【2021.12.25改稿】1話 せっかくのゴールデンウィークなのになー······
太陽は一番高い辺りに上っている。正美はゴールデンウィークであるにも関わらず、彼女の通う学校、新越谷高校に来ていた。宿題を片付けようと鞄を開いた時に宿題のテキストをロッカーに忘れていたことに気付いたからだ。
――せっかくのゴールデンウィークなのになー······。
校門を潜った正美は心の中で呟きながら溜め息を吐く。物憂いさに浸りながら校舎へ向けて歩を進めていると一定の間隔を刻みながら甲高い金属音が聞こえてきた。それは正美もよく知るバットが打球を捉える音である。
――そっか。野球部はゴールデンウィークも練習してるんだー。
正美の通う新越谷高校の野球部は、以前は強豪として知られていた。しかし、近年は低迷しており去年、部内で不祥事があって活動を休止していたのだ。
少し興味が湧き、正美は野球場に立ち寄ることにした。
元強豪校だけあり、野球部の設備はかなり良い。専用のグラウンドがあることからもその事は窺えた。
大した時間を要さずに正美は野球場に着いた。ライトのフェンスを隔てて外から様子を伺うと、中では野球部がバッティング練習を行っている。
――あ、大村さんだ。
二人ずつバットを振っており、そのうちの一人は正美のクラスメイトである大村 白菊だった。白菊は度々ホームラン級の鋭い打球を飛ばしていたが、それ以上に当たりそこねる事が多く確実性に欠ける印象を受けた。
暫く練習を眺めていたら各々出入口へと向かっていく。どうやら練習が終わったようだ。
折角なので正美は白菊に声を掛けようと自らもグラウンドの出入り口に向かう。
「大村さん!」
白菊に追いついた正美は彼女に声を掛ける。白菊は自分を呼ぶ声に気付き、振り返った。
「三輪さん!?どうされたのですか?」
ゴールデンウィーク中にも関わらず正美が学校に居る事に白菊は驚いた様子を見せる。
「教科書を持って帰るの忘れちゃってさー。にしても、凄いバッティングだったねー」
「ありがとうございます。でも、まだまだ下手で······」
そう言って白菊は肩を落とす。
「白菊ちゃん、先に行ってるね」
「あ、はい。分かりました」
白菊のを除く野球部の面々がこの場を後にし、ここに残ったのは正美と白菊だけとなった。
「大村さんは今日は練習終わり?」
「ううん、まだ午後も練習があるんです」
「あらら。休みなのにガッツリ練習してるんだね」
「はい。今は学校に泊まり込みで合宿しているんですよ」
思っていた以上のハードスケジュールに正美は驚く。
「はえー、そうなんだ。なら、あまり邪魔しちゃ悪いからもう行くね。…………あ、そうそう」
正美は思い出したように言う。
「バット振る時はもっと後ろを広く使った方が良いよー」
「え?」
白菊は正美の予想外のアドバイスに疑問符を浮かべた。そんな白菊に正美は動作も交えバッティングのアドバイスをし始めた。
正美は知らない事だが、白菊は剣道経験者である。剣道においてバッティングに近い動作で逆胴というものがある。胴を打つ際は竹刀を鋭角に振り下ろすのだが、白菊は野球でも逆洞の名残からかトップからミートポイントまで真っ直ぐ振り下ろすスイングになっていた。これではバットとボールの軌道が重なるエリアが狭くなってしまう。
正美の助言は今よりも後方からバットを出すことでこのエリアを広くするというものだった。
「三輪さんは野球をされていたのですか?」
「そうだよー。とは言っても草野球だけどね。今もパパと同じチームでやってるんだー」
「そうなんですね。ありがとうございます。午後の練習で試してみます」
「うん。シュバッとかっ飛ばしてよ。それじゃあねー」
白菊に別れを告げた正美はグラウンドを後にする。教室で無事にテキストを回収した正美は学校を後にするのだった。
午後の練習も終わり、野球部一同は部室でユニフォームからジャージに着替えていた。
「それにしても白菊のバッティング急に変わったな。午前中とは別人みたいだったぞ」
部長の岡田 怜は午後の練習を振り返り、白菊を誉める。白菊はシートバッティングで早速正美から終わった打撃を実践した。元々運動神経の良い白菊はすぐに感覚を掴み、柵越えを連発。チームメイトを驚かせた。
「実はお昼にクラスメイトからアドバイスを頂きまして」
「グラウンド出た時、話しとった娘?」
博多弁を話すのは福岡っ娘の中村 希。午前練習後にグラウンドから出た時に白菊と一緒に居た一人である彼女は会話に混ざった。
「あれ?誰か来てたの?」
白菊と同じクラスの川崎 稜がクラスメイトというワードに反応を示す。
「はい。三輪さんがいらしてました。午前中の練習を見ていたそうですよ」
「あー、あのちっちゃい娘か」
稜は直接の交流は無かったものの正美の顔と名前は一致するようだ。
「なになに~、うちにまだ野球経験者がいたの?」
目を輝かせて尋ねるのは生粋の野球オタクであるマネージャーの川口 芳乃。
「お父様と一緒に草野球をしているそうですよ」
「そっか~。だから経験者リストにいなかったんだ。うちは人数ギリギリだし、入ってくれないかな~?」
「そうだな。確かに控えが居てくれた方が安心だもんな」
芳野の言葉に怜が同意する。現在、新越谷高校野球部はマネージャーの芳野を入れて10人しかいない。誰かが怪我したり体調不良になったりしたら芳乃が試合に出なければいけなかった。
「よーし。休みが明けたら三輪さんに会いに行こー!」
すぐ横で話を聞いていた新越谷高校野球部のエース、武田 詠深は元気良くそう提案するのだった。
前回、4日連続で更新すると書きましたが、文字数の関係で3日連続となりました。あらかじめ、ご了承ください。