戦姫絶唱シンフォギアAG・歌とメダルと13のコンボ 作:バルバトスルプスレクス
一つ、神獣鏡の奔流に飲み込まれてしまった響と未来。しかし、二人の命に別状はなかったものの響からガングニールの欠片が消え去ってしまった
二つ、真木原清彦が本性を明かした上に、月の落下を早めてしまう
そして三つ、翼とクリス、調と切歌がそれぞれ衝突する最中、ナスターシャがマリアを奮い立たせるのだった
Count the Combo 現在オーズが変身したコンボは
タトバ
ガタキリバ
ラトラーター
サゴーゾ
シャウタ
???
???
???
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???
???
プトティラ
タジャドル
荒れ果てた岩場で、銃声が轟き、蒼い斬撃が飛ぶ。
一進一退の攻防は
「
翼の前に立ちはだかるは雪音クリス。その問いに彼女は何も言わず、静かに銃口を翼に向ける。これが答えだと言わんばかりに。
「その沈黙を私は答えと受け取らねばならないのかッ!」
叫ぶように翼が再び問う。かつてフィーネの傀儡だった時とは違い、クリスから全くと言って良いほどに殺意が感じられなかったからだ。だからこそ、何か理由があっての裏切りなのだろうと確信する。
「何を求めて手を伸ばしているッ!」
なればこそ、その真意がわかるまでクリスの口頭から本音が吐けるまでぶつかり合うのみ。
「あたしの十字架を他の誰かに負わすわけにはいかねえだろッ!」
それが理由か、と翼は確信する。クリスの言う十字架とは、フィーネの言われるがままにソロモンの杖を携えて行ってきた事、そしてソロモンの杖を略奪された上にそれによって多くの犠牲者を出してしまった事。かつてクリスはフィーネに言葉巧みに唆され、最後には切り捨てられた。そして今は贖罪も兼ねて二課の装者として活動しているが、クリスは自分自身を到底許すことが出来ないでいたのだ。
同時に、その首元に怪しい黒光りするチョーカーが翼の視界に入った。
***
「切ちゃんが切ちゃんでいられる内にって、どういうこと?」
そう訪ねる調の前に立ち塞がるは大鎌を振り翳す切歌。
まるで死期が近いと言いたげなその表情が、この
「あたしの中にフィーネの魂が、覚醒しそうなんデス」
衝撃の告白に、調の頭の中でミキサーによって思考や感情がぐちゃぐちゃにかき乱されたような感覚に陥っていた。
フィーネの魂はマリアに宿る筈ではなかったのか。それがなぜ親友の肉体に宿ると言うのだろうか。その真意が知りたくて、調は一歩踏み出した。
「だとしたら私は尚の事切ちゃんを止めてみせる。これ以上フィーネなんかに塗り潰されないように、大好きな切ちゃんを守るために!」
「大好きとか言うなッ!あたしの方がずっと調が大好きデスッ!だから、大好きな人たちがいる世界を守るんデスッ!」
互いが互いを思いやっていても、交わるでもなく、同じ方向を向いてるでもなく、一方通行にぶつかり合う。
「大好きだって――!!」
調の頭部のユニットが展開し、ヘリコプターの回転翼の様な丸鋸を展開する『緊急φ式 双月カルマ』が。
「――言ってるでしょうがーッ!!」
切歌のショルダーアーマーが展開し、新たな四つの鎌を作り出す『封伐・PィNo奇ぉ』が。
二人の思いの丈を乗せ、真正面からぶつかり合い、桃色と緑色のスパークが辺りの岩肌を灼いた。
***
「世話の焼ける弟子のおかげでこれだ」
仮設本部の車庫でぼやくのは風鳴弦十郎。しかし吐いた言葉とは裏腹に、呆れ顔をしていながらも口元をわずかに緩ませて所有する一台のジープの助手席に腰を下ろす。
「きっかけを作ってくれたと素直に喜ぶべきでは?」
運転席でシートベルトを締める緒川が笑みを浮かべてハンドルを握り、アクセルを踏んだ。
本来弦十郎は部隊を纏める長である。二課の司令である彼はおいそれと現場に出張るわけには行かないのだ。例え生身の人間相手なら多少の無理を通せるが、相手がノイズであった場合は命の保証もない。
しかし、今回は話は別だ。戦う術を持たない響の連れ戻しを建前に、真木原とウェルの逮捕拘束の為に緒川ともう一人を伴っている。
「すみません。何度も我儘を言ってしまって」
「いえ。セレナさんのマリアさんを思う気持ち、僕も分からなくもありませんから」
走り出したジープの後部座席からひょこっと顔を出して緒川に申し訳なさそうに謝罪するのがそのもう一人であるセレナだ。彼女の手に握られているタブレットの画面には、フロンティアの環境にいるであろうマリアが映し出されていた。映司に姉の事を任せたは良いが何も出来ない自分に苛立ちを覚え、無理を承知で弦十郎や緒川に同行を願い出る事にしたのだ。
今は安静にして映司達が戻って来るまで大人しくしていることが最優先なのだが、それ程までに実姉のマリアが気掛かりなのである。マリアがセレナを大切に思っている様に、セレナもまたマリアをとても大切に思っているのである。
***
フロンティアの機能を以てしまえば、地球全土に電波ジャックを仕掛ける事など造作もないことだ。
世界中のテレビやスマートフォン等の画面に、フロンティアの艦橋にいるマリアの姿が映し出される。画面の中にいる彼女は地球全土に向け、今日まで自分たちの隠し続けていた真実を告白する。
月の落下の事、それを米国がひた隠しにしていた事、そしてこれまで自分達が背負ってきた罪の数々を語った。
『全てを偽ってきた私の言葉がどれほど届くか自信はない。だが、歌が力になるというこの事実だけは信じて欲しい』
「たった一人でそんなこと……背負いこみ過ぎなのよ、マリア…」
かつて実の娘のようにマリアを可愛がっていた映司の母、火山小春。実際に血の繋がりはないが、それでも確かに家族として共に過ごしてきた。一度は離れ離れになったが今でも小春はマリア達の事は大切な娘たちであることに変わりはない。
画面の中でマリアが聖詠を紡ぎ、黒いガングニールを纏い出す。
「何が起きているのか、何でこうなってるのか分からない。けどね、私達は何があっても家族だからね」
彼女の両手に握り締められていたスマートフォンの画面には、切歌と調を迎え入れたばかりの頃の家族写真が表示されており、写真に写った映司とマリアは年相応の子供らしい屈託のない笑顔を浮かべていた。
小春にとって写真に写っている過去のマリアも、黒い戦装束を纏っている今のマリアも、自分の娘も同然なのである。
***
『私一人の力では落下する月を受け止め切れないッ!だから、貸して欲しいッ!皆の歌を届けて欲しいッ!』
「響ちゃん、大丈夫?」
「平気です!へっちゃらです!誰かが頑張っているんです!私も負けられません!進むこと以外答えなんてあるわけないからッ!!」
マリアの決意の声は、外にいるオーズと響にも届いている。
基本のタトバコンボにメダルを代えたオーズは我武者羅に走り続ける響に並走していた。響を抱えてクジャクの翼で飛翔してマリア達のいる艦橋に行くのは簡単な事だろう。だが、響はそれを蹴った。
今の響には闘う為の力が無い。しかし、だからと言って何もしないわけには行かず、響は今の自分自身に出来る精一杯を頑張る為に。
「ノイズが来たら俺が相手をする。だから響ちゃんは走って!走り続けるんだ!!」
「はいッ!」
前から、後ろから、上から左右からソロモンの杖で呼びだされたであろうノイズが響を狙う。だがしかし、そうは問屋が卸さないとガタキリバにメダルを代えて50人に分身したオーズが雷撃を放ち、二振りの刃を振り翳し、高い跳躍力からくるキックの雨を障害となっているノイズを駆逐していく。
このコンボは他の形態と比べて変身後の疲労が頭一つ抜きんでて高い。その最たる理由が50人に分身することにある。分身一人一人が負った負傷や負担が本体である映司へ一つになって還元されてしまうからだ。コンボによる映司一人に対する疲労自体はそれ程高くはないのだが、50人分の負担が映司一人に集約されるのがガタキリバコンボ最大のデメリットなのである。
「でもえい……、オーズさんッ!」
響は映司の、オーズの身を案じていた。この場を乗り切ってもゴールは無く、あるのはその後も戦いは続くチェックポイントでしかない。それまでに負担が祟って変身解除にまでなってしまったら、生身の映司はノイズの餌食となってしまう事だろう。
「大丈夫!俺は…、止まらない!止まるわけにはいかないからッ!!セレナと約束したんだ。絶対にマリアを連れて帰る!だからッ、そのためにも!!」
<Scanning Charge>
50人分のキックの雨霰。『ガタキリバキック』は正に数の暴力。広範囲のノイズを一掃しても尚、オーズは己を奮い立たせてコンボによる疲労を必死に耐えていた。
マリアに手を伸ばすため。
十年そこそこ家族として過ごしてきたからわかる。マリアは今、救いを求めている。今までの行動が祟って精神的にも限界がきているのだ。
その彼女の手を取る為にも、自分自身の思いを届ける為にもオーズは倒れるわけには行かないのだ。
***
「いつまで遊んでいるつもりですか、雪音クリス君。君の望む物は、未だに私の手の中なのですよ」
ソロモンの杖をワザとらしく見せ付けるように右腕で掲げる清彦は、左肩に乗せた人形とだけ視線を交わす。
清彦はあるルートからルナ・アタック事変の詳細や雪音クリスの素性に関する資料を受け取っていた。故に、クリスがソロモンの杖に執心する理由も概ね理解しており、クリスがこちら側に来てくれた時は好都合とさえ思っていた。
杖を餌に、首輪を嵌めてクリスを使い勝手と都合のいい番犬にすることは出来た。今は適当な理由を以て用心棒代わりにして実力者である翼の足止めにさせている。
合間合間にオーズと響に向けて適当にノイズをばら撒いてオーズの体力の消耗を狙っているが、こちらは次いで程度。あの二人が艦橋に辿り着いたところで出来る事などありはしないのだ。
「犬の首輪を嵌められてまで何を為そうとしているのかッ!」
「汚れ仕事は居場所のない奴が
「しかし、それでも首根っこ引きずってでも連れ帰ってやる。お前の居場所――帰る場所に。お前がどんなに拒絶しようと私はお前のやりたいことに手を貸してやる。それが片翼では飛べぬことを知る私の――、先輩と風を吹かせる者の果たすべき使命だッ!」
世迷い事だ。冷めた瞳でクリスと翼のやり取りを見下している清彦には何も響かない。届かない。所詮他人事に過ぎないのだ。
「何をしているのです、雪音クリス。素ッ首の
不気味な人形が起爆スイッチを両手で掲げていた。持っていたソロモンの杖を人形を乗せていた方に持ち替え、右手で人形から起爆スイッチを受け取った清彦は、親指でスイッチの周囲をゆっくりと撫でまわす。その気になればいつでもお前を殺せるんだぞ、と。
そこでようやく観念したのか、クリスが一呼吸置いた。
「風鳴……先輩!次で決める。昨日まで組み立ててきたあたしのコンビネーションだ」
「そうか……ならば、こちらも真打ちをくれてやるッ!」
動くか。清彦の注意が一気に二人に向けられる。
先に動いたのはクリスだ。両手に握られたハンドガン型のアームドギアを連射。しかし翼は空高く飛び上がり、これを回避。続けざまに『蒼ノ一閃』が放たれる。
蒼い光刃を躱してハンドガン形態からクロスボウ形態に変えたアームドギアの引き金に指をかける。撃ち出したのは散弾だった。翼がそれを得物で防御しているのを見てクリスは即座に『MEGA DETH PARTY』を吐き出した。対する翼も『千ノ落涙』で迎撃。
結果、二つの大技が真っ向からぶつかり合って大爆発を起こしてしまった。衝撃の余波で足場が崩落し、クリスと翼はその穴に落ちていった。
「願ったり叶ったりという言葉はこういう事態を言うのでしょうねぇ…」
穴の底に消えていった二人の消息を確かめるべく、清彦はその穴をゆっくりと、しっかりとした足取りで降りて行った。
***
切歌と調の喧嘩は一進一退の攻防を繰り広げていた。
互いに実力は拮抗しており、一瞬でも気を抜く事さえ出来ず、一度でも油断すれば敗北は免れない。
しかし、この戦いにおいては明確な勝利のビジョンは何処にもない。互いに決定打にかけているのだ。技のバリエーションもさることながら、お互いに技を出せばそれに対するカウンター技を繰り出して相殺するシーソーゲームが成立してしまっている。
「ねぇ切ちゃん。どうしても退けないの?」
攻撃の手を止め、親友を見据える調。もう闘いたくない、これ以上清彦の良いように扱われる親友と刃を交えたくない。しかし、だからと言って大人しくやられる訳にもいかない。矛盾を孕んだ選択だが、後悔はしていない。
そして先程切歌が言ったフィーネの魂の話が事実ならば、戦いが長引けば長引く程、切歌の精神が食い尽くされる可能性がある。何故マリアではなく自分に宿っていると言ったのか。その真意を知りたかった。
「引かせたいのなら力尽くでやってみせるといいデスよ」
調の足元に、LiNKERで満たされた拳銃型の注射器が滑り込む。見慣れたドクターウェル謹製の物。
「LiNKER?」
その意図が組めず困惑の面持ちで切歌を見るとその手に同じものが握られており、既に投薬を終えた後だった。
絶唱を用いて互いに全力をぶつけ合おうと言う事か。
「ままならない想いは力尽くで押し通すしかないじゃないデスか!」
調が投薬を終えると同時に、二人は絶唱を紡いだ。
得物の鎌にブースターユニットが増設され、それを切歌は魔女の様に跨って突撃する。
調の絶唱は両手足に装甲と丸鋸を増設。パワードスーツを着込んでいるかのような姿で切歌を迎え撃つ。
「絶唱にて繰り出されるイガリマは相手の魂を刈り取る刃ッ!分からず屋の調からほんの少しでも負けん気を削ればぁッ!」
「分からず屋はどっちッ!私の望む世界は切ちゃんもいなくちゃダメ。寂しさを押しつける世界なんて欲しくないよッ!」
「だからこそ!あたしが調を守るんデスッ!例え…フィーネの魂にあたしが塗り潰されることになってもッ!」
絶唱によるブーストによりフォニックゲインが強力になっている今、それの急速的な促進でフィーネの顕現が早まってきている。それが来る前に、完全に塗りつぶされる前に、決着をつけるべく切歌。
数十もの打ち合いの最中、調のアームドギアが少しずつ砕けていく。それ程までに切歌の猛攻は凄まじく、一撃一撃に執念が込められているからこそ。
「真木原のやり方で助かる人たちも私と同じように大切な人を失ってしまうんだよッ!そんな世界に生き残ったって私は二度と歌えないッ!」
「でも、それしかないデスッ!そうするしかないデスッ!例えあたしが調に、嫌われても――ッ!!」
切歌の得物が調の両腕の丸鋸が装備されたアームを叩き割った。
「切ちゃん、もう戦わないで……私から大好きな切ちゃんをもう奪わないでッ!!」
その時だ。切歌の一撃を防ぐかのように、桃色の障壁が調の両手を中心に展開されたのだ。
「何、これ……?」
今の自分の状況に戸惑いを見せる調とは裏腹に、切歌はまるで後頭部を鈍器で殴打されたかのような強いショックを受けていた。
あの日、工事現場で休んでいた時に見た物と酷似していた。その時は切歌の手から出ていた為に切歌は自分がフィーネの器であると確信した。いや、確信していたと思い込んでいたわけだ。そうなると、今まで自分がしてきたことは総て無駄。空回りにもほどがあったと言う事だ。
その事を自覚してしまった切歌は戦意を喪失。手にしていた得物は弾き飛ばされ宙を舞う。
「フィーネの器になったのは調なのに、あたしは調を……、調に悲しい想いをして欲しくなかったのに、できたのは調を泣かすことだけデス……」
落下しているイガリマの鎌が、その切っ先が切歌の胸を捉えていた。このまま何もしなければイガリマの鎌が切歌の心臓をえぐり出すことだろう。
鮮血が舞う。だがその切っ先は、切歌を切り裂くことはなかった。
***
フロンティアの艦橋で、漆黒のガングニールを纏ったマリアが胸の歌を唄いきる。
彼女の歌を以て月遺跡の落下を防ごうとしていたが、結果としては落下を阻止するどころか落下速度を遅らせることも出来なかった。
手持ちのタブレット端末でその様子を観ていた清彦は、地に伏した翼を前に佇むクリスの姿を見た。
「約束通り二課所属の装者は片付けた。だから、ソロモンの杖をあたしに」
振り返り、清彦に向けて手を差し出すクリス。
もとよりクリスは腹の底から清彦の行動原理に賛同するつもりは更々なかった。そもそもの狙いはソロモンの杖のみ。癪ではあるが、従順な振りをして信頼を勝ち取って駄賃代わりに貰えれば良かった。
「……浅はかなものですねぇ。ドクターウェルならまだしも、この私を出し抜こうなどとは。気絶の振りにしては上手すぎですよ、風鳴翼さん」
「ッ?!」
だがしかし、そこまで清彦は甘くはなかった。クリスや翼の周囲にノイズを召喚し、隠し持っていたクリスの首輪の爆破起動スイッチを投げ捨てる。
「気づかないとでも思いっていましたか?バレバレなんですよ最初から。チョーカーも既に無効化して貰っているのでしょう?」
思わず倒れているはずの翼に顔を向けるクリス。翼もまさか清彦にバレていると思わなかったからか、膝立ちに立ち上がり悔しさのあまり歯噛みする。
「シンフォギアを纏わせる
辺りに漂い始める赤い煙。それがアンチLiNKERであると理解する頃にはクリスは片膝をついていた。
あの廃病院で散布されていたものだろうと察知した翼だったが、クリスはこの状況に絶望してはいなかった。
「暇がねぇって言ったよな?なら、それを作れば良いだけの事だろうが!ぶっ飛べッ、アーマーパージだッ!!」
嘗てフィーネの手先として響とオーズの前に立ちはだかったとき、ネフシュタンの鎧を拡散弾の様に周囲にばら撒いたが、今回は今展開しているイチイバルのシンフォギア。装甲が光弾となり周囲のノイズを消し去る代償として一糸纏わぬ姿となったクリスはあっけにとられた清彦を蹴り飛ばし、翼に目配せする。
『千ノ落涙』。翼の得意とする広域攻撃だ。
「成程。アンチLiNKERの負荷を抑えるためにあえてフォニックゲインの出力を押さえたわけですか」
ルナ・アタック事変時の装いの翼が刀剣型アームドギアを携え、胸の歌を紡いでいた。ギアの扱いに関してはクリスや響よりも先を行く翼にとってギアのグレードダウンなど造作もない事だろう。
アンチLiNKERの効能が終わる前に、清彦はソロモンの杖を掲げてノイズを召喚し数の暴力での一掃を図る。それが無理ならポセイドンへの変身もある。
「させるかッ!!」
しかしその時、クリスが隙を突いて清彦の不気味な人形を鷲掴みにして洞窟の奥へと、メジャーリーガー顔負けの投球フォームを取って出来るだけ遠くに向けて投げ飛ばした。
突然の事態に清彦は狙っていた数の一割以下のノイズを召喚したところで絶叫し、思わずソロモンの杖を放り投げ、変身することも忘れて洞窟の奥へと消えていった人形を回収すべく奇声を発しながら走り出した。
「ダメダカラーッ!!ナゲチャダメダカラー!!」
その後、クリスの衣服は元に戻り、翼が残ったノイズを掃討。更にソロモンの杖の回収する。
「その……一人で飛び出してごめんなさい」
「気に病むな。私も1人では何もできないことを思い出せたし、何よりこんな殊勝な雪音を知ることができたのは僥倖だ」
この
気恥ずかしさからそっぽを向いたクリスは、そう思いながら迷いに迷って漸く見失っていた自分の帰る場所を見付けることが出来たのであった。
***
暗く深い、海の中の様な空間。
月読調はゆっくりと下へ下へと落ちていく。
イガリマの刃を受けたのは調だった。
親友の命を救い、代償として自分の命を捧げたのだ。
その調の隣には白く輝く一人の巫女がいた。
「きりちゃん、じゃない。だとすると、あなたは……?」
――どうだっていいじゃない、そんなこと
古の巫女は名乗らなかった。だが、調はその巫女を知っていた。
――そうね、誰の魂も塗り潰すことなく、このまま大人しくしているつもりだったけどそうもいかないものね。魂を両断する一撃を受けてあまり長くは持ちそうにない……か
「私をかばって……?でも、どうして……」
巫女の正体を知る者からすれば、誰かの身代わりとなって消滅すると言う選択肢を取る筈がない。
だが、巫女は調の命を救う為に自らの消滅を選んだのだ。
――あの二人に伝えて欲しいのよ。だって数千年も悪者やってきたのよ?いつかの時代、どこかの場所で今更正義の味方を気取ることなんて出来ないって。今日を生きるあなたたちで何とかなさいなって
「映司さんと……立花、響……」
それに、と巫女は最後に付け足した。
――いつか未来に、人が繋がれるなんてことは亡霊が語るものではないわ
その言葉を最後に、調の意識が覚醒する。
***
目を覚ました調だったが、先程負った筈の傷の一切が初めから無かったかのように癒えていた。
「よ、良かったデス調……ッ!でも、どうして……」
死の淵から舞い戻った親友を思い切り抱きしめて喜ぶ切歌に、調はあの巫女の事を思い出していた。
「多分――フィーネの魂に助けられた」
「フィーネに、デスか?」
意識を乗っ取るどころか親友の命を救ってくれた事を純粋に喜んでいいのか分からなくなった切歌。しかし、親友と永遠の別れをしないで済んだ事に喜びを隠しはしなかった。
「ねぇ、私の大好きなきりちゃん。みんなが私を助けてくれている。だから、きりちゃんの力も貸して欲しい。一緒にマリアを救おう」
「……うん。今度こそあたしの大好きな調と一緒にみんなを助けるデスよ」
目指すは艦橋。フロンティアのその頂に、マリアはいる。
***
「……月の落下速度、依然……変わらずです」
『マリア、もう1度です。もう一度月遺跡の再起動を――』
試みるのです。ナスターシャが吐き出そうとしたその言葉を遮ってマリアが叫んだ。
「無理よ……もう無理よッ!私の歌で世界を救うなんて……ッ!」
既に彼女の心はこれでもかと磨り減っていたのだ。
実の両親に会えると嘘の言葉に踊らされ、最愛の妹はネフィリムに取り込まれ、実の妹のように慕っていた切歌と調が衝突するなど衝撃的な出来事があまりにも多く起き過ぎていた。
『立ち上がりなさいマリア!貴女の歌で月の落下を防げる最後のチャンスなのですよ!』
マリアの胸の歌に、フロンティアは応えることはなかった。ナスターシャの仮説通りならば、フロンティアの機能を用いれば世界を救うことが出来る。
しかし、現状は何も変わらない。マリアの歌自体に何ら問題はない。フォニックゲインの質も問題はない。ならば、何故と。ナスターシャの頭の中では数々の疑問と推測が混じり合い、思案の海にナスターシャが潜り込んだその時、血相を変えた清彦がソロモンの杖を奪われ、一度ならず二度までも自分の人形をぞんざいに扱われたことによる焦りと怒りを滲ませてマリアに駆け寄って胸倉をつかみ上げた。
「何をしているのですか?貴女が今すべきことは、全世界に向けたソロカラオケ大会ではないのですよ!!」
今までに見たことのない清彦の豹変ぶりにあっけにとられたマリアは、ネフィリム化された右拳による殴打の直撃を受けて壁際にまで吹き飛ばされる。
ギアを纏っているとはいえ、大人一人を拳一発で吹き飛ばすくらいに清彦の腕力も上がっていた。
「そちらこそ何をしているのですかドクター真木原!」
マリアを庇いたてるようにウェルが清彦に詰め寄った。彼自身良いように清彦の思うがまま道具のように扱われ、尚且嘘八百を並べてウェルの英雄になりたいと言う気持ちに薪をくべた清彦が許せなかった。
「所詮貴方の夢など私が求める終末に比べれば遥かに劣る矮小なものです。今日までの少しの間、良い夢を見させてあげたのだからそれでいいでしょう?」
利用価値がほぼなくなった英雄志望を振り払い、先程までマリアのステージだったコンソールパネルに、ネフィリム化した腕を置く。清彦は表情を変えはしなかったものの忌々し気に「ほう…」と呟いた。
「成程。つまるところ首謀者は貴女でしたか、ナスターシャ教授。小癪で小賢しい真似を……私の終末を阻むのであれば、誰であろうと!!」
端末に幾何学模様が走る。
怪しく光ると同時に、フロンティアの一部が船体から切り離されて、ロケットの様に月へと飛んで行った。それはナスターシャのいる区画であった。
「大方月遺跡を利用して月の落下を阻む算段だったのでしょう。ならば貴女が直接操作できるよう月へと飛べばいいのです」
ロケットと化しているその区画は尾を引いて飛んでいく。そこに安全装置はもとより、脱出機構も生命維持装置の類もない。空気はあってもそれがいつまで保たれるかも定かではない。
本来この機能はいわゆるダメージコントロール、つまりは誘爆を防ぐための切り離しの役目である。それを清彦は自らにとっての邪魔者を排除するために利用したのだ。
「真木原ァッ!よくも、……よくも
遂にマリアの堪忍袋の緒が切れた。黒いアームドギアを携えて、生身の清彦に切りかかる。
倉庫群やスカイタワーでのように生身の人間に対して力を振るう事を拒んでいたマリアはそこにはいない。彼女が倒すのは、恩人を殺し、己の欲の為に周囲に多大な迷惑をかけ、ヒトの領域を逸れる事も厭わない終末を齎す邪悪その物。
漆黒の矛先が清彦を捉え、そのまま心の臓を刺し貫こうとしたその時だった。
マリアの行く手を響が阻み、迎撃行動に入りかけた清彦の前にタトバコンボに変身したオーズが躍り出た。
「そこをどけ、オーズ!そして融合症例第1号ッ!」
「違うッ!わたしは立花響16歳ッ!融合症例なんかじゃないッ!ただの立花響がマリアさんとお話ししたくてここに来ているッ!」
「お前と話す必要はないッ!
決心がついたマリアは構わず歩を進めるが、丸腰の響が矛先をしっかりと掴んでいる為か、勢いが殺されてしまった。
「何を言ってるんだマリア。俺は君に……人殺しの汚名を着せたくない!それに意味なんて後で考えればいいじゃないか!だから――」
「だから、生きるのを諦めないでッ!!」
――
「聖詠ッ!?何のつもりだッ!」
立花響の体内に聖遺物は残っていない。ギアペンダントを持たない筈の少女が何故聖詠を紡いだのか理解に苦しむが、突如として己の身を纏う黒衣が弾け、光の粒子になったことで更にマリアは困惑する。
視線を廻らせてようやく理解した。粒子は立花響に収束していっているのだ。
「何が起きているッ!こんなことってあり得ないッ!融合者は適合者ではないはずッ!これは貴女の歌?胸の歌がして見せたこと?貴女の歌って何ッ、何なのッ!?」
矢継ぎ早に繰り出されるマリアの問いに、響はその身にガングニールの戦装束を纏って見せた。
「撃槍ッ、ガングニールだぁあああッ!!!」
ガングニールの響、復活ッ!!
続く
大分投稿間隔が空き始めてしまっておりますが、どうにか投稿することが出来ました。
予定では次回をもちましてG編が最終回を迎え、その後しない編を挟み、GX編に突入いたします。
映司とマリアの仲に決着がつくかどうかは次回をお楽しみにください。