戦姫絶唱シンフォギアAG・歌とメダルと13のコンボ 作:バルバトスルプスレクス
一つ、秋桜祭のステージで高らかに歌い上げたクリスに、調と切歌が挑戦状をたたきつける
二つ、その秋桜祭の裏側ではポセイドンによる殺戮が繰り広げられていた
そして三つ、清彦の言葉に動揺し、気を取られた響の左腕がネフィリムに捕食されてしまった
Count the Combo 現在オーズが変身したコンボは
タトバ
ガタキリバ
ラトラーター
サゴーゾ
シャウタ
???
???
???
???
???
???
プトティラ
タジャドル
月が煌めく夜の荒野に鮮血が舞う。
食いちぎられて切断された響の左腕の断面は赤い噴水と化しており、恐る恐る視線を向けて痛みが来るより早く響は漸く状況を理解する。
その様子をエアキャリアでモニタしていたマリア達。
清彦の、ポセイドンのやり方に憤りを覚える切歌。以前から生理的に受け付けない真木原清彦と言う男の人間性と肩の人形の不気味さが、今回に限っては限界点を突破するほどに怒りを覚えていた。聖遺物の欠片を餌にすると言っていたが、よもやギアを纏った人間の腕ごと食わせる程に。
そんなやり方に疑問を抱いたマリアが部屋を後にしようとするが、行く手をウェルに阻まれ、ナスターシャの静止の声が飛んだ。
「どこへ行こうとするのですマリア」
「真木原を止めるだけよ!
「あたしたち、正しいことをするんデスよね……」
「間違ってないとしたらどうしてこんな気持ちになるの」
以前響の事を偽善と切り捨てた切歌と調も次第に自分たちの行いに疑問を抱き始めていた。
昨日までは自分達の行動に何ら疑問も浮かばずにマリアの為に、セレナの為に、そしてナスターシャの為にやって来たが、画面に映る響の様子を見て自分達の中で何かが揺らぎ始めたのを感じた。
「その優しさは今日を限りに捨ててしまいなさい。私たちには微笑みなど必要ないのですから」
静かに、それでいて強い口調で三人に突き刺す様に語るナスターシャの目は険しかった。片方の目を眼帯で隠しているにも関わらず、その険しさは鋭かった。
既に戻れないほどに突き進んでいた。実感がなかったというよりかは自覚が足りていなかったマリアは、縋る様に半壊のギアペンダントに目を落とす。
「何もかもが崩れていく……。このままじゃいつか私も壊れてしまう……映司、セレナ……私はどうすればいいの……?」
耐えられない現実に心を痛めるマリアは蹲る事しかできなかった。
「しかし、ちょっとばかし厄介な事態になりそうですねぇ」
ふと呟いたウェル。彼が観ていたモニターには左腕を食いちぎられた響の胸の傷が金色に輝き出していたのだ。その光は程なくしてどす黒く変色していき、やがて全身を包み込めばあろうことか失われた左腕が何事もなく生え変わる様に再生した。
***
「これは厄介なことになりました」
ネフィリムが響の左腕をゴリゴリと音を立てながら咀嚼し飲み込んだ。そこまではポセイドンの予定通りだ。生体型完全聖遺物ネフィリムは言うなれば自律稼働する増殖炉。他のエネルギー体を暴食し取り込む事でさらなる出力を可能とする特性を持つ。彼の、彼らの目的の一つにはそのネフィリムを用いてフロンティアを浮上させる事。
しかし、今この瞬間、立花響の暴走と言うポセイドンにとって最大級のイレギュラーが起きたのだ。
「例の観測記録にあった暴走ですか……ネフィリムを退かせるしか――!」
ありません。そう呟こうとしたポセイドンだったが、突如として攻撃の手を完全に止めたオーズに違和感を覚えた。両腕をだらりと垂らし、両の膝を地につけ、俯いた状態となっているオーズの姿に不思議と戦意を喪失している様子は見られない。警戒するに越したことはないのだが、早いところネフィリムと共に撤退しなければ総てが水の泡だ。
ポセイドンがオーズから視線をネフィリムに一瞬だけ移したその瞬間、オーズのメダルホルダーから三枚の紫のメダルが飛び出して強制的にオーズを紫のコンボへと変身させた。
<プテラ・トリケラ・ティラノ>
<プットティラァァノザウルゥゥス!!>
白いボディに紫の装甲。響の暴走に伴い、ルナ・アタック事変に於いて発現したオーズの最恐形態プトティラコンボ。
その紫のコンボはポセイドンにとって未知過ぎていた。このコンボの存在はフィーネが消滅したルナ・アタック事変から程なくして情報を得たのだが、出現したのがその時一回だけで明確なスペックは氷結能力を有した暴走形態であることのみでそれ以上の情報は無い。
状況はあっという間にポセイドンの不利に傾いていた。
ネフィリムは暴走した立花響と対峙。オーズの足止めをしていたはずが今度は自分が足止めを受けていたポセイドン。状況は一気に逆転してしまった。
「理性を捨て、本能を剥き出しにするのが紫のコンボですか……!」
構えるより早くオーズが動いた。下半身に備わっているテイルディバイダーの一撃がポセイドンに襲い掛かる。
咄嗟に槍で防御を試みるも間に合わず、何の役にも立たない塔となり果てたカ・ディンギルに激突するポセイドン。出鱈目な威力だと内心毒づくと、これ以上の戦闘に意味はないと悟り、ネフィリムへと合流しようとするも、先回りしていたオーズのスキャニングチャージ技『ブラスティングフリーザ』を無防備にも受けてしまった。
<Scanning Charge>
カ・ディンギルに磔にされたポセイドン。抜け出そうにもオーズの頭部の大翼、エクスターナルフィンの羽ばたきによる氷結と肩部の伸縮自在の角、ワイルドスティンガーにより身動きが取れずに脱出もままならない。
最後に先程よりも高威力のテイルディバイダーの一撃を受けて吹き飛ばされ、ポセイドンはここで初めて変身解除にまで追いやられてしまった。初めてオーズに敗れた清彦はそれでもソロモンの杖を手放しにはせず、それを支えに立ち上がる清彦だったが、ネフィリムを蹂躙し始めた暴走響を目の当たりにして絶叫する。
「止めなさい、立花響!
「(何だ、あの男の慌てた様子は?ネフィリムはそれ程までに奴らにとって重要な存在なのか?)」
硬化した粘液にクリス共々拘束されている翼は清彦のまるで別人になったかのようなその様子に困惑せざるをえなかった。身体の自由がきいていれば直ぐにでも清彦を組み伏せて身柄を拘束できると言うのに、中々どうして硬化した粘液から抜け出せない。
せめて腕の自由くらいは取り戻したい彼女をよそに、オーズは清彦を軽く払いのけて暴走響とネフィリムとの三つ巴の戦いに身を投じていた。またあの時と同じかと臍を嚙む翼の視界に、肩に乗せていた人形を紛失したらしい清彦の姿が入った。
「ナイ!ナイヨ!!クライヨ、ミエナイヨ!メガネナイヨ!コワイ、コワイヨ!!ボクハシレタヨ!」
奇声を上げながらオーズに払いのけられた際に吹っ飛んだ人形を探す清彦の奇特な様相に思わず視線を奪われた翼は、そのまま清彦が闇の中へ消えていくまで唖然とした表情を浮かべていた。
人が一人消え失せようと、獣達は戦いを止めることはなかった。
一番優位に立っていたのはオーズだ。固有能力の氷結能力と言うアドバンテージがある分、相手の動きを制限し、強烈な一撃を食らわし続けていく。取り分け、一番ダメージを負っているのはネフィリムだ。オーズと違って特異な能力はなく、暴走響よりも俊敏性が劣っているためにサンドバッグと化していた。
やがてネフィリムは抵抗する力を失っていき、オーズに首を掴まれて吊り上げられてしまった。その少し離れた場所では、体の半分以上を氷塊に包まれた暴走響が拘束を解くべく我武者羅に暴れているが、直ぐにはその拘束は解かれることはないだろう。
「……何だよ、これ」
意識を取り戻したクリスが報告でしか知らない紫のオーズのコンボがもたらす惨劇を目の当たりにして戦慄する。暴走響を見るのは初めてではなく、その凶暴さも知らない訳ではない。だが、それすらも容易く拘束出来る氷塊を生み出すオーズが少なくとも異常事態であることが本能的に理解できた。
「紫のコンボは危険だってオッサンが言ってたはずだろ!だってのに何でオーズの奴はそんな危ねぇモンに変身してるんだ!」
「分からない。だが、立花の暴走に応えるようにあのコンボに変身した。フィーネとの戦いの時もそうだった」
眼前ではとどめを刺すべく、オーズが片方の手でネフィリムの心臓部に狙いを付けて貫手の構えを取る。普段のオーズならまずやらない構えだ。
「えーじ……に…ぃ……さん……」
「ネフィリムが人の言葉を……?!」
「話した……だとッ?!」
今までに知性の欠片すらも見せなかった暴食の怪物が、途切れ途切れの拙い日本語を口走った。儚さと若干の幼さを感じた柔らかな女性の声に近かったが、クリスと翼以上にオーズは狼狽え怯えていた。そこで翼は「まさか!」と思わず声に出した。
「知っているのか?!」
「以前オーズから聞いていたが、マリアには妹が、血の繋がった実の妹がいると!奏と同い年らしいその妹の名はセレナ・カデンツァヴナ・イヴ。だが、日本を発つ時にはいた筈のセレナの姿がなく、ネフィリムから発せられた言葉にオーズが反応したところを見ると……!」
「嘘だろ!仮にそうだとしても話が飛躍し過ぎだ!」
クリスが反論したくなるのも無理はない。翼が語ったのは妄言に過ぎない憶測でしかなかった。
確証と言えるものが無く、状況でそう判断するほかなかったのだ。
狼狽えて膝から崩れ落ちると、それに伴いオーズの氷塊の拘束力が低下。自力で脱出した暴走響は爪を立て、雄叫びをあげ、ネフィリムの背後を強襲する。
逃げる暇もないまま心臓を抜き取られたネフィリムは音を立てて崩れ落ち、暴走響はネフィリムの心臓を無造作に放り投げると、今度はお返しとばかりにオーズに狙いを付けた。
「よせッ!立花ッ!もういい、もういいんだッ!」
「お前、黒いの似合わないんだよッ!」
漸く自力で拘束を解いた翼とクリスが二人がかりで暴走響を押さえた。暴走を続けているかと思われていたオーズはプトティラコンボのまま微動だにせず、項垂れたまま。
しかし、事態は緩やか収まっていく。
突然、まるで電池が切れた踊る人形のようにピタリと暴走響の状態は沈静化し、リディアンの制服姿で左腕も健在の響に戻った。そこから間髪入れずにオーズの変身が自然に解かれ、沈黙していたネフィリムは黒いボディを溶かして意識を失っている状態の亜麻色のロングヘアーの女性だけがその場に残された。
***
懐かしい夢を見ていた。
二年前のツヴァイウィングのライブで起きた地獄の様な惨劇で重傷を負った響は懸命なリハビリの結果、元の体調に回復したのだが、そこからが本当の地獄だった。
生存者に対する誹謗中傷が、響達家族にも襲い掛かってきたのだ。
心無いマスコミによる偏向報道。事実を歪曲した週刊誌の記事。そしてそれら二つが生んだ誤解からくる周囲からのバッシング。
父親譲りの『へいきへっちゃら』精神と、親友の未来のサポートや映司達の支援があって今日まで乗り切ることが出来た。
そんな夢から覚めた響が最初に見たのは、「はやく元気になってね」と短いメッセージが綴られた未来からの手紙。
「(私のやってることって、調ちゃんたちが言うように偽善なのかな。私がどんなに頑張っても、誰かを傷付けて悲しませることしかできないのかな)」
シンフォギアを手にして今まで最短で最速で一直線に突っ走ってきた響だったが、その今までを否定されると自分という人格まで否定されるような思いが沸き上がってきた。
努力は報われるなんて言葉もあるが、今の響には全くと言っていいほど響かない。
ゆっくりと身を起して目が覚めた事を報告しなければと動いた響の胸元から、入院着からはだけた胸元の傷から黒い塊がポトリと落ちた。かさぶたかと思ったが、それにしてはやけに簡単に取れた上に血も滲んでいなかった。しかもよくよく見たら何かの結晶の様に思える。
この結晶も報告しなければとベッドから降り立つ響は、自分が使っていたベッドの隣に眠る見覚えのない女性に気が付いた。
「……誰、なんだろう?」
***
藤尭による再計算の結果、やはり月自体の落下がそう遠くない未来に実現するという結果が二課仮設本部の巨大モニタに表示される。
清彦の言葉に偽りはなかった。
更に詳しいデータの必要性を各国政府の各機関に要請するも暖簾に腕押し。日本政府からも同様。今の二課はF.I.S.同様孤立無援に等しかった。もっともフィーネの魂から解放されたとはいえ、櫻井了子の存在は二課にとって切り札になり得ても、実際にフィーネから被害を受けた側からしてみれば良い顔をしないのも当然である。
各機関との通信を終えた弦十郎は了子を引き連れ、翼と映司を呼び出してシャーレに収まっている何かの結晶の様にも思えるサンプルを見せた。
「何かの結晶……?」
「メディカルチェックの際に採取された響君の体組織の一部だ」
「身に纏うシンフォギアとしてエネルギー化と再構成、つまりガングニールを繰り返し纏ってきた結果、響ちゃんの体内の浸食深度が進んできているの」
「生体と聖遺物がひとつに溶け合って……!」
これで食いちぎられた左腕が暴走した瞬間に再生したカラクリが理解できた翼は、これにより新たに生まれた疑問を二人にぶつけた。
「この融合が立花の命に与える影響は……?」
しかし、弦十郎も了子も翼と映司から顔を背けて、その様子で映司は悟ってしまった。
「もしかして、響ちゃんはこのままだと」
「遠からず死に至る」
「残念だけど、心臓に突き刺さっているガングニールの欠片を全て除去しない限り……」
言外に助かる道はないと宣言している了子の診断結果に、翼は静かに動揺し、驚愕する。
「だったら、俺達が響ちゃんの分まで戦うだけです。負い目なんかじゃありません。でもきっと、響ちゃんを救う手立ては決してゼロじゃないと信じて!」
「映司……」
「映司君。今の段階では響ちゃんの死期を遅らせる事しか手立てはないのよ?」
「それでも、です!」
***
翌日のリディアンの敷地では秋桜祭の名残も徐々に消え、いつもの穏やかな日常を謳歌しながら片付けをする級友たちを見下ろしながらクリスと翼は、気丈に明るく振る舞う響の様子に本の少しの不安さを垣間見た。
ネフィリムに食いちぎられた部位を手に取って凝視する翼。あの時は肘まで切断されていたはずなのだが、今の響の左腕、制服の上着の袖を捲くって見たその個所には何一つ不審な点が見つからない。
「立花、本当に大丈夫なんだな?よもや私たちを安心させようと気丈に振る舞っているつもりではあるまいな?」
「なぁ、もしかしてオッサンから何か言われたのか?」
いつもと雰囲気が違う翼の様子に違和感を覚えたクリスが問う。今の翼が、まるで初めて会った時のつっけんどんな態度に戻っている様な気がしたからだ。
「手強い相手を前にしていちいち暴走しているような半人前をまともな戦力として数えるなと言われたのだ。
「正気か?暴走ってんなら映司の奴はどうなんだ!アイツだってこの馬鹿が暴走したのと同じタイミングで紫のコンボになって暴れ回っちまってたんだぞ!おいッ、何とか言ったらどうだッ!」
クリスは響の現状を知らない。ガングニールのギアを纏う度に死期が迫りくる事を。
「オーズの暴走は立花の暴走をトリガーとしている。なればたかがしれている立花の助力など無用と言う事だッ!」
奏が唄えなくなり、響がガングニールを纏って間もない頃の様に翼は敢えて
***
同じころ、旧リディアン跡地では清彦が吹き飛んだ人形を探し求め右往左往していた。
普段は冷徹な印象を見せる彼だが、いざ人形を失えばその印象はガラリと変わり、惨めで滑稽な人間になっていた。
ソロモンの杖を支えに歩き回る彼に、奇声を上げ続ける気力は既にない。
足を踏み外して緩やかな崖を転がり落ちたところで、清彦は己が探し求めていた人形を見つけることが出来た。
その人形はネフィリムの心臓を椅子代わりに足を組む格好で岩陰に隠れるように置かれていた。
まるで誰かが故意に置いたような不自然さがあったが、冷静さが消え去っている清彦にはそれを考える余裕はなく、それどころか喜びの声を静かに上げるだけ。
***
食料調達がてらに清彦の捜索をウェルから頼まれた切歌と調は、未だに復興が進んでいない商店街をあてもなく歩いていた。
あの夜、モニタ越しにオーズと暴走響に蹂躙される光景を見て何度も止めろと叫び続けた二人。マリアは何も出来ない自分に嫌気がさして塞ぎ込み、ウェルは何も言わず画面から目を逸らす。
ネフィリムにはセレナが取り込まれている。であるというのにオーズ達はそのことは知らず、その上こちら側から真実を伝える手段がない。無理と分かっていてもモニタに向かって叫び続ける二人だったが、ナスターシャの容体が急変してしまった。
幸いにもウェルが医療知識に長けていた事もあり、応急処置を施して事なきを得たが、その時には一時間近く時間が進んでおり、モニタ内ではポセイドンの姿は見えず、ネフィリムもオーズ達の姿も見えなかった。
そして今日になって漸くエアキャリアから出ることが出来、ウェルを探すべく、旧リディアンへの道を歩いていた。
「おなか減ったデスよぉ……」
「もう少し頑張ろう切ちゃん」
目的の場所までの道のりはかつて何度か通ったこともあってか、自然と迷うことなく二人は歩みを進めていた。
ただ、今日はまだ昼食どころか朝食すら済ませておらず、手近な飲食店を見ても、殆どの店舗は避難済でもぬけの殻。もし人がいて営業中だとしても、今の二人に持ち合わせはなかった。
***
午前中で授業が終わり、下校中の響達。創世が響の励ましとして行きつけであるお好み焼き屋ふらわーへの道を歩いているその最中の事だった。
三台並んだ黒いセダンと映司のバイクが響達の前を走り去り、カーブの向こう側の復興地域に行ったかと思えば突然の爆発が起きる。只事ではない事態に居ても立っても居られない響が無我夢中で走り出し、次いで未来達が響の後を追う。
<Scanning Charge>
赤、黄、緑の光の輪を潜り抜け繰り出された『タトバキック』が清彦の呼び出したノイズ数体を撃破していたオーズ。響達の姿を確認した彼はすぐに逃げるように叫んだ。
「響ちゃん!来ちゃだめだ、未来ちゃんたちを連れて早く逃げて!」
「残念ですが、誰一人として逃すわけにはいきません」
右手に掲げるはソロモンの杖。左手に抱えるはネフィリムの心臓。不気味な人形を肩に乗せた清彦は更にノイズを召喚し、未来達へとけしかけた。最悪なことにオーズとは距離もあり、行く手も阻まれコンボチェンジの暇すらない。
咄嗟に未来達の盾になる響の姿に、オーズは一抹の不安を覚えた。炭化させられる結末ではない。
――Balwisyall nescell
「ガングニールッ……トロォォン!!」
響の突き出した拳が戦闘のノイズを穿った。
通常、生身の人間がノイズに触れれば生きたまま炭化させられ塵と化す。
しかし、響は違う。
彼女の右腕から全身にかけて、徐々にギアをその身に纏っていく。
「生身でノイズに触れてその上……駄目だよ響ちゃん」
融合による浸食が進んできている証左だ。突き出した拳の威力はそのままに、響の拳を受けたノイズは瞬く間に塵と化し風に乗って消えていった。
「この拳も、命も、シンフォギアだ!!」
二課仮設本部でもガングニールのアウフヴァッヘン波形を確認していた。
本来戦うべきではないコンディションの響に弦十郎達にも緊張が走り驚愕する。
遠からず響がガングニールの力を行使することは想像に難くはなかったが、あまりにも早すぎた。いうなれば予測可能回避不可能という事態だ。
「響ちゃん!駄目じゃないか!」
「オーズさん。でも私、今力が漲っているんです!」
その言葉通り、響の身体は淡い黄金色の光を放ち、側を漂う落ち葉が瞬く間に火に包まれる。
「想像以上の浸食。命を削ってまで歌い続けますか」
対して至って冷静なままの清彦はソロモンの杖から絶えずノイズを召喚し、ポセイドンへと変身する。
暴走していなければ勝機はあると踏んだのだろう。ポセイドンはオーズが自力でプトティラコンボに変身しないと推測している。たった二件の事例から立花響の暴走に伴い強制変身していた。自力での制御に至っていないから自らの手でそのコンボに変身はしないだろうと予測していた。
戦場を響の胸の歌が包んでいた。
響は未来達に迫るノイズを殲滅し、オーズはメダルをトラからゴリラに、バッタをコンドルに替えポセイドンに肉薄する。
「清彦さん。俺は貴方に聞きたいことがたくさんあります!何でネフィリムからセレナが出てきたんです!何でマリア達がシンフォギアを纏っているんです!答えてください!!」
「知ってしましましたか。どうやらセレナさんはそちらで保護しているようですね」
「答えてください!」
「義理はありません」
オーズとポセイドン。互いの必殺技が正面からぶつかり合い拮抗する。若干ではあるもののポセイドンの威力が弱まっていた。
心当たりがポセイドンにはあった。だが退けられないほど弱体化しているわけではない。
一方の響は有り余る程に湧き出てくるパワーを存分に発揮し、未来達が逃げ切れるまでノイズを駆逐していく。
最後の一体を葬り去り、オーズと合流して新たにノイズを出される前に二人の拳がポセイドンを捉えた。変身解除にまで追い込めば身柄を拘束出来ることだろう。
「何とッ、ノコギリ!」
だが、二人の拳はポセイドンを打ち破る事なく、調の纏うシュルシャガナの巨大な丸鋸によって阻まれてしまった。
「この身を鎧うシュルシャガナはおっかない見た目よりずっと汎用性に富んでる。防御性能だって不足なし」
「それでも全力の二人がかりでどうにかこうにか受け止めているんデスけどねッ!」
「調!切歌も!」
ポセイドンを庇うように現れた二人は、それぞれのアームドギアを展開し盾となってオーズと響を睨み付けていた。敵対の意思を宿しているようにも見える二人の行動にやっぱりかと小さく独り言を漏らすオーズ。
「調に切歌、セレナは俺達の方で保護している。だからもう真木原なんかに!!」
「えーじは黙ってるデス!」
「確かに真木原は外道な手を使い、人の命を弄ぶ人間。だけど映司さんたちは真木原から月の落下を聞いたはず。私たちは落下を阻止するその為に!」
譲れない物が二人にはある。真木原についていけば月の落下を阻止でき、その手立てがあるのだと言う事だろう。
そこまで汲み取ってもオーズと響は賛同出来なかった。
「その為には、真木原の力が必要なんです。だから、今は見逃して下さい映司さん」
切実な調の語りに嘘はないと判断してもオーズには見逃すと言う選択が取れなかった。ここで見逃せばポセイドンはまた倉庫でやったようにまた別の場所で多くの人を殺害しかねない。確証は無いにしても、切り捨てられた遺体の断面と今ポセイドンが持つ槍の切っ先を照合出来ればそれは明確になることだろう。
これ以上ポセイドンによる犠牲者を増やさないためにも、オーズは響と連携して調と切歌も含めて捕らえなければならない。
しかし、行動を起こす前に響が突然苦しみだした。何事かとその場にいた面々は視線を響に向けると、彼女の体温が更に上昇し、胸元の傷を中心に黄金の結晶が湧き出ていたのだ。熱気は側にいたオーズは勿論少し離れた未来やポセイドン達にも微かながらに熱を感じていた。
「その様子では時間切れの様ですね。調さん、切歌さん撤退しましょう」
先に動いたのはポセイドンだ。ソロモンの杖で大量に召喚したノイズを壁に逃げ出し、激しい突風が起こったと思えばポセイドン達三人は片手を上げた体勢で宙に浮いていた。
エアキャリアが光学迷彩で滞空していることに気付いていても、オーズ悔しげに吐き捨てた後ガタキリバコンボに変身し、ノイズを一掃。その頃には既にポセイドン達は既に去った後だったが、シャウタコンボに変身し、シャチヘッドから大量の水を放水する。
「いやッ!響……響ぃッ!!」
「止せ、今近付いたら火傷じゃすまないぞッ!」
響の身を案じた未来が先に避難している創世達と別れて引き返し近づこうとするが、イチイバルを纏ったクリスが制止する。シャウタコンボの流水でも冷却が間に合わず、強い熱気を放ち続けていた響に不要に触れてしまわない為にもクリスはしっかりと未来を引き留めていた。
更に遅れて来た翼が跨がったバイクを用いた『騎馬ノ一閃』で給水タンクを両断し、中から残っていた大量の水が響へと流れ落ち、タンクが空になったときにはギアは解かれて元の制服姿に戻った響は意識を失い、未だに熱気を放った状態で倒れ伏していた。
「結局私たちは立花に無理を……救えなかった」
「救えなかっただぁ?あんたら、この馬鹿がこうなるとでも知ってたのかッ!」
その怒りの混じった問いに、変身を解いた映司も翼も視線を逸らすことしかできなかった。
続く