ー花結いの残光ー   作:時 司

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2話 壮大

私が勇者になって数日、あれからいくつかのことがわかった。まず一つはここが神世紀300年をもとにした神樹様の中の世界であるという事。そして次の一つが今神樹様は他の勇者を呼び戻しているということ。さらに黄昏の樹海は離反神の核が存在して不安定であるために巫女も転移すること。そして最後に離反神の攻撃によりこの空間での反抗が不可能になる手前だということだ。反抗が不可能になるとどうなるか、私はそれを涼に聞いてみたが彼女は閉口したままだった。

「私たちのもとの世界が無くなるんだよ。」

そう乃木さんが教えてくれた。数日の間に彼女ら勇者部…いや、私たちも勇者部部員か。ともかく仲良くなった彼女たちとゴミ拾いをしたり、うどんを食べに行ったりと平和な日々を送っていた。今日は土曜日、いくつかのグループに分かれて活動中。私は三好さんとともにある家の草むしりのお手伝いに行った帰り道だった。

「もうここには慣れた?」

自転車を並んで押していると彼女が話しかけてきた。

「うん、でも世界が大変なんでしょ?こういうことしてて大丈夫なのかな…」

「私もはじめ勇者部に来た時は何やってるんだって思ったのよ。」

「三好さんもそう思ったの?」

意外だった。彼女は積極的に活動に参加しているようだったのだが。

「始めは…そうだった。でもね、守るべき日常があるからこそ戦える、そういうものなのよ。」

「そうなのかな。」

戦ったのはこの間が初めてだからか実感がわかない。

「いつかはわかるわ。あと、結は硬すぎるのよ。同じ2年なんだし“犬吠埼さん”なんて読んでると風と樹の区別がつかないでしょうが。」

「でも…。」

「涼なんて私のことすぐに“にぼっしー”って呼ぶようになったじゃない。涼の場合は本望じゃないけど結もあれぐらいになってもいいと思うわ。」

彼女は少し口をとがらせて言った。

「…夏凜。」

「え?呼んだ?」

「え?いや、いやいや…なんでもないよ!夏凜!」

「…あはは、結も結構かわいいところあるのね。」

小声で聞こえないようにつぶやいたつもりが夏凜は聞き逃さなかったしつい大声で呼んでしまった。

 

部室に戻ると他のグループも戻ってきていた。

「あ、お疲れ様。ん…?なんで結の顔が真っ赤なのよ、もしかして熱でもあるの?」

「なんでもないです。…その、風さん。」

「ねぇ夏凜…。あんた何かしたの?」

「何何!なにがあったのさゆいきち~!」

「あ~、結は少し硬いから涼みたいに他のメンバーのこと呼んでもいいんじゃない?って言ったのよ。」

「にぼっしー詳しく!」

「園子はいいから。でも結も無理しなくていいのよ。」

「もう、大丈夫です。ちょっと照れ臭かっただけです。風さん。」

「なら大丈夫ね、でも東郷は東郷のままで。そういう希望だから。」

「はい、結さんよろしくお願いします。」

「よかった。ちょっと心配してたんだ。なんかどこか馴染めてなさそうで。」

そう言ったのは涼だった。

「なんで?」

「うーん、その問題にはうまく回答できないんだけれどもね。」

「そう、でも大丈夫だから。」

「うん!」

ふと視界の端でメモを取り出してこちらを見ながら何かを書いている園子の姿が映った。

「園子は何してるの…?」

「おー、ゆいきちが名前で呼んでくれた~。」

彼女はメモ帳とペンをさっと直して目を泳がせながら話題をそらそうとしていた。

「園子先輩は気になることがあるとすぐにメモを取るんです。」

樹が小声で教えてくれた。

「なるほど、気になることがあるとすぐにメモか…。え?今の会話気になったの?」

彼女は少し苦笑いをするだけで気になるかどうかは答えてくれない。

その時けたたましい警告音が勇者部部室に鳴り響いた。

「襲来警報…?」

「いきなり来たの!?とにかくみんな、準備して!勇者部出動よ!」

部室は瞬く間に光に包まれ、景色はあの植物の根に囲まれた空間に変化していた。

「空が…夕方ではない…。」

「それに東郷さん!神樹様も見えるよ!」

友奈が指を刺している方向を見てみると高さが数百メートルはあるような巨大な樹がそびえたっていた。

「あれが神樹様…。」

「そう、そしておそらく…来たわね。」

神樹様と真反対の方向から巨大な異形の物体と先日の白い物体が出現する。

「あのでかいはバーテックスのボスと思えばいいわ。白いやつが星屑。この世界ならごっそり削り切れば倒せる。さあ行くわよ!」

全員はスマホを取り出して画面に表示された花のマークを押した。視界が光に包まれて力がみなぎってくる。次に視界が戻った時には少女達の姿は勇者になっていた。

「いっくぞー!」

先頭に飛び出た友奈に続いて飛び出した。私は薙鎌を呼び出して降りかかる星屑を片っ端から倒していった。星屑の数が尋常ではなく、誰一人として大型のバーテックスには接近できない。それどころか大型のバーテックスが放つ誘導爆弾のようなものによって少しずつ前線が下がりつつあった。

「こんのぉぉぉぉぉぉ!」

風が樹の援護を受けながら大型に肉薄しようとした。しかし風の放つ大剣の一撃さえ届くことはなく押し戻される。東郷の狙撃でも必ず星屑が射線に入り弾丸は届かない。さらに押し込まれ、かなり離れていた東郷の狙撃位置が今や前線である。押し寄せる星屑に加えて投げ込まれる爆弾の対処。確実に体力は失われていった。

ここぞとばかりにバーテックスの攻撃の勢いは増し、ついに被弾してしまった。

「大丈夫、結ちゃん!?」

カバーに友奈が入ってくれた。しかしその彼女もよけきれなかった爆風に巻き込まれ、吹き飛ばされる。

(まずい…。)

勇者が2人欠けたため、他が受け持つ敵の量は増えて前線自体の維持が限界に近かった。

「犬吠埼さん!間に合いました!」

聞いたことがない声がした。目をやると勇者部の勇者服とは異なるどこか鎧のような装備を身にまとった少女達が合流していた。

「呼び戻されたのね!んじゃ、さっそくで悪いんだけれども手伝って頂戴!」

「わかりました。」「わかりましてよ!」「…うん。」

3人の少女が前線に加わると数的不利の状況なのは変わらないが維持するどころか押し返している。

「あのー、その…立てる?」

ふと声をかけられた。声の方を見ると大きな盾を持った少女が私に手を差し伸べてくれていた。

「あなた達は…?」

「私たちも仲間だよ。詳しいことは後、だけれどもね。」

私は手を借りて立ち上がり、前線に復帰する。心なしか夏凜のペースが上がっているような…。それと同じぐらいのペースで二つ角の鎧の少女も星屑を撃破していっている。

(すごい連携…。)

夏凜と二つ角の鎧の少女は互いに声をかけることなく互いの動きに合わせて攻撃し続けている。阿吽の呼吸という言葉があるがまさにその言葉がぴったりであると思った。

「「これで!」」

2人はそれぞれの武器を突き出し、巨大なバーテックスにぶつけた。星屑の雨を抜け突き刺さった2本の剣はその巨体を砕く。

バーテックスは1体と残さず消え、花びらが舞い、気が付くと校舎の屋上に立っていた。勇者部の5人と讃州中の制服ではない少女が4人。

「ありがとうね、芽吹。」

「いえ、急に樹海に飛ばされた時は驚きましたが風さんたちが戦っていたので。」

「ふん、弥勒夕見子にかかればあの程度の敵なんてことありませんわ。」

「弥勒…数で押されてた…。」

「あ、そうだ。風さん、そっちの子は?」

5人の少女はこちらの方へ顔を向けた。

「私は二川結っていいます。あと巫女の六和田涼っていう子がいるんだけれども…。」

噂をすればなんとやら、だ。屋上の扉が開いて涼と…小さい女の子が走ってきた。制服を見るに芽吹という少女と同じ出身のようだが。

「涼、どうしたのその子。」

「急に光ったと思ったらそこに居て。」

「どういうこと…?」

「芽吹先輩達はこちらにいらしてたのですね。」

「良かった。亜耶ちゃんも無事で。」

小学生…のように見えなくもないがこれでも中1らしい。

「つかぬ事を聞きますが、風さん。これは一体どういうことですの?」

「あー、それなんだけどね。」

風は事情を説明した。5人は少し整理をつけ、納得したようだ。

それと名前、二つ角の少女が楠芽吹。防人という勇者に似た部隊の隊長。なぜかお嬢様口調で話しているのが弥勒夕見子。ちょっと無口な子が山伏しずく。盾の子が加賀城雀。そして涼が連れてきた少女は国土亜耶。彼女は防人専属の巫女であるという。防人はここには4人しかいないが全員で32人いるらしい。…多くないか?

「なるほど。離反神…ですか。」

「今度は“本物”というわけですのね。」

「…。」

 

 

5人の仲間が加わったところで相手は神様。今日の勝利もただ今日負けることが無くなっただけであり、いまだ苦しい中である。どうして私と涼がこの空間に呼ばれたのか、この時はまだその意味を理解していなかった。

 

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