背:「道端のガム」
面:「食欲」
頭:「状況把握」
2017年 12月
呪術高専 京都校 第3会議室にて
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目の前の丈札さんは、ボードを前にして立っている。
俺と丈札さんの間には、携帯が置かれており、電話が繋がっていた。
その相手は、特級術師、五条悟。
「やっほ〜。2人とも、揃ってる?」
電話から、声が聞こえてくる。
「俺、名無し共に揃っている。
「それと、俺たち以外は誰も入れないようにしてある」
丈札さんが答えた。
「いいねぇ〜。この任務は信頼の無いやつには聞かせたくなかったからさ」
「そうか」
「そうそう。任務のこと、1回だけだからね。ちゃんとメモ取っといてね」
ふざけた口調で五条さんは言った。
「わかったわかった。名無し、お前も頭に入れとけよ」
丈札さんはボードにペンを当てて言った。
「分かりました」
俺は応えた。
五条さんが話し始めた。
「今回、2人に行ってもらうのは、愛知県。
「八百比丘尼?」
丈札さんが聞き返した。
「僕、1回だけって言ったよね」
嫌味ったらしく五条さんが丈札さんに言う。
「チッ…」
丈札さんは舌打ちをして、続きを促した。
「あの…。八百比丘尼ってなんですか?」
俺は丈札さんに聞いてみる。
「ん?あぁ。お前には、人魚伝説って行った方がわかりやすいか?」
「人魚伝説…。
「あの、マーメイドのことですか?」
「外国じゃそう言うな」
「人魚…」
俺が呟いて、止まっていた話が進みだした。
「八百比丘尼について、愛知県の『窓』から報告があった。
「人魚って、結構な場所で言い伝えを残しているから、その分、呪いの発生も多くなる」
五条さんは話し続ける。
「言い伝えってのは、色んな方向に話が作られる。美しい話から、惨いものまでね。
「今回はどっちだろうね…」
ぽそりと呟いた。
「んじゃ、とりあえず今日から泊まり込みの調査だから、よろしくね」
「へ?おい!五条!ちょっとまて!泊まり込みってなんだよ!」
丈札さんが携帯に大声で叫んだ。
「じゃ〜ね〜」
プツリと電話が切れた。
「あいつ…。マジで…。次会ったらボコしてやる…」
丈札さんが呪詛のような言葉を吐き、俺に向き直した。
「泊まり込み…だってよ。
「帰りてぇ…」
ブーブー。
携帯のバイブの音が鳴った。
五条さんからのメールのようだ。
「お?なんだなんだ」
丈札さんがメールを読み上げる。
「やっほー。僕だよ。さっき伝え忘れたことを思い出したから、メールしておくね。さっき泊まり込みの調査だって言ったけれど、宿泊場所は僕が決めてあります。イェーイ!…
「あいつマジで…
「はぁ〜。」
丈札さんはため息をついて、続きを読み始めた。
「泊まる場所はどこかって?なんと、なんと、『窓』のお家でーす!その『窓』には連絡してあるから、顔パスで大丈夫だよー。
「そんじゃ、頑張ってね。だとさ」
俺は『窓』のルールを思いだす。
「『窓』の家に泊まる…?
「『窓』の人達って、情報提供をして、術師に極力関わらないんじゃ…?」
「普通はそのはずだが…。
「まぁ、五条が手を回しているのであれば、信頼度は高い。大丈夫だろう」
12月 愛知県春日井市での調査報告書
『犠牲者1人』
12月2日 名無し、丈札共に愛知県に到着。調査開始。
暖房の効いた電車内から降りる。
外はひんやりとして、息がほんのり白くなる。
「さてと、『窓』の家を探さなきゃな」
自分の最初の目的を口に出して、調査を始める。
「丈札さん。何してるんですか?行きましょうよ」
目の前で何かを呟いていた丈札さんに声をかける。
「ん?あ、あぁ。すまん。少し考え事をしていてな。
「行くか。まずは教えてもらった家までだな」
そう話して、俺たちは歩き始めた。
愛知県 春日井市 『窓』の家付近に到着。
教えてもらった家は、家と呼べるサイズではなかった。
「でけぇ…」
思わず声に出すほどのサイズで、都心の高級ホテルほどの建物だった。
「なんだこりゃぁ…」
丈札さんも放心状態だ。
玄関…と言うかホテルのフロントのような場所で、女性が待っていた。
「長旅お疲れ様でした。ここはあなた方のお家。そして私は
「詳しいことは五条様に聞いておりますの。今日からはこの建物をご自由にお使いください」
目の前の女性、光希さんがスラスラと話した。
「自由にって言われてもよぉ…。
「デカ過ぎやしねぇか?この建物。家と言うよりもビルじゃねぇか?」
丈札さんも少し困った表情を浮かべていた。
「とりあえず、俺たちの部屋を決めましょう。こんなデカい所、持て余してしまう」
俺がそう言うと、光希さんがいつの間にか鍵を持っていた。
「この鍵はマスターキーですの。お好きな部屋にお使いください」
「ありがとうございます。光希さん」
感謝を伝えると、光希さんは驚いた顔をした。
「そんな、光希さんなんて烏滸がましいですの!光希。とお呼び捨てください」
「えっ?じゃ、じゃあ、ありがとう。光希」
「ありがたきお言葉ですの。我々白岩家は、五条様に恩がありますの。五条様の紹介ともあらば、最大級のもてなしをさせていただきますの」
一通りの会話を終え、俺たちは廊下を歩き回っていた。
「にしても、部屋が多すぎるな。
「1つ1つがでけぇ部屋なのに、こんな部屋数があったら、マジで迷っちまう」
丈札さんが文句を言いながら部屋を探す。
「一応俺たちは隣の部屋にしておこう。情報共有しやすいしな」
108号室
なんとなく、この部屋に目が止まった。
「丈札さん。俺この部屋にします」
「ん?わかった。じゃあ俺は隣の109号室にする。
「荷物を置いたら、一旦俺の部屋に集合してくれ」
「分かりました。」
そう話して、互いの部屋に入った。
《ぬぅ。久しぶりの平和な場所であるな》
今まで静かにしていた出入口が話し出した。
《にしても、あの女。私が見えていた。あの女、術師か?》
「へ?『窓』なんじゃなかったっけ?」
《いや、見えるだけの人間にしては、纏う呪力が術師レベルだ》
「なるほど…。五条さんとなにか関係あるみたいだし、普通の人ではないだろうね」
荷物を広げながら、出入口と話す。
それにしても広すぎる。
大きなベットが3つ、冷蔵庫が家庭用のサイズで2つ、大きいテレビ、キッチン、庭まである。
俺は完全に部屋を持て余していた。
テキトーに荷物を出して、隣の部屋、丈札さんのところに向かう。
部屋のドアを開けて、廊下に出る。
異様な雰囲気の少年が、そこにいた。
「おや?お客さん?いらっしゃい」
少年は俺に笑みを向けながら言った。
「姉さん、きちんと伝えてほしいな…。
「お客さんに失礼しちゃうところだったよ」
少年は姉さんとやらに文句を言っている。
《名無し。ソイツはあの女よりも呪いの質が高い。気をつけろ》
出入口が言う。
《そうか?俺から見ると、ただの男の子だぞ?》
《はぁ…。阿呆が、前も言ったように呪いは見ようと思わなければ見えん。意識しろ》
意識なぁ…。目の前の少年をじっと見つめる。
体に流れるモヤが、段々と見えてきた。
「どうしたんですか?お客さん」
少年がこちらに言ってきた。
「あぁ!申し訳ない。名前を言うのを忘れていました。
「僕の名前は
白岩…。弟か?
また少年、白岩鉤弥が話し始めた。
「僕は確かに白岩ですけど、姉さんの仕事とは関係がないですからね。
「すみませんでした。無理に話を続けてしまって」
白岩鉤弥は腰に着けた沢山の鍵を弄りながら、安っぽい謝罪をする。
「もう話すことはないですよね?名無し君。
「じゃ、またね」
白岩鉤弥は近くの窓を開け、飛び出した。
「え?おい!」
ここが2階と言っても、このどでかい建物の2階だぞ?
見ただけでも高さ10メートルはある。
すかさず窓の下を見る。
「何も…無い…?」
見下ろした地面には、死体、血液、傷すらも残っていなかった。
不意に窓の縁に手をかける。
微かに残穢が残っていた。
術式を使ったみたいだ。
《奇妙な餓鬼であったな
《私は喧嘩を売りに来たように見えたのぅ…》
《喧嘩を売りに?
《俺にはそうは見えなかったけどな…》
「なんだ、なんだ、うるせぇぞ!」
109号室の扉が開き、丈札さんが飛び出してきた。
「んおっ?なんだ名無し、居たのかよ」
さっきの事を伝えるべきか、少し考えた。
「…。今来たところです」
「そうか。なら早く入ってこい、調査場所を決めるぞ」
「…。はい」
「なんだよ?元気ねぇな」
「いつもこんなのでしょ、俺」
「そうか。
「なら良いが…」
丈札さんにはまだ黙っておく。
あの少年、白岩鉤弥は俺だけに会いに来た。
丈札さんを巻き込みたくはない。
「…。以上が今回の調査目標だ。五条から聞いた事と遜色ないな。
「質問はないか?」
「大丈夫です」
「よし、俺は周辺の村をまわる。名無しは近くの寺、神社をまわってくれ」
「分かりました」
「何度も言うが、死ぬなよ、名無し」
「分かってます。過保護ですね、ホントに」
「うるせぇ。
「術師っていう仕事は、綺麗に死ねることの方が珍しい。お前には死ぬときゃあ俺の近くで、綺麗に死んで欲しいんだよ」
「丈札さんも死なないでくださいね」
「もちろんだよ。
「んじゃ、行くぞ。調査開始だ」
目的地
丈札:周辺の村
名無し:寺社仏閣
12月2日 13:23
『窓』の
丈札さんは少し用意があるようで、俺が先に出た。
ぐぅ…と腹がなった。
実はこの
その代わりと言ってはなんだが、部屋のポストには、毎日2万円が入れられることになっている。
食事は周辺の飯屋で摂るしかなくなった。
「まずは飯屋探しだな…」
なり続ける腹をさすりながら、歩き出した。
ゆったりとした坂道が多い町だ。
余計に腹が減る。
《ぬぅ…。腹が減ったぞ、名無し》
「俺もだよ…」
出入口までもが我慢のならない言葉を出した。
ぐぅ…。
「ん?今めちゃくちゃ良い匂いがしなかったか?!」
《む?そういえばそうだのぅ…。
《早う探せ、名無し》
一瞬の匂いを頼りに、道を歩く。
「ここだ!」
[カフェ・ローレライ]
看板には、そう書かれている。
ぐぅ……。
空腹は耐えられないくらいになってきた。
お金は、ポストからの2万と、竹札さんから渡されたブラックカードがある。
満足に食えるはずだ。
目の前のドアを引く。
ドアに引っ掛けられたベルが、心地よい音で入店を知らせた。
「いらっしゃいませ」
店の奥から、青年が出てきた。
「お好きな席へどうぞ」
青年は、俺に綺麗な笑顔を向けて、着席を促した。
俺はなんとなく、カウンターに座った。
置かれたメニューを開く。
ざっと目を通して、注文を伝えようと口を開く。
「じゃあ、こ…」
ぐぅ〜〜…。
今までで最大級に腹がなった。
「ふふっ」
青年が笑ってこちらを見た。
「お腹、減ってる?」
「すみません…。めちゃくちゃ減ってます」
「ふふふっ。大丈夫だよ。
「うちの店は、食事メニューもボリューミーだから!」
満天の笑顔で、誇らしいように俺に言ってくる。
本当に綺麗な人だ。
「じゃあ、この鉄板ハンバーグと、オムレツ。あとハムサンドイッチと、ワッフルで!」
「おぉ!よく食べるね…!
「よーし、やるぞー!」
青年はコンロに向かって、調理を始めた。
待っている間に、店内を見渡す。
落ち着いた木目調のインテリアに、水をイメージした綺麗な照明。
とても心地の良い場所だ。
「そうだ。お客さん、どうしてこんな所に?」
青年が俺に聞いてきた。
「え?あー…。」
今回の調査、呪いに関わることは、原則非術師に言ってはならない。
俺が返答に困っていると、青年は分かっているかのように言った。
「なんとなく分かった。ちょっと前もこの店にお客さんに似た人が来たよ。
「その人は、僕に乱暴に聞くだけ聞いて、なんにも食べてくれなかったけどね…」
へへっ。と不貞腐れたように笑いながら、青年は語った。
俺に似た人…。術師ってことか?
考えている間に、1品できたらしい。
「ほら、お客さん、ハムサンドイッチ!これだけでも先にお腹に入れときな!」
大きな皿に、大きなサンドイッチ。
薄いハムじゃなくて、分厚い方の、大きなハム。
《「いただきます」》
出入口も思わず声を出した。
大きな山にかじりつく。
口の中に、肉の旨みと、ソースのピリッとした感じが溢れる。
やばい。超うまい。
「うまい…」
俺も思わず声を出してしまった。
「ふふっ。そりゃよかった。
「ほれ、ハンバーグにオムレツにワッフル!ここ並べとくよ。たーんと食べてね!」
どんどんと注文した商品が並べられる。
サンドイッチでこの美味さなのだ。
他のご飯はどれほどなんだ…。
ゴクリと喉を鳴らし、食らいつく。
「うまぁぁぁぁ…!!」
《「ご馳走さまでした」》
全部の皿をピカピカになるまで食べ尽くした。
少し食べすぎた感じがある。
もう少しだけ、このカフェでくつろがせてもらおう。
「お客さん、名前なんて言うの?」
青年が唐突に聞いてきた。
「えっと…。な、
咄嗟に嘘をついた。表情を見るに、本当の名前でなければきちんと聞こえるらしい。
「七瀬…。いい名前だね。
「僕の名前は
「腑根さん…」
「聴兎でいいよ!多分歳も近そうだしね」
「聴兎…。聴兎は何歳?」
「ん?僕は今は…えっと…、18だよ!
「あんまり歳に興味なくてさ…。
「七瀬は?」
「俺は17。誕生日はまだだから、同い年だな」
「そうかい!久しぶりに同年代に会ったなぁ!」
聴兎は嬉しそうに話す。
店で聴兎と沢山話して、すっかり外が暗くなってきた。
逢魔時。
呪いが溢れ出る時間。
土地的にも、寺の近くのこの場所は、呪いに狙われやすい。
帰り道に祓っておこう。
「じゃあ、俺、帰るわ。
「また明日。ご馳走様」
聴兎も笑顔で答えた。
「ご贔屓にどうも。
「また明日ね。気をつけて」
ドアに手をかける。
ドアは俺が力をかける前に、開かれた。
「!?」
目の前には大柄の人間。
見た目はただの一般人だが、その顔に付けられた面だけが、異質さを感じさせている。
「こんばんワ」
声を出した。この言葉は俺に向かってでは無く、聴兎に向かって言っている。
「いらっしゃい。
「今日は随分早いね。
狼と呼ばれたモノを見る。
異質な面が形を変え始める。さっきの醜い面から、獣のような長い鼻、白銀の歯が生まれた。
「狼、今日は何食べる?」
聴兎は驚きもせず、注文をとる。
「⚃⚀⚁⚄⚂⚅⚁」
俺には聞き取れない言葉で、注文をした。
「はいよ。すぐできるから待っててね」
聴兎がキッチンの奥の方へ行った。
店内には俺と、
お互いに警戒しているのがわかる。
一挙手一投足、相手の出方を見る。
「おまエ、皇子ノなかまカ?」
狼が口を開いた。
「…。皇子…?」
「皇子八、あの人、聴兎さまノことダ」
聴兎が、皇子?
ふと疑問が浮かんだが、まだ狼の質問に答えていないのを思い出して、答えた。
「今日初めて会ったんだ。それで、さっきまでずっと話してた。
「飯も食ったよ。とても美味しかった」
できるだけ簡潔に、キチンと伝えた。
「うまいよナ。皇子のメシ」
狼は尖った歯を剥き出しにしながら、笑顔?を浮かべた。
「おまエ、ちゃんと俺の面が見えるんだナ」
「見えるけど…。それがどうしたの?」
「俺の面八、呪具の1つなんダ。
「面を着けたものを理想の姿にすル。」
「理想の姿?便利な呪具じゃないか」
「便利なわけがあるカ。1度つけると剥がれズ、理想の姿にするのは、対象の顔面部分だケ」
顔面部分だけ…。それ以外に異質さがないのはそのせいか。
「俺八、強い獣に憧れタ。
「強靭な顎、素早い身のこなシ、よく効く鼻」
「獣…、か」
「強い獣になることを願っテ、この面を着けたんダ。
「それがこの樣ダ」
また面の形が変わって、涙を流すピエロになった。
「僕は好きだけどね、君のたくさん変わる表情」
聴兎が料理を運んできた。
面がもとの獣の形に変わる。
「いただきまス」
俺には聞き取れなかった料理は、形容できないものだった。
何かのスープのようなもの。としか言えない。
狼は美味しそうに食べている。
「そんじゃ、また明日」
こんどこそ俺は店のドアの前に立つ。
次は誰も来ないよな…?
心地よいベルの音が、俺の退出を伝える。
店の中から聴兎が手を振ってくれていた。
俺も振り返して、
「ちょっと待ちぃや。そこの坊主」
「なんだよ…。」
振り向くと、目の前には祭りからの帰りのような男がいた。
手には魚の入ったビニール袋と、ポイを持っている。
「お前、高専のやつやろ?
「こんなデカい『帳』下ろして、誰も気にせぇへん思ったか?」
「お前、季節感イカレてんだよ。北半球出身か?」
『帳』…。
コイツは、術師…。
《何をしている。阿呆》
出入口が口を開いた。
《名無し。お前、もうヤツの術式にやられておるぞ》
「術式?まだあいつはなんにも…」
《貴様がここに来る時に、もう術式を発動しておったのだろうな》
「取り込み中のところごめんやけど、はよ死んでくれへんかな?
「『
男の呪力が高まる。
ドプンッ。
足が沈む。体もどんどん沈んでいく。
何かの液体に包まれている!?
「あれまぁ。死なんのやなぁ…。
「術師言うんは、頑丈で嫌やなぁ」
男は俺を見据えながら話す。
《名無し。貴様の下に何かいる。
《強い呪力だ。死ぬぞ》
出入口が言った。
その時だった。
ギシゃぁぁぁァぁアぁぁぁあぁぁぁア!!
「なっ?!」
どデカい魚がその体をぶつけてきた。
いなすように体当たりを受けるが、鋭い鱗に傷を付けられる。
「クソ!」
「はよ死にぃや…。痛いだけやで」
男はまだ高みの見物だ。
「てめえこそ、カナヅチかぁ?!一緒にスイミングでもしようぜ!」
「五月蝿いなぁ…。そんな言うんやったらやったるわ。
『飛び散れ』
男の言葉で、巨大魚が震え出した。
「ほな、さいなら」
巨大魚が弾ける!
鋭い鱗がとてつもないスピードで飛んでくる!
「がっ!」
呪力でも守れない、物理的な鋭さ。
「おぉー。まだ死んでへんのか。坊主」
男は驚いたように手を叩いていた。
「てめえ…。」
残った巨大魚の体当たりは続く。
「やってやるよ…」
『
巨大魚には俺の残穢が残ってる。
手を握るように、針をイメージする。
鋭い鱗を針へと変え、巨大魚の肉を貫く。
「ふーん。やるやん」
男はまだ余裕の表情だ。
「出入口!!」
《うむ》
出入口が俺を喰う。
出口はアイツの背後。
俺の手には、巨大魚の鱗。
「なんや?何すんの?」
闇から降りる。
降りた勢いのまま、鱗を振り下ろす。
「そういうことね。あほやなぁ…」
男は俺の首を掴んだ。
「がっ…!」
「お前のやることは分かってんねん。単純で助かるわぁ…」
がむしゃらに、手に持った鱗を投げる。
「おーおー。こんなん持ってたんかいな。危ないなぁ」
男は鱗を気をつけるように持ち上げた。
「これ、よぅ切れるもんなぁ…」
『
「へ?」
針へと形を変えた鱗が男の手にくい込む。
「おわぁ!痛いやんけ!」
「カハハッ、ざまぁみろよ…!」
残穢は残した。ここから…
「やってくれんなぁ、この坊主ゥ…!
「…帰る」
「は?」
男の唐突な宣言に拍子抜けした。
「だから、もう帰るって言うてんねん。
「おもんないわ、こんなん」
男は俺の首から手を離し、背を向けた。
「秀雄も死んでもうたしなぁ…」
「秀雄…?」
「お前が穴ぼこにしたやつの名前じゃ!ボケ!」
男が声を荒げた。
確かに、ビニール袋の魚が減っている…?
「秀雄…。絶対敵取ったるからのぅ…」
「敵って…。お前から仕掛けてきたのに…」
「うるさいねん!坊主がさっさと死んだら良かってん!」
「は、はぁ…」
男はヒステリックを起こし始めた。
めんどくさい。
「そこのおまエ。皇子ノ友人になにしてル」
このくぐもった声は…
「
狼は俺の方を見て、面を福面のような顔に変えた。
「こいつ八、おまエを襲ったのカ?」
「うん。急にやられた」
「許せなイ?」
「許せない?どういう事?」
「もシお前がこいツを許せなイなら、俺ガ変わりに殺ス。
「俺八、
「
「どうすル?」
ふと男のいる方へ目を向けると、もう逃げた後だった。
「逃げたナ」
「だな」
「俺八、
目の前の建物を指さしながら言う。
「
狼の面が姿を変えた。
大きく目が飛び出た、ドッキリ用の面みたいだ。
「凄イところだナ。今まで気づかなかっタ」
やはり、『帳』が下りていることでの効果はあるみたいだ。
そして狼は顔を戻して俺に向かって言う。
「皇子八お前ヲ気に入っていル。これからモ頼ム。
「お前八俺とモ普通二喋ってくれル。俺八既に呪いト呼ばれル類いノ者二なってしまっているガ、心八人間のままダ。
「お前ガ良い者ト分かっていル」
「じゃあナ」
「うん。またな」
狼が山の方へと歩いていった。
「さて、帰るか」
暗い部屋。
布で口元を隠した人間たちが声を揃えて言う。
「「「「「「「無限の命に終末を」」」」」」」
12月23日 9:48
愛知県に来て、3週間が経った。
午前中に調査をして、昼飯はカフェ・ローレライで食べて、午後、調査をして、晩飯もローレライで食べる。
これが一日の過ごし方になった。
正直、調査は進展がほとんど無い。
近くの寺社仏閣を探し、聞き込みをしてはいるが、どこも当たり障りのない回答ばかり。
みなが声を揃えて言うのは、
「人魚様は、我々の傍らに居り、我々へ
という伝承。
最も近い場所にある、
最後の調査対象は、この寺となった。
目的地
名無し:
醜悪孤独・肆に続く
どうも。鮫縞です。投稿遅れて申し訳ないです。
私事なのですが、最近忙しく、こういって携帯と面を迎える時間がありませんでした。
いつものようにあとがきをズラズラと書くのもあまり面白くないので、今日は簡単に、キャラ紹介だけやります。
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profile
name:不明
level:準1級相当
item:ポイ、魚