私がこの研究所と呼ばれる場所に来て1ヶ月と半分が過ぎたようでした。
これは駒瀬さんとお話ししている中で発覚したことです。
私が夢で深海棲艦になりつつあると言われ、その対処として駒瀬さんや霞とお話できる機会をそれはもう大切にしました。
その結果、私はなんとか深海棲艦にならずに済んでいます。
相変わらず眼は見えず霞に補助をしてもらいながら生活しています。
生活といっても私は毎日、身体を激しく痛めつけられ部屋に戻った時には意識がない状態などが続いていますが。
ある時には熱湯風呂に長時間入れられ全身火傷を負ったことがありました。
ある時には仰向けにさせられその上にロウソクを垂らされた事もありました。
ある時には全身に切り傷を入れられたこともありました。
ある時には……。
私は数え切れない程沢山のことをされました。
逆らえば霞にも同じことをすると言われ私はただ耐えるだけの日々でした。
身体の傷は高速修復材でもかけられたのかいつも治っていました。
ところどころ残っている傷はあるようですが…。
ですがそのおかげか私の身体は様々な部位が敏感になりました。
耳は前よりも聞こえるようになり話している相手がどこにいるのか、さらに小さな些細な音もわかるようになりました。
鼻は嗅覚が鋭くなり人や物の匂いを嗅ぎ分けることができるようになりました。
さらには空間把握ができるようになりました。
何を言っているのか分からないという人もいるでしょうが、とにかくできるようになりました。
部屋の中に何があるのか感覚的にわかるようになり1人で歩き回れるぐらいになりました。
普通の人なら耐えられない仕打ちを受けてきましたが、そんな私を支えてくれたのはいつも霞と駒瀬さん、夢の中の私でした。
本当に感謝の言葉しかありません。
さてそんな感じで生きてきた私ですが最近、霞に対して違和感を持っています。
前まではあの研究員が居ないところではよく文句を言ったり、元気に私に話しかけてきていたのですが、最近では口数も減り元気がなくなってきているような気がします。
私が霞に大丈夫?と聞いてもいつも決まってこう言います。
「私には姉さんがいるから大丈夫…。姉さんがいる…。大丈夫…。」
まるで自己暗示でもするかのように呟くようになりました。
さらに霞は呟き終わると必ず抱きしめてきます。
本当に大丈夫なのか心配です。
いつも私が眠りから覚めるとすぐに研究員が来るのですが今日は違いました。
私が目覚めてから体感で1時間程経ってもいつもの研究員は来ませんでした。
代わりに駒瀬さんがやってきたようです。
今なら足音で誰がきているのか判断できるようになりました。
霞は横になっているようなので眠っているのでしょう。
「起きたんだな朝潮。」
「はい…。今は何時なのですか…?」
「今は夜の10時だよ。…それよりも霞を起こすのを手伝ってくれ。」
「いいですけど…。何をするのですか?」
「今日僕が来たのは君達を逃がすためだ。研究所の職員はいまは外食に行っているからチャンスは今しかない。」
逃げ…る…?今駒瀬さんは私たちを逃がすと言ったのでしょうか…?
「本当に…逃げれるのですか!?」
「あぁ、俺が嘘を言ったことがあるか?」
確かに駒瀬さんは優しい人です。
だから本当に私達を逃がしてくれるのでしょう。
「ほら、早く霞を起こそう。」
「はい!」
私は霞を揺すって起こし始めた。
「霞、起きて。」
「う、うぅ…な、に?姉さん…。」
「霞!今から駒瀬さんが私達を外に逃がしてくれるそうよ。一緒に行きましょう?」
「本当…?こんなところからおさらばできるの…?」
「えぇ!そうよ!早く逃げましょう!」
「あぁ、本当だよ。俺を信じてくれ。」
駒瀬さんの一言に霞は頷き立ち上がった。
疲労した身体を無理やり動かし私達は駒瀬さんをみた。
「さぁ、ついてきてくれ!」
そうして私と霞は逃げれると言う期待を胸に外を目指し始めた。
この後、最悪な運命が2人を待っていることを知らないまま……。
☆
私と霞が部屋から出て数十分、駒瀬さんが突然止まった。
まだ建物内部だと言うのにどうしたのでしょうか?
「駒瀬〜待ってたぜ?」
「本当にな〜。」
突然ありえない声が聞こえてきた。
それは外食に行っているはずの研究員の声だったのだ。
「待たせて悪いな。」
「駒、瀬さん……?一体どう言う…。」
「キャッ!?」
「おやおや霞ちゃ〜ん?どこに行こうとしてるのかな〜?」
「いや!離して!いやー!!」
霞が研究員に捕らえられてしまった。
そして私の方にももう1人の研究員が近づいてきた。
「深海棲艦が外に出たら危ないだろ?」
そうして私も捕まってしまった。
「駒瀬さん……一体どう言うことなんですか!?」
「うん?まだ気づかないのかい?」
「くははははは!これは傑作だな!!要するにお前らは騙されたんだよ!」
騙された……?
「そんな……!だって…駒瀬さんは…。」
「俺の名前を呼ぶのはやめてくれる?深海棲艦に名前を呼ばれるのは正直嫌なんだよ。」
そう言われた瞬間私の心にヒビが入った。
さらに身体からミシミシという音が聞こえてくる。
「霞ちゃんはまだまだ調教が足りなかったようだね?またあれをやろうか!」
「いや!もう嫌なのー!やめて……キャァァァァ!!」
突然霞の方から悲鳴が聞こえてきた。
さっきの研究員が言っていたあれって言うのは一体…?
いや、それよりも。
「何を、しているの…?霞に何をしたの!?」
「カッターで文字を書いてるんだよ。お前も一度やったことがあるだろ?っとそういや目が見えないんだったな!」
「なっ…!?約束が違うじゃない!霞には手を出さないって…!」
「わはははは!誰が深海棲艦なぞの約束を守るって言うんだ!?守るわけねぇだろ!お前が俺たちの遊びに付き合ったその日からお前の妹は傷だらけなんだよ!」
その瞬間、私の心は完全に砕け散り闇へと堕ちた。
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