《書き直し中》天才少女と元プロのおじさん   作:碧河 蒼空

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 私は配球に全く明るくないので、今回の話は温かく見守ってください。


18話 キャッチャーとバッターじゃ見え方が違う

 新越谷高校野球部は梁幽館対策として、藤井先生が春大会の梁幽館の攻撃を再現した梁幽館ノックと、引き続き先発が予想される吉川を視野に入れた対詠深のバッティング練習が行われている。

 

 昨日の梁幽館ノックは県大会編が終わった所で先生がダウンした為、関東大会編は今日に持ち越されていた。明日は試合前日となる為、本格的な練習は今日が最後となる。

 

 マウンドに立つのは例の如く詠深だが、いつも彼女の球を受ける珠姫は右打席でバットを握っていた。

 

「遠慮なくシュバッと投げちゃって良いからねー!」

 

 珠姫に代わりキャッチャーマスクを被るのは全てのポジションをこなせる新越谷のユースリティプレイヤー、正美である。

 

《タマちゃん一度もヨミちゃんでバッティング練習してないでしょ?》

 

 正美のこの一言から現在の状況が生まれた。最初、珠姫は、自分はいつも受けているから大丈夫、と言っていたが、正美にキャッチャーとバッターじゃ見え方が違う、と押しきられたのだ。

 

 正美がキャッチャースボックスにしゃがむと、珠姫もバットを構える。

 

 他の部員もバッテリー対決を見守っていた。何せ、詠深と珠姫の勝負はこれが初めてだったりする。

 

 第1球。外角低めに構えた正美のミットにコントロールされたストレートが吸い込まれた。

 

「ストラーイク!」

 

 正美はストライクジャッジをして、詠深にボールを返す。B0ーS1サイン交換を行うと、正美は再び外角にグラブを構えた。ただし、先程より少し高め。

 

 第2球。詠深から放たれたボールを目掛け、珠姫はスイングするが、バットはボールを捕らえる事なく空を切る。投じられたのはナックルスライダー。ボールは正美の前でバウンドし、彼女の体に止められて前へ転がった。B0ーS2

 

 捕手が変わればリードが変わる。詠深のナックルスライダーを、珠姫は顔面四分割でストライクを取りにいくのに対し、正美はストライクゾーンからボールに逃げていく球として使用した。強気に責める珠姫に対し、緩りと躱す正美。二人ともリードが性格を反映している。

 

 ちなみに、珠姫であればナックルスライダーを完全捕球し、スムーズに返球するが、バッテリーを組み慣れていない正美はこの様に体で止めるがやっとだ。勿論、慣れれば捕球出来るようになるであろうが、正美のキャッチング技術は珠姫に及ばない。この様なテンポの変化を始めとしたズレにより、ピッチャーが調子を崩すことも多々あるのだが、そこは良い意味で鈍感な詠深である。この位で調子を崩したりはしない。

 

 3球目。1球目と同じ所にナックルスライダーを投じるが、珠姫はバットを途中で止めた。B1ーS2

 

 4球目。内角低めのボールゾーンに白球が迫る。

 

――ボール······いやっ、違う!

 

 珠姫はこのボールを何とかカットした。球種はカットボール。正美はフロントドアを仕掛けていた。B1ーS2

 

 今のは普段、詠深をリードしており、彼女の球を誰よりも分かっている珠姫だからこそカットできたが、対外試合であれば見逃し三振に斬っていてもおかしくなない。

 

 詠深の強みの一つは同じリリースでストレート、ナックルスライダー、ツーシーム、カットボールの四球種を同じ球速で投げ分けることである。

 

――チェンジアップとか緩急を使う球があれば、もっと配球が楽になるんだけどなー······。

 

 躱すタイプのキャッチャーである正美はチェンジアップからのツーシームで打ち取りたいと考えていたが、無い物ねだりをしても仕方がない。1球、外にストレートを外した。B2ーS2。

 

 珠姫はこの後、更に2球粘る。

 

――ま、最後はこの球だよね。

 

 サイン交換が終わると、詠深はゆったりとしたフォームから7球目を投じた。白球は珠姫の顔面へと迫る。これは珠姫の良く知る軌道だった。

 

 珠姫は渾身のスイングを放つが、白球は正美のミットに吸い込まれ、乾いた音を球場に響かせた。

 

「ストライク、バッターアウト!」

 

 最後の球は顔面四分割のナックルスライダー。詠深の代名詞である。

 

 驚きの表情を浮かべていた珠姫だったが、すぐに腑に落ちたものへと変わっていった。

 

「キャッチャーとバッターじゃ見え方が違う······確かにその通りだね」

「吉川さん相手にも油断しないようにね」

「肝に命じとくわ」

 

 正美の釘を指す言葉に珠姫は清閑な顔で答える。

 

「さて、それじゃあキャッチャー交代しますか」

 

 そう言って防具を外そうとする正美に待ったが掛かった。

 

「うちも二人と勝負させて!」

 

 常に強者との勝負を欲する新越谷一の熱血野球少女、希である。

 

「と言ってますが、タマちゃんどうする?」

 

 正美の視線の先にはムスっとした珠姫がいた。詠深が吉川に嫉妬する様子に呆れていた珠姫だったが、どうやら彼女も詠深をとられるのが嫌らしい。

 

「別に私に聞く必要ないわよ」

 

 珠姫は誤魔化すように視線を逸らした。

 

「またまたー」

 

 正美は詠深の頬を人差し指でつつく。

 

「ちょっ、正美っ!」

「わーっ、ごめんごめん」

 

 慌てて声を上げる珠姫に距離をとりつつ、笑いながら謝る正美。

 

 そんな様子を見た藤井先生は咳払いをする。それに気付いた一同はすぐ練習に戻るのだった。




 キャッチャーとしての実力は正美より珠姫の方が格段に上です。



 この前、球詠関係のクラウドファンディングを見つけたので、興味のあるかたはご覧になってみると良いかもしれません。
https://camp-fire.jp/projects/view/314380
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