戦姫絶唱シンフォギアAG・歌とメダルと13のコンボ 作:バルバトスルプスレクス
一つ、未来に神獣鏡のシンフォギアを手渡したのはまさかの、ドクターウェルだった
二つ、ポセイドンは更に未知のメダルを用いてオーズと対峙する
そして三つ、ついにポセイドンを倒すことが出来たオーズだが、突如何者かによって意識を奪われてしまった
Count the Combo 現在オーズが変身したコンボは
タトバ
ガタキリバ
ラトラーター
サゴーゾ
シャウタ
???
???
???
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???
???
プトティラ
タジャドル
小日向未来が目覚めたのは、二課仮設本部の医療施設だった。
ドクターウェルと話していたと思ったらもう一人の真木原と名乗る無機質で不気味な男が現れて、そこからの記憶が曖昧だった。
強烈に覚えているのは、神獣鏡のシンフォギアを纏った自分とガングニールを纏った響とが戦っていたということ。
響が戦わずに済む方法を手に入れたと言うのに。逆に響を苦しめる結果になってしまった。
「未来ぅッ!」
自動扉が開ききる前に飛び込んできた立花響。入院着の自分に有無を言わさずに抱き着いてきたその親友の無事な姿を見て、琥珀色の結晶が一つ残らず消え去っているその身体を見て理解してしまった。
「私の……私のせいだよね……」
ハッキリと、覚えていた。神獣鏡のシンフォギアを纏っていた事を。
しかし、清彦の手により洗脳状態に陥っていたとしても、自らの意思で神獣鏡のシンフォギアを纏っていたとしても、無理矢理響を戰場に立たせてしまった事に強い罪悪感を覚えてしまう。
未来が強い後悔に苛まれる中、当の響はあっけらかんとした様子を見せていた。
「うんッ、未来のおかげだよッ!ありがとう、未来ッ!私が未来を助けたんじゃない未来が私を助けたんだよッ!」
何故自分が感謝されるのだろうと困惑する未来に遅れた入ってきた友里が響の最新の胸部レントゲン写真を携えて詳しい説明をする。
「あの神獣鏡のギアが放つ輝きには聖遺物由来の力を分解し無力化する効果があったの。その結果、2人のギアのみならず響ちゃんを蝕んでいたガングニールの欠片も除去されたのよ」
何の異常も見られないそのレントゲン写真。それが今の響を写したものだと分かった未来は、安堵の表情を浮かべて落ち着きを取り戻す。
「小日向の強い想いが死に向かって疾走するばかりの立花を救ってくれたのだ。私からも礼を言わせてくれ」
「私がホントに困った時、やっぱり未来は助けてくれたッ!ありがとうッ!」
だがここで、未来はある違和感を覚えていた。その違和感の正体を響達三人に問いただすが、視線を合わせない翼や、響と友里の暗い表情を見てまたしても悟ってしまった。
雪音クリスの姿がない事に。
***
映司を襲ったのは意外なことに雪音クリスであった。
彼女は翼を襲った後、映司に不意打ちを食らわせて清彦を回収し、今はマリア達と行動を共にしているようであった。
意識を取り戻してすぐスタッフから事情を聞かされた映司。指令室メインモニタに映る手錠をかけられ、シュルシャガナのギアペンダントを没収された調の様子に心を痛めていた。
「調さん…」
車椅子に乗せられているセレナもまた映司と同じ心境でいた。
保護された当初より幾ばくか体調が快方に向かっているセレナは了子や弦十郎達の許可を得て指令室に留まることを許された。本来の彼女の体調を鑑みれば安静にすべきなのだが、やはり唯一の肉親のマリアが気掛かりで居ても立っても居られず、映司と共に了子に無理を言って指令室に入ることを許されたのだ。
ネフィリムに取り込まれてから今日までの記憶と言うものが無く、所謂浦島太郎状態のセレナ。マリア達の事が気掛かりな為、悠長に寝て療養するなんて出来ないのは彼女の我が儘故のこと。
「セレナ、俺に……俺達に任せてくれないかな?」
そして映司は今度こそもう一度手を伸ばす決意を固める。
更に映司達二課とは別方向からのアプローチで、米国艦隊がフロンティアを横取りすべく続々と集結しつつある。
状況を鑑みて決戦は間近であることは確かであるが、世情は一筋縄ではいかないことだろう。
無意識の内にそれを感じ取った映司は、不安がっているセレナを落ち着かせていた。
***
「雪音クリス、本当に私たちと一緒に戦うことで戦火の拡大を防げると貴女は信じているの?」
「信用されてねえんだな。そんなに気に入らなければ鉄火場の最前線で戦うあたしを後ろから撃てばいいだろ(本当にこいつがアイツの言ってた幼馴染なのか?イメージと違い過ぎるだろ)」
優しい人物であると映司から聞いてはいたが、毅然とした態度を装いつつ何かを思いつめている様にも見えるマリアのその表情から真逆の印象を受け取るクリスは先を行く清彦の後を追う。
翼と映司の意識を刈り取り、二課を裏切ってまでF.I.S.の側についてクリスには目的があった。隙を見付けてソロモンの杖を奪い返すためだ。
「ええ勿論。そのつもりですとも」
先導するのは肩に人形を乗せた不気味な男。ポセイドンに変身するためのドライバーの所持者真木原清彦。この男のもとに下る際に言った事に偽りはない。むしろ本心でもある。
無機質な石造りの通路を抜けた先には上下に吹き抜けのあるフロンティアの動力部があった。ウェルに持たせていたケースからネフィリムの心臓を取り出した清彦はそれを動力部に埋め込むと、途端にネフィリムの心臓に秘められていた膨大なエネルギーが、フロンティア全体に行き渡る。
動力部の表面に黄金色の幾何学模様が浮き上がり、小さな太陽に変貌した。
「そうじゃないデス……ッ!フロンティアの力じゃないと誰も助けられないデスッ!調だって助けられないんデスッ!!」
切歌の脳裏に、二課に連れていかれる前の調の言葉が蘇る。唯一にして無二の親友とどこで道を違えてしまったのだろうか。調の言うことは正しいのかもしれない。しかし、正しいだけでは駄目なのだと切歌は知っている。
「切歌さん、そろそろ持ち場に行きますよ。遅れたら真木原から何を言われるか」
「分かってるデス…」
最後に一行が辿り着いたのは、フロンティアの艦橋。ナスターシャは別の区画からフロンティアの制御を買って出て、別行動を取っている。
艦橋内中央部にある球体型のコンソールを前に、清彦はウェルに向き直ると、何かを催促する様に自身の手を差し出した。対するウェルは手に提げていたアタッシュケースから薬品で満たされた注射器の複数ある内の一本を、清彦に手渡した。その注射器自体はマリア達がLiNKERを服用する際に使う拳銃タイプと同じものではあるのだが、中身はそれとは全く違う色身をしていた。
「それは?」
好奇心に駆られたマリアが問う。
「LiNKERですよ。聖遺物を取り込むネフィリムの細胞サンプルからドクターウェルの手を借りて生成したモデルです」
言い終えないうちに、人形を胸ポケットにしまって袖を捲くって曝け出した右腕にLiNKER投薬する清彦。するとどうだろうか。肌の色はアジア系の色から徐々に黒く濁りだし、その細胞が急速に変化しきるとやがて清彦の右腕は以前暴走した響が打ち倒したネフィリムのそれに変化していた。
人間と言うカテゴリーから半分逸脱した存在と相成ったその男が右腕を球体型コンソールに置くと、幾何学模様に光輝き、右腕を通してフロンティアと清彦が繋がった。今この瞬間、清彦はフロンティアを思いのままに操ることが出来る。
「あぁ……、この例え様のない高揚感……動かしたくなりますねぇ」
マリアは、恐怖した。自分が知る限り無機質な表情しか浮かべてこなかった清彦は今、目を細め、口角を吊り上げて三日月の様に歪めていたのだ。
「私とフロンティア、それぞれがひとつに繋がることでフロンティアのエネルギー状況が伝わってくる……。今こそ、目覚めの時です!!」
その瞬間、フロンティアから光の腕が伸びた。
***
突如としてフロンティアは二課の仮設本部諸共浮上する。潜水艦である仮設本部は陸に上がればただの案山子に過ぎない。
「直下からの地殻上昇は奴らが月にアンカーを打ち込むことで――」
「フロンティアを引き上げたッ!?」
藤尭の分析と緒川の結論が指令室で吐かれた。
フロンティアとは単なる古代遺跡ではなく、巨大な箱舟であったのだ。モニタ越しとはいえその事実を突き付けられた二課の面々に更なる悲報が舞い込んだ。
「司令!今ので月の落下が早まりました!!」
友里の報告は短いながらも絶望感を叩き付けるには十分過ぎている。もはや一刻の猶予も残されていない。
***
「制御できる重力はこれくらいが限度のようですね」
ずれた眼鏡の位置を整え、淡々とした口調で出力の具合を確かめていた男に、マリアは恐怖した。
フロンティアからアンカーを打ち出して落下の恐れのある月を掴んで引き上げる。まさに狂気の発想に他ならない。しかし果たしてこれが人類を救い出す希望なのだろうか。
「ですがこれで私の目的は完遂されます。終末の時まであと少しです!」
「終末?!真木原、貴方何を言って……?!!」
「御覧なさい、浮上のおまけに月を引き寄せてしまったようです」
「何とッ……!?」
ハッと清彦に促されたマリアとウェルは空に浮かぶ月を見た。このフロンティアに侵入する前に見た時よりも十倍近く大きく見える様になったのだ。
確実に落下までの時間が早まっている。
それ以前にマリアは聞き逃さなかった。清彦の口から確かに放たれた「終末」の単語。かつて清彦は自分達に人類の救済と言って決起したと言うのに。
「月をッ……落下を早めたのかッ!?救済の準備は何もできていないッ!これでは……これでは本当に人類は絶滅してしまうッ!!」
「そ、そうですよ!貴方は言ったじゃないですか、僕を英雄にしてくれると!その算段も!!」
「もとより、私には人類を救済する気も、英雄に仕立て上げる気も毛頭ありませんよ」
マリアは、絶句した。ウェルは、
目の前の男が無機質で機械的な人間であることは重々理解していた。してはいたが、続けて出る独白に嫌な現実を叩き付けられてしまった。
「私はこの美しい
「嘘……ッ!!」
「私は初めから、このフロンティアが最終目的だったのです。その為に今この瞬間まで貴女方と行動を共にしました。貴女達装者やナスターシャ教授にドクターウェルと言った人材は、今日この日を於いて欠かすこと出来ない大切なファクターです。ですので、教授を使って呼び戻した貴女達に適当な口実を与えることにしたのです」
「そうか……僕は、僕達はまんまと乗せられたという事か……ハハッ、滑稽だ!」
「真木原……貴方って人は…!」
マリアは、激怒した。
日本を発ってから今日までどれ程辛い目に遭っても、どんなに苦しい目に遭ってもいつの日にか本当に両親に会えると信じて耐え忍んできた。清彦と行動を共にしたのは月が落下してしまっては実の両親だけでなく、今まで自分たちを支えてくれた人たちが、かつての旧友たちが、そして何より映司といった多くの人々を護りたいが故の事。
「ほんの少しの真実を織り交ぜれば、人は簡単に嘘を信じ込みます。今日までの貴女やドクターウェルの様にね」
「そんなことのために私は、私達は悪を背負ってきたわけではないッ!」
聖詠を紡ぐことすら忘れ、怒りのままにマリアは拳を振りかぶった。仮にシンフォギアを纏っていた状態ならば、マリアの拳はそのまま清彦の顎を直撃するのだが、生身の彼女の拳は異形化された清彦の腕に軽くあしらわれた形になってしまう。
しかし、尚もマリアは諦めず清彦に組み付いて見せるも、あえなく吹き飛ばされてしまう。
「ここで私に手をかけても地球の終焉があと僅かなのは変わらない事実。貴女に今できることはフィーネを滑稽に気取ってた頃を思い出し、そこで恥ずかしさに悶える事だけです」
「セレナぁ……映司ぃ……」
「案外脆いものですね」
今までやって来たことのほぼ総てが無情にも否定しつくされたかのような絶望感にマリアは叩き落された。清彦と言う人間を信用し過ぎた結果がこれだ。だがしかし、マリアは諦めてはいない。清彦に悟られてはならない僅かな希望をマリアは奇跡的につかみ取っていたのだ。
「(お願い映司……助けて…!)」
***
二課仮設本部から、一台のバイクが駆け出した。
アメノハバキリのシンフォギアを纏う防人、風鳴翼である。『騎馬ノ一閃』がすれ違いざまのノイズを悉く屠るその様子をモニタしていた指令室の映司達。
「こちらの装者はただ一人。映司のオーズの鎧があってしても……」
「いえ、シンフォギア装者は1人じゃありません」
現状の戦力を語る弦十郎に響は答える。
「ギアの無い響君を戦わせるつもりはないからな」
「戦うのは私じゃありません」
「成程ね……。慎次さん、調を連れて来てくれますか?」
そう、シュルシャガナの装者月読調の存在があった。しかし、今の調の立場は仲間でもなく協力者ですらなく、敵で捕虜なのである。
連れてこられ手錠を外された調も呆れながら響に問いかける。
「捕虜に出撃要請ってどこまで本気なの?まさか映司さんまで賛同するなんて…」
「俺は調が悪い子じゃないって知ってるし、響ちゃんもそこはしっかりと分かってるからね」
「映司さん、私はその子のそういうところが、好きじゃないんです。正しさを振りかざす偽善者のその子が」
相変わらず手厳しい評価を響に下した調に思わず苦笑いを浮かべる映司。しかし、当の響はあまり気にする様子もなく、手錠が外され自由になっていた調の手を取った。
「私、自分のやってることが正しいだなんて思ってないよ。以前大きな怪我をした時、家族が喜んでくれると思ってリハビリを頑張ったんだけどね、私が家に帰ってからお父さんもお母さんもお婆ちゃんも暗い顔ばかりしてた。それでも私は自分の気持ちだけは偽りたくない。偽ってしまったら誰とも手を繋げなくなるから。だから、調ちゃんにもやりたいことをやり遂げて欲しい。もし、それがわたしたちと同じ目的なら――、少しだけ力を貸して欲しいんだ」
「私の……やりたいこと…」
「大丈夫だよ調。ここにいる人たちは皆、調に手を貸してくれるから。ですよね、弦十郎さん!」
「……マリアや切ちゃんたちを助けるためなら、手伝ってもい」
それは気恥ずかしさからくる行為なのか、誰とも視線を合わせないようにそっぽを向きながら、確認する。
「だけど良いの?敵だったのよ?」
つい先日まで刃を交えた相手。初めての邂逅の時もその後も含めて今日この瞬間を作り出す要因は何一つなかった。いくら映司や響が受け入れようと、それ以外の人間を全く信用しきれずにいる調だったが、シュルシャガナのギアペンダントを差し出した弦十郎の行為に思わず目を見張る。
清彦とも、ウェルとも、そしてナスターシャとも違う弦十郎の人間性。それはかつて火山家で感じた安らぎに似ていた。
「敵とか味方とか言う前に子供のやりたいことを支えてやれない大人なんて格好悪くて敵わないんだよ」
「……
「甘いのはわかっている。性分だ」
その時、弦十郎に電流が走る。
弦十郎自身調とまともに顔を合わせて話し合ったのは今日が初めての筈で、映司の父雄二から間接的に存在を知っていており、尚且つ二年半前の事も少なからず関わっていた程度。対する調は弦十郎とは違い、今回が初顔合わせ。にもかかわらず、弦十郎の行動に「相変わらず」と評価するのだろうか。
気が付けば調は映司と共に出撃したのか、もうそこにはいなかった。
「調ちゃん……だったかしら?あの子なぁーんか他人な気がしないのよねぇ」
「(了子君もか……まさかあの子は…)」
弦十郎の脳裏に蘇る先史文明期の巫女、終焉の名を持つあの女の姿と最期の言葉。そしてかつての依り代であった了子の言葉に合点がいった。
***
ガタジャーター状態のオーズと並走するシュルシャガナのギアを纏い、『非常Σ式 禁月輪』で移動する調。その彼女の背中にしがみつくのは、纏うギアが無い響だ。
案の定気が付いた弦十郎が通信で帰ってくるように叱責を飛ばすが、当の響はどこ吹く風。
響は戦う為に走り出したのではない。彼女の行動原理は人助けである。
『減らず口の上手い映画など見せた覚えはないだろッ!』
「そうは言いますけど弦十郎さん。響ちゃんが大人しくみんなが帰ってくるまで待ってる子じゃないと思うんです。俺も響ちゃんのバックアップに入りますからここは見逃してください!」
「お願いします!」と付け加えられたオーズの懇願。未来もそれに賛同する。
『行かせてあげてくださいッ!人助けは――一番響らしいことですからッ!』
『……仕方ない。子供ばかりにいい格好させてたまるかッ!』
事後承諾と言う形にはなったが、どうにか響の同行を許して貰えた。
通信を終えると、まるでタイミングを見計らっていたかのようにノイズの大軍がわらわらと湧き出てくる。会敵して間もなく、オーズの雷撃により大多数のノイズが屠られていく。
邪魔をするな。
行く手を阻むのなら容赦はしない。
オーズが駆けるのはこの事態を収める為だけではない。何よりも一番、誰よりも一番マリアの為に駆ける。
調が駆けるのは友の為。何故あの時自分を攻撃したのだろうかを知る事もそうだが、何よりもあの思いつめた切歌の真意を確かめる必要が調にはある。
――
翡翠色の閃光とイガリマを纏う為の聖詠。
イガリマのシンフォギアを纏う暁切歌が三人の前に立ちはだかる。
「切歌ッ!」
「やめて切ちゃん!」
「調、えーじ。どうしても……、どうしてもデスかッ!」
「聞いて切ちゃん。真木原のやり方じゃ何も残らない。人の命も、営みも!!」
「真木原のやり方じゃないと、何も遺せないデスッ!間に合わないんデスッ!!間に合わないんデスッ!!」
石造りの屋根の上から叫ぶ切歌。しかし、清彦の真の目的など知らぬままに
相対する調も、響を降ろして臨戦態勢に入った。
「ふ、二人とも一旦落ち着いて話し合おうよ!」
「「
奇しくもフィーネ陣営にクリスがいたルナ・アタック事変の時と同じセリフを吐かれた響は、思わぬデジャブに狼狽えを見せる。
「……調、ここは任せるよ。行くよ響ちゃん!」
オーズに促され、後ろ髪を引かれる響。だが、今目の前で自分と未来の繰り返しが起きようとしている。以前オーズから二人の関係を聞いていたから尚更止めなければならない。
オーズは響が争いを好まない少女であることは理解している。だからこそ、これから起きるであろう調と切歌の衝突を憂いているのも理解している。だが、ここで踏みとどまっているわけには行かないのが現状なのだ。
「二人は先に行って。二人ならきっとマリア達を止められる。手を繋いでくれる」
だから、と付け加える調の表情に、かつて月を墜とそうとした先史文明期の巫女の面影が重なった。
「胸の歌を、信じなさい」
「(フィーネ……マリアじゃ、ない?)……分かった。調も気を付けて。行くよ、響ちゃん」
「で、でも映司さん!」
「大丈夫だよ。調と切歌は昔からよくケンカしてるけど、それでも仲は良いんだ。だから安心して?俺達はマリアを助けに行かなきゃ!!」
有無を言わさず響の手を取って共に走り出すオーズ。
二人の背中を見送って、調は切歌と対峙する。
「調!えーじはともかく、あいつは調の嫌った偽善者じゃないデスかッ!」
「でも、あいつは自分を偽って動いてるんじゃない。動きたいことに動くあいつが眩しくて羨ましくて――少しだけ信じてみたい。そう思ったから!」
「さいデスか……でも、あたしだって引き下がれないんデス。あたしがあたしでいられるうちに何かをカタチに遺したいんデス!!」
「切ちゃんがいられるうちに……?」
その言葉の真意がわからない調だが、これだけは分かる。切歌にも、自分と同じように曲げられない信念があると。
「調やマリア、マムが暮らす世界を、あたしがここにいたって証を遺したいんデスッ!」
「それが理由――」
「これが理由デス」
二人はすれ違う。どうしようもなくすれ違う。すれ違っても尚、傷つき合う事も恐れずに自分自身をぶつけ合う覚悟だ。火山家にいた時の様に、腹底に溜まっている物を吐き出すだけ。分かり合う為に、和解の為に。
「この胸にぃッ!」
「ぶつかる理由がぁッ!」
「「あるのなら――ッ!!」」
少女二人、思いのままにぶつかり合う。
***
清彦がソロモンの杖を携えて何処かへと歩いて行った。
艦橋フロアの隅で項垂れるウェルの他には、外でぶつかり合う調と切歌の激突の様子を見守るマリアのみ。
「どうして……、仲の良かった調と切歌までが……。私の……私の選択はこんなものを見たいがためではなかったのに……ッ!」
彼女の目に映る二人の様子は昔よくしていたケンカよりも壮絶で、メンタルが弱まってきているマリアの目には命の奪い合いにしか映らなかった。
メンタルが安定している状態であれば、ガングニールをその身に纏い、直ぐにでも二人の仲裁に行った事だろう。だがしかし、今のマリアにはそんな考えが出来る程メンタルは安定していなかった。
『マリア。聞こえていますか?』
「
『もし近くにドクターウェルがいるのであれば、よくお聞きなさい。フロンティアの情報を解析して月の落下を止められるかもしれない手立てを見つけました。最後に残された希望――それにはマリア、貴女の歌が必要ですッ!』
「私の歌……?」
恩師の提案に理解が追い付かず、思わずオウム返しになってしまうマリア。
それだけではない。そこになぜドクターウェルが必要になるのだろうか。その人物は今まで信じてきたものに裏切られて打ちのめされている。
「私の歌で月を?」
『月は地球人類より相互理解を剥奪するため、カストディアンが設置した監視装置。ルナ・アタックで一部不全となった月機能を再起動できれば公転軌道上修正可能です。ドクターウェルのサポートがそれをより確実の物に出来ます』
艦橋には確かに様々な機材があるのは確かだ。だが肝心のその男はナスターシャの通信を聞いているのかいないのか定かではないのか、項垂れたまま何の変化も見せていない。その様子ではマリアは満足な補助を得ることが出来ないだろう。
だからと言って、世界を救う手立てが残されているのにそれを実行しない訳には行かないマリアは何とか自分自身を奮い立たせて、ガングニールに手を伸ばす。
続く