ー花結いの残光ー   作:時 司

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花結いの残光
1話 あなたを守る


あれは暑い日だった。

と言ってもつい十数分前の出来事ではあるが…。私は二川 結(ふたがわ ゆい)。その…中学2年で…困っている。

 

別に一人ではない。ひとりぼっちじゃないがふたりぼっちだ。もう一人は六和田 涼(ろくわだ すず)。彼女は私の大切な友達で共にここに迷い込んだ。つい十数分前までは玉藻市のある神社で道草を食っていたはずなのに今は見たことがない植物の根っこみたいなものが辺りを囲んで生い茂っている。空は夕暮れでオレンジ色できれい。何度見回しても景色は同じで変わらない。本当に私達はどこに迷い込んだのだろうか。

「にっちゃん、問題出していい?ここはどこ?」

相変わらずのクイズ好きであるのは途方に暮れても変わらないらしい。

「わかってたら苦労しないよ…。」

「だね、私もそう思うよ。」

そこからまた1時間ほど歩いてみた。幸い学校に持って行っている鞄などの身に着けていた物は一緒に迷い込んでおり、スマートフォンも手元にある。しかし電話をかけてみても圏外だし、地図を開いてもここがどこかはわからないのだが…。景色も一向に変化がない。その時だった。突然涼がしゃがみこんで頭を押さえた。

「どうしたの!?すず!」

「うっ…何…。来る…。」

「何!?ねぇ、すず!すず!」

「にっちゃん…来る…!」

とてつもない轟音とともに周辺の根が崩れ落ち、丸くて白い物体が落下してきた。

「何…これ…。」

物体は丸く、落下してからすぐに浮かび上がり、唯一表面にへばりついた口のようなものをこちらに向けた。2人とも腰を抜かしてしまった。乗用車よりも大きい化け物はこちらを見ているようだった。

(喰われる…。)

「うぉぉぉぉぉ!!」

一瞬の出来事だった。見たことのない恰好をした少女が空から降ってきて化け物に拳を叩き込んで撃破した。化け物のほうはその跡形もなく消滅していく。

「え、人?なんで樹海に人が!?」

彼女は私たちがいることに驚いている様子だった。

「あの…助けてくれてありがとうございます。」

「大丈夫!?けがはない?」

快活な様子の彼女はなんの迷いもなく私たちの心配をしてくれていた。彼女の恰好は全体的にピンク色でどこか映画やアニメのヒーローのようだった。

「今のが最後だったでしょって…ええ!?」

「なに驚いてんのよって…え?」

「お姉ちゃんたち、どうしたの?」

「どうしましたか?…」

「おー、これは面白いね~。」

増えた。黄色に赤、緑、青、紫…。それぞれヒーローのような恰好をしている。

「あの…ここはどこなんですか?」

私は彼女らに聞いてみた。

「樹海…。」

答えたのは彼女らではなく隣に居た涼だった。彼女はいつも見せるような顔ではなく、どこか心は遠くにあるような顔をしていた。涼が言った言葉に色とりどりな彼女達は心当たりがあるらしく、表情が少し変わった。

「あなた達も勇者なの?」

勇者、そんなものは知らない。

「あの…それってゲームか何かの?」

「じゃあなんでこの世界にいて樹海のことを知っているのよ。」

今度は赤色の少女だ。私は気がついたときにはこの樹海という場所にいて、涼の様子が急に変化したことを伝えた。

 

「六和田ちゃんはもしかしたら巫女…なのかもね。」

 

しばらく考え込んでいた紫色の少女が呟いた。

「巫女…?」

「そう、神樹様の声が聞こえる人だよ。」

「神樹様ってあの神樹様!?」

「良かった~、神樹様を知っているなら一応神世紀の人みたいだね。」

「そう…だけれども私は何なのよ。周りに人もいないし。」

「にっちゃんも勇者なんだよ。」

また涼が答えた。彼女ははこの状況を飲み込んでいる様子だ。

「え?あなたも勇者なの?!」

ピンクの少女が目を輝かせてこちらを見た。知らない。とにかく何かに巻き込まれている。それだけのはずなのだ。

「どうすればここ…えっと、そう樹海から出れるの?」

「私達もわからないんです。」

「私も巫女の素質があるようなのですが、そちらの方とは違い神託は来てないです。」

緑色と青色の少女はそれぞれ話す。

「核がある。その核を巫女が儀式で封じればこの樹海から出ることができます。」

「涼、本当なの?」

彼女はコクリとうなずいた。

「どうやらそれに頼ってみるしかなさそうね。あなた達は私達が守るから、ね。」

黄色の少女がそう言った。こっち、と言って涼が歩み始める。しばらくすると逆四角錐の物体が宙に浮かんでいる場所に着いた。

「私がやってみます。」

そう言って涼は手をかざす。すると光が物体を包んだ。それと同時に先程の化け物が大量に現れる。

「あなたは隠れていて、私達でなんとかする。行くわよ!」

黄色の少女の掛け声で6人の勇者が跳び上がった。黄色の少女は大剣、赤色は二本の刀、緑色はワイヤー、紫色は槍、青色は銃、そしてピンク色は拳でそれぞれ化け物を倒していった。

「すごい…。」

私はそれを見ることしかできないでいた。しかしその6人でさえも押されるような数で化け物は押し寄せている。そしてその一群が抜けて涼を襲おうと突進してきた。

(助けなきゃ!)

そう思ったときには身体が勝手に動いていた。

「にっちゃん!?」

私は涼の前に立ち手を広げて立ちはだかる。たとえ私が喰われるとしても親友は守ってみせる思いで…。化け物が私のすんでのとこに来た時にバリアのようなものが発生した。

「何これ…。」

「にっちゃん、スマホ!スマホ開いてみて!」

ポケットからスマホをスマホを見ると花の蕾のようなマークが表示されていた。これだ、と思い強く押す。私の身体は光に包まれ、次に視界が開けた時には他の勇者のような格好になっていた。さらに自分の内側から力が溢れ出るのを感じる。

「うおりゃっ!」

私は無我夢中のまま大きく踏み込んで何かを呼び出し、化け物に振った。化け物は真っ二つに割れ消滅する。

薙鎌(なぎかま)…。」

槍の先端部分を小さな鎌に変えたような形状をしている武器。

それが私の武器だ。

(行ける!)

私は薙鎌を握りしめ突く、薙ぐ、刈ると次々と化け物をざく切りにしていった。

「頼もしいのが一人増えたわね。」

「後でちゃんと説明してくださいよ!」

私は戦いの中で勇者達と少し打ち解けていっていた。しばらく敵を防ぎ続けていた時だ。涼が手をかざしていた逆四角錐が砕けて光が飛び散った。その光は辺りに広がり、化け物までも巻き込んで花びらとなって消える。

「どこ…ここ。」

気が付いた時にはどこかの建物の屋上にいた。どこかはわからないが現実の世界…のようだ。

「やっと帰ってこれた!」

先ほどまで聞いていた声が後ろから聞こえた。振り返ると6人の少女が立っている。私を含め、全員ヒーローのような恰好ではなく普通の制服姿に戻っていた。

「あの…ここはどこなんですか?」

私は彼女らに聞いてみる。

「ああ、ここ?ここは讃州中の屋上だけれども。そういえばあなた達2人は見たことないわね。若葉達とも違うし…。」

「讃州!?私たち玉藻の神社にいたはずなんですが!」

 

少しここからは長くなる。いくつかわかったことがある。彼女たちは讃州中勇者部の部員6名、彼女達も所謂‘‘黄昏の樹海‘‘へと迷い込み、敵と戦闘になっていたという。さらに言えば彼女らはもともと神樹様の中の世界にいて、本来ならば元の世界に戻るはずだったのに急にあの空間へと放り出されたらしい。加えて彼女たちが元々いたのは神世紀300年、私たちは神世紀280年、あの来島海峡大橋崩落事故から10年と言われた時代から来たのだ。どうやら彼女たちの時代ではそう話題になってはいないようだが未来に来ているということになる。

そして彼女たちの名前も分かった。一番初めに私たちを助けてくれたピンク色の勇者が結城友奈、勇者部の部長で唯一の3年の黄色の勇者が犬吠埼風、緑色の子は逆に唯一の1年で風の妹の犬吠埼樹、赤の勇者が煮干し大好きの三好夏凜。彼女はどこからともなく煮干しを取り出して私たちにも勧めてきた。そしてちょっと言葉遣いが硬いような気がする青色の勇者が東郷三森、逆につかみどころがいまいちわからない紫色の勇者が乃木園子だという。

「それでは問題です!どうして黄昏の樹海は発生したでしょう。」

涼の調子はどうやら元に戻ったらしい。少し打ち解けるとすぐにいつものクイズ癖が出た。

「うーん…神樹様にまた何かが起きたのかなぁ?」

すぐに答えたのは乃木だった。彼女、つかみどころがなくふわふわしているようだが推察力はずば抜けているようだ。

「正解!神樹様の中で分裂が起きて侵攻し始めたみたいだよ。」

「それって、造反神じゃなくて…。ってことですか?」

樹ちゃんが涼に聞き返す。

「それも正解!神託だと一部の神様が神樹様から離反して反乱を起こしてるみたい、それが原因で空間が不安定になって黄昏の樹海が発生していた。さらに言えば黄昏の樹海は離反した神様…そうだなぁ、離反神とでも言おうか。その神様達の空間で私が封じたのはその神様が持つ力の塊、いわば核だよ。」

「ということはまだ私たちの戦いは続くということですか。」

「そうなるね。」

黒髪の2人が話しているとどこか大人びたものを感じる。

「あれっ…私たち若葉や棗達のこと憶えているわ…。」

「ほんとだ、高嶋ちゃん達のことも芽吹ちゃん達のことも憶えてる!」

「誰…なんですか?」

「ああ、二川さん。私たちはさきほど言ったように少し前まで別の世界で戦っていたんです。本当は忘れてるはずなのですがまだ鮮明に憶えています。」

「それは神樹様が元の世界に送り出す途中で呼び返したからだと思いますよ。」

「なるほど、それなら道理が通るわ。ということはその離反神とやらを殲滅すればいいのね!」

どうやら私たちは神様を相手取って戦を仕掛けることになるようだ。

「そういえば…私たちはどうなるのですか?犬吠埼さん。」

「そのことだけれども、勇者部にこない?そっちのほうが何かと連絡も取りやすいでしょ?あと住むとことかは多分大赦が寄宿舎をよういしてくれるわ。」

私たち2人はその提案に乗った。

 

今、花結いの影と光が交わる物語が始まる。

 

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