吾輩はフェストゥムである。   作:ミツバチ

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人類の火である

 L計画が始まってから二週間が経過した、とある晴れた日に。

 

 俺達は―――“彼女”に出会った。

 

 * * *

 

 吾輩は■■した。

 

 彼の邪知暴虐の人類軍を■かねばならぬと■■した。

 

 核攻撃を受けて丸焦げになった体を引き摺って、吾輩は空へ飛び上がる。しかし本当に飛行できているのかどうかについては分からない。爆発時に発生した膨大な熱と煙によって、外界の認識能力が著しく低下しているからだ。

 

 兎にも角にも、吾輩は飛行能力を駆使して爆発圏から逃れる。

 

 やがて視界が明け、晴れた空――否、つい先程まで晴れていた筈の空が視えた。

 

《…………》

 

 今はまだ安全ではない。

 逸る気持ちを抑えつつ、吾輩は出来得る限り急速にその場から離脱する。

 

 しばらくして、もう安全だろうと判断した吾輩は地上へと降りた。そして包むようにして両手(※正確には人間の手を模して変化させた触手)で覆っていたものを恐る恐る外気に晒す。そして、静かに問い掛けた。

 

《……あなたは、そこにいますか?》

 

 答えはなかった。

 

 掌の中にあるソレは、ぴくりとも動かない。

 

 ソレは人間だった。

 

 正確には人間だったものだ。

 奇跡的なことに外傷はなかった。だが、息をしていない。死因は爆発時の衝撃か。無理もない。この娘は吾輩のすぐ傍――爆心地のただなかにいたのだから。

 

 吾輩は振り返る。

 

 向こうの方で、火の手が上がっていた。灰色の爆煙が、未だもくもくと渦巻いている。

 

 そこにあったのは人の街だ。

 

 吾輩の観察対象であった人類の居住区。人類軍から取り残され、そしてフェストゥムから同化を免れた稀有な群れであった。

 

 なぜ彼等が今日まで同化を免れたのか――それは、吾輩が同輩(フェストゥム)を遠ざけていたからだ。

 

 あの群れは、フェストゥムに追われ、そして人類軍から見捨てられた者達が集まってできたものだった。

 そういった者達が少しずつ集まり、身を寄せ合ってできた場所だった。

 吾輩はそんな彼等をずっと傍で観察していた。観察対象がいなくなってしまうのは問題であるため、定期的に現れては同化を要求する同輩(フェストゥム)の悉くを消し続けていた。

 

 ……しかし、その結果がこれであった。

 

 人類軍のフェストゥムに対する感情は、吾輩には到底測りえない域にまで達しているのだろう。フェストゥムは敵。敵に迎合するものも敵。敵は消す。それがたとえ同種であろうとも―――

 

 こわい、などとはいえぬ。

 最早、恐怖すら湧いてこなかった。

 

 ただただ、体が重い。この器はもう限界だ。新しく作り直す必要がある。

 

 吾輩は人間の死体を抱き、地面に蹲った。そして損傷した器を新生するため、己を中心にして大規模な同化現象を発生させる。瞬く間に吾輩の全身が碧い結晶によって覆い尽くされた。

 

 * * *

 

 新生した吾輩は海上を移動していた。

 

 特に理由はなく、気紛れである。……強いて言うならば、もう地上には他に目新しいものはないだろうと思ったからであるが。

 

 我々フェストゥムは海水が苦手である。代謝機能がないために海中に漂う結晶を片端から同化してしまい、動けなくなった末に自壊してしまうからだ。

 

 無論、その性質は吾輩も同様である。

 

 よって吾輩は海には近づかず大陸内部の人間を観察することに終始していた。だがそんな枠に留まっていては到底人間を理解することなど不可能だろう。少なくとも、もうあの大陸には観察すべきものはあるまい。仮にあったとしても、また人類軍の攻撃を受けるのが落ちだ。

 

 しかし、だからと言って――果たして、海上に観察対象がいるのかどうか。楽観はできまい。吾輩の前途は多難であった。

 

《―――む?》

 

 などと考えていた矢先に、吾輩の探知能力(レーダー)に反応有り。

 どうやらこの近海に数十人の人間がいるようだ。

 

 これ幸い、とばかりに吾輩はそちらへと向かうことにした。

 

 接近途中であまりよくない反応を感知。

 どうやら吾輩以外のフェストゥムがいるようであるな。数は壱――いや、伍? どちらにせよ、刻一刻と人が消えているのは間違いない。

 

 全滅させられては困る。まだ吾輩が観察していない。急がなければ。である。

 

 反応が近い。

 見えてきた。

 

 アレは人間の造った艦、であろうか。鉱物の塊が海の上に浮いている。

 同化した人間から収集した情報を検索。該当した項目は潜水艦と人工島。恐らくはその二つの用途で建造された被造物だろう。読み取った限り、内部に人がいるのは間違いない。

 

 しかし――アレはなんであろうか?

 

 甲板に二つ、紅い人型の巨人が屹立している。そしてフェストゥムと戦闘を行っていた。

 

 あの紅い巨人……目視するまではフェストゥムだと思っていたが、どうやら違うようである。反応は至極我々に近いが、しかし見るからに人の被造物であることは明白だった。

 

 紅い巨人とフェストゥム。二対一の戦いであるが、紅い巨人の側が劣勢であるように見える。スフィンクス型(※後にウーシア型へと名称を改められる)フェストゥムの巨体と外観を無視した変幻自在な攻撃に対処できないようだ。

 

 ……それに、紅い巨人の動きがどこかぎこちない感じがするのも原因かもしれない。

 

 兎も角、あの三体の戦いに巻き込まれて人間がいなくなってしまっては困る。見たところによると紅い巨人は人工島を護っているようであるし、ここはひとつ彼等に手を貸して同輩を消してしまうとしよう。

 

 臨機応変で柔軟な対応ができる吾輩、すごく賢いであるなぁ。

 

 そんなことを考えつつ、紅い巨人に圧し掛かっていたフェストゥムに渾身の体当たり。弾き飛ばしたところで指を触手状に伸ばし、槍に見立てて貫く。

 

 指先から相手の存在を感じると同時に――同化開始。

 

 同輩の体が隙間なく碧い結晶で覆われる。そして、砕け散った。

 

《ご馳走様でした。である》

 

 食後にはこの一言を添えるのがマナーであると吾輩は学んでいる。その情報に基づいての発言であった。他意はない。

 

 吾輩はその場で反転し、二体の紅い巨人に向き直る。

 

 彼等は突然の闖入者に戸惑っているようだった。

 

 ……ようだった、などと曖昧な表現しかできぬのは、なぜかこの者達の心が読めぬからなのだが。より正確にいうなら、雑音が酷すぎて読めないという方が正しいか。察するにこれは、読心能力を持つ我々フェストゥムに対抗するために人類が造り出した兵器といったところだろう。

 

 実に興味深いである。

 

 ……などと。ちらが悠長に観察している間に、二体の紅い巨人は手にした短剣状の武器を構え直してその切先をこちらに向けていた。このままでは攻撃されそうな感じであるな。読心能力が効かぬので気が付かなかった。うっかりである。

 

 兎にも角にも、こちらに敵対するつもりがないことを訴える必要がありそうだった。

 

《吾輩はフェストゥムである。(なまえ)はまだない。吾輩はお前達人類を理解すべく生じたものである。よって当方にお前達を同化する意思はないものである。繰り返す。吾がは―――》

 

 ―――勧告の途中で紅い巨人の片割れからビームを撃たれた。つらい。そしてこわい。アイサツ中にアンブッシュするだなんてそんな行為、吾輩、よくないと思うである!

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