「ひ…………!!」
私は思わず息を飲んだ。
目の前にいた彼はもらった写真とあまりに違いすぎる、
【化け物】だった。
黒く焼け爛れた肌、目はなぜか大きく腫れており、片方は縦向き。
口は縦に裂けており、それを無理矢理縫い合わせたのか、口元に赤黒く染まった糸がぶら下がっている。
その口から覗く歯は不気味なほど白く、鋭かった。
まるで溶けたプラスチックの人形のようだ。
それだけならまだいいが、何より恐ろしかったのは、その男が私に明確な殺意を向けていることだった。
男の片手にはどこから取り出したのか、血にまみれた鉈が握られていた。
「まさかこんなに簡単に引っ掛かるとはな……世間知らずなのかバカなのか……」
男の呟きを最後まで聞かず、私は全力で走り出した。
そして現在。時間はちょうど7時。
「どうして?どうして誰もいないの⁉」
私は必死で逃げ続けた。
物陰にかくれてもその度に見つかり、また逃げるという意味のない行為がつづいた。
私がたどり着いたのは小さな公園だった。
真ん中にうんていと変なオブジェが置いてあるショボい公園。
そのうんていの上に子供が座っていた。
「き、君、そんなとこにいたら危ないよ」
その子供に話しかける私。
「クスクス,クスクス」
子供は逃げようともせず私を見つめて笑う。
「な……なに……?」
「クスクス,クスクス……ウシロ」
子供は笑いながら後ろを指差した。
とっさに私は振り向く。
「あ……」
あの男だ。
あの男がすぐ後ろまで来ていた。
もう逃げることはできない。
「自分から会いに来たんだろ、いい加減におとなしく死ねよな」
男は私に向かって鉈を振り上げる。
今までの思い出が走馬灯のようにめぐる。
顔も覚えていないお父さんのこと、とっても優しいお母さんのこと。
やたらと厳しい先生のこと。
そして最後に私は黒江の顔と最後の会話を思い出した。
『あんたネットで知り合ったやつと会うなんて何考えてるの?!!』
ネットで知り合った男なんかと会わなければ。
あのとき黒江の忠告をちゃんと聞いていれば。
友達の少ない私は浮かれて親友の話に耳を貸さなかった。
自業自得だ。
黒江、ごめんね____________
ドスッと鈍い音がし、私の意識は底へと沈んでいった。
2020年 7月
この日私は死んだ。
***
「う……」
目が覚めるとそこは、霧に覆われた不思議な空間だった。
「こ、ここは?」
私は死んだ。ならここは差し詰【あの世】だろう。
でも私の知る【あの世】と違う気がする。
なら私はどこに来てしまったのだろうか。
「不思議な場所だな」
聞き覚えのある声がする。
声のした方向を見ると
「あ?お前もいたのか」
あの男だった。
「あなたもいたんだ」
「お前……俺が怖くないのか⁉」
男はビックリしたように腫れた目と縦向きの目を見開く。
「うん。怖くないよ」
そう。怖くないのだ。
彼が私に殺意を向けていないから。
「そ、そうか、怖くないのか……そんなこと言われたのは10年ぶりだな」
照れたような顔で鼻の下を擦る。
人間らしいしぐさをする彼に愛着さえわいた。
「あなたの名前を聞いていい?」
「名前だぁ?」
男はごそごそとポケットを探ると、一枚の紙きれを取り出した。
【जोआन】
紙きれにはそう書いてあった。
「これが俺の名前らしい。読めるか?」
「いや読めんわ」
「だよなぁ」
私はしばらく考えて、
「じゃあさ、殺人鬼さんって呼んでいい?」
「サツジンキ?なんだそりゃ、変な名前だな……」
皮肉みたいな名前だが、彼は少し嬉しそうだった。
「じゃあ行こっか、殺人鬼さん」
私は霧に向かって歩きだした。
次回へ続く