ウチのトレーナー、転生者だってよ   作:ローグ5

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試験的にいつもと違う感じの話ですが書いてみました。


夜更けのイエッサン

 

 

 

 カロス地方ミアレシティ。

 この街はイッシュ地方と並び全体的に都市の広さに定評のあるカロス地方でも随一の大都会であり、観光客や訪れたトレーナーは迷うのが通過儀礼とさえ言われている超巨大都市である。

 

 当然ながら他の大都市がそうであるようにミアレシティもまたポケモンバトルが活発であり、月ごとにプロアマ問わずそれなりの規模の大会が開かれている。

 今日この日もバトルの形式やポケモンの力量によって幾つもの部門に分かれ、多くの参加者がバトル大会が絶賛開催中だ。

 

 大会の行われている区画でも中心的な場所にあるスタジアムで行われる大会はレベルが高い。

 参加者には地方問わずバッチを8個所有しているトレーナーも珍しくなく、ポケモンの力量も戦略も非常に見ごたえのある物だ。

 特に、現在の決勝戦を戦うトレーナーは両方ともバッチを8個以上所有しているトレーナーであり、大会前からの注目度も高い好カード。

 多くの観客が会場に詰め掛けていた。

 

「サダイジャ、へびにらみ!」

「何のパルシェン! 殻を破れ!」

 

 赤青の二色のフィールドを白線で塗り分けたフィールドでは今も熱戦が続いていた。

 すなへびポケモンと2まいがいポケモンが文字通りにらみ合っている。

 

「続けて…つららばりっ!」

 

 パルシェンの殻を破るという技はその名の通り殻を破ることにより体の脆さを代償に、攻撃力と素早さを手に入れる技でありパルシェンのバトルにおける評価を大きく上げた技である。

 如何にサダイジャがタフといっても攻撃力を引き上げた上での弱点攻撃を受けてはひとたまりもない。

 すなへびポケモンは氷の連弾を受けてがっくりと倒れ伏した。

 

 パルシェンの攻撃力と、倒されたサダイジャの姿にに会場がどよめく。

 この攻防の結果サダイジャのトレーナーのポケモンは残り1。

 対するトレーナーはパルシェンは電磁波で体がしびれているとはいえ、まだ後ろに二体のポケモンが控えている。

 決着の予感に観客たちは目を輝かせていた。

 

 が、サダイジャのトレーナーである長い銀髪をポニーテールにまとめ、紫の目をした少女は動揺を見せない。

 それどころか自信ありげに最後のポケモンを繰り出した。

 

「後頼むよ、イエッサン!」

 

 現れたのは小柄な黒い体と目元に眼鏡のような模様を持つ、何処となく執事の様な印象を与えるポケモンだ。

 そのポケモンはかんじょうポケモンイエッサン。

 このカロス地方とはほど近いガラル地方に生息するポケモンだった。

 

「イエッサン、サイコキネシス!」

「速いな……ならパルシェン、こおりのつぶてだ!」

 

 フィールドに残るムクホークの作り出した「おいかぜ」により加速したイエッサンが念動力を放とうとしている事を見て取ると、パルシェンのトレーナーは麻痺の状況下でも先手を取ることが可能なこおりのつぶてでイエッサンの体力を削ろうとする。

 

 が、こおりのつぶてはサイコキネシスではない鮮やかな色の波動に弾かれた。

 

「な、なにっこおりのつぶてが弾かれたぁっ!?」

 

 イエッサンの強力なサイコキネシスはそのままパルシェンを直撃し、特殊攻撃に弱いパルシェンはそのまま1撃で沈む。

 

 パルシェンのトレーナーがこおりのつぶてを選択したのも無理はない。

 イエッサンの特性はサイコメイカー。

 こおりのつぶての様な軽く速い攻撃を防ぐ特殊なフィールドを展開する希少な特性であり、ごく一部のポケモンのみが持つそれを知ったのは今日この時が初めてだったからだ。

 

「よしっこれで残り2体!」

「マジかよ……お前が頼りだハッサム!」

 

 同様の中も相手トレーナーはハッサムを繰り出す。

 赤いハサミを顔の前に構えるハッサムはいかにも強そうだ。

 

 しかしそのまま少女とイエッサンの快進撃は止まらない。

 ハッサムをマジカルフレイムで倒すと、最後のドサイドンもサイコキネシスの連打で倒し見事な逆転勝利を収めた。

 

 人々が大会の優勝決定に沸き立つ中イエッサンはトレーナーと並び立ち、当然ですねという風に眼鏡に似た模様をくいっと触る。

 その顔に確かな喜びを浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うーん相変わらずのノー天気な寝顔だ。

 等とトレーナー(名前はアンジュという)の寝顔見ながら私、イエッサンは思う。

 時刻は夜の10時過ぎ、ミアレシティのホテルの中で私のトレーナーであるアンジュはコダック並みのノー天気な顔で寝ている。

 

 他の仲間とアンジュは一人を除いてもう寝たが、私は寝る前にこの部屋を少し片づけておきたい。

 何せアンジュといったら見た目は良い物の、生活能力が欠けておりダメダメで、私達が居なければこいつ本当にどうするのだと言いたくなるくらいなのだ。

 長期滞在中のホテルに迷惑をかけるわけにはいかないなどと思いつつ、私はさっさと掃除を続けていた。

 

「おーいこっちは明日の準備終わったぞ。そっちはまだ寝ないのか?」

 

 台所から来たのはキリキザン。

 私と同様にアンジュのポケモンになってだい付き合いの長い男で、バトルでは「でんじは」や「ふいうち」での嫌がらせを得意としている男だ。

 

「もう少し片づけてからですね。見てくださいよこの有様。ポケチューバーに踏み込まれたら『アンジュ、片づけられない人だった!?』とかタイトルつけて恥さらしになりますよ」

「いや……流石にそんな無礼な奴は……居そうだな」

 

 そう言ってキリキザンはぼりぼりと頭をかく。

 人間と長くいるとどうもポケモンも人間臭くなってくる気がする。

 いや、私もなんだが。

 

「しかし人間って良く分からねーよな。目立ちたいんなら突撃取材なんて迷惑なことしないで、俺みたいに料理でもすればいいのに」

 

 キリキザンはバトル以上に料理の腕に自信を持っている。

 ちょっとしたきっかけから鍛え上げた彼の料理の腕は確かで、アンジュや私たちの食べる物はほとんど彼が作っているようなものだ。

 私も種族柄家事には自信があるが料理は彼に任せている。

 

「なんだかんだ言って私達と人間は違う生き物ですからね。考えることが分からないのもしょうがないですよ。アンジュみたいな単純な人間以外は」

「そうだなー」

「むにゃ……どりょくち……さんち……」

 

 直球過ぎる寝言に私とキリキザンは顔を見合わせて苦笑する。

 

「まーたなんか変な事言ってるよ。これもあれかね、”前世のゲーム知識”って奴かね」

「かもしれませんね。まあ何でもいいですが」

 

 そう言った後それではじゃあ寝るわとキリキザンはモンスターボールに入って寝に行った。

 私も後少しだけ片付けてから寝るとすしよう。

 ああ、キリキザンもだいぶ疲れているのか蜂蜜のボトルが出しっぱなしになっている。

 私が片付けておかなくては。

 今日は皆寝てしまったが時刻は11時前でまだ早いしさっさとやってしまおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────―実に奇妙な話であるのだが私のトレーナーであるアンジュはかなりおぼろげながら前世の記憶があり、しかもさらに奇妙な事にその前世の世界ではなんと、我々ポケモンは架空の存在であるらしい。

 

 全く以てにわかには信じがたい話である。

 事実、初めてこの話をされた時は手持ち一同大いに困惑し、キリキザンに至っては「お、お前ふしぎなアメでも食べているのか……」とドン引きし、頭をはたかれていた。

 私としても若い人間の間で人気な本でそういう話があるのは知っていたので、なんかの拍子に(例えばさいみんじゅつにかかったとか)読んだ本の内容を自分の前世と思い込んだのではないかと疑っていた。

 

 しかし妙に腑に落ちる点もある。

 アンジュとの付き合いはそこそこ長いが年齢を考えると妙に知識豊富な所があるのだ。

 

 今日の決勝戦でも役立った私の特性であるサイコメイカーはガラル地方に生息するイエッサンの中でも特殊なパワーの影響を受けたごく一部が持つ特性である。

 実際私の故郷でもせいぜい私の一族くらいしかいなかったのではないだろうか。

 そんな訳でその存在は私が少しばかり有名になるまで一部のプロや研究者くらいしか知らないことだった。

 

 にも拘らず私の特性を知ると夢特性(彼女のしていたゲーム? だと私の特性の様な希少な特性をそう呼ぶらしい)だと知っていて喜んでゲットしに来た。

 その他にもキリキザンの使える技についてとか、彼女が妙なくらいに深い知識を持っていたという事例は私が知っているだけでも両手の指よりも多い。

 

 そんな事情から私達は「まあそういう事もたまにはあるんだろう」程度に考えている。

 アンジュが前見ていたアンビリーバヴォーなるテレビ番組でも生まれ変わりとかあったし、案外その手の人はいるかもしれないと深刻に考えてはいない。

 

「これでよしと、これなら明日出る事になっても大丈夫ですね」

 

 手元の洗濯物をたたんでバッグにしまう。

 そんな事を考えている内に明日の用意まで終わってしまった。

 私も寝るとしよう。

 

 ボールに入る前にちらりと寝ているアンジュの顔を見る。

 今日は疲れているのもあっただろうが、久しぶりに大会で勝てた事もあり随分と気持ちよさそうに寝ている。実に良い事だ。

 

 正直言うとアンジュは少しだけ私達や自分たちに負い目を感じている、

 確かに彼女の言う前世由来の知識もありトレーナーとしては瞬く間に強くなった。

 けれども前チャンピオンだったダンデや現チャンピオンのユウリ、その他にもサトシといった人気実力ともに圧倒的なトレーナーにはとんと勝てない。

 

 それらの結果が自分のせいであり、かつ私達をデータの延長線にある存在として見ていないか、いらぬ苦労を掛けていないか。

 そんな苦悩をアンジュが人知れず抱えている事を私たちは知っている。

 

 けれど私は、私たちはアンジュの苦悩に対して全く以て事実だとは思わない。

 

 確かに当初はそういった私達をデータの延長線として見ている節もあったのかもしれない。

 しかし長い間共に過ごすうちに私達は確かに絆というべきものを培っていたし、アンジュは私達に対して無碍に扱うことなく大切にしていたと思う。

 

 私が風邪を引いた時は深夜でも必死にポケモンセンターを訪ねに行ったし、卵から孵った新顔は誕生日に、ゲットした手持ちはゲットした日を毎年欠かさず祝ってくれている。

 少なくとも私の仲間にはアンジュにゲットされた事を後悔している者はいない。

 

 だいたいポケモンバトルは何も生存競争ではないのだから負けたらまた対策して鍛えて、そして次こそ勝てばよいのだ

 いや、あの神と呼ばれるポケモンすら倒した意味不明なまでに強いピカチュウ(ピカニキ)にどうすれば勝てるのかはとんと分からないが。

 

 それと、アンジュが自分の前世についていっていたことがある。

 曰く不幸な人生を送ったわけではないが、身体が弱いうえにアレルギーの問題で動物と触れ合うことが出来なかったという。

 だから今の人生が楽しいと。

 その時の気持ちは感情ポケモンである私には痛いほどよく伝わってきた。

 

 そんな訳で私はアンジュの事が好きだしこれからも仲良くやっていきたいと思っている。

 というかそもそも、人間を支える感情ポケモンなのだ。

 トレーナーに生活能力がなかったり、少しばかり変わった過去を持っていて仕えるのが筋という物だ。

 

「ねぇ……イエッサン……よく頑張ったね……」

 

 今日は久しぶりにボールの中ではなくアンジュの隣で寝るとしよう。

 サイコパワーで静かにベッドに上り布団をかぶり自分も目を閉じる。

 今日はいい日だったし明日もいい日になるといいと思いながら。

 

 それでは我が主よ。おやすみなさい。

 

 

 

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