというのであれば、それはあなたの保身のためッ!!それにあなたにはその程度の覚悟しかできてないのかしら?」

 

 かつては響に対して強く覚悟を問いかけていた翼。それが今では逆に自分が覚悟を問われる番となってしまった。ここまで言われたら歯噛みする事しか出来ない。未だ中継は繋がったままで、慎次がどうにかしてくれるまで天羽々斬を纏うことは出来ない。

 結局鞘走れないままの翼にマリアのレイピアマイクが襲い掛かる。しかし翼とて鍛錬の一環として武芸を嗜んでいる身だ。ガングニールのシンフォギアを纏うマリアを生身で打ち倒すことは不可能だが、刃の切っ先を逸らすことは出来る。

 そのままカメラが回っていない死角にまで行けば、天羽々斬を纏うことが出来るはずだ。舞台袖の関係者通用口なら監視カメラはあれど、中継カメラは無い。

 残すはあと一歩。それさえ越えれば。

 しかし、投擲されたマリアのレイピアマイクを飛び越え着地したその時、ヒールが折れ翼はバランスを崩してしまう。

 

「貴女はまだステージを降りることは許されないッ!」

 

 更にそこに追い打ちとしてマリアの回し蹴りを受けて後方へと派手に蹴り飛ばされた。

 そのまま行けば置き去りにされ崩れたままの会場設備の山へと激突することだろう。そうなれば良くて軽い打撲、悪ければ骨折の重傷を負うことになるだろう。

 

「勝手なことをッ!」

 

 翼の落下予測地点に今まで石像の様に静止を続けていたノイズ達数体がわらわらと集まりだした。マリアの小さな叫びがアクシデントである事を物語っていた。

 これで最悪の未来は炭素分解されると言う物に確約されてしまった。

 

「決別だ。歌女であった私に。さぁ聴くが良い、防人の歌をッ!!」

 

――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

 

 会場内を翼の聖詠が響き渡ったのは、裏で緒川が世界各国への中継を強制切断して間もなくのこと。眩い光が爆ぜ、天羽々斬のシンフォギアを纏った翼が『蒼ノ一閃』と『逆羅刹』で群がるノイズ達を切り捨てた。

 

Scanning Charge

 

 そしてポセイドンをすり抜けて駆け付けたオーズの『オクトパニッシュ』が翼の背後を陣取ったノイズを駆逐する。

 

「中継が切断されてるのって、もしかして慎次さんが?」

 

 両手の鞭をしならせて背中越しの翼に確認がてらに真実を問う。

 

「むしろ緒川さん以外に出来ますかッ!」

 

 返事しながらの『千ノ落涙』で残ったノイズを駆逐しきった。

 残るは壇上のマリアと彼女に合流したポセイドンのみ。

 

「いざ推して参るッ!」

 

 刀剣型のアームドギアを手に、マリアと対峙する翼。直ぐ近くではシャウタコンボから亜種コンボのガタゴリバにメダルを変えたオーズがポセイドンに拳を突き立てる。

 翼の流れるような剣技一つ一つを靡かせているマントで受け流しながらカウンターを仕掛ける。同じガングニールと言えど、バトルスタイルは突撃型の二人と違い、カウンターを主体としたバトルスタイル。それは紛れもなく(パチ)(モノ)ではない事を物語っていた。

 

「まさかこのガングニール、本物か……!!」

 

 思わず出た翼の一言に、表情を崩さずそれでいて誇らしげにしながらもマリアは攻撃の手を止めはしない。

 

「ようやくお墨を付けてもらった。あぁ、そうだ。これが私のガングニール!何ものを貫き徹す無双の振りッ!!」

 

「だからとて、私達が引き下がる道理などありはしないッ!!」

 

 激しい戦闘の最中、二人の歌女の攻防は平行したまま長引いていた。

 マリアは決め手に欠け、翼は反撃の手立てを見付けられずに拮抗。その状況を覆すべくオーズが翼の援護に向かうも、ポセイドンがその行く手を阻み続けている為に否が応でもポセイドンの相手をせざるを得なかった。

 更に間が悪い事に、オーズの疲労がピークを迎えていた。完全な疲労を迎える前にメダルを取り換えたとはいえコンボを使用し、更に亜種コンボでの戦闘が長引いた事と蓄積されたポセイドンからのダメージが原因だ。

 

「私を相手に気を取られるとはッ!!」

 

 漸く反撃の糸口を掴んだ翼が、『天ノ逆鱗』に次ぐ威力の新技『風輪火斬』を繰り出した。二振りのアームドギアを双刃刀の様に柄で連結し、刀身に炎を纏わせるその技で、マリアとの距離を一気に縮めていく。

 オーズの足止めをしていたポセイドンも壇上で繰り広げられ、今や終焉を迎えようとしていたマリアと翼の光景に気を取られていた。ここでこの好機を逃さまいとオーズは即座にオースキャナーでベルトのメダルを読み込ませた。バッタレッグで跳躍し、クワガタヘッドから流れ出る電撃を両の剛腕に纏わせて撃ち出す。

 炎の剣と稲妻の剛腕がそのまま相手に直撃するかと思われたが、翼に向かって桃色の丸鋸が、オーズのゴリバゴーンに緑色の刃が複数枚飛んできた。

 攻撃をやめ、翼握った剣を高速回転して丸鋸防ぎ、オーズはポセイドンへの警戒を緩めないままに攻撃の発信源を探る。

 

「もう一度ッ!」

 

「行くデースッ!!」

 

「……何でッ!!」

 

 翼とオーズの真上から二つの影が躍り、『α式 百輪廻』と『切・呪リeッTぉ』と呼ばれるばら蒔き技を繰り出した。

 それら二種の技を切り抜けてオーズは間の抜けた声を漏らした。今日一日でオーズは、火山映司は何度信じられない場面に遭遇したことだろうか。ノイズを従いガングニールを纏ったマリアから始まり、未知のメダルで変身する謎の戦士、そして二年半前にマリアやセレナと共に渡米した妹分二人が装者として現れた。それだけでなく、オーズの正体に三人が気付いていないとは言え、かつての家族に刃を向けてきたのだ。

 

「切歌と調……何で……」

 

 小さく出たオーズの疑問が耳に入らなかった二人は揃ってマリアの隣に並び立つ。

 

「危機一髪」

 

「まさに間一髪だったデス!」

 

 月読調と暁切歌。この二人もまた映司の家族であり、マリアと同じようにオーズの知らぬ間にシンフォギア装者となっていた。

 今まで手紙のやり取りが無かった事に対する疑問が晴れたのと同時に、何故こんな状況になってしまったのかとオーズは不安がる。

 

「ベストタイミングでした。教授には感謝しなければなりませんね」

 

「三人に救われなくても、あの二人から後れを取るような私ではないのだけどね?」

 

 これで戦力差は倍に広がってしまったオーズと翼。このまま戦いが長引いてしまえば、()()に勝機は永遠に訪れない。

 そう、オーズと翼の二人だけならば。

 

「貴様らはそうやって見下ろしてばかりだから勝機を見逃す!」

 

「今だ、クリスちゃん!!」

 

 気が付けば会場の上空には響とクリスを乗せたヘリが浮遊しており、イチイバルのシンフォギアを纏うクリスとガングニールのシンフォギアを纏う響が飛び降りる。

 

「土砂降りなぁぁっ、十億連発ぅッ!!」

 

 挨拶代わりに繰り出されたクリスの『BILLION MAIDEN』。その名の通り10億もの鉛球が彼女の両腕に握られたガトリング砲から吐き出された。

 それだけでなく、間髪入れずに響の拳がステージの表面を砕いた。

 今ここに、六人の装者と二人の仮面の戦士が邂逅する。壇上のマリア達は威圧的な空気を纏いながら、オーズや響達を見下ろしていた。ポセイドンも槍の切っ先を降ろしてマリア達に倣う。

 

「ねぇ、もうやめようよ。今日出逢ったばかりの私たちが争う理由なんて無いよ、無いはずだよッ!!」

 

 ダイナミックな登場をし、突き出した拳でマリア達ではなくステージ表面だけを抉った通り響は争いを基本的には好まない性格だ。だからこそ、一番最初に切った彼女の手札は『対話による和解』だった。奏の負傷により荒んでいた翼や、フィーネの尖兵として現れた雪音クリスとも分かり合うことが出来た。その過程で拳を交える事もあったが響の努力は結果として実り、今では(いくさ)()で共に肩を並べられるまでになった。

 

「今世界がどうなっているかも知らないクセしてそんな綺麗事……!」

 

「そうデス。綺麗事で戦う奴の言うことなんか信じられるものかデス!!」

 

「それに、理由がないのはそちらでしょう。ですが、こちらにはそれがあるんですよ」

 

 苛立ちを見せながら響を拒絶して睨み付ける調と切歌。それとは別に呆れた声音で語るポセイドン。

 それでも尚、響は対話を続ける。話し合えば分かり合える事を知っているし、実現もできた。

 

「そんなッ!私たちは話せば絶対分かり合えるよッ!だから私たちが戦う必要なんか――!!」

 

「何も言うな偽善者ッ!世界には貴女が言う様に全員が全員対話で分かり合おうとする人よりも、薄っぺらい笑顔を振りまいて私腹を肥やす偽善者が多いッ!!」

 

 強く吐き捨てた言葉と共に調の頭部ウィングバインダーが展開され大量の丸鋸が『α式 百輪廻』として降り注ぐ。

 反論はされても攻撃されることは予測していなかった響だったが、オーズのクワガタヘッドの雷撃がそれらを撃ち落として事なきを得る。

 

「しっかりするんだ、響ちゃん!」

 

「!?」

 

「まさかその声……」

 

「映司……なの……?!」

 

 オーズがバックルを水平に戻して変身を解いた。彼の背後ではクリスと翼の抗議の声、インカムを通してくる弦十郎の怒号が飛んできたが、今の映司にそれらの言葉は届かない。

 

「久しぶりだね、調に切歌。マリアはさっきぶりだね」

 

「映司……まさか貴方があの時の……」

 

 この時マリアは思い出していた。リディアンの二回生だったあの日、ノイズに囲まれて絶体絶命の状況だったあの日の事を。そして、その日の夜に映司がたどたどしくお茶を濁していた事も。

 最悪な再会となってしまった事で、辺りは重苦しい空気が漂っていた。マリア達の背後ではポセイドンが何のアクションも見せずただ目の前の出来事を茶の間でドラマを見るかのように傍観に徹していた。

 

「何で三人がシンフォギア装者になったのかは聞かないよ。俺も皆に俺がオーズだったことをずっと隠し続けてきたからね」

 

「えーじ……」

 

「映司さん」

 

 先程まで響に見せていた威圧感もすっかりと消え去り、マリアと映司を交互に見やって狼狽える切歌と調。響達三人もまた警戒の糸を緩めないまま待機していた。

 

「調、響ちゃんは偽善者なんかじゃないよ。響ちゃんは自分に出来る精一杯を今も頑張っているんだ。アメリカ(むこう)で何があったかは分からない。でも、響ちゃんを偽善者なんて呼ぶのって、もしかしてすっごく嫌な事とか辛い事があったんじゃないかな?」

 

 単なる予想でしかない映司の言葉が図星だったのか、調は一度視線を逸らしてウィングバインダーを稼働し、『γ式 卍火車』を八つ当たり気味に繰り出した。

 小型で複数の丸鋸で面の制圧するのとは違い、アームに繋がれていた巨大な二枚の丸鋸を投擲する。

 

「駄目ッ、調!!」

 

 マリアの叫びで我に返った時には、二枚の丸鋸を止める手立ては既に残されていなかった。

 しかし、バックルからメダルを取り出していなかった映司は即座に変身。二つのゴリバゴーンを射出して相殺する。

 それが皮切りになって調は響に、切歌はクリス、マリアは翼に攻撃を仕掛けて、残されたポセイドンとオーズもまた互いに得物をぶつけ合う。

 

「彼女達は最早貴方の知る人間ではありません。我々の目的の為、貴女には今ここで」

 

「そんな事ッ!!」

 

クワガタウナギコンドル

 

 剛腕が瞬く間に電気鞭に、ゴツゴツと角張った脚はしなやかさと鋭さを兼ね備えた真紅の足へと変わる。しかし、如何にメダルを交換しようとも、メダルそれぞれの真価を発揮するコンボでなければ、勝機は薄い。だが、今日も既にシャウタコンボに変身しており、これ以上コンボ状態を維持してしまってはオーズの心身がボロボロに崩壊してしまう事だろう。例え違うコンボに変身してしまえば、より最悪の結果が訪れる事だろう。

 その時だ。会場の中心で強い緑の光が瞬いたかと思えば、巨大なイボ状のノイズが蠢いて生理的に不快な叫びにも似た鳴き声を発して現れた。今までにない種類のノイズ。それはかつてソロモンの杖を使役していたクリスでさえ初めて見る大型のノイズ。

 そのノイズに何のリアクションも示さないマリアが両腕を組んで奏と同じようにガングニールのアームドギアを射出し、黒い槍のその穂先が左右に割れた。

 

「アームドギアを温存していた……だとッ!!」

 

「マリア、一体何を?」

 

 矛先を大型のノイズに向けると、光線技である『HORIZON†SPEAR』で貫いた。

 直撃を受けた大型のノイズは上半分が爆ぜ、破片が周囲に散らばった。同士討ちをして一体何が目的なのか疑問を抱くと、破片のそれぞれが再生されて元の大型のノイズに再生された。最初に召喚された個体も元の状態に再生し終えていた。

 迂闊に攻撃して欠片さえ残ってしまえば分裂再生を繰り返す非常に厄介なタイプ。

 一気に欠片すら残らない程の広域かつ高威力の攻撃を繰り出さなければならない。

 

「絶唱です!」

 

「立花まさか、()()を?!」

 

「馬鹿言うな訓練でもマトモに使えなかったんだぞ!!」

 

「大丈夫、俺がフォローに回るから。赤のコンボでなら……!!」

 

タカクジャクコンドル

タァァジャァァドルゥゥ!!

 

 オーズが不死鳥のコンボに変身を遂げ、タジャスピナーに三枚のレリックメダルを装填。そして肝となる響達三人は手を繋いで絶唱を紡ぐ。

 

「S2CAトライバースト!!」

 

――Gatrandis babel ziggurat edenal

 

――Emustolronzen fine el baral zizzl

 

ガングニールアメノハバキリイチイバルギンギンギン

 

――Gatrandis babel ziggurat edenal

 

――Emustolronzen fine el zizzl

 

キャン!!

 

 絶唱を唄いきり、溢れんばかりの高濃度フォニックゲインが七色の輝きを放って生成される。三人の装者達の負荷はオーズのギガスキャン技で軽減しており、血涙を流すことも吐血することもない。

 やがて、ルナ・アタック事変で月の欠片を砕いた時よりも大量のフォニックゲインがオーズを通して響に収束されていく。

 

「スパーブソングッ!!」

 

「コンビネーションアーツッ!!」

 

「セットハーモニクスッ!!!」

 

「今だ、響ちゃん!!」

 

 オーズの合図で響は両腕の腕部ユニットを右腕に連結し、内臓のタービンを高速回転させて更にフォニックゲインを凝縮させていく。その間に収束しきれていない漏れ出たフォニックゲインが大型のノイズの表皮を引きはがして、本体を露出させる。

 人差し指、中指、薬指、小指、そして親指の順に拳を握り、精一杯天に向かって拳を突き上げた。

 

「これが私たちの絶唱だぁーッ!!」

 

 吹き上げる七色の輝きを放つ成層圏ギリギリまで届くほどの巨大な竜巻が大型のノイズを塵一つ残さず消し去った。

 聖遺物と融合している立花響だからこそ出来る大技がこのS2CAトライバーストである。自身以外の絶唱により生じたエネルギーを調律と制御することで可能となるのだが、故に相応の負荷が集中してしまう。しかし、その負担はレリックメダルを使用したオーズのギガスキャンで分担される。レリックメダル自体フォニックゲイン由来で生まれたメダルである為なのだろうが、それでもオーズ自身にも響と同じ量のダメージが行ってしまう。

 七色の虹が止むと同時にオーズの変身が強制的に解かれ、そのまま映司は意識を失い地に倒れてしまった。間を置いたとはいえコンボの負荷とS2CAのサポートに回った際に引き受けた分の負荷が要因だ。

 フィーネの名を冠した組織。新たな装者達と謎のメダルの戦士の登場。そして、ノイズ襲撃のどさくさに紛失したソロモンの杖の行方。幾つもの課題の前に、つかの間の平和は瞬く間に崩れ去ってしまった。

 

 

 

 

続く

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