戦姫絶唱シンフォギアAG・歌とメダルと13のコンボ   作:バルバトスルプスレクス

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前回の三つのあらすじ

一つ、二年前に行方不明になっていたネフシュタンの鎧を纏う謎の少女が響とオーズに襲い掛かるが、翼の絶唱によりどうにか阻止することが出来た

二つ、絶唱による負荷により倒れた翼を見て響は弦十郎に弟子入りを志願する

そして三つ、デュランダル輸送任務の際ノイズの襲撃を受ける最中に響が暴走状態に陥ってしまった


Count the Combo 現在オーズが変身したコンボは

タトバ

ガタキリバ

ラトラーター

サゴーゾ

シャウタ

???

???


見舞いとお好み焼きとアーマーパージ

 

 夜明けを目前にした湖畔にて、ネフシュタンの少女…雪音クリスはデュランダルにより暴走を引き起こしたガングニールの装者の事を思い出していた。

 クリスの手に握られているのはネフシュタンの鎧と共に与えられた完全聖遺物ソロモンの杖。起動状態であったネフシュタンと違い、ソロモンの杖の起動にクリスは自身のフォニックゲインを以て半年の時間をかけた。であるというのに響はあの土壇場で、デュランダルを起動させたのだ。それだけでは飽き足らず、暴走を引き起こしその力を無造作に振るった。

 オーズの横やりが無かったなら、自分は恐らく今頃三途の川を渡り切っていただろ。そう思うった途端に全身の鳥肌が一斉に立ってしまう。

 

「あのっ、バケモノがッ!!」

 

 強く吐き捨てたのは恐怖か嫉妬か、あるいはその両方か。

 生命の危機からくる恐怖。自分が苦労して成し遂げた事を響があっと言う間に成し遂げてしまった事からくる嫉妬。

 それでもあの女は、フィーネは響を連れて来いと言う。

 

「このあたしに身柄の確保なんてさせるくらい、フィーネはアイツにご執心って訳かよ」

 

 思い出されるは幼少時の記憶。

 幼い頃両親と共に訪れたバルベルデ。両親は戦火に巻き込まれて即死し、一人残されたクリスは反政府ゲリラの捕虜生活を強いられていた。劣悪な環境下において、幼子が武装した大人に反抗などできるわけも無く、暴力の捌け口や性欲の捌け口に利用されていく。そうでなくとも監禁された部屋で衰弱死した子もいた。クリスにとって運がよかったのは、手を出される前に助けられたことだ。

 その時、クリスは誓う。両親を殺し、自分に地獄を味わわせる原因を作る戦争の火種を一つ残らず潰してやる、と。

 その彼女の背後には、朝日に照らされた喪服の様に黒い衣装の美女が一人佇んでいた。その人物こそ、フィーネ。

 

「わかっている。自分に課せられたことくらいは。ソロモンの杖(こんなもの)に頼らなくても、あんたの言うことくらいやってやらあ!」

 

 投げ渡された杖を涼しい顔のままに受け取るフィーネ。彼女の言いたいことは分かっている。これまでに二度命令に失敗している。次が最後のチャンス。

 

「あたしの方がアイツらよりも優秀だってことを見せてやる!あたし以外に力を持つ奴は、全部全部この手でぶちのめしてくれる!そいつがあたしの目的だからな!」

 

 啖呵を切って見せたクリスを見て、フィーネはただ笑みを浮かべるだけだった。

 

 

***

 

 

 リディアンのグラウンドを見下ろせる医療施設の廊下ではICUを出たばかりの翼が映司に支えられながら病室への道のりを歩いていた。

 一刻も早く戦線に復帰して自身に課せた使命を果たさなければ、この身を剣として生きてきた意味がないというのに。

 

「一応リハビリも兼ねてるけど、度を過ぎたら元の木阿弥水の泡だよ?」

 

「わかってます……けど!」

 

「それに二課の医療施設なら奏ちゃんがいるところでも良かったんじゃ……あっ」

 

「あって何ですか!違いますから、恥ずかしいとかそういうのではなく、回復したらいち早く学院に戻れるようにと!!」

 

「翼ちゃん、全部言っちゃってない?そうじゃなくて、ほらあれ見て」

 

 映司の示す先。リディアンのグラウンドを走り続ける響がそこにいた。一緒に走っている友人の未来が立ち止まって呼吸を整えている所を追い越して更に響は走り続ける。

 デュランダルの件もある為か、響自身己の力量不足を痛感しており、あの日からいつも以上に自分自身を鍛え続けていた。弦十郎からの指導もよりハードな物になっていき、それでも尚響は倒れる度に立ち上がり、鍛え続ける。

 

「さ、そろそろ部屋に戻ろうか」

 

 

***

 

 

 喪服姿の弦十郎に気が付いて了子は今日が広木防衛大臣の繰り上げ法要であることを思い出していた。デュランダル移送の件の事後処理や何やらでゴタゴタしていたあってすっかりと頭の中から抜け落ちていたからだ。

 広木防衛大臣は生前、何かと二課と衝突する事は度々あったが、それを抜きにしても最大にして最高の後ろ盾でもあった。

 現在二課本部は政府に提出していた改装案が通り、随所で改装工事が行われていた。

 しかし、と友里が当たりの厳しい議員連に反対されていたのではと疑問を呈していた。

 

「その反対派筆頭が広木防衛大臣だった。大臣は生前、『非公開の存在に血税の大量投入。無制限の超法規措置は許されない』と言っていた」

 

 決して小さくも無いため息を吐き出して、弦十郎は広木防衛大臣とのやり取りを思い出していた。そう言えば映司の件でも少なからず手回しをしてくれた。未だ返しきれていない恩があるというのに。

 

「そもそも大臣が反対していたのは、俺たちに法令を遵守させることで余計な横やりが入ってこれないよう取り計らっていたからだ」

 

 大きな力には相応の責任が要求される。昔見た映画にそんなセリフがあった事を弦十郎は思い出していた。

 

「広木防衛大臣の後任には副大臣がスライド。今回の本部改装計画を後押ししてくれた立役者でもある。あるんだが……」

 

 言い淀む長の姿を見て、副大臣があまり好ましく思えない人物であることが伺える。

 弦十郎曰く、件の大臣は協調路線を強く唱える親米派で日本の国防対策について米国政府の意向が通りやすくなるという事。そうなると装者の二人や映司に負担を強いる事になるだろう。

 

「まさかとは思いますけど、防衛大臣暗殺の件にも米国政府が関係しているんじゃ…?」

 

 友里がそう漏らした瞬間、火災警報が鳴り響く。どうやら何処かの区画で漏電による発火が起きたようで、現場確認に了子が指令室を後にする。口紅の付いた紙コップを残して。

 

 

***

 

 

 急用で手が離せないと言う緒川慎次に頼まれ、映司に案内されて翼が入院している病室の前で響は深呼吸し、意を決して扉を開く。

 

「っ!」

 

「あー…」

 

「何をしているの?」

 

 部屋の中の惨状を見て言い表せようのない恐怖を感じ取る響と、反対に「またか」と言いたげに苦笑いを浮かべる映司の後ろには、入院着の翼が立っていた。

 

「つ、翼さん!無事だったんですか?!」

 

「入院患者に無事を聞くって、どういうこと?というか映司さん、何か言いたいのならはっきりと言ったらどうなんですか?」

 

「いや、だって……ねぇ?」

 

 尚も苦笑いの映司の視界に映る翼の病室は、人為的に激しく荒れていた。

 脱ぎ散らかした衣服に下着、読みかけの新聞は倒れたカップから流れるコーヒーが染まり、花瓶の花は枯れたままほったらかしにされ、栄養ドリンクや消毒液が零れ、床の上に散らばる雑誌の上にも下着が散乱していた。

 尚も狼狽え続ける響は知らない。翼が片づけられない女である事と、片付けようとしても更に散らかしてしまう女であることを。

 事実を映司から聞いて安堵した響は部屋の掃除を買って出た。

 今年から寮生活という事もあって未来と協力し合って炊事や掃除を分担している。それもあってか、てきぱきと脱ぎ散らかしたままの衣服や下着を畳み、それ以外の空き瓶やら古新聞やらの処分は映司がゴミ袋にまとめて捨ててきた。

 

「もう……そんなの良いから」

 

「私、緒川さんからお見舞い頼まれてて。だからお片付けくらいはさせてください」

 

「私そういうところに気が回らなくて……」

 

 初めて見る憧れの人の羞恥に染まった表情を見てほんの少し得した気分の響。クローゼットに畳んだ衣服をしまい込んだところでゴミ出しに行っていた映司が缶ジュースを三本持って帰ってきた。

 

「はい、おしまいです!」

 

「お疲れ様響ちゃん。はいこれジュースどうぞ」

 

「あ、ジュースどうも」

 

「翼ちゃんはお茶とコーヒーどっちにする?」

 

「お茶を……でも、すまないわね立花。いつもは緒川さんや映司さんがやってくれるんだけど……」

 

「えぇぇっ?!駄目じゃないですか映司さん!」

 

「そうかな?俺が学生時代の時は異性の居候がいたから慣れてるけど……そんなに変なのかなぁ?」

 

 缶の中身を一口飲んで特に何のリアクションも出さない映司の脇で、翼は響の反応を見て自分が如何に世間からズレた方であると再認識させられていた。

 翼自身も異性である緒川と映司にずっとやってもらうままにもいかないと、常日頃自分自身に言い聞かせてはいる。しかしそれでも最終的には緒川や映司にやってもらうオチになってしまう。

 

「今はこんな状態でも、報告書を読ませてもらっているわ。私が抜けた穴を映司さんと二人で頑張っているらしいわね」

 

「そ、そんなこと全然ありません!いつも映司さんたち二課の皆に助けられっぱなしですし!」

 

 

***

 

 

 リディアンの図書室には音楽関連以外にも数多くの書物が多く、小説や歴史書だけでなくとも自己啓発本も所蔵されいている。未来が何気なく本棚から取った『素直になって、自分』もその一つ。

 最近響が一人になることが多くなってきた。初めのころは、二年前の惨状を克服出来たのだろうと思っていたが、それを抜きにしても付き合いが悪くなったと言わざるを得なかった。理由を言わずに一人になって何処へ行っているのだろうか。隠し事の一つや二つはあるだろうし、無下に踏み込むのはとても行儀がいいとは言えない。

 何気なく、外の景色に視線を投げ込むと、隣接する医療施設の病室で響と翼が笑顔で楽しく会話していた。なるほど、自分との約束を反故にしてまでリディアンのスターに会いに行きたかったのか。次第に嫉妬が胸の中を満たしていき、手に取った本を元あった位置に戻して、図書室を後にしていった。同じ部屋にいた筈の映司は認識しないままに。

 

 

***

 

 

「私の、闘う理由……ですか?人助け…ですかね」

 

 迷う素振りも見せずはっきりと語る響に翼はオウム返しで反応する。

 

「人助け…」

 

「だって、勉強とかスポーツは誰かと競い合って結果を出すしかないけど、人助けって誰かと競わなくていいじゃないですか。でも私には特技とか人に誇れるものなんかこれと言って一つも無いから、だからせめて自分に出来ることで皆の役に立てればいいかなーって」

 

 あははと愛想笑いを浮かべる響の独白を、映司と翼は少し困惑した様子のままその独白を聞き入っていた。

 

「きっかけは……あのライブなのかもしれません。奏さんが戦えなくなって、大勢の人が亡くなった二年前のライブ。でもあの日、私は生き残って今日も笑ってご飯を食べたりしています。だからせめて誰かの役に立ちたいんです。明日も明後日もその次の日もまた笑ったり、ご飯を食べたりしたいから人助けをしたいんです」

 

 振り向いて爛漫な笑顔を二人に向ける。「響ちゃんらしいね」とほほ笑む映司とは別に、「前向きな自殺衝動」と翼は冷静に分析する。

 

「誰かのために自分を犠牲にすることで古傷の痛みから救われたいという自己断罪の現れなのかも」

 

 映司には心当たりがあった。だからこそ、翼の分析にも納得が出来る。

 今も生存者の支援活動をしている映司。勿論響の家庭も支援対象であり、活動の最中で彼女は通っていた中学校で凄惨な虐めを受けていた事を知った。奇しくも同じクラスにいた将来有望で特に女子からの人気が高かった男子生徒が、ノイズにより他界。男子生徒を慕っていた女子生徒たちは生き残った響が何のとりえもないからと言う理由と、当時のマスコミの悪影響により虐めのターゲットになってしまったのだ。

 最近の活動では職を失いながらも他県で何とか再就職できた彼女の父親と面談したばかり。元々響の父親も一般的なサラリーマンであったが、響の事と会社の上司の親族にライブでの犠牲者が出た事が重なり自然と響の父親は迫害されていき、憔悴しきって蒸発しかけたところ引き留めて以来、今日まで交流が続いている。

 笑顔で振りまく様子とは裏腹に、中々にハードな二年間を過ごしてきたからこそ今の響があるという事に、映司は何処かやるせなさを感じた。

 

 

***

 

 

 お好み焼き屋『ふらわー』に一人訪れた未来を見て、店主の女性――通称おばちゃん――はいつも二人で来るはずなのにもう一人はどうしたのかを訪ねていた。

 あんなに一緒だったのに、いつの間にかどうして離れて行ってしまったんだろう。自立できるようになったと考えればまだ楽なのかもしれない。しかし今は、何の相談も無いままに事が進んでいき、何時しか自分はもういらないんじゃないか。

 ぐるぐると嫌な考えばかりが浮かんでいく未来に、おばちゃんは優しく語りだす。

 

「人間ね、おなかがすいているとロクな考えが浮かばないもんだよ。さ、今日はジャンジャン食べていきな」

 

 キンキンとヘラの擦る音が店内に響く。現在店内の客は未来一人。他には誰もいない。いつもであれば響も一緒のはずなのに、と直ぐにそんな考えばかりが浮かんでいき気分がずぶずぶと沈んでいく。今日はほかに客が少なくて良かった。恐らく今やつれた様な顔をしているに違いないから、見知らぬ人に見られでもしたらもっと嫌な気分に陥ることだろう。

 少しして出されたお好み焼きは広島においてはポピュラーなタイプ。店内のお品書きにも『広島のお好み焼き』と『の』を強調したフォントで記されているそのお好み焼きを食べ始める未来。

 今日はとことん食べてやろう。それでもした体重が増え過ぎたら八つ当たりしてやるんだからと一心不乱に未来は食べるスピードを速めて行った。

 

 

***

 

 

 お土産用に何枚か響の好きなお好み焼きを焼いてもらって帰路につく未来。ある程度腹も膨れて嫌な考えも気持ちも湧かなくなって、やっと冷静な気持ちを保てるようになれた。後は寮に帰って響としっかり話をしながらお好み焼きを食べるだけだ。

 すると向かい側から響が息を弾ませながら小走りでやってきたのが見えた。互いに手を振り合ったその時、二人の間に強い衝撃波が襲う。

 

「しまった、あいつ以外に人がいたのかっ!」

 

 ネフシュタンの鎧を纏ったクリスが上空で叫んだ。

 響に固執し過ぎたせいで周囲の確認をおろそかにしてしまい、関係のない人間を巻き込んでしまった。

 巻き込まれた未来はと言うと、ほんの少しの汚れが付いただけで大きな傷は無い。がしかし、クリスの攻撃で宙に舞った車が未来へと降りかかる。こんな危機を招いた張本人のクリスが鞭を使い車をどかそうとしたその時だった。

 

ライオントラチーター

ラタラタ~!ラトラーター

 

――Balwisyall nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)

 

 ガングニールを纏った響が車を殴り飛ばし、映司が変身したオーズラトラーターコンボが未来を抱えて比較的安全な場所へと運んだ。

 

「え、あ……何がどうなって…?」

 

「後で説明するから、君はここから離れないでね」

 

 手短に済ませ、コンボによる疲労が来る前に頭部と胴体のメダルを交換。急ぎ響のもとへとオーズは急いだ。

 

クワガタクジャクチーター

 

 背面のクジャクウィングを展開し、飛翔するオーズ。降り立ったその場所では響とクリスが対峙していた。

 

「ドンくせぇ奴らがやってくれる!」

 

「ドンくさい何て名前じゃないよ!私は立花響15歳!誕生日は9月13日!血液型はO型!身長はこないだの測定では157センチ!体重は……もう少し仲良くなったら教えてあげる!趣味は人助けで、好きなものはご飯&ご飯!あと、彼氏いない歴は年齢と同じ!さ、ほらえい……じゃなかったオーズさんも!」

 

「ええっ?!俺もなの?!!」

 

「馬鹿かお前ら!!つか、何をとち狂って!!」

 

 これまでに二度も敵対していたというのに、何故ここにきて自己紹介をするのか。前回もその前も命のやり取りをしたはずなのに、何故だ。何が何だか分からなくなってきたクリスをよそに、響は続ける。

 

「私たちはノイズと違って言葉が通じるんだからちゃんと話し合いたいんだ!」

 

 覚悟を決めたのか、滲み出る雰囲気からは一切の迷いが感じられない。

 だがそれがどうしたというのだ。二振りの鞭をしならせ、響とオーズを絡めとろうとするも響は鞭を払い、オーズは鞭の間を潜り抜けクリスの手元を蹴り上げ、電撃と炎を纏わせた左拳が繰り出された。

 直撃を受けて後ずさるクリスに尚も響は語り続ける。語り合おう、戦ってはいけないと口に出すが、クリスは真っ向からそれを否定する。

 

「うるせえ……うるせえうるせえうるせえッ!!分かり合えるもんかよ人間同士がッ!そんな風に出来ているものかッ!気に入らねぇ気に入らねぇ気に入らねぇ気に入らねぇ……っとに気に入らねぇ!わかっちゃいねぇことをペラペラと知った風に口にするお前がぁッ!!」

 

 激昂するクリス。凄惨な環境を生き抜いてきた彼女にとっては薄っぺらく青臭く、そしてとても腹立たしい。安穏(あんのん)と暮らしている奴がと唾棄するが、クリスは知らない。響もまたクリスほどではないにしろ、辛い二年間を過ごしてきた事を。

 頭に血が上り、冷静さを保っていた翼との戦いの時と違い、響とオーズの連携に乱されるままのクリス。大技『NIRVANA GEDON』が二連続で響を襲う。

 

「もってけ、ダブルだ!!」

 

 放たれるエネルギー球を前に、響は努めて冷静を保ち右腕の装甲を稼働させる。

 響にはアームドギアを形成する事が出来ない。ならば、形成する程のエネルギーを相手に直接ぶつければ良い。

 

「雷をぉぉぉぉぉ、握りッ!潰すようにィッ!!」

 

 腰部バーニアを最大限吹かして突撃。繰り出された拳がクリスの腹部に直撃して、ネフシュタンの鎧の装甲を砕く。その衝撃は凄まじく、殴り飛ばされたクリスは木々を巻き込んでなぎ倒し後方に大きく吹っ飛んだ。

 舗装した歩道をも抉り取るほどの衝撃。直撃を受けた鎧の装甲は地肌が見えるほどに損壊し、浸食による再生が始まっていた。身体の内側を侵食による激痛が走り、苦悶の表情を浮かべる。何とかして体勢を立て直さねば、と立ち上がろうとしたその時、胴体のメダルをカマキリに変えたオーズ・ガタキリーターが逆手に持った太刀の切っ先がクリスの眼前を捉えていた。

 

「もうこれ以上、戦うのを止めようよ」

 

「お前、バカにしているのか!あたしを……雪音クリスを!」

 

 展開していた太刀を収納して手の平を差し出したオーズに、クリスは吠える。しかし自分の名前をうっかりと明かしてしまうが、時すでに遅し。

 

「そっか、君はクリスちゃんって言うんだね。ねぇクリスちゃん。さっきも響ちゃんが言ってたように、俺達はノイズとは違って言葉を交わして話し合うことが出来るんだ。だってさ、俺達は同じ人間じゃない?」

 

 仮面の下では優しい表情をしている映司だったが、一方のクリスは激怒した。こいつもあの立花響と同じ能天気野郎であると、確信。オーズの胸部に鋭い回し蹴りを放つ。

 

「クセェんだよ!嘘臭ぇし青臭ぇ!こうなったらヤケだ。ぶっ飛べよ、アーマーパージだッ!!」

 

 瞬間、クリスの身体を纏っていた鎧は光となって周囲に拡散。熱量を持った矢となって辺り一面を破壊する。

 オーズもその直撃を受け、すぐ後ろの木の幹に吹き飛ばされる。合流してきた響もパージされたネフシュタンの欠片を避けながら、先程までクリスが立っていたであろう場所をオーズと共に凝視する。

 

――Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)

 

 突如として、立ち込める煙の中でクリスが聖詠を紡ぎだす。それは紛れも無く、翼や響がギアを纏うのに必要な歌であった。

 

「この歌って……まさか!」

 

「クリスちゃんも…装者?」

 

 煙が晴れ、姿を見せた少女。白銀の装甲に楔状の鞭を持ったネフシュタンの代わりにクリスが纏っていたのは、赤白黒の装甲。

 

「歌わせたな……あたしに歌を歌わせたな?教えてやるよ、あたしは歌が大嫌いなんだよ!!」

 

 クロスボウ型のアームドギアを構えて、クリスは吠える。

 魔弓・イチイバル。それが、雪音クリスがその身に纏うシンフォギアなのだ。

 

 

 

 

続く

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