「ふぁ~…殺人鬼さん、起きて~…」
死者の国にも朝は来る。私はまだ爆睡してる殺人鬼さんをたたき起こした。
「ああ…?起こすんじゃねーよまだ寝かせろよこのマヌケ女」
殺人鬼さんは悪態をつきながらその巨体をゆっくりと起こす。
ホテルを出ると焔さんが待ち構えていた。
「さあさあ二人とも、待っていましたよ出かけましょうか」
彼は心なしかうきうきしているようにも見えた。
「こいつめちゃくちゃうきうきしてないか?」
殺人鬼さんも同じことを考えていたようだ。私は返事をする代わりにヘッドバンキングをした。
「ここが僕の教会ですよ」
私たちは教会の中へと通された。
教壇にはエメラルド色の髪と陶器のように白い肌を持つ、美しい女性が佇んでいる。
「彼女は僕の妻です。名前はマリア。美しいでしょう?」
「妻ぁ~?本当かよ、こいつ全然動かねぇじゃねえか…本当は置物かなんかなんだろ?」
殺人鬼さんはどうやら信じられないようだ。マリアさんと呼ばれた人の頬をつんつんとつついた。
「……やめてください……」
耐えられなかったのかマリアさんが声を漏らす。
その声に驚いた殺人鬼さんは後ろにひっくり返ってしまい、静かな朝の教会に「がしゃーーーーーん」という大きな音が響き渡った。
「何をしているんですかあなたは!」
傍観していた焔さんもさすがに驚き、殺人鬼さんを怒鳴りつける。
「僕の妻に触るんじゃありません!」
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………そっちかい。
「改めて自己紹介をしましょう。私はここの教会の神父を務める【焔(えん)】、彼女は僕の妻の【マリア】です」
「…こんにちは」
焔さんの話によるとマリアさんは焔さんが死者の国に来てから知り合ったらしい。
死人でも結婚はできるんだとか。
自己紹介の後、マリアさんがお茶とお菓子を持ってきてくれたので、お言葉に甘えていただくことにした。
私たちがまったりしていると、教会内でまたもどでかい音が響き渡った。
「おい!!!!!!クソ神父!マリア!遊びに来たぞ、菓子よこせ!!!!!!!」
「またあなたですか…」
焔さんが呆れたように声を漏らす。
声のした方を見ると、小柄な女の子が立っていた。
その子は白と黒のメッシュの髪をポニーテールにしている。
「何度も言いますが、そんなに堂々と入ってこないでください。ここは神様の前ですよ」
「その神の前で菓子食ってる俺らもヤベーけどな」
殺人鬼さんはドーナツをほおばりながらぼそりとつぶやいた。
女の子は「ホイメン」というらしい。
この街には似つかわしくない、お転婆で活発な不良娘だという。
似つかわしくないはさすがに言い過ぎだと思うが。
「あ?あんたら見ねー顔だな?新入りか?」
ホイメンちゃんは私と殺人鬼さんを交互に見比べる。
私はその質問に「うん、そうだよ」と返事をし、「ホイメンちゃんもいっしょにお菓子食べない?」と続けた。
焔さんはびっくりしていたが、マリアさんが「別にいいじゃない」というセリフをきいた瞬間、「どれがいいですか」とホイメンちゃんの目の前にお菓子の入ったバスケットを差し出した。
その顔はむくれていた。愛する妻の命令でもさすがに不服のようだ。
「そういやここに来る途中でさ、もう一人新入りを見かけたんだよな!」
ホイメンちゃんがリスのようにクッキーを口いっぱいにほおばりながら言った。
「また新しい死者が…?一体どのような子なのですか?ふつう新しい受任が来るのなら私のところにも連絡が来るはずですが」
焔さんは不思議そうな顔をしている。
「なんかよー、なっがい綺麗な黒い髪でさ、うさ耳生やしてんの。そいでさ、
「ミアー!」「ミアー!」って誰かの名前を呼びながら知らないやつらと一緒にうろうろしてた」
「え、そ、それって…」
私の言葉をさえぎってホイメンちゃんは続ける
「赤い髪の男がさ、そいつに「ここにはいないようだ」って言ってさ、二人とも街を出てっちまったんだ」
…私は思った。
黒江が…この世界に来ている…?
次回へ続く