戦姫絶唱シンフォギアAG・歌とメダルと13のコンボ 作:バルバトスルプスレクス
一つ、スカイタワーの一件で後悔の念に駆られる映司と響。その裏では非常になり切れないマリアの慟哭がエアキャリアに響く
二つ、未来の生存の可能性を得て、二課の装者と映司は弦十郎の特別特訓を受けるも、クリスに不安な感情が生まれた
そして三つ、神獣鏡のギアを纏った未来が、映司達の前に姿を現した
Count the Combo 現在オーズが変身したコンボは
タトバ
ガタキリバ
ラトラーター
サゴーゾ
シャウタ
???
???
???
???
???
???
プトティラ
タジャドル
神獣鏡のシンフォギアを纏った未来の姿をエアキャリアのコクピットから見下ろしているマリアとナスターシャの二人は、どういうことかとウェルに詰め寄った。
装者に仕立て上げるために助けたわけではないというのに。装者に纏わせるために神獣鏡のギアペンダントを用意したわけではないというのに。
ウェルの方に向き直ったナスターシャが真意を聞きだした。
「魔を祓う神獣鏡はフロンティアの封印解除に必要不可欠なパズルのピースではありますが、ギアとして纏えばヒトの心を惑わす力をも有しています。ドクターウェル、何故アレをあの少女に?」
しかし、ウェルは二人のいずれの視線とも合わせないままに語りだす。
「彼女は親友をこれ以上戦わせまいと思いながら自分自身にはどうすることも出来ない事にやるせなさを感じていたそうです。一番の親友なのに、一番側にいるはずなのに、と」
***
「少しお話しませんか?少なくとも、僕は貴女の味方です。きっと貴女の願いを叶えてあげられるかもしれません」
柔和な笑みを浮かべるその男に未来は一縷の望みにかけて胸に秘めたモヤモヤを吐き出した。
「私の親友は、戦う度、歌う度に命が削れて言ってしまうみたいなんです。でも親友は、響は困ってる人を見捨てることが出来なくて、ノイズが出たら、助けを求める手があったら」
「迷わず取ってしまう。結果として自身の命の炎が消えようとも」
かつての経験から自殺願望染みた自己犠牲からくる立花響の人助け。
どれ程他人から迫害を受けようともその手を伸ばし続ける親友の姿が痛々しく、ただ後ろから見ている事しか、ただ側にいる以上の事も出来なかった。あのライブの惨劇とその後の地獄の様な日々から、今日までずっと。
「僕に一つ手がありますが、どうですか?」
「手、ですか?」
差し出されたウェルの手を信用してよいのか迷いを見せていたが、やがてその手を未来は取った。
しかしこの時、いつの間にかマリアがいなくなり、清彦が音もなく現れていたことに二人は一切気が付いていなかった。
***
「リディアンの生徒はシンフォギアへの適合が見込まれた装者候補達であることは聞いていましたが、もしやドクターウェル。貴方の生成したLiNKERによってあの子は――」
「まさか違いますよ。そもそもLiNKERを使ってほいほいシンフォギアに適合できれば誰も苦労はしませんよ。装者量産し放題です」
それ以前に適合できるシンフォギアに限りがありますが、と最後に付け足したウェルの言うとおりである。仮に無制限な程にシンフォギアとLiNKERがあったとしても肝心の適合者または投薬して初めて適合者になれる歌女がいなければ宝の持ち腐れとなってしまうだろう。
もっとも、投薬したからと言って戦場をすぐにも駆けるなどと言う事はそうそうできない。そこはあくまで個人差の話なのだ。
「ならば如何にしてあの少女を装者に仕立て上げたのですか」
「愛ッ!ですよ」
「何故そこで愛ッ?!」
ウェルの返答を思わずオウム返ししてしまうナスターシャ。そこまで深い付き合いではないから科学者のステレオタイプであると勝手に決め込んでいたが、ウェルと言う男はどうやらその型にハマらない人種のようであった。
「LiNKERがこれ以上級友を戦わせたくないと願う想いを神獣鏡に繋げてくれたのですよ。恐いくらいに麗しいとは思いませんか?」
眼下に見える神獣鏡のギアを纏った未来の姿を見て、ウェルは一抹の不安を覚えていた。彼女の後頭部にある中央部に赤黒いレンズが収まった機材には、小日向未来の身体だけでなく精神すらも蝕んでしまう恐れがあるからだ。あくまでもウェルは彼女が望んだ手段を与えたに過ぎない。
ダイレクトフィードバックシステムと称されるそれは基本構造自体はウェル考案の物だが、戦闘経験のない未来が易々と二課の装者に奪還されぬよう真木原が改良を加えていた。これにより、今の未来はガングニールを纏ったばかりの頃の響よりも高い戦闘能力を有している。
しかし、神獣鏡の真に恐ろしいのはそこではない。
***
「――行方不明となっていた小日向未来の無事を確認。ですが……!」
「無事だとッ!?あれを見て無事だと言うのかッ!?だったらあたしらはあのバカになんて説明すればいいんだよッ!!?」
哨戒艦艇の甲板で翼とクリスそしてオーズは未知のシンフォギアを纏い、獣の様に咆哮する未来の姿に驚きを隠せずにいた。今までに見たことのない紫紺のギアを纏い、手には扇やメイスにも似た巨大な鉄塊を携え、装甲の大部分は脚部に集約しており、背中からは二対の帯が触手の様に蠢いている。
そこにいる未来は翼達の良く知る少女とはあまりにも違い過ぎていた。色合いもそうだが彼女の纏う雰囲気がどことなくオーズのプトティラコンボめいていた。
「脳へのダイレクトフィードバックによって己の意志とは関係なくプログラムされたバトルパターンを実行。流石は神獣鏡のシンフォギアと言ったところでしょうか。それを纏わせるドクターウェルのLiNKERもいやはや見事なものですね」
「真木原さん!貴方は何でこんなことを!」
腕をゴリラに変えたシャゴリタの剛腕がポセイドンを捉えた。弦十郎の特訓を経て、威力を増したオーズのその剛腕はいとも容易くポセイドンの装甲を通して清彦へとダメージが通りやすくなっていた。
弦十郎の教え『飯食って映画観て寝る』の通り、食事を通して身体の調子を良くし、映画を観る度に劇中のアクションを模倣して技を身に着け、深い眠りについて心身の休息を促す。
まさに心技体と言えよう。
「こちらにも信念がある。とだけ言っておきましょう!」
そう言ってポセイドンは徐に取り出した橙色のメダルとバックルに収まった三枚のメダルを取り換える。
<コブラ・カメ・ワニ>
その音声が流れるや否や、あろうことかポセイドンの装甲に付けられたオーズからの攻撃の跡が綺麗さっぱり消え去り、まるで変身直後の様な状態にまで回復していた。
しかし、オーズの様に姿形を変えるコンボチェンジとは違い、ポセイドンの胸部の紋章も姿形も変わっていない。
「また違うメダル…?!」
「私のベルトは貴方の物とは違いこの姿しかなれませんが、この姿のまま別のメダルの恩恵を受けられるのですよ」
そういってこんどはまた別のメダルを取り出して、先程と同じようにバックルのメダルと取り換える。
<エビ・カニ・サソリ>
得物の槍を投げ捨て蟹のハサミを模したオーラに包まれたその拳でオーズに肉薄するポセイドン。
単発の威力ならオーズの方に軍配が上がる筈なのだが、カニのメダルの効力故に互角に渡り歩いていた。
そこから少し離れた場所で、経験の差からクリスに軍配が上がっており、『BILLION MAIDEN』と『MEGA DETH PARTY』の嵐が未来を包み込んだ。間髪入れずに瓦礫の山の上で倒れ伏した未来に近付き、その後頭部に寄生しているかのように装着している機材に手を伸ばした。
これさえ外せばこっちの物だ。そう思っていたクリスだが、ポセイドンが思い出したかのように衝撃的な言葉を吐いた。
「ああ、そうでした。言い忘れてましたが、乱暴にギアを引きはがせば接続された端末が脳を傷付けかねませんよ」
その突然とも言える忠告に本の一瞬だけ気を取られたクリスは、立ち上がりメイスと鉄扇の機能を兼ね備えたアームドギアを構え立ち上がった未来に気が付くまで反応が遅れてしまった。
『閃光』。その名の通り紫色の光線が連発してクリスを襲う。間一髪避けられたものの、どうやって未来を開放すべきか戸惑った。
戦場を未来の胸の歌が包み込む。同時に彼女の脚部ユニットが稼働し、円を描くように扇状に開いた鏡の反射光が収束し始める。
「デェエエエッスッ!!」
叫びは抗議の物か、はたまた親友の実を案じて出た悲鳴か。その光は間違いなく調まで焼きはらう事だろうと本能的に感じ取った切歌の叫び。今はギアを纏っている翼に引き留められていてどうしようもない。
「だったらリフレクターでェッ!!」
『流星』。強大な紫紺の光線は、調の前に立つクリスが作り出したリフレクタービットによる琥珀色の防壁に阻まれた。
「調ぇ、今のうちに逃げるデスッ!フィーネに消し去られる前にッ!」
「フィーネ…だと!」
先史文明期の巫女。ある目的のもとにカ・ディンギルを以て月を打ち砕かんと画策し、そして敗れた者の名だ。肉体は死んでもその魂は不滅であり、彼女の血を受け継いだ子孫が強いフォニックゲインをその身に受けた時、肉体の精神を上塗りするかの如く復活する。
そして今のフィーネはマリアを依り代として復活しているとウェルが言っていた。むろんそれを忘れる翼ではなかったが、紫紺の光に押し負けているクリスを見てすぐに思考を切り替えた。
「イチイバルのリフレクターは月をも穿つ一撃すら偏光できるッ!そいつがどんな聖遺物から作られたシンフォギアか知らないが、今更どんなのぶっこまれたところで……」
パキリ。不意に幾つものリフレクタービットが砕け散る。
「――って、何で押されてんだッ!?」
純粋な威力であればカ・ディンギルの砲撃より遥かに劣る筈の紫紺の光は、徐々にクリスのリフレクタービットを食いつぶしていく。
「無垢にして苛烈……魔を退ける輝く力の奔流……これが神獣鏡のシンフォギア……ッ!」
二課側は知らない神獣鏡の禍祓いの力を知る調の独白。それこそが神獣鏡の真価なのである。
徐々に崩壊していくクリスのリフレクタービット。その崩壊速度は早まっていき、光の奔流がクリスを飲み込むのも時間の問題。
その時彼女の眼前に巨大な壁が突き刺さる。それが翼の『天ノ逆鱗』であると理解する頃にはクリスは襟首を掴まれ調共々翼に救助されていた。
「呆けないッ!!」
脚部ブースターによる推進力と連続で打ち出す『天ノ逆鱗』を盾として使い退避行動をとるが、逃げ切れる保証はない。
左右のいずれかに避けようにも薙ぎ払われる恐れもあり、その際に減速しようものなら忽ち焼き尽くされることは想像に難くない。
なれば、と背後ではなく目の前に『天ノ逆鱗』を突き刺して駆けあがった。
結果、上空に避けたことで『流星』の奔流に飲み込まれる事なく逃げ切る事が出来た翼達であった。
「もう止めるデスッ!調は仲間ッ!あたしたちの大切な――」
「仲間と言い切れますか?私達を裏切り敵に利する彼女を、月読調を仲間と言い切れるのですか?」
翼からのマークが外れた切歌が言うが、未来は答えないまま今度は切歌をターゲットに変えた。
「ハッキリと仲間であると断言出来ますか?私たちを裏切り敵に利する彼女を、月読調を仲間と言い切れるのですか?」
「違う……あたしがちゃんと調に打ち明けられなかったんデス……あたしが調を裏切ってしまったんデス……ッ!」
オーズを相手取りながら語るポセイドンの問いに切歌は弱弱しい声音で返す。
「切ちゃんッ!真木原のやり方では弱い人たちを救えないッ!」
翼とクリスに並び立つ調は唯一にして無二の親友に説得を試みた。
自分たちが欲しかったのは、やりたかったことは何だったのか。それを切歌に思い出して欲しいと願う調。方法や手段はまだ他にあるかもしれないと。
「そうかもしれません。何せ我々はかかる災厄に対し、あまりにも無力です。シンフォギアと聖遺物そしてメダルに関する研究データはこちらだけの専有物ではありません。しかし、仮にアドバンテージがあるとすれば――せいぜいこのソロモンの杖ッ!」
隠し持っていたソロモンの杖を天に掲げ、さらに多くのノイズを召喚するポセイドン。
周囲の米国哨戒艦艇に降り注いだ動く災害は情け容赦なく米国軍人たちに襲い掛かる。
先に動いたのはクリスだ。彼女の歌が戦場を包み込み、彼女の撃ち出した銃撃がノイズを悉く駆逐していく。この災禍を引き起こしたのはソロモンの杖を携えているポセイドンこと真木原清彦なのだが、そもそもソロモンの杖を励起したのはクリスの歌だ。フィーネに唆されたとはいえ自分がこの状況を間接的に引き起こしているのであると、強い責任感を感じているのだ。
「(ソロモンの杖がある限りはバビロニアの宝物庫は開きっぱなしってことかッ!)」
この時、無意識の内にクリスは自身の強すぎる責任感に駆られていた。
***
責任感と罪悪感に押しつぶされかけているクリスがノイズを討ち、アンチLiNKERにより人為的に適合率が下げられた調の身柄を慎次に託した翼が切歌と対峙し、ガタキリバコンボにメダルを代えたオーズがポセイドンに『ガタキリバキック』を繰り出した。
仮設本部でのやり取りをインカム越しに聞いていたオーズはこれから起きるある人物の
「これまで何度貴方と剣を交えた事でしょうか。そろそろ倒れてもらえませんかッ?!」
「こっちの……セリフだぁッ!!」
今までにこの二人の間で決着らしい決着はついていなかったが、これ以上戦いを長引かせる理由が二人には無かった。
ポセイドンの思惑など知ったことでは無いオーズはポセイドンを撃破した後に清彦の身柄を捕縛し、彼のベルトやメダルを押収した後、仮設本部でのやり取りにあった
しかしながらポセイドンの変異的なメダルの入れ替えによる戦法の前にオーズは焦る他なかった。
<シャシャシャウタ!シャシャシャウタ!>
<Scanning Charge>
コンボチェンジと同時に繰り出した『オクトパニッシュ』が、バックルのメダルを元のサメとクジラとオオカミウオのメダルに戻して最大の一撃を繰り出さんとするポセイドンの隙を突いて拘束し直撃する。
今までならばポセイドン側が逃げ切る形であったが、弦十郎のトレーニングを経た今のオーズならばそんな結末は生ませなかった。
必殺技である『オクトパニッシュ』は両腕のウナギムチで対象を拘束して引き寄せて、一つに束ねて回転するタコレッグで貫くドリルキックである。
「これで、終わりだーッ!!」
その時、オーズの身体が青色の淡いオーラに包まれた。ほんの一瞬、刹那とも言える程に一瞬の内にだ。しかし、その事実を誰も認識することもなかった。
かくして、ポセイドンを変身解除に追い込ませることに成功したオーズだったが、オーズ自身もギリギリの状態であと少しでも戦闘が長引いていればコンボの疲労によって勝敗は入れ替わっていた事だろう。
息も絶え絶えな様子で変身を解いた映司は『オクトパニッシュ』のダメージが残っているだろう清彦から視線を外さずに本部に連絡を入れた。
「……映司、です。ポセイドンの……、真木原の無力化に…」
『こちらでも確認している。今緒川さんが向かっているから映司君はそこで待機してて。可能なら対象の確保を。それと、ついさっき響ちゃんが未来ちゃんを止めに……』
「え…?」
インカム越しに届いた藤堯からの報告に戸惑った映司はふと、空を見上げた。
無数ものリフレクタービットが紫紺の光を乱反射する中、身体中から黄金の結晶が突き出しても尚未来を救わんとする響の姿がそこにあった。会話の内容が聞き取れないが、徐々に大きくなっていく黄金の結晶が響の命を蝕んでいることは明らかだ。
そして、響が未来をもう二度と離さないとばかりに抱きしめて、その二人を神獣鏡の光が、魔を祓う清めの光の奔流が響と未来を包み込む。
「作戦は成功です。封印は解除され、フロンティアが浮上するのです!」
映司の背後で清彦が語ると突如として海が割れ、遺跡の様にも見える人工造形物がゆっくりと浮き上がっていく。
それは仮設本部として使っている潜水艦よりも、今自分達が足場に使っている米国の哨戒船よりも遥かに巨大で映司にとって充分過ぎる程に衝撃的だった。清彦の言う通りフロンティアならば、彼らの目的がいよいよ大詰めなのだろうと判断するに難くない。
「貴方の身柄を拘束します。抵抗は――ッ!」
その瞬間、映司の意識は何者かの手によって刈り取られた。
続く