風のように海を駆けていく。
研究所から逃げ出した私は目的もなく海を走っていた。
今はまだ夜明け前なのだが私の目には昼のように見えていた。
背中には私の大切な妹がいる。
もう2度とあんな辛い目には合わせない。
そして目的もなく海を走ること1時間弱、水平線の向こうから太陽が姿を現した。
それからしばらくして島を発見した。
私の持つ電探に反応がないことから深海棲艦もいない無人島のようだ。
島に上陸した私は霞を砂浜に寝かせて少し島を見て回ることにした。
まずは島をぐるっと一回りして次に艦載機を発艦させ上空から島を見てみる。
艦載機を出す際にも主砲と同様、何もない空中から甲板2つが出現し両肩に装備された。
そう言えば鎮守府にいた飛龍さんと蒼龍さんの艤装に似ている気がする。
そしてどうやら甲板を出しているときは主砲が装備できないようだ。
上空から島を確認してみると島は三日月のような形をしていた。
削れている方が砂浜になっていて反対側は断崖絶壁となっていた。
かなり日本から離れた場所だし艦娘が来ることもないだろう。
ここで暮らすことにしよう。
それから霞にも聞いておかなければいけないことがある。
霞が起きたら聞いておこう。
お、ここにドラム缶が…。
ムフフフ…。
☆
「ん…。…ぁ…。…姉さん?」
太陽が真上に来た頃、ようやく霞が目覚めた。
「ええ…。そうよ。」
私の身長や体型は変わっていないが、髪と肌が白に染まり目は赤くなっている。
そしてーー
「姉さん…。ちょっと煽情的過ぎない?」
そして肌の露出度も上がっている。
結構際どい感じだ。
「それはいいのよ。もうこの姿が今の私だって認めているんだから。……それよりもどこか痛いところはない?」
「ええ、大丈夫よ姉さん。」
「ねえ…霞。」
「なに?」
「霞はこれからどうしたい…?もし鎮守府に戻りたいんだったら私が送るわ。」
「何言ってんのよ姉さん。私は姉さんから離れたくないわ。どうせ姉さんは私は深海棲艦だからー、とか悩んでるんでしょうけどそんなの関係ないわ。姉さんは私の姉さんなんだから!」
「……ふふっ。それが聞けてよかったわ。」
「当たり前じゃない。」
よかった。
霞が私から離れたら自分を抑えられなかったかもしれなかった。
なにせ私は人間に対して悪感情を抱いているのだから。
人間は殺すべき対象だと認識してしまっている。
「それじゃあ霞。お風呂に入りましょう!」
「へ?お風呂?」
「研究所にいた頃はまともにお風呂にも入れなかったじゃない?だから身体の汚れを落とさなきゃ。」
「でもここは無人島なんでしょう?どうやってお風呂に…。」
「こっちよ!」
そう言って霞の手を引っ張って奥へと進んでいく。
しばらく進むと少し開けた場所に出た。
さらにそこには2つのドラム缶が置いてある。
「ここよ!」
「まさかお風呂ってーー。」
「そう、このドラム缶よ!」
先ほど見つけたドラム缶だ。
このドラム缶を見つけた場所には澄んだ川も近くにあった。
そこから汲んだ水を沸かしておいたのだ。
「ありがとう姉さん!」
「ふふっ、早速入りましょう!」
ここは周りの目がないためすぐさま脱ぐことができる。
裸になると早速湯船に浸かる。
「「あ゛あ゛あぁぁあ〜〜」」
久しぶりの湯船は気持ちよく最高だった。
「はぁ〜気持ちいいわ〜。」
「ほんとね〜。…この後はどうしましょうか…。」
「食糧と住む場所よね。私も手伝うわ姉さん…え!?」
「どうかしたの?」
「ね、ね、姉さん!?う、上!」
「上?」
上を見てみるが太陽と青空が広がっているだけだ。
「空じゃないわ!頭の上よ!」
「頭の上?」
ふるふると頭を振るとぼちゃんとお湯の中になにかが落ちてきた。
慌てて掬い上げるとそれはツノの生えた妖精だった。
よく鎮守府の工廠で見かけていた。
「ヒメー」
「ワレラニ」
「オマカセー」