「…なんなのよこれ……」
私は黒江。親友を探して死者の国に足を踏み入れた女だ。
これまで色々というほどでもないかもしれないが、危ない目にあってきた。しかし…
「何って、地獄ですよ黒江さん」
これほど命の危機を感じたことはなかった。
今私は、罪を犯した者が行き着く場所、「地獄」の入り口の、通路にいる。
通路は切り立った崖になっており、下にはマグマの海が広がっている。落ちれば無事では済まない。瞬く間にこの世界の住人の仲間入りだ。
足場として板が設置されているが、幅数は20㎝、しかも簡単な柱で固定されている。安全も何もあったもんじゃない。申し訳程度にロープが張られているが、それも安全とは言えない。
死者の国の住人は危機感というものがないようだ。生身のこっちからすれば恐怖でしかない。
目的地の「地獄の一丁目」はかなり遠いらしく、この長く過酷な道のりを歩いていかなければならない。
「ねえこれ途中で落ちたりしないよね?」
「さあ……」
白澤はどうやら来慣れているようで、全くおびえているそぶりを見せない。
一瞬シェーミュリアとかいうタコに運んでもらおうかと考えたが、万が一落ちでもしたら彼女が茹で蛸になるかもしれないと考え、やめることにした。
結局は自分の足で進むしかないのだ。
額の汗をぬぐって一歩踏み出す。
「美亜…待ってて…すぐに迎えに行くから」
◆◆◆
私は美亜。
十字架広場前を後にした私たちは、再び地獄行きの記者に乗り込んだ。
今はこの国の時間で夜らしく、私とホイメンちゃん以外の面々はぐっすりと眠っていた。
片や私は黒江のことが心配で全く眠れず、ホイメンちゃんは「あたし夜行性なんだ」と言って、乗客もいなくなった車内をうろうろしたり、焔さんの顔に落書きをしていた。
今、私はホイメンちゃんからもらった、よく分からないペンダントを見つめている。
「ホイメンちゃん、これ何?」
「さあな、あたしにもわからん。でも店主が「このペンダントはどうしようもないと思ったときにその力を発揮する」って言ってたぜ」
「どうしようもない時…」
今まで「人生何とかなるさ」と思っていたけれど、そんな私でもそんな時が来るのだろうか…。
(ま、来たら来たでその時考えよう)
私は一つ頷くと、青く輝くペンダントをズボンのポケットに仕舞った。
「次は~華棺駅~華棺駅~、お出口は右側です」
メルテナさんの言うことが正しければ、次が地獄だ。
頬をバチンと叩いて気合を入れる。
「黒江…あなたはまだこっちに来ちゃいけないよ…」
◆◆◆
地獄の中央部に位置する、閻魔堂。
その頂上にある部屋で、地獄の管理者・乙女椿はモニターを見つめていた
そこに映るのは通路を通り過ぎる黒江と白澤。
「どうやら、また生きた人間が迷い込んだようですわね…」
苦い表情をしながら、ガリガリと紅色のマニキュアが塗りたくられた爪を噛む。
ふいに何かの気配を感じ、乙女椿は振り向く。
振り向いた先、この部屋に唯一取り付けられた窓のへりに赤い髪の、不審者のごとき中年の男が立っている。
RDだ。
「…RD…一体こんな夜更けに何の用ですの?」
RDと一定の距離を保ちつつ、乙女椿は尋ねる。この男とは馴れ合いたくなかった。
「そうカリカリしないでよ椿ちゃん、ちょっと頼みがあってさ」
「頼み?」
「今からここに来る、僕の助手二人を匿ってくれないかい?」
partⅹに続く
話が進まね!