戦姫絶唱シンフォギアAG・歌とメダルと13のコンボ 作:バルバトスルプスレクス
一つ、黒いガングニールを纏ったマリアは各国政府に向けて宣戦を布告した
二つ、慎次の機転によりようやくシンフォギアを纏うことができた翼だったが、マリアと同じくシンフォギア装者となっていた調と切歌
そして三つ、分離増殖機能を持つ大型ノイズに、オーズと響達装者らはコンビネーションS2CAを繰り出して窮地を脱したのであった
Count the Combo 現在オーズが変身したコンボは
タトバ
ガタキリバ
ラトラーター
サゴーゾ
シャウタ
???
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プトティラ
タジャドル
マリア・カデンツァヴナ・イヴ率いる武装組織フィーネの宣戦布告から一週間が経った。
その間ノイズの発生も相手側のアウフヴァッヘン波形も観測されない実に不気味な一週間だった。コンボやS2CAの疲労で意識を失った映司が目を覚ましたのは三日前。不用意に変身を解き、その上無防備にも生身を晒した事で静養も兼ねて今は自宅謹慎させている。
二課仮設本部の作戦指令室では、偵察任務中の慎次の通信が届いていた。会場近くで乗り捨てられたトレーラーを調べていたところ、反社会勢力とのどうにもキナ臭い物資のやり取りが記録されていた資料を今し方入手したとのこと。記録からすると、食料や医薬品に医療機材等の物ばかりで、いかがわしい物が何一つないのが却って怪しいと言わざるを得ない。現在慎次はその組事務所から通信しており、引き続き捜査を続行すると言う。
慎次からの通信を終えた弦十郎の胸中では、新たに現れた三人の装者と謎の仮面の戦士がしこりのように残っていた。特に三人の装者はオーズ変身者である火山映司とかつて同じ屋根の下で暮らしていた事は、部下である火山雄二や映司本人から聞いていたため、過日のライブで見せた様子と全くイメージが違っていたのだ。こちらの方も詳しく捜査しなければならないなと小さく漏らして、自身の仕事を続けていた。
「特異災害対策機動部二課司令の風鳴弦十郎です。折り入ってお願いしたいことがございまして……」
***
ルナ・アタック事変の折、リディアンは校舎やグラウンドがカ・ディンギルの屹立により荒れ果ててしまって使い物にならなくなり、今ではかつてはミッション系の廃校となった女子校跡地を新リディアンとして再開していた。
秋桜祭を数日後に控えたここリディアンの教室で、響は授業中上の空になっていた。
もう一つのガングニールは紛れもない本物。ならばそれを纏うマリアにも、響とは違う戦う理由があってもおかしくない。響の戦う理由は
「立花さん」
だとすればマリアの戦う理由は何だろう。移動に使っていたヘリの中で観た中継で言っていたあの宣言が理由と言うには余りにも突拍子が無さ過ぎた。それに、と映司の話とではギャップがあった。もっと詳しい話を聞いてみようにも映司自身は謹慎中で、そもそも住んでいる所さえ知らない。そしてもう一方のマリアと言うよりかは武装組織の方は二課が現在捜索中でどの道訪ねようもない。
「立花さん?」
今日まで一週間と言う時間が経過しており、その間見付かっていない事から余程上手い事隠れているのだろうか。オーズと同じように三枚のメダルで変身する戦士もいるからそれも関連しているかもしれない。
「立花さんッ!!」
もやもやと生まれては解消されない疑問にふけっている響には、担任教諭の雷が落とされたのだった。
***
同じ日の夜。廃病院のシャワールームで轟音を耳にした武装組織フィーネの三人の装者達は、メインモニターが設置された区画へとバスローブや薄着で駆け付けていた。
モニターの前に陣取る三人の男女がマリア達に気が付いて、その映像をマリア達に見せた
「ッ……!!」
モニターに映るのは黒い体表に赤いラインが走ったこの地球上のどんな生物とも似つかない醜悪で凶悪な見た目をしていた怪物。
頻りに吠えては、何かに苦しんでいる様に頭を抱えて壁や床にその身を打ち付けて暴れまわっていた。
「これが伝承にも描かれし共食いすら厭わないネフィリムの飢餓衝動ですか?」
三人の男女の内、銀髪にメタルフレームの眼鏡をかけた男、ドクターウェルと通称されている男が、残りの二人に問う。聖遺物研究を専門としているが、ある理由から車椅子生活を余儀なくされるナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ教授と、マリアのマネージャーであった、真木原清彦。
「いえ、今は彼女が懸命にそれを抑えているのです。ですが、私達には完全にそれを制御できるわけではありません。飽く迄ネフィリムは鍵でしかないのです」
「ええ。全てはフロンティアの為に」
気味の悪い人形に目配せする清彦の脇を通り抜け、画面を食い入るように見るマリアは頻りに同じ名前を呟いて泣き崩れた。静かに咽び泣くマリアの肩をナスターシャは何も言わずそっと手を置いた。
泣き崩れた姉貴分の姿に切歌と調はつい目を背いてしまう。
この一週間、マリア達三人の心は晴れないままだった。敵に回したシンフォギア装者達にかつて共に暮らした家族が味方についていたのだ。これから先幾度となく相対する時が来るだろう。やり辛くなると不意に呟きたくもなるのを抑え込んで切歌と調は精一杯清彦を睨む。
「八つ当たり気味に睨まないでください、切歌さんに調さん。フィーネからオーズの変身者について全く聞かされていませんでしたから。それよりもそろそろフロンティアの視察の時間でしょう」
人形を乗せている腕に着けている腕時計で時刻を確認して、清彦は静かに言った。鬱陶しい視線を送る子供二人を遠ざけたかった事もあるが、一番は計画遂行ただ一つ。
目的地へはマリア達装者三人とナスターシャと清彦の五人。後の留守はウェル一人に任された。
嗚咽を漏らし続けるマリアを宥めながら切歌と調を連れてナスターシャは「留守は任せましたよ」と一言残して奥へと消えていった。
程なくして、暴れまわっていた映像内のネフィリムも落ち着きを見せ、今は体を丸めて眠っていた。
「さて、撒いた餌に気付く頃合いですね」
「ドクター真木原、まさかあの時トレーラーを乗り捨てろと言ったのは……!」
「貴方は手段を選ぶ立場ではない筈ですよ。貴方一人では英雄にはなれません、私が貴方の夢を応援している事を努々忘れない様に」
冷たく淡々と言い切る男の背中をただ見ているだけしか出来ないウェルは、苛立ちを隠せずに地団駄を踏んだ。
ウェルは清彦を嫌っている。肩に乗せた人形と同じく無機質で人間味が全く見えない清彦を嫌っている。しかしながら、聖遺物研究についてはナスターシャに及ばないものの、独自のルートでオーズの所持していないコアメダルを入手して、更にはオリジナルのドライバーを開発する機械技術の知識も豊富であった清彦の才能には少なからず称賛はしている。
しかし、とそこでウェルはふと疑問に思う。
オーズのベルトは完全聖遺物と聞いている。だが、ポセイドンドライバーが人の手によって生み出された今、その前提は果たして正しいと言えるのだろうか。コアメダルが仮に励起している完全聖遺物ならば、その真価を開放する為に解放機となるドライバーは人の手によって作り出されたと考えるのが自然だ。
だが、オーズのドライバーは聞けば800年以上前の欧州にかつて存在していた国の王が使用していたとされており、完全聖遺物と称するには些か若い方だ。ならばコアメダル自体が完全聖遺物と考えるのが自然だろう。
「さて、僕の方も準備に取り掛からねば」
一旦考えるのをやめ、
***
夕暮れ時の新リディアン校舎内を走る一人の影。
二回生にしては真新しい制服に袖を通すは雪音クリス。二課の計らいで編入した彼女は、両親が他界してから失われた日常を謳歌する事になったのだが、ルナ・アタック事変まで過酷な状況下で過ごしてきたため、違和感だらけの学生生活も悪くないなと思っていた矢先の事だった。
息を切らし、時折身を隠しながら何かから逃げ続けていた。追っ手を意識するあまり前方確認を怠ったクリスを待っていたのは、来る文化祭の準備をしていた翼との衝突事故だった。
「雪音か。一体何を慌てて…」
「しっ、あたしは今追われてんだ」
まさかフィーネの装者達が動き出したのかと、一瞬身構える翼だったが、追っ手の正体はクリスのクラスメイトらしき三人の女子生徒。それぞれ眼鏡にカチューシャとポニーテールが特徴的な活発な印象の三人組だ。
「ったく。どいつもこいつも、あたしを日常に引き込もうとしやがる。なんやかんや理由付けてあたしを行事に巻き込もうと一生懸命なクラスの連中だ」
「そうか?存外雪音もまんざらではない様にみえるな」
何処がと言いたくなるが、それが事実でもある為クリスは強く言い返す事が出来なかった。
「それよか、フィーネを名乗る謎の武装集団が現れたんだぞ?あたしらにそんな暇が――って、そっちこそ何やってんだ?」
「見ての通りだ。雪音が巻き込まれかけている学校行事の準備だ。どうせだ、手伝ってくれるな」
廊下に散らばった飾りつけの材料を段ボール箱に戻す翼は、その一部をクリスに見せる。
翼はクリスの一年先輩である。その先輩から手伝えと言われれば無下にする訳にはいかないが、クラスメイトから逃げ切る良い機会であるので不承不承ながらに了承するしかなかった。
翼に連れられた先の教室内でペーパーフラワー作りを手伝わされているクリス。
「それで、どうだ雪音。まだこの生活に馴染めないのか?」
「思春期で年頃の娘と頑張って会話しようとする父親か。まるで馴染んでない奴に言われたかないね」
ぶっきらぼうに返してみるが、あながち間違っていないのも事実。
今までの自分の生活とのギャップが激しくて違和感を覚えずにはいられない。だが、それでいて『
案外悪くないものだなとついにやけてしまう。
その後は翼の最近仲良くなった女子生徒と、クリスを探していた女子生徒達も加わって飾り付け用のペーパーフラワーは予定よりも多く早く完成した。
***
その日の深夜。
緒川から得た情報を基に、極僅かではあるものの人の出入りがあったと言う廃病院を前に響達二課の装者三人は立っていた。
見るからに
かつては人々の怪我や病気を癒して施設も今や見る影もなく、季節外れのお化け屋敷のように朽ちていた。
成る程、アジトにするならもってこいの場所だなと三人はそれぞれ思いながら奥へと進む。怪しくも薄暗い通路を進み続けていく中で、身体が徐々に重くなったような気がしてきた三人の視界に、赤い煙とノイズが突如として現れた。
――
――
――
三人の戦姫が聖詠を紡ぎ、クリスの胸の歌が廃墟内に響き渡る。挨拶代わりの鉛玉の十億連発が続々と出現するノイズを駆逐していき、奥へと向かう。
響の拳と、翼の
いつもであれば現れたノイズは当然三人の連携に為す術も無く塵芥と化す。だがしかし、今日は違う。
弾丸に貫かれたはずのノイズは、そのまま駆逐されずに逆再生の如くその身が蘇る。
翼の得意技『蒼ノ一閃』の斬撃波も効果を見せない。
今までになかった事象に困惑するクリスに翼はハッとある事に気が付いた。
「そうか、ギアの出力が落ちているのかッ!?」
辺りを漂う赤い煙が原因であることを見抜いたところで打開策はS2CA以外に何もない。だが、今ここで使ってもオーズタジャドルコンボのレリックメダルを用いたギガスキャン技が無い状態で使ってしまえば軽減される事の無いバックファイアが響一人に襲い掛かる事になる。
「だがオーズがいたとしても、この煙が消えぬ限り絶唱の威力が規定値に届くとは限らない!」
「そう言うこった!」
展開されたスカートアーマーから『CUT IN CUT OUT』を射出。限られた広さの空間で大火力技を繰り出そうものなら瓦礫の下敷きと言う結末を招く恐れがある。ならば威力が抑えられているのであれば、元々の火力は低くとも数が勝負の技を繰り出せば良いだけの事。
いつもの三倍以上撃ち出してようやくノイズの掃討を完了したクリスが一息つくと、通路の奥の方からオレンジ色の光が見えた。それは響と翼の二人にも見えている。
未だ消えない赤い煙の向こう側、灯りが何一つない真っ暗な闇に包まれたそこに、オレンジ色の光がゆらりと動く。
その正体が異形の怪物であると理解したのは、響達の眼前に迫って鋭い爪を振り下ろした直後だった。
思わず拳で迎撃する響だったが、その怪物は翼の斬撃とクリスの銃弾すらもものともせず、怪物は響達から距離を取って三人の様子を伺っていた。
「アームドギアで迎撃したんだぞッ?!」
「なのに何故炭素と砕けない?」
「もしかして、ノイズ……じゃない?」
「意外と
暗闇からゆっくりとした歩調で現れたウェル。響とクリスはまるで幽霊でも見たかのように驚きの声をあげて困惑する。
一週間前の宣戦布告のあの日、ソロモンの杖とともに消息を絶ったドクターウェル。当初は出現したノイズによって炭素分解されたのではないかと憶測が飛んだが、実際問題件の人物は生存しており尚且つ紛失したはずだった。
「簡単なトリックですよ。あの時、ソロモンの杖はアタッシュケースの中ではなくコートの内側に忍ばせていたんですよ」
「ソロモンの杖を奪う為に、自分で制御し自分に襲わせる芝居を打ったと言うのかッ!」
「まぁ騙したことに関してはすみませんでしたね。ですが、バビロニアの宝物庫よりノイズを呼び出し制御することを可能にするなどこのソロモンの杖をおいて他にありません。そしてこのネフィリムもまた我々の計画に欠かせない大切なピースの一つなんですよ」
掲げて見せた弓に似た形状のその
「ふざけんな!そんなもん騙し取ってるって事ぁ、ロクでもない考えだってことは分かってるんだ!」
「クリスちゃん、駄目!」
それはかつて己が犯した過ちの象徴。口車に乗せられていたとはいえ、抹消することのできない罪の証を見て、途端にクリスは激昂。サイドスカートアーマーからマイクロミサイルを乱射してしまう。しかし、ギアの出力が低下したことにより生じるバックファイアがクリスの体を蝕んで激痛を走らせた。結果打ち出したマイクロミサイル群は暴発して廃墟に火の手が上がる。
その生じた隙により、ウェルは怪物・ネフィリムを収納したケージを上空に召喚した気球に似た飛行型ノイズに投げ渡した。そのノイズの周囲を別の飛行型ノイズが囲んでおり、編隊を組んでケージを提げたノイズを護衛する様に飛び去って行った。
これで一仕事終えたと言わんばかりに一息ついたウェルは、響達に対して両手を挙げて降伏の意を示した。
「くっ、雪音と立花は博士の確保を!あのノイズは私が追う!!」
『無理はするなよ翼!今映司の謹慎を解かして現在急行中だ』
絶刀・天羽々斬のシンフォギアは機動性に富んでいる。故に強化された走力は難なく飛行型ノイズに追随する。走り続けながら『蒼ノ一閃』や『千ノ落涙』で一掃することも可能ではあるが、いつの間にか召喚したのか、それともあらかじめ召喚していたのか通常型のノイズが行く手を阻んで中々思うように追いつくことができない。
徐々に差が開き続けるその時だった。いくつもの雷撃と炎の弾丸が翼の後方から地上の通常ノイズ達を灰燼に帰したのだ。
それがオーズによるものであると翼が認識した時には、すぐそばを風が通り過ぎた。
オーズの亜種コンボの内、もっとも映司が好んで使うガタジャーター。高速移動、三次元立体飛行、そして万能な火力の三拍子がそろった亜種コンボの一つ。
閃光とまでいかずとも、オーズの高速移動で徐々にケージを運ぶノイズとの距離を詰めていく。
『飛べっ、オーズ!』
やがて最後の一体となった飛行ノイズ。しかし、陸路は途切れすぐ先は海。
背面のクジャクを展開する。チーターの脚で得た助走を付けて飛翔。
『仮設本部急速浮上!』
インカムから弦十郎の声が飛び、同時に海面から二課の仮設本部である大型潜水艦の船首が飛び出した。
助走をつけたオーズが飛翔し、仮設本部の船首を足場に一気に距離を詰める。
炎の弾丸と雷撃が一瞬にして飛行型ノイズを撃破して、ケージが落下する。
「これかッ!」
が、間髪入れずに手を伸ばすも、突然現れた槍が伸ばしたオーズの腕に直撃した。
その槍は矛先が海面に突き刺さるように浮いており、天に向けられた柄へ黒いガングニールを纏ったマリアが降り立った。
「マリア……!」
オーズがマリアと同じ視線で滞空する。彼女の手にはネフィリムが入ったケージが提げられており、険しい表情も相まって「はい、どうぞ」と差し出して貰えるとは一ミリも思っていないオーズは、浮上した仮説本部の甲板に降り立つ。
程なくして、拘束したウェルを連行した響とクリスも翼と合流して日の出をバックに佇むマリアを視界に捉えていた。
「時間通りですよ、フィーネ」
「フィーネ……だと?!」
ウェルのその言葉に、クリスが驚きの声をあげた。
その名はルナ・アタック事変の首謀者にして、三人のシンフォギア装者とオーズ達との戦いの末に敗れ、その魂は光になって消えた先史文明期の巫女。
「終わりを意味するその名は我々組織の象徴であり彼女の二つ名でもあるのです」
「そんな……じゃあ、あのマリアさんは……」
「よもや彼女が……!」
マリアこそ、新たに目覚めし再誕したフィーネ。そう宣言したウェルの表情は含みのある笑みを浮かべたままで、焦りの様子すら見せていない。
肉体は違えど、先史文明期の亡霊が今に生きるオーズ達の前に立ちはだかる。
『……やれるのか?』
オーズの身を案じた弦十郎の声が、インカム越しに届く。
「彼女はフィーネなんかじゃないです。マリアはマリアです」
<イチイバル・ガングニール・アメノハバキリ>
コアメダルからレリックメダルに入れ替えたレリックコンボに変えたオーズと、ケージを提げたままのマリアが、甲板にそれぞれ降り立った。ルナ・アタック事変の際にフィーネを打ち倒す鍵となったこのコンボでなら、とオーズはそう判断した。
「いいえ、彼女はフィーネですよオーズ。遺伝子にフィーネの刻印を持つ者を魂の器とし永遠の刹那に存在し続ける輪廻転生システム……リインカネーションッ!」
「じゃあアーティストだったマリアさんは……」
「さぁ、そこまでは」
ウェルの言う通りならば、かつて櫻井了子の魂を喰らい塗りつぶした様に、黒いガングニールを纏う彼女もまた魂を塗りつぶされたことだろう。
そのウェルの言葉は、甲板のオーズの耳にも届いていた。しかし、オーズにはどうしてもそれが真実とは思えず、かぶりを振って頭の中からウェルの言葉を追い出した。
両者ともに槍状のアームドギアを生成してぶつかり合う。
この戦場を埋め尽くすのはマリアの胸の歌。そのとマントを用いた攻撃も相まって
槍を収めたオーズは大腿部から日本刀型のアームドギアを二振り生成し、柄を連結してこちらも接近。
「フッ!」
「セイヤー!」
マリアの刺突とオーズの斬撃が真正面からぶつかる。激しい金属音が海原に響き、戦いの余波で甲板にダメージが走り、仮説本部の船体の損傷具合が進んでいく。このままでは潜航に支障が出てしまうだろう。
『オーズ、マリアを振り払うんだ!』
弦十郎の指示が飛び、オーズは足を振り上げ脚部ブレードを展開。翼の『逆羅刹』の様なカポエラをベースとしたスタイルではないが、真っ向からではなく側面からの攻撃で最大限マリアからの攻撃の軌道を逸らしながら攻めに転じていく。
「このまま!」
「くっ、ふざけるなぁッ!!」
意思を持ち合わせたかのようなマント攻撃で強制的に距離を取られ、体勢を立て直すが急接近するマリアに対処できず距離を詰められ超至近距離からの斬撃を受けたオーズは派手に吹っ飛ばされてしまう。
変身解除までにはなりはしなかったが、マリアが優位のまま戦況は変わらないままだった。
「何やってんだよアイツは。こうなりゃ白騎士のお出ましだぁッ!」
ままならないオーズの姿に業を煮やしたクリスがクロスボウ型のアームドギアを生成してマリアに照準を向けたその時、突如降り注ぐ丸鋸と緑色の影がクリスと響に襲い掛かる。
二度目の会敵。それが月読調の『α式 百輪廻』とイガリマを纏った暁切歌であると理解する。
「なんとぉ!イガリマぁッ!!」
胸の歌を唄う切歌がクリスに肉薄して絶え間ない近接攻撃を繰り出した。廃病院での赤い煙によるデバフ効果が続いているのもあったが、執拗に切歌が距離を詰めてくるので、弓を
同様に響にもシュルシャガナを纏う調が縦横無尽に脚部の内臓式ローラーユニットで地を駆け巡りながら、頭部バインダーの機能を巧みに使い、響を近づけさせない戦法を取っていた。
二人の助太刀に入るべく動き出そうとした翼には、ポセイドンが行く手を阻む。コアメダル由来の純粋な高威力の斬撃を前に、流石の翼も暴挙に徹するしかなかった。
あらかじめクリスと響、二人の不得手な距離を理解している上で、装者としてのキャリアもある翼を足止めし、瞬く間にソロモンの杖もウェルの身柄も切歌と調そしてポセイドン達の手中に収まった。
「時間通りでした。ですが、こちらとしては些か物足りない位でしたがね」
「これ以上は時間の無駄です。今は貴方を回収に来たまでです」
にべもなく無機質に答えるポセイドンのその返答にウェルは肩をすくめた。
「くそったれ……適合係数の低下で身体がまともに動きゃしねえ……」
「でも、いったい何処から……?」
『装者出現の瞬間までアウフヴァッヘン波形、及びその他シグナルの全てがジャミングされている模様ッ!』
『俺たちが持ち得ぬ異端技術……ッ!』
「櫻井女史がいない今がこれ程に厄介とは……!」
ことごとく後れを取っている事に歯噛みするしかない二課の装者とスタッフたち。
甲板の方ではオーズをいつでも下せる筈のマリアが、わき腹を押さえて苦い顔をしていた。
「(こちらの一撃にカウンターを仕掛けるなんて……!)」
最後のマリアの一撃。その瞬間にオーズも右拳の一撃を繰り出していたのだ。しかし、軸がぶれて決定打にはなりはしなかったが、痛み分けの度合いで済んだ。
相手の思わぬ一手に表情を変えず、努めて余裕のなさを見せないようにするマリアのインカムに、ナスターシャからの通信が入る。
『マリア、そろそろギアが重くなっている頃合でしょう。適合係数が低下しています。ネフィリムはもう回収済みですから今は戻りなさい』
「時限式ではここまでなのッ!」
「ッ!時限式って、まさかマリアッ!?」
インカムの通信は聞こえていないが、強く漏れたマリアの独白がオーズの耳に入る。
かつて、先代のガングニール装者の天羽奏は、適合係数の低さからシンフォギアを纏う為にLiNKERを服用する必要があった。これにより、制限時間が付いてしまうがその時間内であれば、聖詠を紡いでその身にシンフォギアを纏うことができるのだ。ただし、服用すればするほどにその身を内側から削っていく副作用もある為、戦闘終了後には体内洗浄を施す必要もある。
そしてそれをマリアも服用しているのであれば、奏と同じ道程を辿ってしまうことだろう。
見れば彼女の身体に紫電が走った。時間切れを示す警告。
問い詰めようとするが、牽制として放たれた『HORIZON†SPEAR』の火線を腕部ユニットで弾いて距離を詰めるが、マリアは垂直に飛翔するとまるで見えないロープに垂れ下がっているように浮遊していた。その直上では朝日に照らされながら揺れる何かが浮かんでいた。
「待って!調ちゃんたちは何の為に戦うの?」
帰還準備の調と切歌に響が疑問を投げかける。一番ダメージを負っているクリスに肩を貸していた。
「正義だけでは、綺麗事だけでは守れないモノを守るために」
「それが、私達フィーネの戦う理由ですよ」
調の答えにポセイドンが補足する。彼はウェルを小脇に抱えて即座に跳躍。姿を見せた大型輸送機エアキャリアの後部搬入口に着地する。次いで調と切歌も牽引ワイヤーで乗り込んだ。
マリアを含んで五人の乗り込みが終わると後部搬入口のハッチは閉じて、そのまま機体は真東へと飛行を開始した。
逃さまいとオーズがレリックメダルからコアメダルに替え、タジャドルコンボに変身。クリスが両手のアームドギアを拳銃型からスナイパーライフル型に、そしてヘッドギアを可変させてスコープ機能を起動して新技『RED HOT BLAZE』の照準を合わせる。
だがしかし、エアキャリアは周囲の風景に溶け込んで消えた。タカヘッド・ブレイブの強化された視覚情報を以てしても、それは完全に捉えられることは出来なかった。
続く