戦姫絶唱シンフォギアAG・歌とメダルと13のコンボ   作:バルバトスルプスレクス

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前回の三つのあらすじ

一つ、ネフシュタンの鎧を纏っていた謎の少女の正体はイチイバルの装者雪音クリスであった

二つ、黒幕フィーネの登場と共にクリスは用済みにされ、その裏では響と未来との間にすれ違いが生じてしまった

そして三つ、響と未来が仲直りはしたが映司と弦十郎はクリスの身を案じていた

Count the Combo 現在オーズが変身したコンボは

タトバ

ガタキリバ

ラトラーター

サゴーゾ

シャウタ

???

???


面談と復帰ライブとサヨナラ

 

「り、リディアンの地下ってこうなってたん……だね」

 

 高速エレベーターの洗礼を受けてグロッキー状態が続いている未来を引き連れて響は二課本部の案内をしていた。事前に弦十郎から許可を得、ある程度の範囲内で且つ映司も同伴と言う条件付きで。

 一応外部協力者でもある為、事情を隠さずある程度の情報を与える必要があったからだ。

 支援活動の為に度々響の実家を訪れる映司の事を未来は見掛けた事がある程度で、今日で漸く顔を合わせることが出来た二人。

 しばらく三人で通路を歩いていると、通路の奥の方から健診帰りの翼と付き添いの緒川マネージャーモードの二人と合流。

 

「紹介します翼さん。私の一番の親友の未来です!」

 

 エッヘン、と胸を張ってドヤ顔を決める響と何のリアクションも無い未来の二人に映司はついつい頬を緩ませる。つい最近までギクシャクしていたというのに、仲が良い事は良い事だ。

 そう言えばと、映司は中学生の頃を思い出していた。いつも仲が良い切歌と調が、ほんの些細な事で喧嘩しては気が付いた時には仲直りしているし、映司自身もマリアと言い合うような喧嘩をしても一日も経たないうちに喧嘩をしていた事さえ忘れていた。そう考えるとセレナは誰とも喧嘩をしていなかった。

 

「小日向……と、言ったか。立花はこういう性格故いろいろ面倒をかけると思うが支えてやって欲しい」

 

「いえいえ。響はちょっと残念(アレ)な子ですのでご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」

 

「え、私ってば貶されてるの褒められてるの?どっちだと思います映司さん」

 

「気にかけられているんだよ、きっと」

 

 思い出に浸りつつ、響からの問いを軽く受け流す映司。

 

「そう言えば師匠はどうしたんですか?今日はまだ一回も会ってないんですけど?」

 

「司令でしたら、借りてきた映画を返しに行ってるはずですよ」

 

「あーら何々?なーんの話?恋バナ?」

 

 櫻井了子が割り込んできたのは休憩スペースに移動した矢先の事だった。誰もそんな話はしていないのだが、了子がその話題を切り出した途端響と未来は了子の恋愛遍歴に興味を示し、翼は了子にそんなイメージが無くどちらかと言えば研究一辺倒かと思っていたと漏らす。

 

「そんな仕事人間じゃないわよ私は。これでも呆れるくらいに一途な乙女の恋だったんだから」

 

「乙女って…がっ!」

 

「慎次さ、…ぶげっ!」

 

 珍しく失言した緒川への折檻は隣にいた映司にまで流れ弾が行く。

 

「っと、そう言えば私まだやる仕事があるんだったわ。私の恋バナはともかく、映司君の恋バナもいい物よ~?」

 

 そそくさと映司をスケープゴートにして逃げ出した了子。文句の一つも言いたかった映司だったが、興味津々と言わんばかりに目を煌かせる響と未来。助け舟を出そうともせず、それどころか響と未来の味方に回る始末。

 映司の秘めた恋心を穿り回そうとする四人。特に響と未来の目が爛々と煌いており、逃げようとしても二人の背後には笑顔で退路を断つ緒川がいるから中々に逃げ出すことは叶わない。

 

「お、俺なんかよりも慎次さんとか翼さんとか――!!」

 

「論点をすり替えて逃げようだなんて思わない事ですよ」

 

 了子と同じ手を使ってみても、慎次によって封じられた退路をこじ開けることは出来なかった。

 

 

***

 

 

 ノイズの襲撃によって住民が一人も居なくなったマンションやアパートがある。

 かつては家族の団欒の場であったマンションの各一室も、今では見る影も無くカビや埃が見え隠れする惨状に変わり果てていた。

 住む場所を追われた雪音クリスがこのマンションを(ねぐら)にするのは当然の結果だった。廃棄されていた毛布に身を包み、その周囲には隙を見て盗み出したであろう飲食物の残骸が転がっていた。

 雨音だけの空間にドアが開いた。「フィーネか?!」と臨戦態勢を取ったクリス。ギアを纏うにしても聖詠を紡ぐ時間が惜しい。拳を握りしめ、入り口の陰に身を潜めて攻撃の隙を伺った。

 

「ほらよ」

 

 しかし姿を見せたのは、食料が入ったレジ袋を提げた筋骨隆々の男の腕。風鳴弦十郎その人である。

 何しに来やがった。そう言いたげに距離を取って拳を構えるクリスに弦十郎は柔和な笑みを浮かべてレジ袋の中身からあんパンを取り出して差し出した。

 

「君を保護しに来た。これでも元公安の御用牙だったんでな。それに、君の保護を命じられたのはもう俺一人になってしまったからな」

 

 しかし弦十郎が何を言おうともクリスは一切信用しようともせず、尚も警戒するばかり。

 そこで弦十郎は一口齧って断面を見せた。毒を盛っていない事が伝わっていたようで、クリスは弦十郎の手から半ば強引にあんパンを奪い取って齧り付く。

 

「当時の俺達は適合者達を探すために、音楽界のサラブレッドに注目していてね。天涯孤独となった少女の身元引受先として手を挙げたのさ」

 

 先ほどのあんパンと同じようにパックの牛乳にも弦十郎は一口飲んでクリスに渡す。

 

「……こっちでも女衒(ぜげん)かよ」

 

 かつてバルベルデで拉致されたこともあり、弦十郎もその連中と同じ人間だと思い込むには充分だった。しかしそれでも、弦十郎はあきらめず手を差し伸べる。

 

「俺がやりたいのは君を救い出すことだ。引き受けた仕事をやり遂げるのは大人の務めだからな」

 

「ふんっ、大人の務めときたか!余計なこと以外はいつも何もしてくれない大人が偉そうにしてッ!!」

 

 言い切らない内に窓ガラスを割って飛び出して聖詠を紡ぎ、雨に濡れたまま逃げ出した。

 離れていく彼女の背中をただ見つめる事しか出来なかった弦十郎。だが、諦めるにはまだ早い。今が駄目だったとしても次がある。

 何時しか雨が上がり、雲の切れ目から青い空が顔を覗かせていた。

 

 

***

 

 

 数日後。響と未来が翼を連れて遊び(デート)に出かけている頃、映司は茨城県の筑波に来ていた。

 待ち合わせは海沿いの喫茶店。今日は仕事の一環である人物と面談する予定があったのだ。

 この面談も、三か月に一度のペースで行っており、もう二年も続いている。

 

「お待たせしました。前回からお変わりありませんでしたか、洸さん」

 

「ええ。特に変りも無く、大きなケガも負ってません」

 

 立花洸は響の父親である。二年前のライブの件で職を失った彼は映司をはじめとした二課の支援もあって危険物取り扱いの資格取得出来、ガソリンスタンドに再就職を果たしている。

 本来ならば都内もしくは自宅近辺で再就職をすべきだったのだろうが、当時としては『他人を犠牲にしてまで生き延びた生還者の親』のレッテルが張られてたままであり、再就職活動も困難であった。そこである程度情報が浸透しておらず、例え浸透していても迫害されずに済みそうなここ筑波での再就職が決まったのだ。その際響たち家族とは一時的な別居状態になってしまっているが、今のところ家族仲が悪いと言った話を映司は聞いていない。

 ともあれ今日は洸の私生活や仕事面での話を調書をとりながら面談形式で聞き、ある程度終われば世間話。

 

「やっぱり思春期の娘と離れるとその……スレちゃわないか今でも不安なんですよ」

 

「そうですね、その点は大丈夫ですよ。響ちゃんはリディアンで新しい友達が出来たみたいで」

 

「そうですか……良かった…」

 

 安堵の表情を浮かべる洸は響の中学時代を知っている。凄惨な環境下、親友と呼べるのは未来だけで、上っ面なメッキの様な笑顔を浮かべる響。かつての洸の口癖『平気へっちゃら』を何度も何度も口にしている娘の姿を見て何度心を痛めた事か。

 再就職をはたしているとは言え、やはり洸には家を空けてしまっている負い目がある。いくら家族間で納得し合っているとはいえ、このままずっと洸の別居が長続きするのは望ましくなかった。

 

「はやく家族一緒になれるよう、俺達も出来る限りお手伝いいたします」

 

「はい、今後とも宜しくお願いします」

 

 

***

 

 

 時は流れ、翼の復帰ライブの日。二年前の悲劇の地での開催ではあるものの、チケットの当日と前売り分は既に完売。響と未来の二人も翼からお高めの席のチケットが手渡されている。

 間もなく開演の時間。会場を背に立つ映司は、オーズドライバーを起動し、メダルを三枚装填する。

 

『映司、本当にお前ひとりで良いんだな?』

 

「はい。今日の翼ちゃんにはステージの上で、応援してくれているたくさんの人の前で自分の戦いに臨んで、最後まで歌っていて欲しいんです。響ちゃんと未来ちゃんにも二年前に出来なかったことをさせてあげたいんです!」

 

『……そうか。やれるのか?』

 

「やります。戦います、俺!」

 

 通信を切って眼前の災害の群れに目を向ける。

 極彩色のその群れは、紛れもなくライブ会場のスタッフや観客に向かって進軍している。

 恐らくこの群れはフィーネが呼び出した筈だ。何のために呼び出したのかは不明ではあるが、迫る脅威は、飛んでくる火の粉は払うしかない。いや、払わねばならない。

 

「変身!!」

 

クワガタカマキリバッタ

ガーッタガタガタキリッバガタキリバ

 

 三つのメダル状のオーラが映司の身体を駆け巡り、一つに重なり合ったオーラはエンブレムに変わり、映司の胸部に収まってガタキリバコンボへの変身を遂げる。

 固有能力の人海戦術により、幾多のノイズに後れを取ることは無いだろう。

 電撃や斬撃を駆使して戦う一人にして五十人分の戦力。分身と違い、一人一人実体がある分裂能力。そのせいか使用後の疲労感は全コンボの中でも最も重い方だ。であるはずなのに映司がガタキリバを使用しているのは、響と翼の分までたった一人でも戦う事を決意したためだ。

 

――Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)

 

 突然オーズの耳に届くイチイバルの聖詠。次いで飛来してきたミサイル群がいくつものノイズを葬り去っていく。一課の砲撃でなければ考えられるのは一つ。オーズが視線を向けた先に、予想通りの相手がいた。

 

「クリスちゃん?!」

 

 赤い装甲に特徴的なヘッドギア。両手に握られているのはコンパクトなサイズでありながらも、広範囲に複数の矢を放つ深紅のクロスボウ。イチイバルのシンフォギアを纏う、雪音クリスが戦場に現れる。

 

「勘違いすんなよな?別にアンタの手伝いをしてる訳じゃない。これはあたしのケジメだ」

 

「……分かった。一緒に戦おう!」

 

「お前人の話を聞いてないだろ!っていうか、お前が本体で良いんだな?」

 

 クリスはオーズには複数の形態を持ち、その中でもコンボと呼ばれる特殊形態がある事しか知らない。よしんば知っていてもサゴーゾコンボの重力操作とラトラーターコンボが高速移動形態と言うだけ。

 ともあれ、心強い助っ人が来てくれたことに嬉しくなって仮面の下で思わず笑みを浮かべたオーズは、更に気を引き締めて戦場(いくさば)を駆け巡る。

 広範囲に渡り、オーズの雷撃とクリスが放つ砲撃が多くのノイズを灰燼に変えていく。

 

 

***

 

 

 外の出来事などつゆ知らず、ライブ会場は風鳴翼の歌が、観客席からの声援や歓声によって、今や熱狂の渦の中にいた。

 完全復活と相成った翼はこの日のために用意した曲を歌いきり、客席を見回した。

 

「ありがとうみんなっ!今日は思い切り歌を歌って楽しかった!」

 

 二年前から昨日まで、奏と共に歌えなくなってから翼が歌う時は戦場(いくさば)に立つ時。シングルCDのレコーディングも自然と力んでしまい、見舞いの度に奏から堅いなと揶揄(からか)われることもしばしば。

 

「こんな想いは久しぶりで、どうしてか忘れてた。こんなにも歌が、聞いてくれるみんなの前で歌を歌うのが私は大好きなんだ!!」

 

 客席に向かって振った手に、観客達は歓声を上げて答える。その中には両の拳を突き上げて興奮状態の響と、そんな響の様子にほんの少し引きながらも両手のサイリウムを落とさない様にしっかりと握る。

 

「もう知ってるかもしれないけど、海の向こうで歌ってみないかってオファーが来ている。自分が何のために歌うのか、今の今までずっと迷っていたんだけど……今の私はたくさんの人に私の歌を聞いてもらいたいと思っている。言葉は通じなくても歌で伝えられることがあるならば、世界中の人たちに私の歌を聴いてもらいたい!!」

 

 今日のこのライブは、翼の海外進出を発表する場でもあった。具体的な時期はリディアン卒業後にはなるだろう。しかし、今日のこのライブを通して今まで拒否していたオファーを受ける決意を示した。

 

「私の歌が誰かの助けになると信じてみんなに向けて歌い続けてきた。だけど、これからはみんなの中に自分も加えて歌っていきたい。だって、私はこんなにも歌が好きなのだから!私のたったひとつのワガママを聞いて欲しい、許して欲しい!!」

 

 瞬間、観客席から応援の歓声が響き渡る。ここにいるファンの一人一人が祝福し、赦してくれている。誰もが翼の躍進を応援してくれているのだ。今日ほどアーティスト活動をやっていて嬉しく思える日は、奏が倒れてから今までにそうそう訪れる事はなかった。

 そして時同じくして、会場に迫るノイズの掃討が終了しており最悪の事態は回避できた。

 

 

***

 

 

 翼が輝かしいばかりの光に包まれた舞台に立っているならば、クリスは薄汚れた路地裏に蹲っていた。

 以前より益々自分と言うものが分からなくなっていた。自分から敵対していた奴と手を組んだことをケジメとしていたが、それでも何かモヤモヤとした気持ちがクリスの心を支配する。

 まるで中途半端な悪者だと自嘲する。

 

「あたしにとってあいつらは敵なのに、どうして手を貸しちまったんだ!」

 

 その疑問に答える者は誰もいないし、適切な答えがクリスの中にあるわけでもなかった。

 あるとするならば言い表せないモヤモヤ。ただ、それだけしか無い。

 頼れる人間が一人も居ない彼女には行く宛がない。弦十郎、または映司に頼る道も残されているだろうが、未だその二人は信用するに足りていない。だからこそ、フィーネの屋敷に足が向くのは当然の帰結なのだろうか。

 

 

***

 

 

 翌日。前回殺されかけたにもかかわらず、クリスはまた屋敷に戻っていた。

 思えば日本に来てからの殆どをこの屋敷で用済み宣言されたあの日まで過ごしてきた。そんな屋敷には夥しい程の襲撃の跡が残されていた。

 一体どこの誰がと思いながらも真っ先にクリスが向かったのはこの屋敷のメインとなるあの部屋。富豪の晩餐会に使われるようなあの部屋には、ネフシュタン因子を消滅させるマシン等多くの機器が多く設置されている。その中にはフィーネでしか開けられないデータファイルなどもある。

 息を切らしたままに到着したその部屋には、既に事切れていた武装した男たちが転がっていた。奥にある大型モニターには弾痕があり、その付近には広がって乾ききった血液の染みが出来ていた。

 この惨状を生み出したのがフィーネであることを理解しきる前に、弦十郎と映司そして複数人もいる黒服の男たちがぞろぞろと押し寄せてきた。

 

「大丈夫だよクリスちゃん。俺達は君がやったなんて思っていないから」

 

「そう。全ては君や俺達の側にいた彼女の仕業だ」

 

 バックルには既に白系のメダルが既に装填されており、いつでも変身出来るように警戒の糸を緩めない映司と優しくクリスの頭を撫でる弦十郎。彼ら以外の黒服達はそれぞれの遺体に近づいていた。遺体のそれぞれの襟には部隊章らしき小さなワッペンが縫い付けられており、そのデザインから彼らが米国政府の差し金であることが判明する。

 口紅で書かれた一枚のメモが不自然に一人の遺体に張り付いていた。『I LOVE YOU SAYONARA』と短い文章だけ。近くにいた黒服の一人が何気なくそのメモを取り外した瞬間、何処かに仕掛けられたトラップにより爆発が起きる。

 

サイゴリラゾウ

サゴーゾサッゴォーゾッ!!

 

 間一髪変身したオーズがドラミングで重力を操作して、衝撃を緩和し瓦礫の落下コースをずらし、黒服達を何人か引き寄せることが出来た。しかし、完全に救いきれていなかった。クリスは弦十郎が発勁で衝撃をかき消して救出していたが、少なくとも三人以上の黒服達が犠牲になってしまった。

 

「何でだよ、何でギアを纏えない奴があたしを守ってんだよッ!」

 

 殉職した同僚達を悼む映司の耳に、クリスの強い声が飛んできた。確かにクリスにはシンフォギアがあるし、オーズ相手に上手く立ち回れる技量も備わっている。しかしそれは違うと、弦十郎はクリスの言葉を訂正する。

 

「俺がお前を守るのはギアのあるなしじゃなくて、お前よか少しばかり大人だからだ」

 

 子供を守るのが大人の役目。弦十郎にとって、もとい二課に勤める大人達にとって当たり前の事でも、クリスにとっては非常識極まりない事。

 

「大人?大人だって?あたしは大人が嫌いだ!死んだパパとママも大嫌いだッ!とんだ夢想家で臆病者で、ぽっくりと死んじまって!あたしは、あたしはあいつらと違うッ!被戦地で難民救済?歌で世界を救う?笑わせんな、いい大人が叶いもしない夢なんかを見てるんじゃねえよッ!」

 

 声楽家と演奏家の両親との間に生まれ、愛情を注ぎこまれながら生きてきた彼女の人生を狂わせたバルベルデ。そこでクリスは大人と言う存在が如何に汚く、卑しく、恐ろしいかを身を以て知った。知らされた。だからこそ、戯言(たわごと)の様にしか聞こえない弦十郎の言い分を突っぱねた。

 しかし、それはクリスの本音なのだろうか。

 本当に両親を嫌っているならば、『パパ』や『ママ』と呼ぶことも無いだろう。

 

「大人が夢を、ね」

 

「本当に戦争をなくしたいのなら戦う意志と力を持つ奴らを片っ端からぶっ潰していけばいいんだ!それが一番合理的で現実的だッ!!」

 

「そいつがお前の流儀なら、そのやり方でお前は戦いや争いをなくせたのか?」

 

「……それは」

 

 同じことをフィーネからも言われていた。戦場(いくさば)で鞭を振るう度に、引鉄(ひきがね)にかけた指を引く度に戦いは収まることは一度としてなかった。

 ネフシュタンの鎧を纏い翼と交戦した夜も、デュランダルで暴走を引き起こした響の強大な力を見せつけられたあの日も、フィーネに切り捨てられたあの日も。収束するどころか、激化するばかり。

 

「大人が叶いもしない夢なんか見ないと言ったな。それは違うぞ、大人だからこそ夢を見るんだ。大人になったら背も伸びて力も強くなるし、財布の中の小遣いだってちったぁ増える。子供の頃はただ見るだけだった夢も大人になったら叶えるチャンスが大きくなって夢を見る意味が大きくなる。それに、お前の親はただ夢を見に戦場に行ったのか?違うな。歌で世界を平和にするって夢を叶えるため、自ら望んでこの世の地獄に踏み込んだんじゃないか?」

 

 何でそんなことが言えるのだと、言ってやりたかったクリスだが、言葉が詰まって中々口に出せずにいた。両親がどんな思いであの地へ渡ったのか。死ぬのが怖くなかったのか。

 

「何で……そんな…」

 

「きっとさ、クリスちゃんに見せたかったんじゃないかな?」

 

 変身を解除してドライバーを懐にしまう映司。クリスと同じ目線に屈む。

 

「夢は叶えられるってことをさ。さっきクリスちゃんが嫌いだって言ってたクリスちゃんのパパとママは多分君の事を大切に想ってたんじゃないかな?」

 

 推測ではあるものの、弦十郎と映司が語り聞かされた両親の本心を悟った瞬間、クリスは泣いた。バルベルデで泣ききり枯れたと思ってもう何年も泣くことはなかったから、何年振りかに泣いた。弦十郎は泣きじゃくるクリスを抱きしめた。我が子をあやす父親のように。

 

 

***

 

 

「カ・ディンギル!フィーネがそう言ってたんだ!」

 

 撤退準備を済ませた弦十郎達に引き留める様にクリスが唐突に言った。聞き馴染みのない単語を耳にして弦十郎と映司は彼女に向き直り話を聞く姿勢を取った。

 

「それが何なのかわからないけど、そいつはもう完成しているみたいなことを……」

 

 思い出したかのように言ったそれは、クリスが二課特に弦十郎達を信頼することが出来た証でもあった。ほんの数回の交流があったにせよ、彼女が心を開いてくれたことは確かだ。

 

「後手に回るのは終いだ。こっちから打って出てやるぞ!」

 

 今こそ、反撃の時だ。

 

 

 

 

続く

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