戦姫絶唱シンフォギアAG・歌とメダルと13のコンボ   作:バルバトスルプスレクス

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前回の三つのあらすじ

一つ、廃墟となったマンションで邂逅する弦十郎とクリスだが、二人の手は交わることはなかった

二つ、翼の復帰ライブの裏では孤軍奮闘のオーズであったが、援軍に駆け付けたクリスの援護も甲斐あってライブの犠牲者を出さずに済んだ

そして三つ、フィーネの屋敷でクリスはようやく弦十郎達に心を開くようになっていた

Count the Combo 現在オーズが変身したコンボは

タトバ

ガタキリバ

ラトラーター

サゴーゾ

シャウタ

???

???


塔と襲撃と超先史文明の巫女

 

 二課指令室前面の巨大モニターに響と翼の顔が表示される。

 フィーネのアジトでもある屋敷から引き揚げた弦十郎達は本部に戻ると、解析班に屋敷での押収物とある物の照合を任せた。二時間弱程してそれが証拠能力がある物であると言う結果が出ると、すぐさま響と翼にテレビ回線を繋ぎ臨時のミーティングを開いた。

 

「収穫があったが……了子君は?」

 

 いつもなら既に出勤しているはずの時間なのだが、今日はその姿を未だ弦十郎は確認していなかった。

 友里が了子の出勤状況を短く伝える。まだ今日は出勤しておらず、それどころか連絡も無い事を。

 

「そうか……」

 

 顎に手を当て神妙な面持ちになる弦十郎とは裏腹に、『大丈夫ですよぉ!』と陽気に響がデュランダル移送の件で守ってくれた旨を語る。曰く、飛んでくるノイズを涼しい顔して結界を張ったというのだ。だから心配いらないだろうと言うが、それに異を唱える翼。

 

『いや。戦闘訓練もロクに受講していない櫻井女史に結界を張るなどと言うのは…』

 

『えーっ?師匠とか映司さんとか了子さんて人間離れしている特技とか持ってるかと思ってたんですけど』

 

「言っておくけど、俺にはそんな特技なんて無いからね?」

 

『やぁっと繋がったぁ』

 

 その時、了子からの通信回線。響と翼とは違いモニターに表示されている『Sound Only』と言うように了子の顔は映らない。寝坊した上に通信機の異常と言うが、今の状況下では些か都合が良すぎている。だが敢えて指摘せず、淡々とした口調で弦十郎は了子の安否を問う。

 

「急で悪いが了子君。カ・ディンギル……この言葉の意味を教えてくれるか?」

 

『カ・ディンギル……?確か古代シュメールの言葉で高みの存在。転じて天を仰ぐほどの高い塔を意味するわね』

 

 その通りならば、二課どころか一般市民に悟られず如何にして完成したというのだろうか。

 高い塔ならば、東京の一大観光名所スカイタワーがある。それ以上に高い塔が完成したとなれば誰も話題にしない筈がない。ならば塔ではなく、別の何かの比喩表現なのだろうか。

 折角得た情報であるというのに、一向に真相に近づけない。

 

「仮に、仮にだ。何者かがそんな塔を建造していたとして、何故俺たちは見過ごしてきたのだ?」

 

 誰しもが思うその疑問。弦十郎だけでなく、映司やこの場にいる二課のスタッフ、通信先の響と翼も同じ疑問を抱き始めていた。響と一緒にいる未来も『カ・ディンギル』を検索するもゲームの攻略サイトしか引っ掛からないとのこと。

 言うなれば誰も知らない秘密の塔。

 聖書におけるバベルの塔もある意味では『カ・ディンギル』とも言えるだろう。正確には分からないが。

 その時指令室内にノイズ発生のアラームが鳴り響く。

 藤堯と友里が反応を絞り込み、出現したノイズのパターンを特定する。トンボの様な形をした超大型サイズの空母型。敵の手掛かりについてのミーティングをしていた矢先のこれだ。タイミングが余りにも良すぎている。しかし、この状況で弦十郎の中である疑念が確信に変わる。彼はいつもの様に冷静に指示を出す。

 

 

***

 

 

 彼方に聳える東京スカイタワーを囲う様に円を描きながら飛行する大型ノイズの姿を確認した了子は、否フィーネは銃撃によるダメージが癒えると掲げていたソロモンの杖を降ろし、屋敷を脱出してから身を隠していた廃ビルの非常階段を下っていた。

 櫻井了子を演じるのはもう終わり。後は完成したカ・ディンギルの起動に必要なデュランダルを手に入れるのみ。

 過日のデュランダル移送作戦。あの日目にしたデュランダルを握り暴走状態の響が見せたあの輝きが、破壊力がフィーネの心を掴んで離さなかった。

 停めていた愛車に乗り込み、アクセルを踏んだ。向かうはリディアン、その地下に今も尚保管されているデュランダルを手に入れる為に。

 

 

***

 

 

 響と翼がスカイタワーで空中の大型ノイズに攻めあぐねている所に援軍として駆け付けたクリスが合流した頃、リディアンはノイズの襲撃を受けていた。

 特異災害対策機動部一課の武装した職員達が焼け石に水ではあるが、銃撃をしながら逃げ惑いながらも避難している生徒たちの盾となり、その退路を確保する。

 だが、一課の職員達は瞬く間に炭化させられ一人また一人と命を落としていく。

 やがてその魔の手が女子生徒達に襲い掛かろうとしたその時だ。

 

クワガタカマキリバッタ

ガーッタガタガタキリッバガタキリバ

Scanning Charge

 

 分裂能力を駆使するガタキリバコンボが流星群が如く、リディアン校舎を蹂躙する大小さまざまなノイズを悉く打ち倒していく。

 逃げ遅れた生徒がいないかを視線を巡らせては、その度に分裂体一体一体が駆け付けシェルターまで送り届ける。

 少し離れた所では未来が率先してクラスメイト達の避難指示を出していた。多くの女子生徒たちが彼女の指示に従いシェルターへと逃げだすが、仲の良い友人の創世達三人は響がいないことに疑問を抱いていた。三人は未来とは違い、響がガングニールを纏う瞬間を目撃していないから疑問を抱くのも当然である。

 

「ヒナ、ちょっとどこ行くのさ!」

 

「逃げ遅れた人がいないか探してくる!三人もはやくシェルターに逃げて!」

 

 友の疑問に答えず未来は学園の奥へと走り出す。そんな彼女とは入れ替わりに、一課の職員が三人を保護しようと駆け寄るが、運が悪い事に上の階からすり抜けてきたノイズが職員を炭化させるべくその身を矢に変えて突撃する。しかし、分裂した内の三人のオーズが飛来するノイズを電撃で撃ち落として事なきをえる。

 

「すまないオーズ、助かった」

 

「無事でよかったです。俺がシェルターまで援護します!」

 

 五十人のオーズ達の奮戦奮闘により、大群だったノイズの数も減りつつある状況。これだけノイズが出ていたならば、ソロモンの杖を手中に収めているフィーネが近くにいるはずである。

 中庭に立つ映司の視界の端で誰もいない廊下を走りながら逃げ遅れがいないかを懸命になって探している未来の姿を捉えた。合流しようと体をそちらに向けた瞬間、強い衝撃がオーズを襲う。

 

 

***

 

 

 校舎中を走り回り、逃げ遅れがいないか探して見て回る未来の前にガラスを割って吹っ飛んできたオーズガタキリバコンボ。

 未来はオーズのスペックを完全に理解しているわけではない。知っててもノイズを倒すことが出来るという位だ。

 

「っ!未来ちゃん逃げて。早く!!」

 

 切羽詰まった様子でこちらを見ずに、両腕のカマキリソード構えて彼は眼前の敵に注意を向けていた。

 その視線の先が気になっていたが、普段の映司からして滅多に出さない声音がこの場に止まってはならないと言っているようだった。来た道を逆方向に辿り、走り出す。

 今いるのは地下に二課の施設がある教員棟の二階と三階を繋ぐ踊り場で、何かが激しくぶつかり合う音、オーズが何かと戦っている衝撃音が耳に届く。気のせいか段々とその音が近づいてる気がしてきた。少なからず恐怖心を抱くが、それでも生きる事を諦めたりはしなかった。生きて響を迎える為にも立ち止まる訳にはいかないのだ。

 しかし、一階まで降り立った瞬間狙いすましたかのように天井に張り付いていた三体のカエルに似たノイズが未来に突撃する。だが、駆け付けた緒川によって間一髪炭化は免れた。

 

「危ない所でしたね。ですが、もう一度同じことは出来かねます」

 

 心配させまいと浮かべる緒川の笑顔。響から聞いた話ではツヴァイウィング時代からの翼のマネージャーであると聞かされていたが、それにしてはやけに場慣れしているように見えた。きっとこういう事態に慣れているのだろう。

 

「走れますか?三十六計逃げるにしかずと言いますッ!」

 

 先程襲ってきた三体のノイズは未だ顕在しており、今も尚未来と新たに現れた緒川を諸共炭化すべく再び襲い掛かる。逃げ続けてどうにかエレベーターに乗り込むことが出来た二人。いつもの様に高速で動く密室の中で、ガラス窓の向こう側に出現した何かを現した壁画が未来の視線を独占する。

 描かれているのは抽象的な楽器の様な絵や、何かに集う群衆の絵。以前響とこのエレベーターに乗った時に、響もあの壁画が何なのか気になっていたようで、職員の何人かに聞いてみてが目ぼしい答えは返ってこなかったという。元々あった遺跡なのか、新たに作られた装飾なのだろうか。緒川と言うと、通信機で今の状況報告をしていた。

 

「それよりも司令、カ・ディンギルの正体が掴め――!」

 

 その時だ。天井を突き破って黄金色の何かが現れて緒川の首を絞めつけてエレベーター内を揺らしたのは。

 黄金色の何かの正体はネフシュタンの鎧を纏うフィーネ。

 

「こうも早く悟られるとはな……きっかけは何だ?」

 

「塔なんてそんな目立つものを誰にも知られることなく建造するには、地下へと伸ばすしかありません。そんなことが行われているとすれば、ここ特異災害対策機動部二課本部の……そのエレベーターシャフトこそが『カ・ディンギル』!!そしてそれを可能とするのは櫻井了子……いいえ、フィーネ!貴女です!!」

 

「漏洩した情報を逆手に取ったか」

 

 エレベーターが目的の階に到着したと同時に、距離を取って脳天と心臓のある左胸にそれぞれ三発ずつ銃弾を撃ち込むが、ネフシュタンの性能により露出している肌は風穴どころか掠り傷すら出来ていなかった。流石はネフシュタンと言ったところか、と緒川は独り言ちる。

 そもそもクリスが纏っていた時点で驚異的な回復力を見せていた事もあり、銃弾をも通さない鋼鉄の皮膚も納得せざるを得なかった。

 すぐさま次の手に出ようとする緒川だったが、フィーネの鞭に捕らえられ締め付けられてしまった。

 徐々に締め上げる力を強めるのは楽に死なせないのと、苦痛に染まった呻き声が聞きたかったフィーネの嗜好なのだろうか。

 このままジッと怯えているだけにはいかない。響たちの様なシンフォギア装者ではないが、だからと言って何もしない出来ない言い訳にはしたくなかった。

 意を決してフィーネの背に体当たりを繰り出すも、大したダメージも無く帰ってきたのは肩越しに送られたフィーネの視線。

 

「麗しいな。お前たちを利用してきた者を守ろうというのか?」

 

 尚も緒川を縛り上げるフィーネは未来の顔に手を添えて、弄ぶかのように親指の先で唇をなぞる。

 金属特有のヒヤリとした感触と、射殺すように煌いている金色の眼がお前などいつでも殺せるぞと言っているように思えて恐怖で息が出来なくなりそうだった。

 

「疑問に思わなかったのか?何故、二課本部がリディアンの地下にあるのかを。聖遺物に関する歌や音楽のデータをお前たち被験者から例外なく集めていたのだ。その為のリディアンだ。その点、風鳴翼は偶像として生徒を集めるのによく役立ったくれたものよ」

 

 言われて初めて気が付いた。他の私立高と比べても学費は安く、お世辞にも頭脳が良いとは言えない響が入学できた事に。これでは自分たちはまるでモルモットのようではないか。それが事実なのかとフィーネ越しの緒川を見ると、彼は痛みに耐えながら未来から視線を逸らす。後ろめたい時に人間が良く使う行動。紛れもない事実であり、罪悪感を抱いている事を現していた。

 今までの自分自身だったら、直ぐにでも緒川達二課の職員達に敵意を向けていただろう。ほんの少しではあった以前響に向けていた時よりも激しく強く。

 しかし今は違う。響と正面からぶつかって、精神的に成長出来た今は違う。

 

「それでも、嘘を付いて本当のことが言えなくても!誰かの命を守るために自分の命を危険に晒している人達がいますッ!」

 

 風鳴翼。アーティストとしての立場とシンフォギアを纏った防人としての立場から、時にマイクを、時に剣を携え人々を勇気付けている。

 雪音クリス。響との関係に悩んでいたあの時、行き倒れていた彼女を助けたつもりが未来自身もクリスに助けられた。

 火山映司。彼は二年前の生存者達の手を取り、一人でも歩けるようになるまで諦めず手を伸ばし続けていた。彼のおかげで今も響は元気に過ごせている。

 そして立花響。一番の親友で、未来にとってのおひさま。趣味の人助けの延長で、ノイズからたくさんの人を守る為に戦っている。

 

「私は、そんな人を……そんな人達を私は信じ続ける!!」

 

「まるで興が冷める…!」

 

 自分の思い通りの反応が返ってこなかったことに憤りを見せるフィーネは未来に平手打ちをかまし、縛り上げていた緒川を壁に投げうち、アビスへと向かう。懐から通信機を取り出し、ゲートのロックを解除しようとしたところで、緒川に通信機を狙撃されてしまう。

 

「そこから先は絶対に行かせません」

 

 携行していた拳銃の弾が無くなっても、己が命に代えても緒川は立ち向かう。例え弾が残っていたとしても、銃弾を受け付けない相手には最早無用の長物に過ぎない。

 そんな彼の姿を鬱陶しいハエ程度にしか思えないフィーネは仕方なしに鞭を構える。

 

「待ちな、了子」

 

 突如として緒川とフィーネの中間地点の天井が音を立てて破壊されて崩れ去ると、瓦礫が巻きあげた粉塵の中から弦十郎がさながらアクション映画の主人公の様にその姿を現した。

 

 

***

 

 

 ノイズ達の襲撃と、フィーネとの激戦によって生じた瓦礫に埋もれ、身動きが出来ない程のとても狭い空間で火山映司は眠っていた。

 彼は二課調査部が集めてきた情報と弦十郎の口からフィーネの正体が櫻井了子である事を知り、彼女の真意を聞き出すべく奮闘するも、ネフシュタンの鎧を纏ったフィーネの桁外れな威力を持った猛攻の前に切り札である()()のコンボに変身する暇もないまま敗北してしまったのだ。

 ドライバーのサイドバックルのメダルケースから、妖しく紫色の光がほんの少し漏れ出している事も知らずに映司は眠り続ける。

 

 

***

 

 

「私を未だ、その名で呼ぶか」

 

 かつての同僚を前に、不敵な笑みを浮かべるフィーネ。

 

「女に手をあげるのは気が引けるが、この二人に手を出せばお前をぶっ倒す。それにな、調査部だって無能じゃない。米国の動きと様々な証拠をかき集めてお前に行きついていたのさ。後はお前を燻りだすためワザとお前の策に乗り、三人の装者達を動かして見せた」

 

「成程陽動に陽動をぶつけ、オーズを防衛に回したという訳か。だが、貴様にこの私を止められるとでもいうのか!同じ完全聖遺物たるオーズさえも退けたこの私を!」

 

「そうか、映司は……だがひと汗かいた後で、じっくりと話を聞かせてもらおう!!」

 

 弦十郎が踏み出したのと同時にネフシュタンの鞭がまるで意思を宿しているかの如く襲い掛かる。しかしその鞭を避けて、天井を蹴ってフィーネに接近して突き出された弦十郎の拳。ほんの少し掠っただけで鎧の表面に亀裂が生まれた。

 完全聖遺物たるネフシュタンの鎧。そのスペックを物ともせず生身で挑み尚且つ負傷すら与えられていないフィーネが再度鞭攻撃を繰り出すも、二本とも弦十郎にがっしりと掴まれ引き寄せられて強烈なアッパー攻撃を腹部に受けて倒れるフィーネ。彼女の明晰な頭脳を以てしてもとても理解できなかった。

 

「か、完全聖遺物を退けるだと……」

 

「しらいでか。飯食って映画観て寝る!男の鍛錬はそれで十分よッ!」

 

 そう言えばそうだったと、フィーネは思い出す。観る映画の多くが国内外問わずアクションモノで、劇中のバトルスタイルや修練方法を独自のやり方で取り入れて強くなるのが風鳴弦十郎の考案する鍛錬法であった。

 ならばと呼び出したのはソロモンの杖。どれだけ強くなろうとも、人間を炭化させるノイズの前では足止めは出来ても倒すことは出来ない。加えて、ここには壁や天井と言った制限がある。

 

「させるかッ!!」

 

 震脚により剥がれた床の一部だった破片を蹴り、フィーネの手からソロモンの杖を弾き飛ばす。

 

「ノイズさえ出てこないのならァッ!!」

 

 こっちのものだ。そう思ってとどめに入ったその瞬間だった。

 

「弦十郎くん!」

 

 悪魔の様なフィーネの表情が途端によく知る仲間の顔になると弦十郎の情の厚さが災いして、ネフシュタンの鞭がその腹部を刺し貫かれた。

 口から大量に血を吐き倒れた男から通信機を取り出して、フィーネは一人デュランダルの眠るアビスへと歩き出した。

 

「つくづく甘い男だ。どれ程必死に抗うも、絶対に覆せないのが運命(さだめ)なのだ。殺しはしない、お前達に死の救済など与えるものか」

 

 

***

 

 

 負傷した弦十郎を何とか指令室にまで運び込んだ緒川と未来。二人の登場にその場にいた職員達の支援は腹部に風穴をあけられた自分たちの長の姿を捉えていた。その戦闘能力は刑法や憲法に抵触しかねないと評判なのだが、それ程の強さを持つ弦十郎を誰が打倒したのだろうか。

 

「敵の狙いはデュランダル……そして敵の正体は、櫻井了子です!」

 

「嘘だろッ……!」

 

 その報告に驚かないものはいない。まさか最大の味方が最大の敵であったなど、一体誰が思うだろうか。しかもこの本部の基礎設計から携わっているので、いつ全システムを掌握されてもおかしくはない。

 一刻も早く対処すべく、響達装者と映司に連絡を取る。

 先に繋がったのは響の通信機。

 

「響っ!学校が……リディアンがノイズに襲われてるの!!」

 

 しかし詳細を伝える前に、本部のシステムはクラッキングを受けて照明も巻き込んでダウン。櫻井了子(フィーネ)が基礎設計したのだから、崩すのもお手の物だろう。携帯している通信機も沈黙しており、使い物にならなくなっていた。まるで雁字搦めにされたかの様な状況で彼らが出来る事は何もありはしないのだ。

 

 

***

 

 

 スカイタワー周辺に湧き出たノイズ達の掃討が終了た響と翼そしてクリス達の三人が、未来の悲痛な叫びの通信を受けてリディアンに戻ってきたのは既に夜の帳が落ちたころ。

 天には不気味に紅く光る満月が浮かび、その月明かりに照らされたリディアンの校舎は見るも無残に廃墟と化していた。

 

「そんな……未来、みんな…」

 

 自分の日常たる学び舎が見るも無残に崩れ去っており、そこに人の息吹は感じられなかった。一番信じたくはない考えが頭の中に過る。間に合わなかったのだろうか。瓦礫の影にはいくつもの炭の山が出来上がっており、

 しかしリディアンには万が一ノイズの襲撃が起きた際に使用するシェルターがあったはず。その翼の一言で気を取り直した響の視界の端で、倒壊した校舎の屋上に人が立っているのが見えた。まさか未来か。そう思いながら視線を向けるが、そこにいた人影は明らかに未来よりも長身で白衣着用していた。

 その人物は、櫻井了子。三人を心配している様子も、リディアンの惨状を嘆いているようにも見えなかった。代わりに見せたのは高らかに笑う姿。

 

「何故だ、何故嗤う櫻井女史!よもやこの惨状、貴女がやったというのか!その嗤いが答えなのかッ!櫻井女史ッ!」

 

「アイツだ。アイツこそあたしが()()を着けなきゃいけねぇクソったれのフィーネだ!!」

 

「嘘……」

 

 信じたくはなかった。夢であってほしいと響は願った。

 だがしかし、現実は非情である。目の前の女は光の柱に包まると金色の鎧、ネフシュタンの鎧を纏いだした。つい先日までクリスが纏っていた完全聖遺物。これが現実であると言わんばかりの状況に、響は強いショックを受けていた。

 

「もしや広木防衛大臣の暗殺も、デュランダル強奪の件も!」

 

「ああ、そうだ。それぞれアイツが米国の特殊部隊とあたしに命令したことだ!」

 

 そして響達は知らないが二課本部がカ・ディンギルのカモフラージュだったことも、クリスのイチイバルの出所等も含めて、全てはフィーネの掌の上で踊らされていた事。

 

「櫻井了子の肉体は先だって食い尽くされた。いいや、意識は十二年前に死んだと言っていい。超先史文明期の巫女、フィーネは遺伝子に己が意識を刻印し自身の血を引く者がアウフヴァッヘン波形に接触した際、その身にフィーネのしての記憶、知識、能力が再起動する仕組みを施していたのだ」

 

「十二年前……まさか!」

 

「そうだ風鳴翼。十二年前に貴様が偶然引き起こした天羽々斬の覚醒のその時、同時に実験に立ち会った櫻井了子の裡に眠る意識を目覚めさせた。それこそがこの私フィーネ!!」

 

 如何なる死を迎えようと、アウフヴァッヘン波形がある限り蘇る彼女はまさに亡霊と形容するにふさわしい。櫻井了子の意識が上書きされる以前も幾度となく同じように歴史に記される偉人や英雄として復活を遂げてきたフィーネ達は、パラダイムシフトと呼ばれる技術の大きな転換期にいつも立ち会ってきた。

 

「まさか、シンフォギアシステムも?!」

 

「そのような玩具(がんぐ)、為政者からコストを捻出するための福受品に過ぎぬ。全ては、カ・ディンギルの為に!!」

 

 大地が揺れる。かつては学び舎だったこの大地が隆起して、エレベーターシャフトとして偽装されたカ・ディンギルがその姿を現した。

 幾何学模様に楽器の様な壁画。観飽きるほどに何度も観ていた装飾の正体。それこそが、カ・ディンギル。一目で全体を捉えられない程に巨大なそれは月に向かってそそり立ち、怪しげに煌いてその存在感を主張する。

 

「これこそが地より屹立し天にも届く一撃を放つ荷電粒子砲なり!」

 

「そいつでどうバラバラになった世界を一つにするつもりだ!」

 

 クリスの問いに、フィーネは寂しげな表情を浮かべて幾千幾万の昔から抱いていた恋心を白状した。

 かつての超先史文明の時代、巫女だったフィーネはある人物に並び立つことを夢見て、シンアルの野に塔を立てようとした。が、そんな彼女の夢をある人物はヒトの身が同じ高みへと至るのを許さず、雷を以て塔を砕き、人々が交わす言葉さえも砕いてしまう。

 

「そして我々ヒトは、あの方から果てしなき罰、バラルの呪詛をかけられてしまったのだ。そもそも貴様らは何故古来より月が不和の象徴と伝えられてきたか理解しているか?それは月こそがバラルの呪詛の源だからだッ!人類の相互理解を妨げるこの呪いを今宵の月を破壊することで解いてくれるッ!」

 

 そして世界を再び一つに、相互理解の世界に戻す。

 しかしそれで世界は平和になれるのか。月が無くなれば、この()()は幾つもの天変地異に見舞われ、多くの死者が出る事だろう。

 

「呪いを……解く?それってよ、お前が世界を支配するって事かよ。安い、安さが爆発している!!」

 

 クリスが吠えた。果てしなく遠い時代から思い描いてきたフィーネの野望を安いと吐き捨てた。

 このまま過去の亡霊のいい様にしておけない。三人は胸の裡に沸き上がる聖詠を紡ぎ、拳を、剣を、銃をそれぞれ構えだす。

 

――Balwisyall nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)

 

――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

 

――Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)

 

 琥珀色、空色、そして真紅の光が瞬いて三人の戦姫達が、戦場(いくさば)にその姿を現した。

 今ここに、人類の存亡をかけた決戦の火蓋が切られた。

 だが、この場にいる誰もは知る由もない。

 禁断の紫のメダルが覚醒しつつあることに。

 

 

 

 

 

続く

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