真・恋姫†夢想 三国志的中華飯伝 ~特級厨師流琉~   作:北郷ぱすた

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1章「覇道」
「はじめての料理と夢の始まり」


(すぅ・・・すぅ・・・ううん・・・)

(ご・しゅ・じ・ん・さ・ま❤ んちゅ~~~~んっ!)

(いかんぞ貂蝉、あまり大きな声を出してはご主人様が起きてしまう、ほれ見ろ。言ったそばから)

(うああああああああああああああああああああああ!!!!)

 

 

「んんっ・・・はっ!夢か。・・・・ってここどこだ!?」

 

一刀はなにか変な夢を見た気がしたが、それよりも起きた部屋がこれまで慣れ親しんだ聖フランチェスカの男子寮ではないことに一瞬驚いてしまった。

 

(そうだった、俺はもといた世界とは別の世界に飛ばされたんだった・・・)

 

気を取り直して軽く伸びをする一刀に、

 

「もう、朝からあわただしいですね。お兄さん」

 

振り返ればそこには身の丈一刀より20から30cmほど小さな少女。黄緑色のショートカットにリボンで縛ったアップバンクだ。黄金色のぱっちりとした瞳が可愛らしい。

 

一晩泊めてもらうことになったこの家の主の典韋さんだ。朝からもう元気そうで。

 

「天の国にいたときの夢を見ていました。さすがにこの大陸に来て1日じゃ慣れませんね」

 

そう言う一刀に、典韋は無理もないとその気持ちを悟ったのか、

 

「とりあえず朝食にしましょう、まだ献立は決めていないので有り合わせで何か作りますね」

 

そんな優しい言葉をかけてくれる。典韋のあまりに人間味のある優しさに、

 

「いや、昨日は身の回りのことをなにもかも典韋さんにやらせちゃいましたから今日は俺も手伝いますよ。これまでがどうであれ、今は俺もこの大陸の人間です。もう気持ちは落ち着きましたから」

 

一刀はこれ以上この典韋さんのやさしさに甘えてはいけないと感じた。

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

そうと決まればやるまでだ。一刀はさっそく典韋の力になろうと厨房に足を運ぼうとするが・・・

 

「じゃあさっそく厨房にっと・・・」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

突然そう典韋に呼び止められたので何かと思うと。

 

「ど、どうかしましたか?」

 

「ふつう許可なく自分以外の料理人の厨房には入ったりしませんよ。今回は私がお兄さんに手伝ってもらうからいいものの、他の料理人に同じことしちゃだめですよ」

 

普段の可愛らしい顔をした典韋さんが怒ってるとまではいかないものの、いつになく真剣な顔でそう言う。

 

「ごめんなさい・・・気が付きませんでした」

 

思わず一刀は面食らってしまう。

 

「いえいえ、私は問題ないので大丈夫ですよ。気を悪くさせちゃったらごめんなさい」

 

典韋は再び笑顔でそう言うと、一刀は考えを改めるようにして聞いてみる。

 

「それにしても、料理人にとって厨房ってそんなに気持ちのこもった場所なんですね」

 

「はい!料理人にとって自分の厨房は懐のようなものです。生まれてから死ぬまでそこで料理を作ることになる、まさに自分の居場所って感じです!」

 

典韋はその質問に胸を張って答えてみせる。厨房を語るその姿だけでも、料理人にとって厨房がどれほど大切な場所なのかを一刀は痛いほど思い知らされた。

 

(そうか、この大陸の料理人って職業は俺の国とは全く違うんだよな。これから気を付けないと)

 

 

 

 

 

-----厨房にて-----------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

この世界の厨房はもちろん、一刀の知る現代の厨房とは何もかも異なっており、そのすべてが新鮮に感じる。

 

典韋の厨房はというと、広くも狭くもなく、一見どこにでもある厨房に見えるが何やら高価に見える包丁やら料理素人の一刀が到底知らないような調理器具まで整然と陳列されており、そのたたずまいはどこか威厳に満ちていた。

 

昨日すでに典韋からこの世界の料理人の話は聞いていたが、いざ厨房にて料理人である典韋と相対すると一刀はその気迫に圧倒される。

 

「ところでお兄さん、自分の調理器具はもっていますか?包丁や俎板、鍋など・・・」

 

「な、なんにも持ってないですね・・・」

 

そういえばそうだ。料理を手伝うにしても自分の調理器具がなければ話にならない。

 

「あ、そうだ!」

 

そのとき一刀はこの世界に飛ばされる前の出来事を思い出した。たしか左慈と名乗る男に襲われた時、その手には『易牙之刀』を持っていたではないか。

 

(あれならもしかして・・・どこだ、どこにあるっ!)

 

体中をさすってみると制服のポケットに何か入っている。

 

「あった!これ、使えないかな?」

 

一刀は嬉しかった。こちらへ飛んできたときにどこかに落としたと思って焦ったが、その綺麗な包丁はポケットに不思議と綺麗に収まっていた。

 

(あれ、でもコレを見つけた時はたしか錆だらけだったよな?なんでこんなに綺麗なんだ?)

 

「包丁は持ってたんですね。それではお兄さんはその包丁を使ってください。俎板などは私の替えを用意しますので」

 

 

(見たことない包丁です。それにあの包丁、なにか・・・)

 

 

そう言うと典韋は一刀の分の料理器具を一通り用意すると、厨房の奥から典韋の身の丈ほどもある大堤のようなものを持ってきた。

 

 

「なんだそれ・・・!」

 

「これですか?私の愛用する俎板の『伝磁葉々』です。この俎板はすごいんですよ、きっと大陸中を探してもこんなにいい俎板はそうそう見つかりません」

 

なんとこの巨大な円柱状の"それ"は俎板だと聞いて、一刀は驚くしかない。

 

「なにがそんなにすごいんですか?」

 

「まぁ見ててください」

 

典韋は朝食に使うであろう食材の中から魚を一尾と野菜を適当に1つ取って俎板に乗せて捌いて見せる。

 

 

 

すると・・・

 

「すごい!俎板の上の魚が活き活きし始めたぞ、それに野菜もさっきより新鮮に見える」

 

 

なんということだろう。朝揚げの川魚であろうか、これまでピクリとも動かなかったその魚は『伝磁葉々』の上では鱗は輝き、口をパクパクさせている。野菜に至っては表面のみずみずしさからその発色まで鮮やかに見える。

 

「そうです、この伝磁葉々はその上に乗せられた食材が本来持っている魅力と美味しさ、新鮮さといったあらゆる可能性を全て引き出すんです!」

 

(すごい。すごすぎる。この世界の料理人っていったいどれだけのこだわりと技術を持っているんだろう)

 

 

「料理人にとっては調理器具も本当に大切なんですね」

 

「そうですよ、厨房が私たち料理人の居場所なら調理器具は自分の分身です。その人の調理器具を見ればどんな思いで料理をしているのか、どれほどの腕をしているのか全部わかっちゃうくらいです!」

 

典韋は目を輝かせながらそう語ると同時、すこし遠くを見ながら、

 

「これは昔、私の大切な親友と料理の鍛錬をしていたころ、一緒に紫檀を削り取って作ったんです。この伝磁葉々には紫檀の木霊が宿っていると言われています」

 

紫檀といえば三大唐木の1つで最高級の材木だ。表面が滑らかで虫や菌がわかないことで知られており、仏壇や数珠などにも使われる。

 

「この小さな村にも他に料理人が居るんだ。その子とは今も鍛錬してるの?」

 

 

(そういえばこっちに来てからまだ典韋さんにしか会ってないんだよな。ほかにも料理人ってたくさんいのかな)

 

 

「いえ、あの子はいま・・・」

 

グツグツグツグッツじゅわ~っ!!!

 

「ん?何か言った?」

 

「なんでもありません。それよりお粥ができあがったみたいです。」

 

中国文化圏では一般的な朝食の家常海鮮粥だ。

ふつう具材と米、少し多めの水で炊きだすのが通例だが典韋は具材を一度煮立ててから粥に馴染ませる回鍋式であるらしい。

 

「ふつうの海鮮粥は具材と合わせて炊き出しますが、私は必ず食材ごとに煮立てて最後に合わせます。これは食材ごとに一番おいしくなるような加熱時間があるからです。もっと言えば同じ食材でも1つ1つに適した加熱時間がいちばんです。それを見抜くのも料理人の腕の見せ所ですよ」

 

話を聞くと、なんでも典韋は調理法だけでなく食材も露店や商人から買うときでさえすでどう調理するかを先に考え、食材を吟味しているらしい。それどころか産地だけでなくその土地の土壌・気候・農家の技術も見抜き、最もよい入手経路で食材を仕入れているらしい。

 

ただの日常の1日の朝ごはんだと思っていた一刀。しかし典韋のこだわりと技術は尽きることなく一切の妥協はない。

 

「私は先に残りの野菜に火を通しつつお粥の火加減を調節してますね」

 

典韋の厨房での立ち振る舞いは手際の良いなどという言葉では言い表せないほど。

 

ジュウウウウッッッ!!!!  しゅわっっ!!!

 

典韋はその小さな身体で大きな中華鍋を大きく振るい、湯に野菜を通している。ともすれば竈の炎を火吹竹で絶妙な加減に保っている。

 

(まだこの世界の料理人を知らないけれど、典韋さんってもしかしてすごい人なんじゃないか?)

(調理器具や厨房だけじゃない。典韋さんは料理の腕も半端ない・・・!)

 

「それじゃあ一刀さんも残りの食材を切ってください。海鮮粥ですので、烏賊、葱、生姜をお願いします」

 

(手伝ってくれるのはうれしいんですが、大丈夫でしょうか・・・って私としたらなんて失礼なことを!)

 

そんな考えが浮かんでしまった典韋は、一刀に悟られぬようそのような思案を心の中で払拭した。

 

 

 

一刀は、典韋の厨房での立ち回りを見てからでは自分が包丁を持つのも緊張してくる。

 

(よく考えたらまずいぞこれ。もし俺がなにか失敗したら典韋さんの料理を台無しにしてしまうぞ。めっちゃ緊張するなぁ・・・)

 

一刀は若干手を震わせながら俎板の上に烏賊を1匹乗せると包丁を握り・・・

 

その瞬間。

 

 

 

(あれ・・・?食材の切り筋が・・・見える!?)

 

 

 

易牙之刀と書いてあるその包丁を握ると、まるでその食材の味を損なわない最良の切り方が頭に浮かんでくるよう、いやこの包丁が教えてくれているのだ。

 

思わぬ事態に緊張も解れた一刀は剣道仕込みの集中力で目の前の烏賊に包丁を一太刀入れる。

しかし、

 

(あれ?切れ味が滑らかなのは確かなんだけど、うまく包丁が入らない・・・くそっ!)

 

一刀の包丁捌きを気づかれぬよう注視していた典韋はその一太刀を見逃さなかった。

 

(烏賊の耳を下に向けて胴横から入れるあの太刀筋・・・しかもあの烏賊の発色は食べごろに達していて肉質の硬さを考えれば私も同じように太刀を入れるはず。明らかに料理経鍛錬者のそれだ)

 

(でもおかしい。食材の見る目や太刀筋は玄人さながらなのに、うまく刃を入れられてない。どういうことでしょう。あの包丁を扱いきれていない・・・?)

 

「あのう、お兄さんにひとつ聞きたいんですけど、天の国ではよく料理をしてましたか?」

 

「いや、俺は学生寮・・・えっと宿場みたいな場所に住んでたから料理は全くしなかったよ」

 

「でもよくテレビの料理ばんぐ・・・えっと他の人が料理をするのは見たことあるからそういう偏った知識はあるかもしれないね。例えば、烏賊は生食なら一度氷で〆ると味が甘くなるとか、バター醤油で炒めるとおいしいとか」

 

「バ、バター・・・ですか?」

 

「あぁそういえばこっちの世界にはまだない食材もあるのか・・・いや俺のいた世界では世界中の食材や調理法をみんなが当たり前のように知ってたんですよね。わけわかんないこと言ってごめんなさい」

 

 

(・・・え?お兄さん、ほんとに料理人じゃないの?この包丁の太刀筋、食材を見る目、なにより私だけじゃない、この大陸でまだ誰も知らないような料理の知識を持ってるみたい・・・)

 

 

典韋はその心の内に秘めていた夢を想う。

 

 

(私・・・この人となら、もしかしたら・・・)

 

 

「典韋さん、この茹で上がった野菜と烏賊、混ぜちゃっていいですか?」

 

「は、はい!そうしたら完成です。お皿に盛り付けましょう!」

 

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「おお、できた!いただきます!」

 

「いただきます」

 

まず典韋が一口食べ始める。

 

「うん、今日のはまずまずですね。お兄さんはどうですか?」

 

典韋は可もなく不可もなくといった感想だが、一刀にとっては期待と不安でいっぱいだ。

 

(俺が少し手伝ったとはいえ、ほぼ典韋さんが作ったようなものだもんな。俺の切った食材、大丈夫かな・・・)

 

一刀はできたての海鮮粥を散蓮華で少し掬ってほおばる。

 

ぱくっ

 

 

 

「・・・・・・うまっ!!!なんだこりゃ!!!???」

 

あまりの美味しさに一刀の頭が追い付かない。

 

(いままでお粥なんて風邪をひいた時しか食べてこなかったけど、こんなに美味いお粥があるのか?いや、たぶん聖フランチェスカ専属の料理人でもこんな美味いの作れないぞ)

 

(粥の炊き加減も具材と合わせることを想定してかやや硬めで塩加減もちょうどいい。具材は食べただけで俺の切った烏賊が悪い意味で存在感あるぞ。。。典韋が切った他の食材はまるで切り目の細胞が切れてないくらい舌触りが滑らかで。ゆで加減も本当に食材に合わせてるんだなぁ)

 

「そんなに美味しかったですか?これもお兄さんが手伝ってくれたおかげですね」

 

「いや、まじでそんなことないです!ほんとに!」

 

「ふふ、そんなことありますよ」

 

一刀は申し訳なさそうに肩をすくめると、お互い笑いながら楽しく食事を進めた。

 

-----その晩--------------------------------------------------------------------

 

一刀は身支度を整え、たった1日だがお世話になった部屋を見渡す。

 

(ここに泊まるのももう終わりか。典韋さんの料理、本当に美味しかったな)

 

「典韋さん、今日も俺が手伝えたのは朝食の料理だけでした。なんだか申し訳ないというか・・・」

 

今日もこの世界で生きる自分に無力感を感じながら典韋に話しかける。

 

「そんなことありませんお兄さん!昼間だって家の周りの雑草を抜いたり部屋の掃除をしてくれたじゃないですか。私、すごく助かってます」

 

典韋は心からそう言って聞かせる。

 

「そう言っていただけると嬉しいです。でもこれからはもう自分で何とかしないと・・・今日までお世話になりました!」

 

そう言って深く頭を下げると、一刀は小ぎれいになった部屋に背を向けて戸を開けて行こうとする。

 

「ちょ、ちょっとどこに行くんですかお兄さん」

 

典韋は慌てて一刀の袖を引き、ひとまずそこに繋ぎとめる。

 

(典韋さん、本当にやさしいな。この世界に来て最初に会ったのが典韋さんで本当によかった。)

 

「もともと俺がここに泊まるのも昨晩一夜だけって約束でしたから。これからなんとか寝れる場所を探してみます」

 

一刀は後腐れの無いようもう一度頭を下げて出て行こうとする。

 

 

 

 

「待ってください!」

 

「私、全然迷惑なんかじゃありません。お兄さんが良かったらこれからもここに泊まってください。一人の料理人として、お兄さんがお腹がすいてそのへんで野垂れ死ぬなんてことさせるわけにはいきません」

 

典韋は思わず少し大きな声で一刀を呼び止めた。

 

一刀は驚いた。しかし同じくらい嬉しかった。昨日初めて会った異国の自分にこうも優しくしてくれるなんて。

 

「いいんですか?でも俺まだこの世界のことよく知らないし、何か役に立てるか分からないです

けど」

 

「問題ありません。よかったらこれから毎日私が作る料理の味見をしてください。自分以外の人の感想ってとても貴重なんですよ」

 

「それに・・・」

 

突然、典韋は少し恥ずかしそうに下を向いて黙ってしまった。

 

「どうかしました?」

 

一刀が尋ねると、意を決したのか、

 

「私、お兄さんに話したいことがあるんです・・・!」

 

そう言って頭をあげると、そこには一刀が彼女と会ってからたった2日、短い間だが彼女の色々な表情を見てきた。

典韋は、そのなかでも一番に真っすぐな目をしてこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

『私の夢を聞いてくれませんか』

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、この日の晩だ。

この晩の会話こそが、この外史の本当の始まりなのであった。

 

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こんにちは、ぱすたです。
やっと導入が終わったと思いきやまだまだ背景設定の説明不足です(汗)
次話では典韋がひそかに持っていた夢の話と、一刀の今後の方針を決める話にしようかなぁと考えています。
真名呼び兄様呼びの解禁も近いです。
季衣の話は今回でもったいぶってますけどまだ登場のさせ方は考えてません(笑

そういえば今作では俎板となってしまった「伝磁葉々」ですが、原作では遠方の敵ならまだしも、接近戦だと流琉の担いでるCGから察するに殴りつけるんですかね・・・?
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