朝潮と霞が突然失踪した。
失踪が発覚すると同時に高雄たちは捜索へ向かったのだが、どこを探しても見つからず途方に暮れていた。
捜索を手伝ってくれていた五味渕提督も1週間ほどで切り上げ、朝潮と霞は死亡扱いで大本営に報告された。
横須賀鎮守府は捜索の切り上げと同時に、警備形態を強化された。
朝潮と霞がいなくなってから駆逐艦の4人は元気が無くなっていた。
高雄と愛宕はなんとかしなければと思いつつもどうすることもできないでいた。
そして朝潮と霞が失踪してから1ヶ月が経った。
☆
今日は高山提督が大本営に向かってからちょうど1ヶ月。
そろそろ帰ってくる頃だ。
提督ならば何か情報を掴んでいるかもしれない、と言う期待を胸に高雄たち6名は提督の帰りを待っていた。
そして横須賀鎮守府の入り口に白いバンが止まった。
遂に提督が帰ってきたのだ。
白いバンから降りてきたのは高山提督と1人の女性。
女性は大淀と呼ばれる艦娘であり戦闘よりも事務仕事に長けている事から、提督になった者には1名ずつ配属される決まりがある。
「やぁ、出迎えかい?ありがたいな。高雄君達も元気にしていたかい?」
「え?てっ、提督?」
「うん?どうしたんだい?あぁ、そう言えば朝潮君と霞君がいないようだけど今はお風呂かな?あとで全員集まったらこれからの事について話をしよう。あと、隣にいるのは僕らの鎮守府に配属される大淀君だよ。」
「軽巡大淀です。よろしくお願いしますね。」
「提督頭大丈夫っぽい?ショックでここ最近の記憶がなくなっちゃったっぽい?」
「こら、夕立!ダメだよそんなこと言っちゃ!」
「ぽーい。」
「え、ちょっと嘘でしょう?本当に知らないの?」
「司令官…。」
「えぇ…?僕には何も連絡は来ていないけどもしかして、何かあったのかい?」
「提督、朝潮ちゃんと霞ちゃんは提督が大本営に向かったその日に消えました。」
「え………?」
「私達も探したのですが見つからず…。」
「どうしてそんな大事なことを連絡しなかったんだい!?」
「五味渕提督はたしかに提督に連絡したと言っていました。なので提督は知っていると思っていたのですが…。」
そして高山は突然走り始めた。
「ちょ!?司令官!?」
「執務室に行ってくる!みんなは部屋で待機してて!」
☆
「失礼します!」
バン!と乱暴に扉をあけて執務室へと入った高山。
そして目の前には椅子に座って煙草を吸っている五味渕がいた。
横須賀鎮守府の大淀は今は何処かに行っているようだった。
「おや、高山研修員ではないか。無事提督になれたようだな。」
「五味渕提督!朝潮君と霞君がいなくなったと言うことをなぜ報告してくれなかったのですか!?」
「ふむ?何を言っている。ちゃんと報告書を送ったはずだぞ?」
「報告書など来ておりません!」
「なに…?確かに報告書は提出したはずだったが…。手違いでも起こったか…?予備の報告書があるから読むといい。」
そう言って引き出しから書類を取り出した。
それを受け取ると高山は急いで確認を始めた。
「な…!?なんですかこの報告書は!?」
「全て事実だ。」
報告書に書かれていたのは到底報告書とは呼べないものだった。
書かれている内容はこんな感じだ。
朝潮はお風呂に行ったっきり、霞はお手洗いに行ったっきり消えていなくなったこと。
監視カメラの映像には不審な点がなにもなかったこと。
いなくなった現場には証拠となるものは一切なかったこと。
報告書に書かれていた事はこれだけだ。
「それからこっちも読むといい。後日談だ。」
「死亡扱い…!?」
もう片方に書いてあった内容はこうだ。
1週間捜索したが見つからず、捜索を断念したこと。
横須賀鎮守府の警備形態を強化したこと。
そしてなるべく1人にならないように呼びかけることが書いてあった。
「まず僕に話を通すのが筋ではないのですか?」
「報告書を送ったと言ったであろう?だが返事が無かったものだからこうするしかなかったのだ。」
「しかし…!」
「わしも忙しいのだ。もう終わったことに目を向けるな。貴様も提督になったのであろう?もしも轟沈艦を出してうだうだと言っているくらいならばやめてしまえ!」
「くっ……。」
「艦娘の補填は出来ぬが物資を少し多めに提供している。貴様の鎮守府はここから遠くなるからな。餞別の意味も込めてある。頑張ってくれたまえ。」
「わかり、ました…。ひとつだけお願いがあります。事件が起きた日の監視カメラの映像等の証拠を僕にください。」
「ふむ、そのくらいならばいいだろう。」
そして2人は情報を整理しながら高山の荷物(主に書類)をまとめていった。
「今までありがとうございました。」
「うむ、ご苦労であった。提督の業務も大変ではあるが頑張ってくれ。」
ゴトッ!
去り際に仮眠室の方からなにかの音が聞こえてきた。
「今のは…?」
「何か物でも落ちたのだろう。気にするな。」
高山は不思議に思いながらも部屋から出ていった。
五味渕は不思議そうに出て行く高山を見届けるとおもむろに仮眠室を開けた。
そこにいたのは猿轡を噛まされ両手両足を縄で縛られた大淀がいたのだった。
「余計な事は言うなよ?」
コクコクと泣きながら頷く大淀を見てから縄と猿轡を外す作業に入ったのだった。
☆
「ーーーーというわけだ。本当にすまなかった。僕がちゃんと気づいていれば…。」
現在担当の鎮守府に行くために大淀を加えた高山たち8名は大発動艇に乗っていた。
横須賀鎮守府所属の旗艦阿武隈が率いる水雷戦隊が付き添っていた。
ちなみに大発動艇を操作しているのは睦月だ。
「それは少しおかしいですね。」
「「「「「「「え?」」」」」」」
「私は加藤元帥の大淀の元で一緒に仕事をしていたのですがそんな報告は一切ありませんでした。」
元帥の大淀というのは結構有名な話だ。
曰く、なんでもできる、出来ない事はないと。
曰く、いつのまにか仕事が終わっていると。
曰く、元帥の無茶振りにいつも何食わぬ顔で仕事していると。
まぁ、かなりすごい大淀という事だ。
そんな大淀の元で一緒に仕事をしていたというのか。
という事はあの大淀の弟子ということになるのか…?
そして今の発言。
何か裏があると全員が思った。
「大淀くん、それは本当なのかい?」
「そうですよ。五味渕提督は確かに大本営に報告すると言っていましたが…。」
「本当です。提督、少しその報告書を見せていただけませんか?」
「これだよ。」
そして大淀は報告書を受け取るとパラパラとめくっていった。
「なるほど、よく分かりました。」
「「「「「「「え!?」」」」」」」
パラパラとめくった時間はたったの十数秒。
その間に全て読んだというのか。
「はい、ちゃんと頭に入ってますよ。」
「時雨、この人やばいっぽい、やばいっぽい!」
「夕立…。そんなこと言っちゃダメだよ!」
「この報告書はいろいろと不思議ですね。」
そして大淀は一気に語り出した。
「そもそも鎮守府内部で行方不明になるというとこが不思議ですね。ちゃんとわかるように分かりやすい構造になっていますし目印もあります。そんな中で行方不明になるというのは相当アホの子です。ですが艦娘は建造であれドロップであれ、知識を持って生まれてきます。当然艤装も扱うのである程度の頭は持っています。ドジっ娘もいますがドジっ娘でもわかる構造です。なので鎮守府内で迷う事は絶対にありえません。次に監視カメラの映像ですが…。まぁこれは出入りする場所や重要な施設のみしか監視していないので映像に移らないという事は不思議ではないのですが、これは失敗してますね。後で映像を見ればわかると思いますがこの映像は恐らく編集されたものでしょう。実際の映像は削除されているはずです。これは後でみんなでみましょうか。そして最後にこのような重大な案件が大本営に報告されていない事ですね。恐らくは大本営内部に内通者がいると思いますが、そもそもこんなにずさんな警備ならば定期視察で引っかかるはずです。引っかかっていないという事はやはり裏がありそうですね。あぁ、後警備形態を強化したとありますがこれは嘘ですね。鎮守府内部はチラッとしか見ませんでしたが特に他の鎮守府と変わったところはありませんでした。監視カメラの位置もです。とまぁ、私の見解としてはこんな感じでしょうか?」
「「「「「「「……。」」」」」」」
一同は唖然としていた。
報告書を流し読みしただけでここまでの推測を立てたのだ。
「時雨、この人やばいっぽい、やばいっぽい!」
「確かにやばいかも…。」
「それじゃあなに?朝潮と霞は五味渕提督にさらわれたって事?」
「現状ではその可能性が高いかと。」
「えっと、それじゃあ〜朝潮ちゃんと霞ちゃんは死んでいないということね〜。」
「いえ、そうとも限りません。」
「どういう事だい?」
「私が元帥閣下の元で仕事をしていたときなのですが、一度だけ胸糞が悪くなる案件がありました。非公開なので他言はしないでください。後詳細も省きます。……あれは私が元帥閣下の大淀と一緒に仕事をしている時でした。元帥閣下が唐突にとある研究所に行くと言い出したのです。その研究所は艦娘について研究をしているところで、数名の艦娘が所属していました。私がその研究所でみたのは本当に最悪な光景でした。その研究所には数名の艦娘しかいないはずなのに、地下には20を超える艦娘が鎖に繋がれ監禁されていました。そしてその研究所にいた艦娘は全員全裸で至る所に青アザや出血の跡が見られました。恐らく慰み者にされ研究員のストレスのはけ口にされていたのでしょう。研究所にいた研究員は全て捕まり、艦娘たちは元帥閣下によって保護されました。保護された艦娘は現在療養中ですが、精神を破壊され未だに人間を拒絶している子達もいます。研究所にいた艦娘は他の鎮守府から秘密裏に送られた子達ばかりでした。」
「そんな…!?それじゃあ大潮たちのお姉さんもそういうところに送られたんじゃ…!?」
「まだ可能性の話です。……これが一番可能性が高いのですが…。」
みんな押し黙ってしまった。
当然だろう。
普通ならば知ることがない事を聞いてしまった、しかもその内容がとても悲惨だったのだから。
「提督さーん!到着しましたよー!」
どうやら高山達が所属する鎮守府に到着したようだ。
すっかり話し込んでしまっていたらしい。
お昼に出発したのだがもうすでに外は真っ暗だ。
「お疲れ様だったね。睦月君もありがとう。」
「無事に護衛できてよかったです!」
「ちょっと疲れたにゃしぃ〜…。」
大発動艇から降りると横須賀鎮守府にあった建物と同じ建物が目に入った。
ここが高山たちの所属する鎮守府、ラバウル基地だ。
そしてその建物からピンク髪とエプロンを着た女性がこっちに向かってきていた。
「お疲れ様です!工作艦明石です!よろしくお願いします!護衛の方々は後で工廠に艤装を預けにきてくださいね!一応メンテしておきます!」
「はーい!」
「疲れたにゃしぃ〜…。」
ガヤガヤと騒ぎながら護衛してくれたメンバーは工廠へと向かった。
「お疲れ様です。給糧艦間宮です。よろしくお願いしますね。」
「あぁ、よろしく。僕はこのラバウル基地配属になった高山だ。よろしく頼むよ。」
「それでは鎮守府内を案内しますね。」
そして高山たちはラバウル基地の施設を見て回り艦娘は艦娘寮で部屋決めに向かった。
ここは珍しい事に航空基地もあるようで戦略の幅も大きく広がりそうだった。
そして高山と大淀は間宮の案内で執務室へときていた。
「それでは私はこれで。夕食はできておりますのでいつでもお越しくださいね。」
「ありがとう間宮君。」
間宮が食堂へと向かった後残った2人は書類の確認等を行った。
「今すぐに提出しなければいけない書類はなさそうだね。」
「そのようですね。前任者がよっぽど真面目な方だったのでしょう。」
何かトゲのある言い方に高山は思わず苦笑した。
「さて、業務は明日からにして今日はもう休もうか。」
「では提督は先に休んでください。私は例の報告書を調べてみます。」
「い、今からかい!?大丈夫なのかい!?」
「そうですね、最大4徹までは大丈夫です。」
「いやいや、ちゃんと休まないと体に毒だよ!?」
「明日から始まる業務に支障をきたさない範囲でやりますから大丈夫ですよ。」
「……本当なら無理してほしくないんだけどね…。そこまでいうのならお願いするよ。朝潮君と霞君について何か手がかりでもつかんでほしい。」
「お任せください!」
そして次の日驚く事が発覚したのだった。
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