戦姫絶唱シンフォギアAG・歌とメダルと13のコンボ   作:バルバトスルプスレクス

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二回目です

前回よりは短くなっておりますけどもご意見ご感想のほどよろしくお願いいたします


別れと歌と緑のコンボ

 

 軽い捻挫に近かったマリアの脚のケガ。程度が軽いことにほっと胸をなでおろしたのは映司だった。

 後遺症も残らず、それ以上に生きているだけでも儲けものだ。

 ただ軽い物とは言えケガはケガだというので、セレナ達三人の妹達に入浴の介護をされた上に着替えやら明日の支度やらを率先して張り切ってやってくれたものだから、断るに断れないし無下にするのも良心に来るものがある。

 映司に助けを求めるも、両手を合わせて愛想笑いを浮かべるだけだった。

 その日の夜。火山家の二階の部屋はベランダがつながっており、廊下を除けば出入りが可能になっている。そこでは時々、映司とマリアがベランダに出て雑談するのが寝る前の恒例になっている。それは今日も同じこと。

 

「俺がマリアを見付けた時?マリア以外誰もいなかったけど、誰かいたの?」

 

「ええ。確かに気を失う前に誰かに助けられたのよ」

 

 おかしいわねー。と顎に手を当て考え込むマリア。

 あの時搭乗させてもらった二課のヘリから飛び降りるのと同時に変身と必殺技の動作からの必殺キックをして助けのは俺です等と口が裂けても言えない映司。

 今話せることとしては「誰なんだろうね」とお茶を濁しながら昨日と同じように尋問されないことを祈るばかり。

 いつもの特徴的な猫耳ヘヤースタイルも、寝る時ばかりは解いてローポニーテールにしてシュシュで巻いている。月明かりに照らされた彼女の神秘的な美しさもあと一年で見納めか、とぼんやり横目に彼女の姿を捉える。しかしてその内面としては、リディアンでの凛々しく振舞う姿とは裏腹なのだが。

 

「そう言えば映司、昨日貴方寂しくなるななんて言ってなかったかしら?」

 

「っ?!き、聞き間違いじゃないかな?あ、でもこの習慣も結構長い事続いてるよね」

 

「そう言ってはぐらかす……でも確かに長いわね」

 

「もう十年だからね。最初は確か……そうそう、慣れない日本の環境に戸惑って眠れなくなったマリアが話し相手になってくれって言ったんだよね?」

 

「んなっ!そんなわけないでしょ!()がじゃなくて映司貴方がでしょ!無理してホラー映画なんか観て!」

 

「あ!それ言う?!それ言ったら――!」

 

「何よそれ!第一貴方ね――!」

 

「マリア姉さんうるさい!」

 

「映司さんちょっと静かにして!」

 

「というか二人とも早く寝るデース!!」

 

 

***

 

 

 今日もまた、何処かで誰かの悲鳴が辺りを埋め尽くしていた。

 幾度となく現れるノイズは逃げ遅れるか倒れた人間に次々にのしかかって諸共炭化させる特性がある。基本的にノイズの走行速度は成人男性並みではあるが、最も恐ろしいのはその身を矢のように変形して人を襲う能力もある。そうなっては死の確率が格段に跳ね上がるだけ。

 

タカトラバッタ

 

 矢となったノイズによる死を覚悟した男の前に、オーズは立つ。

 映司が戦うことを決意して、二課の所属になって一年が経過した。初変身時よりも格段に戦闘能力は向上されており、今では翼と奏の装者に並ぶほどの実力を有している。

 状況に応じ、的確なタイミングでメダルを代えるなどをして立ち回る。手数の多さがオーズの強みなのだ。

 そもそも何故ノイズの持つ位相差障壁をシンフォギアではないオーズが突破できるのか。シンフォギアの持つシステムには、攻撃が命中した瞬間に固有の振動を発生させることでノイズのその物を調()()し、強制的にこちら側の物理法則下に引きずり込んで位相差障壁を無効化する。対してオーズは、変身の際や必殺技の発動の際にオースキャナーでメダルを読み込む際に出る特殊音波振動により、シンフォギアと同じように調律する効果があるのだ。

 この説明を了子から受けたオーズこと映司は、彼女によって施されたオーズのインカム機能を用いて二課本部に連絡を入れる。

 

「こちらオーズ。見える範囲のノイズの掃討に終了しました」

 

『周囲にノイズの反応は見られません。翼さん達の方も相当が終了しています。お疲れ様、今日はそのまま帰る様にと司令からの伝言です。今ならまだ飛行機に間に合います!』

 

「……はい、ありがとうございます」

 

 オペレーター友里あおいからの通信を終え、二課の後処理班と入れ替わるように現場から退却するオーズ。特設車両の陰で変身を解き、今日まで貯めた二課からの給金で購入したバイクを走らせる。目指すは空港、出発ロビー。

 今日でマリア達四人は日本を発つというのにノイズの反応が検知され、雄二は避難誘導に、そして映司はノイズ掃討の為現場に急行したのだ。掃討自体には手古摺ることは無くとも、数が多く倒し切るのに時間がかかり過ぎた。

 

 

***

 

 

 リディアンを卒業してから数日が経ち、今日で日本を発つこととなったマリアは妹のセレナと妹分の切歌と調の四人はベンチに腰かけながら飛行機の出発時刻を確かめ、出発のその時を待っていた。

 彼女ら四人以外にも見送りとして映司の母・小春(こはる)が、未だやってこない旦那と息子に腹を立てている。搭乗の時間まで余裕があることが分かると、小春はセレナら三人に適当なジュースを買ってくるように言って、代金を渡すと仲良く買いに行く三人の背中を見送った後でマリアに詰め寄った。

 

「ところでマリア。映司とキスの一つでもした?」

 

「な、何を言ってるの?!」

 

「あらやだ、二人そろって一歩踏み出せないのね」

 

 いきなり何を言い出すんだこの人は。

 そもそも映司はただの年が近いだけで兄とは思わなくとも弟とか、気の置けない友人とかそういう距離感でありつつ、でもちょっと気にはなる異性というのが映司に対するマリアの評価だ。

 しかしその返答に落胆し天を仰ぎながら息子とマリアのヘタレっぷりに嘆く小春。何だかんだ十年近く同じ屋根の下で火遊びの一つもしなかったのかと冗談めかして問いただしてみれば、「家が火事になるじゃない」と真顔で返してくるので呆れるしかない。

 

「アンタらね……二度と会えないかもしれないってのに、思い出になるような事の一つも作らないの?」

 

「思い出って言ったら皆で一緒に…」

 

「『皆』じゃなくて映司と二人でよ二人で。ほらよくあるじゃない、漫画とか映画とかで夏祭りに神社の境内の裏とか、海水浴場から少し離れた岩場の陰でとか」

 

 具体的な例を挙げてはみたものの、今一つピンと来ていないマリアに段々腹が立ってきた小春は彼女に耳打ちをする。途端に目を見開いて段々顔を赤くして顔を俯かせて、やっとかと言いたげにため息をついた。次は同じ質問を息子にもしてやろうと画策していると、お使いからセレナ達が缶ジュースを手に返ってきた。

 戻ってきた三人が顔を赤くしたマリアを不思議がっていたが、小春は適当にあしらってもう一度時計に目をやった。

 

 

***

 

 

 渋滞にはまりはしたがどうにか空港に到着出来た。出国ロビーに足を運んだ映司は歩きながら周囲を見渡してマリア達を探す。

 老若男女国籍問わず様々な始まりと終わりの物語が繰り広げられるその脇を縫うように歩き続ける事数分。事前に聞かされた搭乗時間まであと僅か。スマートフォンの画面をなでる事数回、小春との回線を開き彼女らの現在位置を聞き出してその場所へと歩き出す。幸い直ぐ近くのようで、小走りで移動する。

 

「っそい愚息」

 

「バイト終わったの?」

 

 出がけの際にノイズ掃討をバイト先でのトラブルと言い訳して出て行ったことを思い出して「まぁ何とかなった」と誤魔化して後頭部をかく映司。マリアに言われるまで忘れていた。

 よく見ると雄二はまだ来ていない。二課の方に直行したのだろうか。友里からの通信に炭化されとの報告がなかったのでその線は無いことは確かだ。

 時計を見やる。もう残された時間はあとわずか。別れの言葉を交わすチャンスは今しかいない。

 

「セレナ、向こうでも元気でね」

 

「はい、映司兄さん」

 

「切歌に調、友達たくさん作っておいで」

 

「ハイデス!」

 

「お手紙出しますね映司さん」

 

 三人と握手を交わした後は、マリアだ。

 

「え、と……マリア」

 

「何かしら」

 

 何か言おう、何て言おう、何を言おう。

 いざ言葉を交わそうとするも、セレナ達三人の時とは違いうまく言葉が出てこない。それでも、ここで何も言わないまま別れたら、悔やんでも悔やみきれない。

 

「……また、会えるよね」

 

「……ごめんなさい。まだそう言うのは分からないの」

 

「そう…だよね。ごめん……けどマリア!」

 

 これだけは言いたい。そう言おうとした瞬間、タイムアップを知らせるかの様に搭乗の時間となってしまった。時間が来たことに焦った切歌が調とマリアの手を取り、急いで搭乗口へと走り出した。そのあとをセレナが別れの言葉を投げて、彼女もまた切歌達と同じ方向へゆっくりと走って行った。

 好きだの一言も言えないまま、彼女たちは人ごみの中へと消えていった。

 この時の映司は知らない。彼女と再会するのに二年と経たないことと、最悪な再会になることを。

 

 

***

 

 

 数か月後。正式に二課の職員となった映司の主な仕事は、ノイズが出現した際に即座に対処する遊撃及び翼と奏のユニットであるツヴァイウィングのマネージャーを務める緒川慎次の補佐。専属の運転手を務めることもあれば、汚部屋と化している翼の自宅の掃除に洗濯することも。

 一度翼の自宅の片付けは本人に何故やらせて覚えさせないのかを疑問に思った映司が緒川に思い切って質問したところ、「覚えさせたとしても直ぐにまた散らかしますので」と本人の真横で苦笑交じりに答えた事があった。

 そしてこの日、映司が運転する車は今日行われるライブ会場の関係者用駐車場に停車する。

 降車して楽屋へ向かう翼達三人とは反対の方向へと向かう映司。去り際の彼が険しい表情をしているのを奏は見た。いつになく真剣な表情をしているなと独り言ちる。

 それもそのはず。今日のライブは世間一般的なライブではない。この裏側にてネフシュタンの鎧の稼働実験が行われる特殊過ぎるライブなのだ。

 ツヴァイウィングの歌唱と観客達によって引き起こされる高出力のフォニックゲインを以て、石化状態のネフシュタンの鎧を稼働させるというのが今回のライブの本来の目的だ。事前の予測では成功率は七割強。失敗するとは言い切れないし、成功するとも言い切れない確率ではあるが、そもそもの言い出しっぺである日本政府からの打診もあって今日(こんにち)に至る。

 今現在の映司の仕事は不審人物がいないかの確認と来場者の道案内が主だ。

 

「あの、すいません。このチケットの席ってどこに行けばいいんですか?」

 

「この場所だったら、この先の階段を上って直ぐだよ」

 

 

***

 

 

 ステージの中央で二人の歌女(うため)が歌い明かしているのを映司は観客席脇の通路から眺めていた。今のところ不審人物もいなければ、爆発物及びそれに準ずる不審物も見つかっていない。誰もいなかったから、何も無かったからと言って警戒を緩めて良い理由にはならない。

 インカムを通して緒川や、裏でネフシュタンの稼働実験を見守っている弦十郎達とも逐一連絡を取り合いながら観客席の脇を歩き続ける。オーディエンスの彼らは映司の存在には目もくれず、大いに盛り上がりを見せていた。

 出来る事ならば自分も観客として二人の歌を楽しみたかった映司だったが、次の瞬間最悪の事態が会場を襲う。

 突如として爆発するステージ。濛々と立ち上がる煙の中から現れるノイズの群れ。それに伴いパニックを引き起こす観客達の暴走。

 ステージの上では奏と翼が聖詠を紡ぎ、同時に映司もドライバーを腰に当てる。

 

タカトラバッタ

 

 変身完了と同時に、トラクローを展開し襲い掛かるノイズを一体一体しっかりと葬っていく。

 しかし、如何せん数が多すぎる。翼の『蒼ノ一閃』が広範囲に犇めく大多数のノイズ達を駆逐していくが、巨大な芋虫の形を模した強襲型ノイズが追加補充と言わんばかりに数多くの通常種を吐き出した。

 

Scanning Charge

 

 『キック』の一撃が強襲型の一体を貫いたが、まだ同タイプの強襲型は二体ほどいる。今も尚通常種を吐き出し続けているため、大したマイナスにならない。

 しかも、掃討と同時に観客達の救助と避難誘導やらも行わないとならない。現に、何人もの犠牲者が出ている状態だ。

 

「奏ちゃん、翼ちゃん!()()()を使うよ!!」

 

クワガタカマキリバッタ

ガーッタガタガタキリッバガタキリバ

 

 二人の制止も聞かず、オーズはタカメダルをクワガタメダルに、トラメダルをカマキリメダルに代えてオースキャナーで読み込んだ。

 こうして変身を遂げたのは、緑色の昆虫系メダルのコンボ。クワガタの大あごを模した二本角に橙の複眼、両腕にはカマキリの鎌を模した逆手持ちようの二振りの太刀。オーズ・ガタキリバコンボである。

 オーズのコンボと呼ばれる形態は、使用する三枚の同色のメダルを用いることでメダルのさらなる力を大いに引き出せるのだ。しかし、強大な力を引き出す反面変身解除後には途轍もない激痛もしくは疲労感に襲われるというデメリットが存在する。

 そんなガタキリバコンボの特性は50人の分身を生み出すこと。単純に人数が増えたことでこの能力により避難誘導も、怪我人の救助も行える。

 しかしそれでも、両手で水を溜めても隙間から漏れだすように、全員を救いきることは出来ない。

 どんなに人数を増やしても、ノイズに炭化させられたり、生き残りたいがために生まれる犠牲によって死ななくていい人々が死んでいく。

 

「生きるのを諦めるな!」

 

 ふと、オーズの視界の端で奏が叫んでいた。目をやるとそこには、胸から血が流れて服が赤く染まっている少女がいた。忘れもしない。その少女は開演前に映司から道案内を受けたあの少女だった。

 あの様子では長くもたないかもしれない。オースキャナーに手を伸ばした瞬間、奏の声で聞きなれない歌が紡がれる。

 

――Gatrandis babel ziggurat edenal

 

 聖詠とは違うのは分かる。分かるのだが、これは歌わせてはいけない。

 だが、オーズの制止の声も、翼の悲痛な叫びも届かぬまま、最後の一小節が紡がれた。

 『絶唱』。それはシンフォギアの持つ力を装者が限界以上に引き出す歌。増幅したエネルギーをアームドギアを介して一気に放出するのだが、強烈にして強大なエネルギー量に比例して装者への生命に危険が及ぶほどに絶大な負荷をもたらす諸刃の剣。

 天に掲げた奏のアームドギアを中心に、強大なエネルギー波が会場を駆け巡る。一瞬にして会場内に蔓延っていたノイズは大小問わず総て炭化して消滅する。ただ、その代償は余りにも無視できないほど大きなものだった。

 力を使い果たし、膝から倒れ落ちる仲間に駆け寄る二人。

 大粒の涙を流す翼は、抱き上げた奏の表情を見て更に声を上げて泣きじゃくる。奏の視力が失われていた。弱弱しく伸ばされるその手をしっかりと両手で掴み取るオーズ。仮面に隠されていているが、彼もまた泣いていた。

 払った犠牲は、余りにも多すぎた。消えていった命は二度と戻らない。

 

 

***

 

 

 爆発の正体は励起したネフシュタンの鎧の暴走によるものであった。予定していたセーフティ値よりも大幅に超えたフォニックゲインの暴走により爆発。ノイズ出現の因果関係は不明にせよ、動乱の後に鎧は周囲の痕跡から何者かが火事場泥棒した可能性が残されていた。

 そして、絶唱を使った奏は今、彼女が救った少女と同じように緊急手術を受けていた。その手術室の前ではコンボの疲労で昏倒して今し方目を覚ましたばかりの映司はかすり傷しか負っていない弦十郎から顛末を聞いていた。因みに緒川も頭部に軽く包帯が巻かれはしたが軽傷で済んでおり、今はベンチの上で俯いている翼に寄り添っていた。

 搬送されて何時間たったか。手術中の赤いランプが今消えた…。

 

 

 

続く




次回から無印本編になります

お楽しみに
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