戦姫絶唱シンフォギアAG・歌とメダルと13のコンボ   作:バルバトスルプスレクス

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前回の三つのあらすじ

一つ、響は不用意な一言で翼の反感を買ってしまう

二つ、未来と流れ星を見る約束をするもノイズ出現により叶わなくなってしまった

そして三つ、ノイズを殲滅したオーズ、響、翼の前に謎の少女が現れる。

Count the Combo 現在オーズが変身したコンボは…!

タトバ

ガタキリバ

ラトラーター

サゴーゾ

???

???

???


ネフシュタンの少女と弟子入りとデュランダル

 

 これは今から五年前の事。

 長野県皆神山聖遺物発掘チームがノイズの襲撃を受け、その際に天羽奏14歳ただ一人だけが生き残った。

 ノイズを殺して殺して殺しつくし、例え地獄に堕ちようとも戦い続ける意思を持つ彼女ではあったが、血の滲む様な厳しい訓練を積んでも、制御薬が無ければ戦姫として装束を纏うことが叶わないほどに適合率が低かった。それでも彼女が戦い続けていられるのは何よりも家族の敵討ちと言う目標があるからこそ。

 しかし、闘い続けていく内にノイズを殺す為に紡いでいた歌が、いつの間にか誰かにとっての励ましの歌になっていたことが分かると、案外それがとても気持ちの良い事だと知ることができた。

 やがて翼と共にツヴァイウィングとしての活動を始めると、より歌うことが好きになっていき、それでも家族の仇も忘れないまま戦い、歌い続けた。

 あの日のライブの裏でネフシュタンの鎧が暴走を引き起こしたあの日の、絶唱を唄ったその瞬間まで。

 

 

***

 

 

「ネフシュタンの……鎧」

 

「へぇー。ってこたぁアンタ、この鎧の出自を知ってんだ」

 

 ネフシュタンの鎧を纏う少女は半透明のバイザーで目元を隠しながらも挑発めいた口調で翼の呟きに答えた。二年前の惨劇の後、何者かの手によって奪われた完全聖遺物。それが今犯人と思わしき少女がその身に纏って、尚且つ敵意をむき出しにしているのだ。

 普段から己を律し、沈着冷静な翼でさえ静かに怒りの炎を燃やさずにはいられないのだ。

 コンボをサゴーゾからタトバに変えたオーズ。彼の目から見ても、あれがネフシュタンであることは間違いなかった。

 

「ねぇ君。それ、何処で手に入れたの?」

 

「はっ。ご丁寧に誰が答えるかってんだ!」

 

 音を鳴らしながら怪しげに輝く楔状の鞭を振るい、弓や杖にも見えるアイテムを構えて威嚇するネフシュタンの少女。話し合いに乗じる様子もない彼女に、翼は大剣状のアームドギアを振り上げたたまま構えを取る。

 

「二年前、私達の不手際で奪われた物を、何より奪われた命を忘れるものか!!」

 

 ジリ、とお互いに距離を保って構えを取ったまま動かない。

 オーズもまた、両腕のトラクローを展開して敵の少女の左手に収まっている謎のアイテムを警戒して動けずにいた。

 思えばこの状況。響の中にある奏のガングニールの破片、その事件の原因となった鎧が今二年の月日を経て巡り合った。何とも奇妙で残酷な巡り合わせだろうか。

 あの時この手が、奏が絶唱を紡いだあの時無理にでも止めていたらと今日まで何度後悔したことか。

 

「やめてください翼さん!相手は人です、同じ人間です!!」

 

「「戦場(いくさば)で何を馬鹿な事を!!」」

 

 響の行動を咎め合った二人向き合って不敵に笑みを浮かべる。互いに気が合う様で、ネフシュタンの鎧の少女の攻撃を皮切りに防人の少女との戦いの火蓋が落ちる。

 しがみ付いている響を払い襲い掛かる鞭を避け、飛翔。宙に浮かんで一回して放たれるのは翼の得意技『蒼ノ一閃』で彼女はこれまでに多くのノイズを来た。一撃必殺とも言えるこの斬撃をネフシュタンの少女は難なく防御して見せた。

 次いで飛んでくるのは白銀の鉄拳。ガタゴリーターにメダルを交換したオーズの攻撃も鞭を払って防御。入れ替わる様に翼が接近戦を挑むが、隙を突かれて腹部に強烈な一撃を受けて後方に大きく吹き飛ばされた。

 

「(これが、完全聖遺物のポテンシャル。オーズの鎧と全く変わらない!)」

 

「翼ちゃん!」

 

「ネフシュタンの力だなんて思わないでくれよな。あたしの天辺は、まだまだこんなもんじゃねぇーぞ!」

 

 少女の格闘スペックは自身のスペックによるものかと仮面の下で苦い顔を浮かばせるオーズ。ネフシュタンの少女が右手に握られていた弓状のアイテムを掲げると、中心部の宝玉から放たれた稲妻から新種を含めた数多くのノイズがオーズと響を中心にして取り囲む。

 響を取り囲んでいるのは、水飲み鳥に似た形状のノイズ。嘴状の器官から粘着性の液体が響を包み込んで拘束する。

 

「ノイズを……操ってる?!」

 

 驚愕の声を上げるオーズの前には強襲型が一体召喚されていた。無限にノイズを生み出すタイプのこの強襲型はコンボを使えば軽々と倒せるだろうが、今日だけでもガタキリバとサゴーゾに変身している。例え別のコンボに変身して強襲型を退けてもそれ以前に通常のノイズを吐き出してしまっては気合だけではどうにもならない程の疲労感に襲われてしまうだろう。

 幸いにも召喚された強襲型は一体のみで、通常型を生み出す様子も見受けられない。これだけならば『キック』だけで事足りる。

 

Scanning Charge

 

 強襲型の踏み付けを変形したバッタレッグによる跳躍で避けるオーズ。空中で両足蹴りの体勢になると、強襲型との間に赤、黄、緑の光の輪が出現する。輪を潜る度に深紅の大翼と琥珀の爪のオーラが纏わって強襲型を貫いた。

 牙城の如く聳え立っていた強襲型は『キック』によって出来た風穴を中心に炭化され、風に乗って崩壊していった。やけにあっけなく倒すことが出来た事に違和感を覚えるオーズだが、次の瞬間強い衝撃が彼を襲った。

 新たに召喚された強襲型に踏みつぶされたのだ。

 これが変身前であればミンチなる前に炭化させられるだろう。

 物理的な重圧に耐えながら視線を翼とネフシュタンの少女へと向けると、完全聖遺物たるネフシュタンの鎧とのスペックの差があるからか、翼はネフシュタンの少女にいたぶられていた。

 

「のぼせ上がるな人気者ッ!誰も彼もが構ってくれるなどと思うんじゃねえよ!この場の主役だと勘違いしてるなら教えてやる。狙いはな、はなっから、こいつとそこのオーズドライバーを掻っ攫うことだったんだよ」

 

「私……を?」

 

 ネフシュタンの少女は愉悦に満ちた笑みを浮かべながら翼の頭を踏みつける脚に更に力を入れる。

 終始遊ばれていたのかと感づいた翼が悲劇を繰り返してなる物か、とその手に握ったアームドギアを天に翳して広域攻撃『千ノ落涙』を繰り出して、ネフシュタンの少女が避けた瞬間に距離を取る。

 拘束されている響は己の無力さを嘆いていた。物理的な重圧に苦しめられている映司(オーズ)を救う事も出来ず、翼と肩を並べて戦う事も出来ず、満足にアームドギアの起動すらも出来ない。ノイズから人々を救うことのできる力を手に入れて何でも出来る気になっていた。だが現実は、手段を手にしただけで他は何もないだけの事。

 尚も激しい攻防戦を繰り広げている二人。技の手数と鎧のスペックを活かし合う二人。

 壁としてネフシュタンの少女が複数のノイズを召喚しても、造作も無くあっさりと翼が駆逐していく。

 ネフシュタンの鞭の先に集まったエネルギー弾『NIRVANA GEDON』が放たれ、防御姿勢を取った翼に多大なダメージを与えてしまう。

 

「まるで出来損ないだな」

 

「あぁ、そうだ。私は確かに出来損ないだ。この身を一振りと剣と鍛えてきたのに、二年前のあの日から出来損ないの剣として恥を晒してきた」

 

 絶唱を紡いで戦うことも、歌うことも出来なくなった親友()。彼女の事を思いながら、痛みが走る体に鞭を打って翼は立ち上がる。

 

「しかし、それも今日までのこと。貴様に奪われたネフシュタンを取り戻すことで、この身の汚名を(そそ)がせてもらう」

 

「そーかい。出来るもんなら――?!」

 

 やってみな。そう言いかけたところでネフシュタンの少女は己の身が、まるで金縛りにあったかのように自由が利かなかった。もしやと思い振り返ると、そこには月光により生まれた陰に小太刀が突き刺さっていたのだ。

 先ほどの攻防の際に翼が投擲した小太刀。まさか弾き飛ばした物が今になって作用するなどと夢にも思わなかった。

 翼の技の一つ。『影縫い』。

 流れゆく雲と神秘的な輝きを放つ月が、夜空に漂っている。今流れゆく雲が月を隠さない内に翼は響に振り返ると、アームドギアの切っ先を向けた。

 

「防人の生き様、覚悟を見せてあげる!立花響。あなたの胸に、焼き付けなさい!」

 

「や……だ、……ばさ…」

 

 オーズの途切れ途切れの制止は届かず、翼はアームドギアを天に掲げて、絶唱を唄う。

 

――Gatrandis babel ziggurat edenal

――Emustolronzen fine el baral zizzl

 

 身動きの取れない状態のネフシュタンの少女に一歩、また一歩と柔和な笑みを浮かべながら近づいていく翼。

 何とも言えぬ重圧を身体中に感じ取っていたネフシュタンの少女の肩を翼は両手で抑え込み、微笑みを向けて、絶唱を紡ぎきると同時に血を吐いた。

 忽ち起こるフォニックゲイン由来の嵐が、ノイズの跋扈する公園一帯を駆けめり生きた災害を一体残らず灰燼に帰していく。その中心部では絶唱のエネルギーの奔流を間近に受けたネフシュタンの少女は、苦痛の叫びをあげて強く吹き飛ばされた。

 壁に激突した少女は多大なダメージを受けながらも致命傷にはなっておらず、崩壊した鎧の調子を見ると強く舌を打って一目散に退散していった。

 

「翼さん!」

 

「翼ちゃん、大丈夫?!」

 

 やっと体の自由がきいた響と映司が翼に駆け寄ったのと同時に、弦十郎の運転する自動車が公園内に進入する。

 

「無事か、翼!」

 

 運転席から降りて開口一番。彼のその言葉に、翼はゆっくりと振り返った。

 

「私とて、人類守護の務めを果たす防人。こんなところで折れる剣ではありません……」

 

 目から、口からおびただしい程の血を流す歌女は尚も笑顔を繕うが、誰の目から見ても危険な状態。

 間もなくして倒れ込む翼。足元の血溜まりで窒息死しないように弦十郎と映司が抱き留める。

 

 

***

 

 

 緊急搬送及び緊急手術を受けて一命を取り留めた翼。しかし、容態が安定するまでは絶対安静と言うことから予断を許されない状況であると医師から告げられた弦十郎は背後の部下達と共に執刀医に頭を下げた後に鎧の捜索に入った。

 そのすぐ近くの休憩スペースで落ち込む響に、映司は自販機で購入した缶ジュースを差し出した。

 

「響ちゃんが気に病む必要はないよ。むしろ俺がもっと強かったら……」

 

「映司さんこそ気に病む必要はありませんよ。翼さんが自ら望み、歌ったのですから」

 

「慎次さん……」

 

 ふらり、と現れるのは翼のマネージャーである緒川慎次。彼の口から響に語られるのは奏の事。

 

「既に奏さんと面会は済ませていますよね?彼女がああなったのも」

 

「はい。奏さん本人から聞きました」

 

「二年前のあの日、ノイズに襲撃されたライブの被害を最小限に抑えるため、奏さんは絶唱を解き放ちました。命を落とすことはありませんでしたが、代償としてアーティストとしての活動も戦うことも出来なくなりました」

 

 それほどのデメリットがあるというのに、それでも翼は絶唱を解き放った。命を落とすやもしれないというのに、何が彼女をそうしたのだろうか。

 

「奏ちゃんの負傷を機に、ツヴァイウィングは事実上解散。俺は翼ちゃんと一緒に奏ちゃんの抜けた穴を埋めようと我武者羅に戦ってきた。その中で翼ちゃんは、同じ年頃の女の子が経験している遊びや恋愛を覚えず、自分を殺してまで自分自身を剣として生きてきたんだ」

 

「そして今日、剣としての使命を果たすため死ぬことすら覚悟して歌を歌いました。不器用ですよね。でもそれが彼女の、風鳴翼の生き方なんです」

 

 ポタリ、と響の目尻から熱い物が流れてきた。

 嗚呼、何て自分は愚かなのだろうか。風鳴翼と言う人間の内側を知ろうともせず、何故奏の代わりになろうと愚かな事を口走ってしまったのだろうか。

 

「僕も映司さんも貴女に奏さんの代わりになってもらいたいだなんて思っていませんし、そんな事は誰も望んでいません。ねえ、響さん。僕からのお願いを聞いてもらえすか?」

 

「え…?」

 

「翼さんの事を嫌いにならないでください。彼女をこの世界で一人ぼっちになんてさせないでください」

 

「……はい」

 

 

***

 

 

 翌日。リディアンの屋上にて響と未来はベンチに並んで腰かけて響は足元を、未来は流れゆく雲にそれぞれ視線を向けていた。

 

「最近響って一人でいる事、多くなったよね?」

 

「そう……かな?いや、そうでもないよ。私ってば自分一人じゃ何にも出来ないし。それにほら、この学校にだって未来が進学するから私も一緒にって決めたわけだし。というか、リディアン(こ こ)って学費がびっくりするくらい安いじゃない?だったら、お母さんとお祖母ちゃんには負担かけずに済むかなーって」

 

 あははと作り笑いを浮かべる親友を見て、何かを無理をしているんじゃないかと思う未来ではあったが、その何かを聞かずに響の手をそっと握りしめる。

 

「響、何か隠し事してるよね。だってわかるよ。響ってば無理してるんだから」

 

「やっぱり未来には敵わないなぁ。でも、ごめん。も少し私一人で考えさせて。これは、これだけは私が考えなきゃいけない問題だから」

 

 しっかりと親友の手を握り返して、彼女のその優しいぬくもりを響は直に感じ取っていた。

 

 

***

 

 

 それから数日経ったある日の事。

 弦十郎に弟子入りした響は兄弟子である映司と共に弦十郎指導の下、アクション映画を鑑賞した後にその映画の中で主人公たちがやっていたのと同じ修行を熟していた。

 誰もが知っている香港映画、埋もれた名作、そしてつい最近話題になった映画など数多くの映画作品から技の型を取り入れた特訓法は、弦十郎の座右の銘たる「飯食って映画見て寝る!」を地で行く物であった。

 今日は平日。今頃のリディアンでは授業中であるにも関わらず、未来に今日は休む旨の置手紙を書いていた響は庭木に吊るされていたサンドバッグに拳を打ち付けていた。

 

「そうじゃない。雷を喰らい、稲妻を握り潰すように打つ!」

 

「言ってること、全然分かりません。でも、やってみます」

 

 拳を構え、目標を見据える響の心臓がほんの一瞬だけ強く鼓動すると全力で打ち出した響の拳は枝ごとサンドバッグを向かいの池へと吹っ飛ばしていた。

 

「すごいよ響ちゃん。よぉし、俺も負けちゃいられないな!」

 

 少し離れた場所では、両手足に重りを付けて空気椅子の姿勢で両腕を前方に伸ばし、身体の至る所に水の入った湯飲みを載せた映司がかれこれ二時間近く同じ姿勢を保って響の成長に感心していた。

 同時に、ほんの少しの違和感を覚えていた。響の成長が早すぎるのだ。

 映司がオーズの力を手にして間もなくのころは、同じように弦十郎に弟子入りして、同じ内容の指導を受けていたはずだが、少なくとも映司がサンドバッグを殴り飛ばすのに一年近くも要していた。それを響は数日単位でやってのけたのだから、違和感を覚えない訳にはいかなかったのだ。

 

「よし、こちらもギアを上げていくぞ映司!」

 

「はい、弦十郎さん!」

 

 

***

 

 

 ネフシュタンの鎧。完全聖遺物たるそれは身に纏う事で強大な力を駆使し、飛行能力や破損しても再生するという性能を持ち合わせていた。それだけを見れば喉から手が出るほどに誰もがその鎧を手にしたがるだろう。厄介なデメリットが無ければの話ではあるが。

 ネフシュタンの鎧は装着者の身を侵食し、生命を喰らうという呪いがある。装着者の体内にその因子が侵食することで強大な力が得られるのだ。体内の因子を取り除くにはその身に高圧電流を流す必要がある。

 湖畔に聳える洋館の一室。整頓が行き届いているこの部屋で、二つ結びの銀髪の少女は部屋の固いベッドの上に倒れ込んでいた。衣食住の提供に争いを止める力をくれた女性から、折檻がてらに体内に残留している因子を高圧電流で除去してくれた。

 

「痛みだけが……痛みだけが人の心を繋いで絆と結ぶ」

 

 虚ろな瞳で教えられた言葉を暗唱し、噛み締めて深い眠りについた。

 少女が見る夢は決まって幼少期の記憶。凄惨たる絶望の渦に飲み込まれ、何もかもを失った幼少期。

 オトナがコドモを支配する戦火に塗れたバルベルデ。時が流れた現在でも戦火は収まらず、今も尚流す必要のない血が流れているはずだ。

 あの地で両親を失った少女は力を手に入れた。

 ネフシュタンの鎧さえあれば、無用な争いを止められる。世界から争いを無くすことが出来る。

 

「あたしが………あたしが全部争いの火種をぶっ潰してやるんだ。絶対に!」

 

 

***

 

 

「はぁーっ。朝っぱらからハード過ぎですよぉ」

 

 かつては映司もやり切った弦十郎考案のメニューをやり遂げた響は二課の指令室のソファーにうつ伏せの状態になっていた。普段味わうことのない疲労感に負けて最早立ち上がろうとする気力すら沸いてこない。

 

「頼んだぞ、明日のチャンピオン」

 

「凄いね響ちゃん。あそこまでついてこれるなんて」

 

 対して師匠役と兄弟子はと言うと、平然と涼しい顔をしてソファーに腰かけ響に励ましと賞賛の言葉を送る。

 友里から受け取ったスポーツドリンクで喉を潤し、一息つく響。体内から失われた塩分やらミネラルやらが補充されていく。

 

「あのー、自分でやると決めたのに申し訳ないのですが。何もうら若き女子高生に頼まなくてもノイズを戦える武器って他に無いんですか?映司さんのオーズドライバーとか、そうでなくとも外国とか」

 

「公式には無いかな。俺のオーズドライバーは仮にも完全聖遺物でもあるから、それ以外で完全聖遺物となるとネフシュタンを除いては殆ど無い……かな?」

 

「そうだな。日本だってシンフォギアは最重要機密事項として完全非公開だ」

 

 二人の解答を聞いて気にせず派手に立ち回っている響は苦笑いを浮かべる。思えば今日に至るまで結構わちゃわちゃと走って飛んだり跳ねたり悪目立ちしていた筈だ。初めてガングニールを起動したその日助けた女の子以外にも少なからず誰かが見ていてもおかしくはない。

 気が付かないだけで、誰に写真を撮られてネットにあげられているかもしれない。

 

「その点は大丈夫よ。情報封鎖も二課の仕事の一つだから」

 

 そう言えばあの親子に何か書類を書かせていたなと思い出し、取り敢えず安心する響。これならばネットの方も心配する必要は無さそうだ。

 

「だけどね、時々無理を通すから……今や我々のことをよく思ってない閣僚や省庁だらけだ。特異対策機動部二課を縮め、特機部二(とっきぶつ・突起物)って揶揄されてる」

 

「その上情報の秘匿は政府上層部の指示だってのに…」

 

「上も一枚岩じゃないってことですよねぇ」

 

 そこから響には難しい話が展開され、色々と難解でややこしい世界があるんだなと実感して再びうつ伏せになる。このまま気を抜いたら夢の世界へ旅立ってしまいそうになる。

 

「あれ、そう言えば了子さんはどうしたんですか?」

 

「永田町さ」

 

「永田町…ですか?」

 

 永田町。字面で見れば町の名前だが、その意味としては国会議事堂の事を指している。そこに了子は特異災害対策機動部二課本部の安全性と防衛システムについてを関係閣僚に対して説明義務を果たしに行っている。映司のオーズドライバーについての定期的な説明報告も兼ねてはいるのだが、予定している了子が戻ってくる時間が少し遅れているようだった。

 弦十郎が腕時計を見やって、今日の特訓は終了して響にシャワーを浴びるよう促して退室させる。

 

「さてと映司。お前、何か引っ掛かってる事があるんじゃないのか?とてもじゃないが、響君には聞かせられないような何かを」

 

「そう、ですね。けれどまだ確証がないんで、まだはっきりとは…」

 

「いや、構わんさ」

 

 では、と先ほどまでたっていた映司もソファーに腰を掛けて一息ついて語りだした。

 

「何ていうか、響ちゃんの特訓の成長が早すぎる気がして……。以前支援の方でご家族から響ちゃんの話を聞いていたんですが、格闘技どころか特にスポーツをしていたって話は出なかったんです」

 

「やはりお前から見ても違和感はあったか。心当たりがあるとすれば、響君の胸のガングニールの破片だろう」

 

 それ以外心当たりがないからな、と付け加えて弦十郎は腕を組む。

 響の心臓に寄生しているガングニールの破片。ギアペンダントも無しにシンフォギアを纏えるのはこれによるもので、それが急速的な成長に繋げているのではないか。もしそうであるならば、破片が響の身体を蝕んでいくのではないのだろうか。

 ともかく詳しい話は了子が戻ってからにして、弦十郎と映司は普段の格好に着替えるべく指令室を後にする。

 

 

***

 

 

「大変長らくお待たせいたしましたー……って、何で皆お通夜ムードなの?」

 

 予定の時刻よりも大幅に遅れて帰ってきた了子を迎えたのは険しい表情を浮かべた二課職員達と、不安げに眉を下げた響。

 広木防衛大臣が暗殺されたと弦十郎が短く語る。

 メインモニターにはそれを裏付ける複数の革命グループからの犯行声明が出されており、現在詳細を追っているとのこと。その上了子に連絡を何度か入れたのだが返事は無く、暗殺に巻き込まれたのではないかと響は心配していた。

 

「あ、壊れてたみたい。でも、心配かけて御免なさい。でもね政府から受領した機密司令は無事よ?任務遂行こそ、広木防衛大臣の弔いだわ」

 

 そう言って笑顔でアタッシュケースの中身を見せびらかした。二枚のSDカードがライトグリーンのケースに入れられている。ただしかし、そのアタッシュケースの一部に血痕が付けられていることに誰も気が付くことは無かった。

 それから程なくして、ブリーフィングルームでは二課の職員が大人数集まっており、彼らはそろって眼前のモニターに視線を向けていた。

 私立リディアン音楽院高等科、つまりは二課の本部の周囲に頻繁に出現するノイズの発生からみて、その狙いがアビスと呼ばれる本部最奥区画に厳重保管されているデュランダルの強奪目的と政府は結論付けたと了子は語る。

 

「移送するにも何処か見当はついているんですか?」

 

 映司の疑問は誰もが思い浮かんだことだろう。最先端技術をふんだんに盛り込んでいるのがここ特異災害対策機動部二課二課本部である。それ以上の防衛システムを有している場所はそうそう無いだろう。

 

「永田町地下の特別電算室。通称記憶の遺跡。そこならば……と言うことだ。どの道俺達が木っ端役人である以上はお上の意向に逆らえないさ」

 

 ともあれ、デュランダルの移送作戦は明朝五時を予定。なので、一応学生の身分である響を先に帰らせてブリーフィングは終了する。

 映司もこの後の仕事も無いので早めに帰宅する事となった。

 地上に出てバイクを走らせること三十分足らず。社宅の駐輪場に愛車を停め、エントランスの郵便箱を確認する。セールスの広告が入っているだけで、目当ての物は一つも無かった。

 マリア達が日本を発ってからと言う物、今日まで一通も手紙が届いたことは無かった。便りがないのは良い便りとは言うが、映司の心境としては無事それぞれの家族と再会したのだろうかと希望的観測と、もしかしたら向こうで恋人を作っていてこちらの事を忘れているのではないだろうかと言う悲観的観測が映司の中で対立しあっていた。

 セレナに切歌と調の三人はきっと良いボーイフレンドが見つかる事だろうとは今までに何度か思っていたが、マリアの場合は別だ。彼女の隣に恋人となる男性がいると想像しただけでも胸が痛む。片思いを自覚してからずっと、と言うより彼女たちが日本を発ってからずっとマリア以外の女性に興味は湧かず、帰国するという確証も無いにも関わらず、今度こそと告白する機会を伺ってきた。

 純粋な恋する乙女か自分は、と両手で頬を強く叩いて意識を明日の移送作戦に切り替える。

 

 

***

 

 

 時は流れて翌日。

 広木防衛大臣殺害犯を検挙する名目で検問を配備して一気に永田町まで駆け抜ける。実にシンプルな作戦内容ではあるが、デュランダルが奪われては意味がない。

 響が乗り込むのはそのデュランダルを載せた了子のコンパクトカー。その周囲を護衛の車で囲み、タトバコンボに変身した映司が殿(しんがり)を務め、弦十郎が上空のヘリから目を光らせるフォーメーションで永田町までの道のりを走る。

 作戦が決行してやっと半分の道のりである橋で、突然のアクシデントが起きる。

 一部の崩落から始まり、渡り切った先のマンホールが破裂。下水管を大量のノイズが進行していると予測された。

 

「弦十郎くん。これってちょっとヤバイんじゃない?この先にある薬品工場で爆発でも起きたらデュランダルは……!」

 

『さっきから護衛車を的確に狙い撃ちされているのは、ノイズがデュランダルを損壊させないよう何者かによって制御されていると思われる』

 

 インカム越しに届く同僚の声に小さく舌を打つ。

 

『だが、狙いがデュランダルなら、敢えて危険な地域に滑り込み攻め手を封じるって算段だ!』

 

「勝算は?」

 

『思い付きを数字で語れるかよッ!!』

 

 行き当たりばったりではないかと思う了子ではあったが、確かにそれ以外手は無いだろうとそのまま進路を件の薬品工場へと向けた。

 

 

***

 

 

Scanning Charge

 

「セイヤーっ!」

 

 損壊した護衛車から這い出た職員達に迫るノイズを『キック』で蹴散らせる。了子の車と大分引きはがされはしたものの、手の届く範囲で助けられる命を救ったオーズは再度愛車に跨って移動し始める。

 その道中でオーズは見た。飛翔するネフシュタンの少女の姿を。あの夜に見た杖を携えたネフシュタンの少女の姿を。

 

「あの娘まさかまた?!」

 

 今回のノイズもあの少女が召喚したものなら、彼女の目的は間違いなくデュランダルであることは間違いないだろう。しかし、年格好は響と同じくらいの少女が何故デュランダルを狙うのだろうか。そんな疑問が生まれたが、今はそれを考えてる時間すら惜しい。

 到着した時にはデュランダルが宙に浮かびあがりながらも淡い輝きを放って起動していた。

 目的の物を見付け、上機嫌なネフシュタンの少女が飛翔して手を伸ばすが、完全聖遺物は響の手の中に握られる。同時に光の柱が立ち上がり、朽ちていたデュランダルの刀身が元の状態に再生されていった。突如として起きたこの現象にオーズが、ネフシュタンの少女が、そして髪がほどけた了子が驚き、戸惑い、歓喜する。

 デュランダルが、完全聖遺物が起動し、握っていた響の顔が黒く塗りつぶされ理性は消え去ってしまった。獣の様な雄たけびをあげる響に苛立ったネフシュタンの少女があの夜と同じように大量のノイズを召喚する。

 

「駄目だ響ちゃん!」

 

シャチウナギタコ

シャシャシャウタシャシャシャウタ!>

 

 ノイズの存在に気が付いた響はネフシュタンの少女ごとノイズを滅する為に剣を振り下ろすが、水棲系の青のコンボ、シャウタコンボのオーズが両腕に仕込まれた電気ウナギ鞭と、タコレッグの吸盤により軌道をずらされる。しかし、その力の余波は凄まじく、直撃を受けていない筈のノイズは消滅し、ネフシュタンの少女は消滅こそはされなかったものの、大きなダメージを受けていた。

 タコレッグの吸盤で足元を固定して、電気ウナギ鞭で響の腕に巻き付いて逸らすと言うオーズにとって大きな賭けではあったが、ギリギリ成功できた。見るからに強大なデュランダルの力をサゴーゾコンボではとてもではないが受け止める事は不可能だったことだろう。実践でもすれば今頃ドライバーごと消滅した筈だ。しかし、シャウタコンボなら、固有能力である液状化があるから、最悪の事態を逃れる事は出来るだろう。

 やがて事態が収まった頃には、コンボの疲労によって変身が強制解除された映司は、瓦礫に背を持たれて眠っていた。

 

 

***

 

 

「――よって、デュランダルの移送計画は一時中断を決定しました」

 

「そう、ですか」

 

 二課の医務室でたった今目が覚めた映司に緒川が事の顛末を報告していた。

 

「すみません慎次さん、翼ちゃんの事で忙しいのに」

 

「いいえ。これがただの体調不良であれば小言の一つや二つは言いますが、コンボによる疲労では仕方のないことですよ。とはいえ、目が覚めたのなら精密検査を受けて問題がないようでしたら今日は早いですが上がって大丈夫ですよ」

 

 そう言って緒川はまた別の仕事があるようで退室。彼の背中を見送って映司の検査が始まった。

 

 

 

 

続く

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