戦姫絶唱シンフォギアAG・歌とメダルと13のコンボ 作:バルバトスルプスレクス
一つ、ネフィリムとの戦闘中響は左腕を食い千切られて暴走状態に陥ってしまい、更にオーズもプトティラコンボに変身して暴走状態に
二つ、響の体内ではガングニールの融合浸食が進み、遠からず死を向ける事を映司と翼は知る事となった
そして三つ、清彦の召喚したノイズから級友たちを護るべく、響は命が削られていくことを知らずにその身にガングニールを纏った
Count the Combo 現在オーズが変身したコンボは
タトバ
ガタキリバ
ラトラーター
サゴーゾ
シャウタ
???
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???
プトティラ
タジャドル
「フロンティアの封印を解く聖遺物
機械的に語る清彦。エアキャリアの一画で彼の口から語られるのは目標達成までもう少しであると言う事実。
確かに必要不可欠な材料は充分と言える程に揃ってはいるが、本当にこれらだけでフロンティアの封印が解かれるのかと切歌と調は半信半疑の表情を浮かべる。二人の後ろには半壊したギアペンダントを握り締め暗い表情を浮かべていたマリアと、そんな彼女を心配そうにナスターシャが見ていた。
「しかしドクター真木原。準備は既に最終段階に入っています。一旦彼女達装者には休息を与えてはいかがでしょう。本番でヘタレてしまっては元も子もないのでは?それにそろそろ食料の調達も視野に入れないと」
ウェルの言うことも一理はあった。
ここに来るまで二課の装者とオーズ相手に幾度
清彦もそれは理解しているようで、少し考える素振りを見せる。だがすぐに結論を出したらしく、小さく息をつくと静かに口を開いた。
「……分かりました。それでは認めましょう。ただしくれぐれも問題は起こさないようにお願いしますよ?」
眼鏡の位置を直し、肩に乗せた人形と視線を交えてから清彦は踵を返して部屋を後にした。その後を追うようにしてウェルもまた部屋を出て行く。
***
「伝えるのが遅くなってしまったが、君達には知っておいてもらいたいことがある」
仮設本部医務室で未来とクリスに突き付けられた衝撃。
響の物らしきレントゲン写真は心臓を中心に体の至る所に罅のような赤い筋が伸びているように見えた。誰がどう見てもそれが途轍もなく危険な状態であることは確かだ。
「これは二年前響君の心臓に突き刺さったガングニールの破片。その破片は響君に力を授けているのと同時に、今も尚彼女の身体を蝕み続けている……!」
弦十郎から語られた現実に未来は呼吸をすることすら忘れ、クリスは自分には何も出来ないという無力感に打ちひしがれて八つ当たりぎみに手近な椅子を蹴りつける。
「何だよ!これじゃああいつは、あのバカはずっとこのままなのか!?何か方法は無いのかよオッサン!!」
「……すまない。俺達にはもうどうすることも出来ないんだ……」
絞り出すような声で謝罪する弦十郎の声を聞いて、クリスは悔しさと怒りが入り混じった複雑な感情を抱きながら歯噛みした。
纏い続ければ命を削っていく。それが響の置かれている状況だった。
「だからこそ君達にも、響君を護って欲しい」
「……はい」
戦う為の力も術も持たない未来は、ただ力なくそう答えるしかなかった。
***
クリスと未来が弦十郎から響の容体を知らされた頃。二課仮設本部の医療区画にある病室の一つにて、映司はベッドの上で眠り続けているセレナの寝顔を見下ろしていた。
安らかな表情で眠る妹分の顔を見て安堵しながらも、ネフィリムと同化していたことを知らなかったとはいえ、紫のメダルで暴走していたことに後悔を覚えていた映司は悔しさから拳を強く握る。
「彼女の容態は至って良好よ。ケガらしいケガもないから」
慰めるように優しく語る了子はセレナを挟んで映司の反対側でタブレット端末の画面に表示されたいくつかの項目にペンを走らせていた。
主治医の如く語る彼女の言うように、顔面や手首足首に目立った外傷は見当たらなかった。
「ただ、謎なのはどうして
事の始終は了子も録画データで確認している。オーズが暴走してネフィリムを蹂躙している場面も、その後に暴走状態の響によってネフィリムが心臓をえぐり取られて倒されその肉体を溶かしてセレナが残った場面も。
了子の中で生まれた疑問はどうして食いちぎった響の左腕は残らず、セレナだけが傷一つ無い状態で残ったかだ。少なからずセレナがネフィリムに補食されたと仮定しても、解けない謎が多すぎてにっちもさっちも行かない。フィーネに乗っ取られてから解放されるまでに得た知識を照らし合わせても答えを導き出せずにいる。
「セレナちゃんが早いところ目を覚まして渡米してからの事を一から事情を聞きたいところなんだけど、いつ目を覚ますかは分からないわね」
現状では打つ手無しと言わんばかりに溜め息をつく了子はタブレット端末の画面を閉じると椅子に深く座り直した。
***
切歌と調を買い物に送り出したマリアはナスターシャを伴って潜伏している山中にある湖畔を歩いていた。束の間の休息とはいえ、その胸中には今まで積りに積もった自分自身に対する不甲斐なさが占めており、中々晴れるものではなかった。
それはナスターシャも薄々感づいていた。ある理由でマリア達四人を呼び出し、セレナがネフィリムを鎮め、その日からたった三年足らずで装者に仕立て上げ、米国を欺き、月の落下を防ぐべくネフィリムを含めた幾つかの聖遺物を強奪し、
此処等で手を打つことにしよう。清彦にもウェルにも知られず今日まで練り上げたあの手を。
その為には――。
「マリア、よくお聞きなさい。貴女には世を欺く為にしたくもないことをさせてしまいました。ですが、もう充分です」
「
「思えば貴女達の両親を騙って手紙を出した事がそもそもの間違いでした。このような事態が起こらないようミスターヒヤマに貴女達を任せたというのに……」
「そんな!
「もう、フィーネを演じる必要は無いのです。セレナが二課に保護されていることも確認出来ています。もう、終わりにしましょう。各方面を牽制する為にフィーネの名を騙り、その結果でかつて共に暮らしていた家族と刃を交わす事態になってしまいました」
「
「フィーネの魂など、初めから貴女には宿らなかった。ただ、それだけの事なのです」
神輿を担ぐことを終わりにしよう。ナスターシャは慈愛に満ちた笑顔をマリアに向けるも、マリアの心に薄い
そんな二人を木陰から不躾に覗き見る清彦一人。マリアとナスターシャに気が付かれることなく、彼はメガネの位置を整え、エアキャリアへと足を向けた。
***
買い物帰りに解体工事の現場で鉄骨の落下に巻き込まれかけた報告を切歌と調から受けたマリアは、有無を言わさず二人をウェルに診せてエアキャリアの操縦桿を握っていた。
月が輝く闇夜を飛行する中、操縦席のマリアはセレナがネフィリムに取り込まれてからの事を思い出す。
戦いとは無縁の日々を過ごしていたはずなのに、幼き日に観た変身ヒロインの様な装束を纏い、いつの間にか来る日のためにホログラムのノイズを狩る訓練を続ける日々が始まった。
実の両親にも会えず、日本にいる映司達にも手紙も出せず、ただただ戦う為の訓練ばかり。そして纏う度にLiNKERを投薬せねばならず、戦況が終了する度に血液検査だけでなく、酷い時には体内洗浄処置を施さなければ激しい苦痛や嘔吐に苦しめられる事になる。それをマリア達は三年も経験している。
だがマリア達はそれでも耐えるしかなかった。月の落下を阻止し、同じくネフィリムからセレナを取り戻すこと。その二つを目標にマリア達は耐えてきた。自分自身を偽り、かつての家族に牙を向けてしまった今も。
しかしここまで来たらもう引き返せない。迷いで自分を殺すくらいならば、偽りで自分自身を塗り固めるほうが遥かにマシだ。もう二度とあの日犠牲になってしまった少年たちの事を思い出し、マリアは操縦桿を握りなおした。
***
同じ頃、二課仮設本部の医療施設内の響の入院に使われている区画で、弦十郎が響達三人の装者達に一枚の画像データを映し出したディスプレイを見せていた。
心臓の脇に謎の物体が力強く反応している。それは響のレントゲン写真である。
「体内にあるガングニールがさらなる侵食と増殖を果たした結果、新たな臓器を形成している。これが響君の爆発力の源であり、同時に命を蝕んでいる原因だ」
言うなればギアペンダントの役割を持つ臓器。この臓器が響がガングニールの装者たる所以なのだが、初めて聖詠を紡いだあの日よりも、初めてガングニールのシンフォギアを纏ったあの日よりも欠片の浸食は治まるどころか進み続けている。
力を与える代償として命が削れていく。その事実を三人の装者達は黙って聞いていた。
「つまり、胸のガングニールを活性化させる度に融合してしまうから、今後は
笑って誤魔化すことしかできない響。実感が沸かないという事ではない。分かり易く死に怯え泣き腫らして生を欲する様を見せ付けるよりも、「自分は大丈夫だ」と弱みを見せない選択を取ったのは、未だに彼女の奥底に眠る二年前から背負ってきた歪みからくる空元気に近いものだった。
己に降りかかった惨事をまるで他人事のように振る舞うその様子の響に、翼は敢えて強い言葉をぶつけた。
「いい加減にしろ立花ッ!"なるべく"…だと?寝言を口にするなッ!今後、一切の戦闘行為を禁止すると言っているのだッ!!このままでは……死ぬんだぞ立花!!」
落涙。自らを剣とする翼の眼よりあふれた物。いつもの凛々しさがかき消されており、響は一瞬息を飲む。
かつてのガングニールの装者、天羽奏もまた戦場で命を落としかけていた。運命が違えば、翼は彼女と永遠の別れを経験していたことだろう。しかし奇跡的にも奏は今も生きている。かつての様に装者と歌女それぞれの戦場に立つことは出来なくなったが、今も変わらず交流を続けている。
しかし、今回の場合はそれよりも深刻なのである。
「そこまでにしときなって。このバカだってわかっているんだ」
仲裁に入ったクリスは響の空元気を見破っていた。響との付き合いは翼よりも短いクリスだが、響の人間性をある程度理解は出来ている。
その仲裁で落ち着いたのか翼は無言で部屋を出ていった。彼女の背中を見送って、弦十郎は響の頭を優しく撫でる。
「心配するな。今俺や了子君達がフィーネの遺したデータを基に治療法を模索しているところだ」
最後に安心してくれと付け加えて最大限響の不安を取り除かせるように優しげな笑みを浮かべた弦十郎。
師の励ましを受けた響はただ力なく頷く事しか出来なかった。
その時、モニタの表示が切り替わり了子の顔が映し出された。
「どうした了子君」
『弦十郎君、例の娘目が覚めたから来てもらえるかしら?』
***
昏睡状態から目が覚めたセレナ・カデンツァヴナ・イヴ。
医療ベッドの上で了子から簡易的な検査を受け、特に異常が見られなかったため、彼女は了子と弦十郎そして映司に日本を発ってからの事を語りだす。
「アメリカの空港で私達四人を待っていたのは、私達の本当の両親ではなく、ナスターシャ教授……私達は
「もしかしたら催眠ガスか何かね。でも教授がそんなことをするかしら?」
「知っているのか了子君」
「あくまでフィーネから受け継いだ知識でしかないの。真木原に至ってもそう」
恐らくはフィーネに意識を乗っ取られた時期に何度か会った事があるらしい。内心そう思った映司はセレナに続けるように促した。
「目が覚めたら知らない施設でした。そこで私達四人は両親に会うことも出来ず次期フィーネの器として集められたと知ったんです。私達は何度も両親に会わせて欲しいと、日本に住んでる映司兄さん達や友達に手紙を出したいと言っても、聞き入れてくれませんでした」
「そうだったんだ。手紙が来なかったのはそう言う……」
「私達四人は一度だって映司兄さん達と日本で過ごした日々を忘れたことはありません」
便りが来なかった理由を知り、不謹慎にも安堵の表情が浮かびかけた映司。同時に、初めてオーズに変身したあの日の夜にマリアから聞いていたナスターシャの人物像の違いに違和感を覚えた。
「あと覚えていることは、ネフィリムを止めるために、私がシンフォギアを纏って絶唱を唄ったところまで。これで全部です」
「ねぇセレナちゃん。ウェル博士とか真木原について何か知ってることはあるかしら?」
その了子の質問にセレナは首を横に振った。
どうやら心当たりがないらしい。
より詳しい情報が欲しかったが、セレナの体調やメンタルを考え今日はここで事情聴取は終了。映司達三人が退室しようとしたところで、セレナが映司を呼び止める。
「映司兄さん、マリア姉さんを助けてください!私、ネフィリムの中からマリア姉さんが苦しんでいるのを感じたんです!だから!」
「うん、大丈夫。俺達が何とかするから、セレナはここで身体を休めて」
ね、と最後につけ足して映司は軽くセレナの頭をなでると、再び弦十郎と了子の後に続いてセレナの病室から出ていった。
***
「長野県皆神山より出土した神獣鏡。鏡の聖遺物であるその特性は光を屈折させて周囲の景色に溶け込む鏡面迷彩と古来より伝えられる魔を祓う力。聖遺物由来のエネルギーを中和する神獣鏡の力を以てしてフロンティアに施された封印を解除します」
エアキャリア操縦席のコンソール中央に装填されているギアペンダント。神獣鏡のギアペンダントはガラスケースに収められており、エアキャリアの機能を通じ、機体本体から射出されたリフレクタードローンを経由して何もない海面に向けて紫色の光線を照射する。
その先には目標たるフロンティアが海底で眠っており、うまくいけば封印が解かれるはず。
固唾をのんで見守るウェルと装者達三人。緊張感に支配されている四人とは対照的に、あたかも先の展開が分かっているかのようにすまし顔の清彦とナスターシャ。
「こ、これでフロンティアに施された封印が解ける……解け……ない……?」
照射された海面は泡立っただけでそれ以上の現象は起きなかった。
一体何が足りなかったのかと焦りだすウェル。切歌と調はウェル程焦りはしなかったが、なぜ浮かび上がらないのかと疑問を持つ。
「出力不足ですよ」
「如何に神獣鏡の力と言えど、機械的に増幅した程度ではフロンティアに施された封印を解くまでには遠く至らないということです」
清彦とナスターシャは予め知っていたかのように冷静に原因を解説する。
そもそも、聖遺物が本来のポテンシャルを発揮させるには相当量のフォニックゲインが必要なのである。シンフォギア装者達が戦姫としてその装束を纏うのも同様。
「まさか貴方方は知っていたのですか?!」
声を荒げたウェルの抗議が飛ぶ。
彼の夢は英雄になること。月の落下から多くの民をフロンティアで救う英雄に。
元よりその夢は少年期から変わらない夢だ。しかし、歳を重ねるごとにその夢が如何に困難であるかを否が応でも知り、挫折を経験することとなる。
「聖遺物の権威である貴方方が、この地を調査に訪れて何も知らないはずなど考えられないッ!この実験は今の我々ではフロンティアの封印解放に程遠いという事実を知らしめるためにッ!」
「ええそうですよ。ドクターウェル、貴方は生半可な結果で英雄になりたかったんですか?」
冷たいその声に、ウェルは一気に怒りが覚め、ゆっくりと清彦に視線を向ける。無機質な表情に感情の籠っていないその眼に、ナスターシャに向けていた怒りは即座に消え去った。
ウェルの本能が逆らってはいけないと警鐘を鳴らしていた。清彦には逆らうことが出来ないウェルは大人しくするほか無かった。
清彦は挫折したウェルに英雄になる夢への道のりを提示した、ある種の恩人である。それとは別に清彦の人間味のない不気味さもあってウェルは彼の言いなりになる他ない。
「さて、ならば探すしかないようですね。神獣鏡の装者になり得る人物を」
ギアペンダントを見下ろしながら清彦はそう言った。
***
翌日。二課仮設本部では月公転軌道の再計算結果が割り出されていた。
結論から言えば米国から提出されたデータは捏造されたものであった。
清彦が暴露したようにいずれ月は落下する。明日明後日とまではいかなくとも、一年先十年先には地球に激突する未来は変わらないとのこと。
しかし、だからと言って二課に月の落下を阻止する手立てはない。如何に奇跡にも等しいエクスドライブモードで自力で押し返しても、如何にオーズの紫のコンボ暴走状態であっても、阻止するには力が足りなすぎるのだ。
だが、F.I.S.はネフィリムを以て阻止すると言っていた。それは落下に対する手立てがあるということ。
***
東京スカイタワー。
ルナ・アタック事変ではカ・ディンギルではないかと思われたそこで、ナスターシャが座る車椅子を押しながら歩くマリアがいた。
「
「マリア、よくお聞きなさい。私達がしてきたことはテロリストの真似事に過ぎません。真に為すべきことは月がもたらす災厄の被害を如何に抑えるか。違いますか?」
「つまり、今の私達では世界を救えないと?」
「その通りです。ドクターウェルはともかく、ドクター真木原に対する信頼が消えている今、恥を忍んででも手を取るべき相手と手を取らなければなりません」
ナスターシャの真意が読み取れないマリアだったが、二人を待っていた黒いスーツ姿の男達を見て即座に理解してしまった。
男達は米国政府の回し者。謂わば敵である側の人間だ。そうであるにも関わらず、ナスターシャは彼らと握手を交わしていた。その光景が信じられないマリアは、ただただ呆然とするほか無かった。
***
同じ頃、エアキャリアの停泊している森の中で、切歌は膝を抱えてあの買い物帰りの日を思い出していた。
人気のない解体現場で休憩していた切歌と調。おやつに買っておいた菓子パンを頬張っていたその時、疲労が抜けきっていない調が倒れこみ、更にその上から複数の鉄骨が落ちてきた。咄嗟のダブルパンチで聖詠を紡ぐ間もなかった切歌は調に覆いかぶさったのだが、桃色の障壁が自分達を覆っていたのだ。突き出した
「(あの時のあのバリア……もしかしたら、リインカーネーションってやつデスか?でも、マリアがフィーネじゃないんデスか?もしそうなら、あたしの魂にはフィーネが宿ってて、いつの日にかあたしは……)消えちゃう……デスか?」
もし今この状況が只の里帰りであったのなら、仲の良かった友達と日が暮れるまで目一杯楽しんで、映司達火山家に帰り腹一杯のご飯を食べて、七人で団欒の時間を過ごしていたことだろう。
だが、現実は真逆だ。
装者になった自分達は清彦達の引っ提げた大義名分を以て米国や世界にケンカを売ったのだ。しかし、年少の立ち位置にいる切歌と調は巻き込まれた形にはなるが、これも多くの人間を救うためだと必死に自分自身に言い聞かせるしかなかった。
装者になる過程で垣間見たF.I.S.の汚い大人達の横暴さや傲慢さに耐えなければならない時もあった。自分達四人の内の誰かがフィーネの依り代になり得るかもしれないと、F.I.S.の名前も知らない偉そうな大人達は言っていた。
実の両親に会えると信じて日本を発ったはずが、何故今こんなことになってしまったのだろうか。
「切ちゃん?こんなところにいた。ご飯できたよ」
「おー、お腹が減りんこふぁいやーだと思ったらもうそんな時間デスか!調、お昼は何ですか?」
「298円」
「滅多に食べられない御馳走デース!!」
さっきまでの不安を押し隠し、火山家に世話になっていた時期に滅多に食べる事が出来なかった少しお高めのカップラーメンに歓喜の声を上げる。
「……切ちゃん、ドクターたちは?何かの任務?」
「気味の悪い方なら知ったこっちゃないデス!もう一人の方も見てないデスけど、あの二人なんかほっといてさっさとご飯にしちゃうデスよッ!」
***
ナスターシャから異端技術の情報が記録されたメモリーカードを受け取った男達。大事そうに懐にしまい込むと、リーダー格の背後に控えていた部下達が一斉に拳銃を構えだした。咄嗟の事にギアペンダントに手を駆けるマリアをリーダー格の男はせせら笑う。
「やめたほうがいい。こちらは貴女が唄うよりも前に命を奪うことが出来る」
男達の狙いはナスターシャの持つ異端技術であった。その為に以前からナスターシャに味方であると騙し今日この日を迎えた。
二度も米国政府の後手に回ってしまったことで如何に自分達が組織を名乗るに値しないかを否が応でも知ってしまう。
双方で睨み合いが続くその時、窓の外で飛行型のノイズが姿を現し、瞬く間に男達を炭の山に変えた。
***
スカイタワー近隣の建物の屋上で、ソロモンの杖を構えるのは真木原清彦ただ一人。
「ナスターシャ教授、貴女の行動を知らぬ私ではないでしょう。私を出し抜いて米国に売ろうと考えるから、こうなるんですよ」
遠巻きにノイズの大軍を眺めながら清彦はポツリとそう呟いた。
***
最早交渉も和解もなくなったこの状況で、マリアは黒いガングニールを纏いナスターシャを伴って脱出を図る。しかし、またも武装状態の米国の特殊部隊が現れ行く手を阻む。
無秩序に放たれる銃弾の嵐をマントで防ぐマリア。彼女の背後にはノイズから逃げ惑う多くの一般市民。だが、流れ弾を完全に防ぐことは叶わず、目の前で一人二人と巻き添えを喰らって倒れていく。
その中には命を奪われた人もいた。
「私の……私のせいだ!!」
非情になってさえすれば、悪になることを厭わなければ、覚悟を決めていれば少なくとも今程の犠牲を出さずに済んだことだろう。
後悔の念に囚われているマリアは、自身と特殊部隊に対する怒りに駆られていた。
半ば八つ当たり気味にキックやマントで次々と昏倒させ、その最中に逃げ遅れた一般市民をノイズから防いでいた。
「――狼狽えるな。狼狽えるなッ!行けッ!」
その言葉はマリアが自分自身に向けた言葉に他ならない。
初めて風鳴翼とステージで歌ったあの日あの時も、マリアは自分自身に向けて叫んでいた。
それは言葉通り、あの時の観客達に向けた言葉でもあり、悪になることを恐れず、非情になるべく己を叱咤し鼓舞するための言葉でもあった。
逃げ遅れた人間が誰もいない事を確認して、マリアはナスターシャを抱えるとマントを操作して上階へと移動する。
***
同じ頃、響と未来がいるスカイタワーにノイズが出現したと連絡を受けた映司は、愛車を走らせて現場へと急行していた。
展望デッキ付近には飛行型と空母型のノイズが編隊を組んで多数の小型ノイズをばら撒いていく。
「変身!」
<クワガタ・コンドル・チーター>
亜種コンボ・ガタジャーターに変身し、急停止したバイクを踏み台にして急上昇。降りかかる幾つものノイズを焼き払い、展望デッキへと向かう。しかし、如何せん数が多く中々に辿り着くことが出来ない。
小型を吐き出し続けている空母型に狙いを定めたオーズだったが、統率されているような動きを見せる飛行ノイズ達に進路も退路も徐々に塞がれていき、孤軍奮闘するも焼け石に水。
『もう少しで翼とクリス君が到着する。それまで耐えてくれ!』
「了解です!響ちゃんと未来ちゃんは?!」
『避難しているという情報はこちらに届いていない。恐らくはまだスカイタワー内部のどこかにいるはずだ!』
仮設本部にいる弦十郎からの通信を受けて間もなく、展望デッキのいくつかの個所で小規模の爆発が断続的に起きる。
ふとオーズが展望デッキを見ると、外壁が破壊され内部構造が剥き出しになっており、そこには今にも落ちそうになっている響と、落ちないようにその手を掴んで離さずにいる未来の姿があった。
「そんなっ、何とかしないと……!」
響は歌う度に、その身にシンフォギアを纏う度に命を削ってしまう。オーズはそのことを知っているからこそ、今の響と未来が如何に危険な状況かが即座に理解できる。
<クワガタ・カマキリ・バッタ>
<ガーッタ!ガタガタキリッバ!ガタキリバ!>
<Scanning Charge>
ガタジャーターからガタキリバにメダルを代え、円形に広がる様に繰り出された『ガタキリバキック』の雨霰が多数のノイズを葬っていく。分裂した50人の内の本体はスカイタワーの支柱にカマキリからウナギに、バッタからタコのメダルに代えて張り付くと、再びクジャクのコアメダルに代えて響と未来がいるであろう展望デッキへと飛び立った。
迫るノイズを避けながらもすれ違いざまにクワガタヘッドの雷撃を浴びせて、突き進む。
「響ちゃん、未来ちゃん!大丈夫?!」
「オーズさん!私と未来なら大丈夫ですから、ノイズをお願いします!」
「ダメ、響!私が、私がが響を守らなきゃッ!私だって、私だって……響を守りたいのに……ッ!」
「未来ちゃん……ッ!?」
救出の手を貸そうとするオーズだったが、狙い澄ましたかのように響と未来を飛行型のノイズがその身を鏃の様に身を捻るのが見えた。
即座に雷撃を放って撃ち落としていくが、二人を救出する余裕すらなかった。
「二人ともゴメン、もう少し耐えられる?」
「平気です!でも、二人ともゴメン!!」
突如として、未来の悲鳴にも近い絶叫がオーズの耳をつんざいた。
響が未来の手を放して落下したのだ。
「響ちゃん!……未来ちゃん、早く避難するんだ!響ちゃんは俺が!!」
「はい!響をお願いします!」
通路を走っていく未来の背中を見送って、オーズは急降下を開始した。
背面のクジャクウィングを折りたたみ、重力に身を任せて落ち続ける響との距離を縮めていく。
オーズは響の考えを何となくだが察している。聖詠を紡ぎギアを纏って着地すると言うことを。
「響ちゃん、手を!」
オーズが響に向けて右手を伸ばし響がその手を取ると、そのまま抱き寄せてクジャクウィングを広げてゆっくりと着地する。遅れて現着してきた二課の職員に響の身柄を任せ、再び展望デッキへと飛翔するが、先程までのよりも規模の大きい爆発が起きた。
そこは、先程まで未来がいた階層だった。
続く