戦姫絶唱武闘伝シンフォギアG 作:フリューゲル
「あのね。未来」
「機密なんでしょ? 聞いた」
未来の声色が怒っているようで、響は萎縮してしまう。
「全部聞いたよ。職員の人から。だから響から聞くことなんてないと思うけど?」
「そっか。そうだよね」
完全に自分の失態。そう思っているから響は切なくなる。怒鳴ってくれたほうが、怒りをぶつけてくれたほうが楽だと思うほどに。
「それでもわたしは響の口から聞きたかった」
それだけ言うと未来は布団に潜り込む。いつも一緒に寝る布団ではなく、1人で。
(今のままじゃダメなのに。ちゃんと戦えるようにならないと。みんなと戦えるために、未来を守るために)
響は布団の中で1人涙を堪える。
翌日、本部に顔を出した響はここでも切なくなる。翼もクリスも顔を見せていないのだ。
「まったく。今ノイズが現れたらどうするつもりなのかしら?」
先日の出動で切歌と調はガンダムまで使ったため、LINKERの乱発は避けたい。響1人での出動もまだ不安が残る。
「わたしに戦い方を教えてください」
風鳴司令に向き合い言う。響の真剣な表情に一瞬驚く。
「それは構わんが、俺の特訓は厳しいぞ?」
「はい。やってみせます」
風鳴司令とのやり取りを見て、マリアはなにかを決意したような強い表情になる。
「どうしたの? マリア」
「なんか顔がいつもより怖いデス」
切歌のことを一瞬だが強く睨みつける。が、すぐに響へ視線を向ける。
「1ついいかしら?」
切歌と調は端の方で抱き合って震えている。
「2度と奏の代わりなんて言葉は使わないでほしいの」
マリアの言葉に息を飲む。
「私もね、ようやく翼とユニット曲をやることになったけど、話は2年前からあったのよ。それでも私に奏の代わりに翼の隣で歌うなんて出来ないって思っていた」
きっと誰にも言ったことがなかったのだろう。オペレーターの2人も含めた全員がマリアの言葉に耳を傾けていた。
「気付いたのよ。奏の代わりになるなんて無理だって。だって奏の代わりは奏以外にはなれやしないのだから。私にも、貴女にもね」
少し響が不安そうな表情へ変わる。決意を否定された気分になったのだろう。
「でもね。同時に私の代わりも誰にも出来ないの。もちろん奏にも私の代わりになれないわ。それは貴女、立花響の代わりもそうよ。立花響の代わりは立花響しかいないの。貴女は貴女として翼の、みんなの隣に立ちなさい」
響の中で少しだけ重りが外れた気がした。
その日から風鳴司令の元でトレーニングを始めた響。
「いいか。まずはこの映画を見て動きを体に叩き込むんだ」
「言ってること全然わかりません。でもやってみます」
トレーニングは主に映画での修行シーンを真似たものばかりだった。
「アタシたちも張り切るデス」
「えぇ……」
ランニング中に付き合うと言い出した切歌と露骨に嫌がる調。それでもマリアも一緒に4人で走り出す。
トレーニングが終わると響の気持ちはまた沈む。部屋に戻ると未来はいるが、話をしてくれる雰囲気ではない。
「あのね、未来」
声をかければ顔を上げてくれるが、その表情は冷たい。
「わたしは響が、わたしに隠し事をしていたのが許せないの。わたしたちに隠し事はないって思っていたのに」
その言葉で響の顔が曇る。それを見て、未来の心も痛む。
「ごめんね。わたしもう響の友達でいられない」
そう言いながら涙を流す未来。それでもこれ以上響を許せない自分が嫌だったのだ。
(もう頭の中がぐちゃぐちゃだよ。どうしたらいいの?)
そのまま布団に潜り込んだ未来。響もまた呆然としながら布団に入る。まだ眠るには早い時間。加えてお互いの温もりもないまま、なかなか寝付けずにいた。
翌朝、響が目を覚ますと未来の姿はもうなかった。1人で学校に行ったのだろう。
「わたしどうしたらいいのかな?」
外は雨が降っていた。まるで2人の心を表すように。
響と顔を合わせるのが辛かった未来はまだ学校に行くには早すぎる時間に登校していた。そこで路地裏で雨の中傘もなく、ずぶ濡れになっている白銀の髪をした少女を見つける。
(あたしとしたことが。勢いで出たはいいが、財布も家の鍵もついでに携帯も全部置いてきちまった)
「どうしたの? そんなことで風邪ひくよ?」
路地裏で膝を抱えるように座っていたクリスは視線を上げて、声の主未来を見る。
「なんでもねぇ」
そこまで言ってクリスのお腹が大きく鳴る。
「違っ、今のは」
顔を真っ赤にしながら立ち上がる。
何日食べていなかっただろう。何日眠っていなかっただろう。急に目の前が真っ暗になってクリスはそのまま倒れてしまう。