猫:「わんわん」
馬:「わんわん」
鳥:「わんわん」
2018年 6月下旬
呪術高専 京都校にて
0
目の前に立った男。
俺の恩人、丈札さんが話す。
「お前は変わっちまったのか?それとも成長した結果なのか?」
「だから何度も言ってるじゃないですか。俺は元々こんなガキですよ」
「言いたかねぇが、お前は弱くはない。術師は性格が死んじまってるやつも多くいる。
「俺はお前に真っ当な人間になってほしいんだよ」
真っ当な人間…。
誰が正しいかなんて、俺が分かるはずもないけど。
俺が死なないことで、助かる命があるなら…。
俺殺そうとする奴らはみんな殺す。
1
呪術高専 京都校
2017年 平の一件から1ヶ月。
俺は、呪術高専に預けられた。
名目は「被呪者の持つ特質呪力の研究」。
呪いと縛りを結んだ人間は多くいれど、ここまで自由に活動できる被呪者は例を見ないらしい。
全ては出入口の受肉のおかげだけれど。
俺と出入口の共存を知っているのは、丈札さんともう1人の術師、1人の補助監督だけだ。
高専の人達は、みんな出入口を警戒している。
ここまで友好的な呪霊は、逆に怪しく見えてしまうらしい。
2
俺には部屋が与えられた。
家の俺の部屋と変わらないくらいの大きい部屋を。
家具はきちんとあって、困ることはなさそうだった。
「ぬぅ。此処は力が抜けるのぅ」
不意に出入口がそう言った。
「安心するって意味か?」
「そんなわけなかろう。恐らく此処、呪術高専には、呪霊避けが有るのだろうな。
「せいぜい低級のモノへの対策だろうがな」
「お前が死なない程度ならいいや」
「私は死なぬ。
「名無し。貴様が死ぬまで、私は生きるのだ。死ぬ時は私と貴様、一緒に死ぬ」
出入口と話を続けていると、外が騒がしくなった。
ドアを叩く音がする。
「名無し!いるだろ!」
このうるさい声は多分丈札さんだ。
「ちょっと待ってください」と答えて、支給された服を着る。
俺は高専生ではないから、支給されるのは制服ではなく、上下のスウェット。カッコよくはないけれど、楽だ。
ドアを開く。
案の定、丈札さんが立っていた。
「遅い!支度に何分かかってる!」
丈札さんが小言を言ってきた。
「1分くらいでしょ。カルシウム不足なんですか?」
俺も小言で返した。
「うるせぇよ!ご心配ありがとうだけどな!」
「なんでわざわざ俺の部屋に?」
わざわざ丈札さんが俺に部屋にまで来ることは、ほとんどない。
「今日はちょっとばかり特別な日でな」
「特別な日?」
そんな会話を交わしながら、廊下を歩く。
長い廊下に良い思い出はあんまりない。
それでもここは、落ち着く。
《おい。名無し。異常な呪力が近くにある》
「異常な呪力?」
俺は声に出して聞いた。
《あぁ。異常だな。とても異常だ。
《ちなみにだが、私との会話は口に出さんで良い。それで聴こえる》
《あ、あぁ。わかった》
さっき出入口が言ったことを声に出す。
「異常な呪力…」
「どうした名無し。さっきからブツブツ話して」
丈札さんは俺と出入口の共存を知っている。
「お前の中のやつがなんか言ってたか?」
「異常な呪力が近い。って」
「おぉ!感じてんのか。流石呪霊だ」
「なんの事なんですか?」
「比べて名無し。お前は呪力感知が鈍い!
「課題が出来たな!」
「えぇぇ…。嫌だ…。
「と言うか、異常な呪力って何なんですか?」
「実は今日、日本に4人しか居ない特級が1人、
『
「特級…。五条悟…」
3
高身長の男が校内を歩いていた。
手にはアイスを持っている。
季節は夏。アイスはドロドロと溶け始めている。
ポタリとアイスが落ちた。
彼の服に水滴が零れた。
いや。零れたように見えるだけで、彼の服は全くと言っていいほどに汚れていなかった。
水滴は空中で留まっている。
落ちるわけでもなく。上がるわけでもなく。
男が何か言っている。
「丈札〜いる〜?
「グッドルッキングガイ、五条悟だよ〜!」
声は、長い廊下にまで聞こえた。
「げ…」
「どうしたんですか?」
「あいつがわざわざ名指しで呼んでくる時は、めんどくせぇ時なんだよ…」
「特級をあいつ呼ばわり…」
「俺より若いんだから良いんだよ!」
「ねぇ〜まだ〜?
「僕、忙しいんだけど〜!」
声がまた聞こえた。
「はいはいはい!ここだ!ここだよ五条!」
丈札さんが呆れたように表に出た。
俺は目の前の男を見た。
五条悟。
なんだコイツは!
平やメリケンサックの男なんて比べ物にならない!
近くにいるだけで、人間としての感覚がおかしくなる!周りのルールが歪む!当たり前が当たり前じゃなくなる!
生物として、逃げるという選択肢が頭を埋め尽くす。
「はぁっ…!はぁっ…」
呼吸もままならなくなってくる。
「名無し。落ち着け」
丈札さんが俺の肩を優しく叩く。
「あいつは、俺たちの味方だ。
「お前のこともきちんと分かってる」
優しい声で、俺に語りかけてくれる。
思考が落ち着いていく。
目の前にある強大な存在に、脳味噌がフルでまわっていた。
「おぉ〜!丈札〜!
「僕が来てあげたってのに、その顔はなんだよ〜!」
「うっせぇ。
「俺を名指ししたってことは、何か用があるんだろ?」
「お!この子か。呪霊と縛り合う子ってのは!
「凄いねぇ〜。2つの魂が混ざる訳でもなく、並びあっている。完全な不可侵だ。そして、呪霊側が必要に応じて独立する…」
「ちったぁ俺の話を聞けよ…」
丈札さんは呆れたように言った。
「あぁ!そうだそうだ。
「今日来たのは、今度の任務の概要を伝えるためだよ」
「今度の任務?
「そりゃあ、俺1人の任務だよな?」
「ん?
「そこの子も一緒だけど?」
「へ?」
思わず声が出た。
預けられて一月。呪術界のことをやっと知ったくらいのペーペーが、特級からの依頼を受けるだと?
「どう考えても、こいつにはキツイだろ!」
丈札さんが五条さんに言った。
「そうかなぁ〜?
「僕が見るに、この子は準2級クラスだよ?」
「だからって…」
「ダイジョーブ!いけるいける!
「困ったら、丈札、お前が助ければいいよ」
「しかし…」
「そんじゃ、今日はこんな所で!
「僕は忙しいからね。
「それと、12月、2人とも空けておいてね!
「じゃあね〜」
五条さんはヒラヒラと手を振り、俺たちの前を後にした。
「嵐のような人でしたね…」
丈札さんはげっそりした顔で俺に応じた。
「あいつの人使いの荒さは困ったもんだよ…。
「12月だっけか?この任務のためにか…」
12月…。呪いは夏の終わりごろに多く発生するという。
なんで12月なのか…。
「名無し!疲れたよな?
「飯でも行くか?」
丈札さんは、お腹がすいたみたいだ。
実を言うと、俺もペコペコだ。
「行きます!」
「いい返事だ!何食いてぇ!」
「スシ!」
「ス、スシ?
「回る方でいいよな…?」
「もちろん!回らない方で!」
1度高級寿司を食べてみたかった。
「お前…!今度の任務報酬から天引きだからな!」
丈札さんは笑いながらそう言った。
呪術高専 京都校 門前
門の前で、背の高い男。五条悟が電話をしていた。
「
「名無し、ですね。分かりました。明日には送ります」
「流石、伊地知。お前は本当に優秀だ」
「えぇ…。五条さんが褒めてくるなんて…」
「は?伊地知。次会ったらグーパン」
「えぇ!パワハラですよ!」
「僕にはそんなの関係ないんだよ。
「んじゃ、よろしくね」
電話を切った。
「さぁ、頼むよ。丈札」
醜悪孤独・参に続く。
どうも。鮫縞です。今回もお読みいただきありがとうございます。
僕の作品の中で、名無しがよく独白的なのを言っていますよね。今回は正しいとかなんとか。
僕は最善説が嫌いなんですね。正義とはなんだ。とか、正義が傷つけるのは必ずしも悪かなんてのは難しすぎるので、わからないです。でも、自らを正義と語る人は、確実に正しい人ではない。ということだけはわかっています。わかっているつもりです。正義は行動を起こした結果、正義になった。ということで、最初から正義の行動。なんてのはずるいし、おかしいと思うんです。
正義は残り、悪は消える。そんなことは有り得ない。正義の心を100パーセント持つ人、悪の心を100パーセント持つ人、そんな人間いるわけが無いです。
子供の頃、信号をキチンと守りましたか?僕は何回か赤信号で渡りました。わざとなら悪。急いでいて、仕方ないから正義。そんなことないですよね。人は正義があるから、他人を助けられる。悪があるから割りきれる。そんなものです。
要するに、簡単に正義を掲げるな。というだけです。
名無しは簡単に人を殺します。理由は相手も自分を殺そうとしているから、です。単純ですよね。果たして人を殺すことは正義なのか。自分が生きるため、と考えればどうでしょうね。愉快犯は簡単に殺すでしょう。名無しは根幹からおかしい奴です。吹っ切れた人間は、一周まわって普通な人が多いんですよね。名無しもそんなように作りたいです。
長ったらしく書きましたが、内容は薄いものです。正義と悪とはなんぞや。それだけ考えてみてください。
それではまた。次もよろしくお願いします。 鮫縞