真・恋姫†夢想 三国志的中華飯伝 ~特級厨師流琉~ 作:北郷ぱすた
『私の夢を聞いてくれませんか』
そう切り出した典韋はひと際真剣なまなざしで一刀に語りかける。
「一刀さんに昨日お話ししたようにこの大陸は今にも乱世をむかえようとしています。いま私たちのいるこの村も昔に比べて賊に襲われる回数も多くなっています。事の発端はお兄さんも知っているように宮廷の悪政です。洛陽では桓帝の代より宦官との権力争いが絶えず、いまや12代目皇帝である霊帝は政に関心がなく、側近の張譲や趙忠を筆頭とする宦官ら十常侍によって権力が掌握されています。宮廷ではより高級で美味しい食材を手に入れようと何進をはじめとして民に重税を課してはお金を巻き上げています。街の補修や警邏も怠り地方豪族の意見も聞く耳を持ちません」
先ほどまで典韋の家を出て行こうとしていた一刀は典韋の話にすっかり聞き入っている。
「そして今では乱世を予期した各地の豪傑の料理人が大陸に和を唱えようと立ち上がっています。その気持ちは私も同じです!」
だんだんと話が見えてきた一刀。そして典韋は一刀の予想するところそのままに、
「私、料理でこの大陸を正しい在り方に導きたいんです。お兄さん、私といっしょに
当然、二つ返事ではいと言えるはずもない一刀は、
(言いたいことは分かるが、いきなり大陸の乱世を治めようと言われてもそう簡単に返事はできないよな)
「あの、典韋さん。典韋さんの夢はたしかにわかりました。でもなんで俺なんかと一緒なんですか?典韋さんの料理の腕なら一人でもきっと通用しますよ。それに今日の朝食を作っていて分かる通り、俺なんてきっとこの世界の料理人と比べたら手も足も出ませんよ」
「そんなことありません!私がお兄さんといっしょがいいのはちゃんと理由があります。今朝のお兄さんの包丁捌き、あれは絶対に初心者ではできない動きでした。それにお兄さんと話していると、この世界の私たちの知らないような料理の知識も持っていると思います。いまはまだまだかもしれませんが、修行をすればきっと、いや絶対にすごい料理人になれます!」
見た目の幼さを感じさせない典韋の理路整然とした物言いについに一刀は、
(なんだかスパルタじいちゃんの言葉を思い出すな・・・『剣道とは剣の道、すなはち単に強くなるだけではいかんのじゃ。人を信ずる心それすなはち優しき心こそ真に持つべき強さじゃ。』)
もういつも通っていた聖フランチェスカも住み慣れた街もすごく遠くに感じる。けれども本当に大切な思い出や言葉はどんなに離れていても心に刻まれているものだ。
(『それを返せと言っている!!!』)
思い返せば突然変な男に襲われて、この世界に来て、典韋さんに出会って、今までのことが偶然ではなく
(じいちゃん、やっとじいちゃんの言葉の意味が分かった気がするぜ)
「わかりました。俺は典韋さんについていきます。そこまで俺を信じてくれた人を裏切ることはできません。」
「そ、それじゃ・・・」
「もしこの世界に困っている人がいるのなら、そしてその人たちを助けるのに俺が力になれるのなら、俺は自分にできることを全力でやりたいです」
一刀ははっきりと告げた。
典韋は太陽のようににっこり笑って、
「ほんとう・・・ですか!ありがとうございます!改めてよろしくお願いしますね、兄様!」
「こちらこそよろしく・・・っていまなんて?」
「どうしたんですか兄様。私、なにか変なことでも言いましたか?」
「いやその『兄様』ってなんなんですか?」
突然自分の呼ばれ方が兄様になって驚かない人がいるだろうか、いやいない。
「何って、兄様は兄様ですよ。これから私たちはともに志を同じくする仲間なんですよ。もう他人じゃありませんから、兄様でいいんです!」
「いやだからって兄様ってのは・・・」
「い・い・ん・で・す!心の中のもうひとりの私が兄様と呼べと訴えています。あとさっきからのその敬語ももうやめてください」
(兄様、よく見るとかっこよくて、私より年もきっと上で。なんだか本当のお兄ちゃんみたい・・・って何を考えてるんですか私は!)
流琉はまるで他の世界の自分が一刀を兄様と呼んでいたかのようにしっくりきたらしい。
「やめてっていわれても、そんないきなりは」
「それから兄様はこれから私のことは真名で呼んでください。私の真名、『流琉』を兄様に預けます」
「真名ってそれも昨日教えてくれた真に信頼できる人にしか預けない名前てやつか。じゃあ流琉、でいいのかな」
「はい!それから私は呼び方こそ兄様ですが、兄様も私に真名を教えていただけるとうれしいのですが」
ここで一刀は困ってしまう。なぜなら一刀は生まれてこのかた、自分の真名なるものを聞いたことがないからだ。
(まずい、どうしよう。今のこの雰囲気、明らかに互いに真名を預けて親睦を深める場面だよな・・・)
(しかたない・・・)
「えっと、俺の世界の人はその真名ってやつを持ってないんだよね。でも親しい人は互いに下の名前で呼ぶんだ。だから俺の名前『一刀』を真名と思って受け取ってくれ」
「真名がないなんて珍しいですね。でも、わかりました。それで、これからのことなんですけど、まずは特級厨師を目指して鍛錬しましょう」
「それも昨日聞いたやつか、たしか各州で開かれる特級厨師認定試験で優勝すればいいんだっけか」
「はいそうです。特級厨師認定試験は4年に一度開催されます。各州の腕利きの料理人がこぞって参加するため予備試験と本試験の二つに分かれています」
流琉は昨日一刀に話したよりももっと詳しく教えてくれる。
「なんだかすごいな。やっぱり特級厨師になるのってかなり難しいのか?」
「はい、間違いなくこの大陸最難関の試験と言っても良いでしょう。認定協会の試験官から言い渡された無理難題なお題の料理を作り、自他ともに認める美味しい料理が作れなければいけません」
「それに一回の認定試験で特級厨師になれるのは多くても2,3人ですが、予備試験の参加者を合わせると数百人にもなりますから」
その言葉を聞いた一刀は思わず少ししりごみしてしまった。
「す、数百人の中から四年に一度に2,3人って・・・並みの実力じゃ無理だな」
「だからこそ意味があるんです。この乱世の時代だからこそ、料理で平和を取り戻すには特級厨師くらいの実力がなければ不可能です」
「逆に言えば特級厨師であることが看板にもなる、だからこそその実力も確かなものってわけか」
「そうです。この大陸の料理人の階級は10級~1級の初級厨師、初段~5段の中級厨師、6~9段の上級厨師、そして最高段位である特級厨師となっています。この階級は過去の特級厨師認定試験の結果や普段の料理戦の番付で認定協会から交付されます」
一方、流琉はすでに認定試験のことをよく知っているのか淡々と解説して見せる。
一刀はそういえばと思いついたように、
「ちなみに流琉はいま何の階級なの?」
(今朝の流琉の料理を見た限り、この大陸でも指折りの料理人に違いないはず・・・)
「私は5段の中級厨師です」
(え・・・?)
一刀は驚いた。今朝食べたあの珠玉の一品を作った流琉にしてみてもこの大陸にはまだ上がいるのかと。
「え、流琉の実力で中級なの・・・?そりゃ特級厨師なら天下も治められそうなわけだ」
「そうです。さらにその認定試験があるのが今年。今から約半年後です」
「って半年後!?割ともうすぐじゃないか」
「たしかに時間はあまりありません。けれど兄様ならきっと特級厨師になれます。だから私と特級厨師を目指しましょう!」
そうだ。いまの実力でダメなら努力して強くなればいい。今までの剣道の稽古だってそうだったじゃないか。
「おう!そうと決まれば明日から練習だな」
一刀ははっきりとそう言って気持ちを新たにする。
「もちろんです!それじゃあ今日はもう夜も遅いので寝ましょう。おやすみなさい兄様!」
そう言って嬉しそうに駆け足で自分の部屋へと戻っていく流琉。
一刀は手に持っていた荷物を部屋に広げ、寝床に大の字になって横になった。
「料理戦に特級厨師か、きっと平坦な道じゃないだろうな。けど・・・もう俺は一人じゃないんだ。流琉といっしょなら、きっと頑張れるはずだ」
そう呟くと一刀は眠りについた。
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翌朝。
「わぁぁぁぁ!!!!!」
「逃げろぉぉぉ!!!!」
微睡の中、一刀の安眠を妨げるのは外から聞こえてくる悲鳴と怒号であった。
「んっ・・・・はっ!いったいどうした?」
時を同じく一刀の部屋に急いで走り込んでくる流琉。
「兄様たいへんです!」
「いったいどうしたんだ流琉!」
一刀はすかさず流琉に問うと、一刀にとって思わぬ答えが返ってくる。
「村に賊が・・・賊が来ました」
「なんだって!!??」
これから特級厨師を目指して鍛錬をしようと思った朝に。一刀にとって最悪の目覚めであった。
次回。一刀、はじめての料理戦!
こんにちは、ぱすたです。
やっと流琉って呼べましたね。兄様呼びも健在です。
次回は一刀にとってはじめての料理バトルですが、相手はお察しのとおり恋姫シリーズではモブキャラでありながら地味に最古参キャラというあの3人です。
それではまたm(__)m