戦姫絶唱シンフォギアAG・歌とメダルと13のコンボ   作:バルバトスルプスレクス

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前回の三つのあらすじ

一つ、立花響は憧れの先輩が汚部屋の主であることを知ってしまう。

二つ、その様子を偶然にも目撃してしまった未来の心に影が差し始めてしまう。

そして三つ、ネフシュタンの少女こと雪音クリスが失われたはずの第二号聖遺物イチイバルを展開したのだった

Count the Combo 現在オーズが変身したコンボは

タトバ

ガタキリバ

ラトラーター

サゴーゾ

シャウタ

???

???


イチイバルと不仲と雪音クリス

 

「歌わせたな……あたしに歌を歌わせたな?教えてやるよ、あたしは歌が大嫌いなんだよ!!」

 

 ネフシュタンの鎧を脱ぎ捨てたクリスが次に纏ったのは、第二号聖遺物・イチイバルのシンフォギア。両手に握られているクロスボウ型のアームドギアを構え、乱射。射撃戦に乏しい響は距離を引きはがされ、シャゴリーターにメダルを変えたオーズが至近距離のゴリバゴーン射出を試みるも、寸前で避けられ背中にクロスボウの連発を受けてしまった。

 次いで放たれるのは二門ある三連のガトリング砲を両手で構える『BILLION MAIDEN』の鉛球の大嵐。ネフシュタン装着時のイメージとのギャップに戸惑い何とか反撃の糸口を見つけようとするも、接近を許さないクリスの怒涛の銃撃に攻めあぐねている二人。

 

「どうしたどうしたどうした!さっきの勢いは何処にやった!」

 

 挑発を投げかけてくるクリス。木陰で銃撃をやり過ごしている二人には耳が痛かった。

 

「……こうなったら」

 

「コンボを使うんですか?!」

 

「そう、なるね。じゃもしもの時は頼んだよ響ちゃん!」

 

 シャチをライオンに、ゴリラをトラに変えてラトラーターコンボに変身。目くらましも兼ねているライオンヘッドの閃光・ライオネルフラッシュ。クリスが腕で視界を保護している間にすれ違いざまにトラクローの斬撃を浴びせる。この間一秒足らず。しかし二度目の方向転換時を狙われ、小型誘導ミサイル『CUT IN CUT OUT』が放たれる。

 

「やっぱりな、腕の爪使わねぇと減速も方向を変えることも出来ねぇんだ!」

 

 ラトラーターコンボと言うよりチーターのメダルによる高速移動は、自然と直線的な動きになってしまい、方向転換するならば大回りに旋回するか、クリスの指摘の様にトラクローで何かに引っ掛けでもしなければ減速することは叶わない。

 デメリットに初見で気が付くあたり、相当の手練れではないのかと訝しむオーズ。隙を見てはメダルを変えながら避け続けてクリスの視線を独占。三枚目を取り換えた時点で響が動いた。

 

「もしものッ時ぃっ!!」

 

 ガントレットを目いっぱい引き、人差し指、中指、薬指、小指そして親指の順番に指を曲げて拳を作り、クリスの背中を捉えた。

 その間には既にシャウタコンボにコンボチェンジしたオーズが両腕の鞭で殴り飛ばされたクリスを絡めとり、ジャイアントスウィングで投げ飛ばす。

 

「ちょせいっ!」

 

 空中に投げ飛ばされたクリスが『BILLION MAIDEN』と『MEGA DETH PARTY』の合わせ技を撃ち出した。シャウタコンボの特性による身体の液状化により、弾やミサイルは通り抜けるが響は違う。

 ウナギ鞭での防御も空しく二人そろって煙に包まれてクリスの餌食になったかと思えば、煙が晴れた途端に青い何かが現れた。

 

「壁……?」

 

 徐々に視線をあげるとそこには、腕を組んで見下ろしている人影があった。

 

「剣だ!」

 

 天羽々斬のシンフォギアを纏う防人・風鳴翼である。

 つい先ほどまで病院で杖を使って歩いていたはずの彼女は、恐らく途中まで緒川に送ってもらい、そこから詠唱を紡いでから『天ノ逆鱗』でクリスの攻撃を防いだのだろう。

 

「死に体でおねんねと聞いていたが、足手まといをかばいに現れたのか?」

 

 ニタリと口角を釣り上げる。前回の戦いでは絶唱を翼が使うまではこちら側が勝っていた。その上、病み上がりの相手に遅れなど取る物か。あの時は完全聖遺物ネフシュタンの鎧だったが、今の翼相手にはそうでなくとも十分に渡り合えるはずだ。

 意気揚々と皮肉を放っては見るが、当の翼は歯牙にもかけずに殊勝に返す。

 

「もう何も失うものかと決めたのでな。さて、無事か立花。私とて十全ではない、力を貸してくれるか?」

 

「いやいや、大丈夫なの翼ちゃん!」

 

「それは貴方もです。大丈夫なんですか、コンボを使うなどと」

 

「くっちゃべってんじゃねぇ!!」

 

 クリスの両腕のガトリングが火を噴いた。土砂降りの如く撃ち出された弾丸の嵐だったが、その僅かな隙を見つけた翼が縫うように避ける。

 落下しながらで何故弾丸の隙間を見付けることが出来たのか。疑問に思うもこれが本来の風鳴翼なのだろうと理解してクリスは舌を打つ。そこからの勝負運びは一度としてクリスに軍配が上がることは無く、銃弾は弾かれ、ミサイルの類は切り捨てられ、インファイトを持ち込んでも翼を圧倒することは無かった。

 

「(この女、以前とは動きがまるで――!?)」

 

 違う。瞬く間に背後を取られ、日本刀型のアームドギアの刃が首筋に当てられたクリスは理解する。これが本来の風鳴翼の強さなのだと。

 今の翼は十全ではなくとも万全であることに違いは無い。

 

「翼ちゃん、その子は…!」

 

「わかっています(刃を交える敵じゃないと信じたい。それに10年前に失われた第2号聖遺物のことも正さなければ)」

 

 その時だ。何処からともなく現れた有翼型のノイズがその身を弾丸の様に身をねじって翼とクリス目掛け急降下。単体ならばまだしも複数体降りかかって二人を襲う。

 すかさず、オーズが『オクトパニッシュ』で翼の身を、響がクリスを押し飛ばし身を挺して事なきを得た。これに「余計なお節介だ!」と響を突き飛ばすクリスの耳に、聞き馴染みのある声が突き刺さる。

 

「命じたこともできないなんて。クリス、貴女はどこまで私を失望させるのかしら?」

 

「……フィーネ!」

 

 オーズが、響が、そして翼が一斉に視線を向ける。そこにいたのは、金の長髪に黒い衣装とつばの広い帽子を身に着けてサングラスで目元を隠している一人の女性。一目見れば海外のセレブ女優の様な雰囲気を醸し出してはいるが、その手に握られているソロモンの杖の存在が女性が只者ではないことを示していた。

 フィーネと呼ばれた女性は一度もオーズ達に視線を向けることなく、クリスに冷たい言葉を投げかけたのだ。まるでお前は用済みだと言わんばかりに。

 

「こんな奴がいなくたって戦争の火種くらいあたし一人で消してやるッ!そうすればあんたの言うように人は呪いから解放されて、バラバラになった世界は元に戻るんだろッ!?なぁそうなんだろ!!」

 

 しかしフィーネは答えない。

 一切無言のままの彼女は、空いた手の平に光を宿すと先ほどまでクリスが纏っていたネフシュタンの鎧の破片を光に変えて回収していく。回収しきると今度は撤退の足止めとして大量のノイズを召喚し、姿を消した。同時にフィーネの後をクリスが追い、残された三人はノイズの掃討にあたった。

 疲労が出る前にシャウタコンボからガタキリドルにメダルを変えたオーズ。去っていったクリスの身を案じつつも、犠牲者が出る前にノイズを刈り取っていく。

 

Scanning Charge

 

「セイヤーっ!」

 

 電撃を纏った斬撃と蹴りがいくつものノイズを蹴散らしていく。

 総て倒しきった頃には、既にクリスは二課の索敵範囲を超えており、更にイチイバルの展開も解除されていることから探し出すのはとても難しいとのこと。イチイバルのアウフヴァッヘン波形が探知されればすぐにでも見つかるというのに。

 

 

***

 

 

 うまく状況が呑み込めないまま、いつかの響の様に二課本部に連れられた未来は緒川の説明を受け、何故響が理由をつけて度々学校を休んでいたのか、何故いつも一人になるのか。それらの理由を知っても尚、理解は出来ても納得がいかなかった。

 規則で相談することも出来ないと言うが、それでものけ者にされた感じが強かった。

 今未来はリディアンの寮に戻っていた。粗方の説明と誓約書のサインそして怪我を負ってないかの診察を受けた後、返されることとなった。響が帰ってきたのは未来の帰宅から一時間弱が経ってからだ。

 

「た、ただいま~…」

 

「おかえり。流れ星の時も変なメモ残して学校を休んだのも、あんな危険なことに関わってたからなんだね」

 

「ご、ごめん未来。でもね、言えなかったのは規則だけじゃなくて……」

 

「話しかけないで。いろいろあって頭の中がぐちゃぐちゃなの。悪いけど今日から当分の間響は一人で寝てて」

 

 二段ベッドの上で二人はいつも一緒に寝ていた。しかしそれも今日限りで終わりを告げた。

 

 

***

 

 

 一方そのころ。

 フィーネを見失ったクリスは迷子らしき兄妹の手を握って交番までの道のりを歩いていた。

 そもそも見失ったのならば屋敷に直行していれば自然とフィーネと鉢合わせするはずが、色々あって迷子の兄妹を交番に連れて行く事態になっていた。

 聞けばつい最近越したばかりで、気が付いたら父親と逸れたと言う。

 

「お姉ちゃん、うた好きなの?」

 

 無意識のうちに鼻歌を奏でていたようで女の子がそう聞いた。

 

「歌なんて嫌いだ(特に、壊すことしかできないあたしの歌なんかな)」

 

 やがて交番が見えた所で、自分達の父親が若い男と共に交番に駆け込む姿を見た兄妹二人はクリスの手を離れ一目散に父親のもとへと走り出した。

 やれやれ、この様子じゃ迷子になるはずだ。

 

「この度は何とお礼を申したら…」

 

「気にすんなって。たまたまだよ、たまたま」

 

「いえ、お役に立てて何よりです。お子さん見付かって良かったですね」

 

 ぶっきらぼうに返すクリスとは正反対に、若い男は丁寧な口調。その男の声に聞き覚えがあったクリスは訝しげに男の顔を横目で見るが、何処であったのか皆目検討がつかなかった。

 女の子から仲直りの秘訣を聞いて、すぐに退散しようとするクリスに若い男が声をかける。

 

「待って。フィーネの所へ行くの?」

 

「っ!何でお前が……まさか!」

 

 返答として、懐からオーズドライバーをチラリと見せる映司。完全聖遺物たるそれと彼の声に合点がいったクリスは表情を強張らせて距離をとる。

 

「お前、もしかしてあたしを付け狙ってたのか?」

 

「偶然だよ。でも、今戻ったらフィーネって人から命を狙われるんじゃないかな」

 

 去ろうとするクリスの手を取る。

 

「今はまだ俺達の事は信用できないかもしれないけど、俺ともう一人弦十郎さんって人が君の味方になる」

 

「うるせぇ!大人なんか信用できるか!」

 

 クリスに伸ばした手は払われ、彼女はそのまま振り返ることなく夜の街の中へと走って行った。

 

 

***

 

 

 二課の司令室で夜食の買い出しから戻ってきた映司がレジ袋の中身を当直の職員に配り切った後、弦十郎に馴染みの居酒屋に連れていかれ、そこでクリスと会った事を伝える。

 

「…気にするな映司。ただ時期が早かっただけだ」

 

「それは、そうですけど……」

 

 カウンター席で並んで座る二人以外に店内の客は奥の小上がりで出来上がっている中年サラリーマンが数人ほどだけ。どんちゃん騒ぎの彼らをよそに、映司はソフトドリンクが注がれているグラスの中身を見つめてクリスが最後に投げた言葉が映司の胸に深く突き刺さっていた。

 手は届いたはずだ。しかしクリスはその手を払って命を奪うかもしれないフィーネの元へと戻っていった。彼女の言うとおりであればフィーネもまた信用できない大人のはず。

 

「俺も彼女に手を差し伸べる。保護を命じられたのもあるが、大人が子供を守るのに理由はいらないだろう?」

 

「そう……ですよね」

 

 

***

 

 

 翌日のリディアン。

 昼休みの食堂で向かい合って食事をとる響と未来。昨日の事もあってか、いつもより授業に集中できない響は何度も叱責を受けた午前中。

 今日も何度か声を掛けようとしても暖簾に腕押し。

 

「あれ?二人とも喧嘩した?」

 

 安藤(あんどう)創世(くりよ)が響と未来のいつもと違う様子を見て、昼食の乗ったトレーを持って声を掛けた。その後ろにはいつも一緒にいる寺島(てらしま)詩織(しおり)板場(いたば)友美(ゆみ)の二人も同じように昼食の乗ったトレーを持っていた。その二人も創世と同じく響と未来の様子を心配していた。

 

「もしかして響バイトしてるんじゃないの?」

 

 何気なく言った友美の茶々に、未来は無言で席を立ち走り去っていき、その後を響が追った。残された三人が惚けた表情のままに。

 

「待ってよ、未来!」

 

 屋上で追いつくも、振り返ることもしない未来に響は必死に弁明する。

 

「その、今まで黙っててごめん」

 

「昨日のあれが、響の言ってた考えなきゃいけない問題?」

 

「………うん」

 

「……そう。ごめん、これ以上響の友達でいられない」

 

 踵を返して校舎内に戻る未来は、泣いていた。同時に響もまた、泣いていた。

 今まで日常を、戦える術がない誰かを、陽だまりを守る為に、己を鍛え上げてきた。憧れの先輩にも認められるようにもなった。であるというのに、その代償が響にとって余りにも大きすぎていた。

 

 

***

 

 

 日付が変わり、今にも雨が降りそうな空模様に太陽が昇り始めたころ、屋敷に戻ってきたクリス。フィーネがいるであろう部屋に差し掛かったところで、彼女の声が耳に飛び込んできた。

 

「流石にそろそろ潮時かしら。もうクリスは用済みね」

 

「用済みって……用済みって何だよフィーネ!」

 

 勢いよく蹴り開けた扉の向こうでは、いつもの様に全裸のフィーネがソロモンの杖を片手に握ったまま冷めた目でクリスを見つめていた。

 

「もうあたしはいらないって事かよ!アンタもあたしを物の様に扱うのか!もう頭ン中ぐちゃぐちゃで……何が正しくて何が間違っているのかわかんねえんだよッ!」

 

 一日と言う時間をおいてぶり返した感情が爆発していたクリス。フィーネに拾われてから、彼女を自然と慕うようになっていた。信じられる大人もフィーネのみ。それなのにもういらないとばかりに切り捨てられたのだ。

 

「そうねぇ。貴女のやり方じゃ争いをなくす事なんてできやしないわ。せいぜい一つ潰したとしても、また別の争いが二つや三つに増えるだけよ」

 

 信じたくなかった。いや、遅かれ早かれこうなるだろうと分かっていたはずなのに。

 

「カ・ディンギルは完成しているも同然。もう貴女の力に固執する必要はないわね」

 

 そう言ってフィーネはソロモンの杖で召喚したノイズでクリスを囲むと、眩い光に包まれてネフシュタンの鎧を纏う。その鎧は、クリスが纏っていた時は純白や白銀と言う表現に近かったが、フィーネの纏うそれは黄金の鎧。恐らくこの状態が本来のネフシュタンの鎧なのだろう。

 これが答えなのだと理解せざるを得なかった。屋敷から逃げ出したクリスにフィーネはソロモンの杖を掲げて後を追わせた。

 聖詠を紡いでイチイバルを纏い、追跡してくるノイズを振り出した雨の中、濡れる事を厭わず両手におさまっている拳銃型アームドギアで打ち抜きながら逃げ続ける。

 屋敷を出てすぐの森林地帯を抜け、住宅街に差し掛かったところでノイズの追跡が止むと、気疲れからかクリスは力尽き、イチイバルの展開が解け、その場に倒れて気を失ってしまった。

 

 

***

 

 

 暗い表情のまま登校する未来は、路地裏で山積みになっている炭の近くで倒れている人影を見た。

 直ぐに駆け寄って顔を覗くと、年格好は自分とそう変わらない少女。その少女が昨日響と戦っていたあの白銀の鎧を纏っていた少女であると理解するのに多少の時間は要したが、何故彼女がこんなところで倒れているのかを究明する余裕も無かった。しかし幸いにも、今この場所は不幸中の幸いと言うべきか、行きつけのお好み焼き屋のすぐ近く。

 体系の割にやけに軽いなと感想を漏らしつつ、開店準備中の『ふらわー』に訪れておばちゃんに簡潔に事の次第を伝えると、厚意で布団を用意してくれた。後の看病は未来が行い、先ずはクリスの服を脱がして、代わりにカバンの中から体操着を取り出して着せる。名札の辺りが後でビロビロになりそうではあるが、今はそんなことを気にしている暇はない。

 日が昇り、昼前の時間帯に差し掛かったところでクリスが目を覚ました。

 様子を見に来た未来が部屋に入って二人は名前を明かし合う。

 

「何であたしにこんな…」

 

 優しくしてくれるのか。そう問われた未来は迷いなく響の影響と答えた。

 硝子戸の向こうからおばちゃんが乾いたクリスの服を持ってきた。着替える前にクリスの身体を拭いていく。

 

「何も、聞かないんだな……」

 

 背中に残るいくつもの痣。これはクリスが幼少期、つまりは両親の死後に彼女の身柄を拉致した組織が付けた跡。フィーネからはネフシュタン対策の電撃を除いて暴力を受ける事は無かった。

 未来はそれらを知らないし、無理に知ろうとも思わない。

 

「私、そういうの苦手みたいで、今までの関係を壊したくなくて、なのに一番大切なものを壊してしまった」

 

 今でも思う。何で響にあんな態度を取ってしまったのだろうか。後悔に苛まれながらも、未来はクリスの介護を続ける。

 

「誰かと喧嘩したって事なのか?」

 

 乾いた服に袖を通すクリスの問いに未来は無言で首肯する。

 

「そっか。あたしには分からないな、友達いないから。地球の裏側でパパとママを殺されて、ずっと一人で生きてきた。友達どころじゃなかったんだ。たった一人理解してくれると思った人もあたしを道具のように扱うばかりで、結局誰もかもまともに相手してくれなかったのさ」

 

 いつだってクリスの脳裏に浮かぶのは、幼少期の記憶。それも両親の死後の事。

 

「大人はどいつもこいつもクズ揃いだ。痛いと言っても止めてと言っても聞いてもくれなかった。あたしの話なんかこれっぽっちもな……」

 

 今までフィーネ以外には聞かせる機会が無かった自身の過去を語る。何故自分から語ろうとしたのか分からなかったが、少なくともクリスから見て未来は好印象であったし、何よりも助けてくれた恩義もあるので、ついつい漏らしたくなった。

 

「なあ、お前その喧嘩の相手ぶっ飛ばしちまいなって。どっちが強ぇのかをはっきりさせたらそこで終了ってな。違うか?」

 

 粗暴な提案。しかし、微笑むクリスの表情を見て未来はそれが励ましであることを知ると、同じように微笑みを返した。

 

「優しいんだね、クリスは。もしクリスがいいのなら、わたしはクリスの友達になりたいな」

 

「何言ってんだ。あたしは……、あたしはお前たちにひどい事したんだぞ…」

 

 そんな時だった。二人がいる地域にノイズが出現したことを報せる警報がけたたましく鳴り響いた。

 しかしクリスは今までノイズを呼ぶ側であったため、その警報をまるで理解していなかったが、これがフィーネによるものであることは本能的に理解できた。狙いは自分であることも。

 未来とおばちゃんに別れを告げ、逃げ惑う人々の波を逆らうようにかき分け走る。

 自分はなんて馬鹿なのだろう。クリスは自分自身に苛立った。自分の為に無関係な人間が死んでしまうなんてあってはならない。

 誰もいない。人の営みが消えた交差点で、クリスは立ち止まり天を仰いで泣き出した。

 

「あたしのせいで関係のない奴らまで……あたしが、あたしのしたかったのはこんなことじゃない……ッ!けど、いつだってあたしのやることは……いつもいつもいつもいつもッ!!」

 

 裏目に出てしまうのか。

 項垂れている彼女を無数のノイズの群れが取り囲んだ。

 涙を拭い、クリスは立ち上がる。死んで償うよりも、生きて戦い続けることで償おう。

 

「あたしはここだ……ここにいる!だから、関係のない奴らのところになんて行くんじゃねえッ!」

 

 吠える。自分はここにいる。狙うならこの雪音クリスを狙えとクリスは吠える。

 幾つものノイズがその身を矢に変えクリスを炭化させるべく突撃。

 迎え撃つべく聖詠を紡ぐが――。

 

「Killter Ichaiva……ゲホッ!」

 

 疲労による呼吸の乱れ。最後まで聖詠が紡げずせき込むクリス。イチイバルのシンフォギアを纏えぬまま炭化させられる。

 

「ヌゥンッ!!」

 

 否。震脚でアスファルトを隆起させて拳で砕き、破片を撒き散らせてノイズを吹き飛ばす男が一人。

 

「今だ、映司!!」

 

 そして、白銀の鎧を纏う重力を操る戦士が一人。少女に迫る危機を払った。

 

Scanning Charge

 

「セイヤーっ!」

 

 サゴーゾコンボの必殺技、『サゴーゾインパクト』が多くのノイズを一掃する。両足のゾウレッグを変形させて浮かび上がった後急降下。それに伴い強い重力でノイズ達を無理矢理引き寄せて両腕のゴリバゴーンと頭部サイヘッドの鋭い角を叩きこむ。

 クリスを抱え、近くの雑居ビルの屋上に跳躍した弦十郎は彼女の身を案じた。

 余計なお世話だ、と言わんばかりに弦十郎を突き放して聖詠を紡いでイチイバルを起動する。

 

「ご覧の通りさッ!あたしのことはいいから他の奴らの救助に向かいなッ!」

 

「だがしかし!」

 

「こいつらはあたしがまとめて相手してやるって言ってんだよッ!!」

 

 幾つものビルの屋上に飛び移りながらノイズを殲滅するクリス。

 また、助けられなかった。去り行くクリスの背をただ見つめるだけの弦十郎は強く拳を握りしめる。

 その下では、サゴーゾコンボからタトバコンボにメダルを変え、周囲の警戒を強めるオーズに指令室から友里の状況終了の通信を受け、一旦変身を解除する。

 

 

***

 

 

 その後、新たに出現した音に反応する蛸に似たノイズの出現により、紆余曲折あって仲直りが出来た響と未来。

 弦十郎の計らいで未来は外部協力者として二課に登録されることとなり、以前の様に響との関係がギクシャクすることも無いだろう。

 

「これで当面響ちゃんの方は問題ないですね」

 

「そうだな。響君の方()な」

 

 指令室のソファーに向かい合って座る映司と弦十郎は、未だ消息がつかめないクリスの身を案じていた。

 信じていた人物に裏切られ、同時に今まで自分がしてきた罪を自覚してその重さに潰れかけている。自ら命を絶つという選択は決して取らないだろうし、何よりそうさせるつもりがこちらには無いのだから。

 

 

 

続く

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